プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
上 下
112 / 118

覚悟

しおりを挟む
 僕は今、一人で五階層の奥地を目指している。

 ミツキは、『ソルトと共にギルドに戻り報告する』と言う「命令」をクラン風の剣から受けていた。
 マルメルは『ソルトを連れてマサキ達の元に戻る』と、ブレイカーズの仲間に約束していた。

 そして僕は、どちらか片方の願いを聞くのではなく、どちらも断ったわけだ。

 残念ながら、今回のアークリッチの件で、はっきりと分かってしまった事がある。
 それは、ヴァイオレットレインも、スマッシャーズも、重戦者隊も、僕抜きだと、五階層クラスの魔物と戦うにはまだちょっとレベルが足りてない、という事だ。

 残念ではあるけど、それなら、彼らには彼らにできる事をお願いすればいい話だ。
 だから、僕はみんなにはギルドに戻ってもらう事にした。

 でもこれは仕方がない事だ。
 僕は《再生機プレーヤー》と言うズルい力を使って、それこそ他の人の倍以上の経験を積むことが出来てしまうんだから。つまりそれは、他の人の倍以上の速さで強くなる事ができてしまってるということだ。更には他の人のスキルまで使えるようになってしまう。
 たぶん、僕が異常な存在なんだから、他の人に同様の強さを求めたらいけない。



 そういうわけで、僕は火炎系の魔獣を倒しつつ、六階層への螺旋通路に到着した。
 グリフォンレイスとアークリッチ、それに魔獣系の新種を何度も何度も・・・・・・倒したおかげで、さっくりとレベルが二三も上がってしまっていた。
 普通なら、レイド級の魔物とは一ヶ月に一度出会えるかどうかだし、必ず勝てるというものでもない。
 でも、僕の場合は、負けそうになった戦い、つまり、相手を倒せてなくても実戦経験を積むことができて、尚且、やり直した結果、最終的に勝てば経験値として相手の存在を吸収してレベルアップする事ができる。
 死んだり意識を失ったりしなければ、経験も経験値も両方共がん積みできてしまうのだ。
 初対面の敵でも、戦いが終わった時には、戦いなれた相手になっているという、なんだかよく分からない関係性が構築されてしまう。
 だからかも知れないけど、ある程度知性のある奴と戦ったあとは、ほんの少しだけど感傷的な気持ちになる事もある。
 特に、アークリッチは「元人間」で、「異世界から召喚された被害者勇者」という奴だったらしいし。
 まあ、召喚した奴を恨んで、そして自ら望んで魔物になったような奴だったから、同情半分、倒しても魔物を倒したのと大して変わらないのが半分、くらいのものだけど。

 自分でもよくまとめきれない、そんなふわふわとした事を考えながら《広範囲索敵》で六階層を索敵する。
 螺旋階段を降りきった場所はまあまあ広い空洞で、西と南に向かって通路が二本伸びている。
「どっちに行こうか……」
 その両方の通路の奥の方に、それぞれ人の気配があるっぽい。どちらかがマサキ達で、どちらかが風の剣なのか、それともごちゃまぜで人を分けてるのか。
 とりあえず、人の気配の少ない南側に向かう事にして、それが風の剣だった場合はどうするか、を考えながら走り出した。

 六階層には魔獣が現れる。
 大小様々な怪鳥や混成・合成魔獣がポコポコと湧き出す。一気に十体以上湧くこともあって、《魔法陣》を使わないといけない場面が二度ほどあった。
《魔法陣》はマルメルの創造魔法を再現するのに使う事ができて、広範囲にばらける複数の敵に対して有効な魔法を発動する事ができる。
爆炎瀑布フレイムフォール》《溶岩流ラバフルー》、《千の槍サウザンドパイク》など、いくつかのマルメルのオリジナルの魔法は、対大群に使うと本当に効果的だ。
 問題点は、味方が近くにいると被害が出るから使えないことと、僕が《魔法陣》を使えるのはおかしいから、一人の時にしか使えない、ってことだ。
 なので、そろそろ使用を控えないといけない。たぶん、次の空洞に誰かがいるから。

「ったく、シツケーなですよっ」
「へっ、逃してやんねーよ。勇者様からのご指名だからな」
「なら、魔物とイッショに殺るだけデス」
「うおっと、危ねーなぁ」

 通路から中を覗くと、そこにはヨルグとミューの二人がいて、魔獣と戦いながらお互いを牽制し合っているようだった。
 どうみても火力はミューという女の子の方が高く見えるけど、ヨルグは例の独特なリズムで攻撃を躱し続けている。

「そろそろ聞きたかったんだよな。おまえらが聖王国メイルーンに肩入れする理由を、よっ」
「誰がオシエテやるかですよ」

 彼らが戦っている空洞には、僕がいる通路の他に、あと二つの通路がある。
 僕は覚悟を決めて《魔法陣》を発動する事にした。
 二つの通路の天井部分に、鈍色の魔法陣が浮かび上がる。そこから太い岩が鍾乳石のように何本も伸び出してきて、それが地面まで届けば完成だ。
石牢アイロンジェイル》と名付けられたこの魔法は、マルメル曰く、「絶対に壊せない門」をイメージして作った土魔法だそうだ。
 岩はほぼ隙間なく通路を遮っている。
 逃げ道は僕がいる通路だけだけど、実はこの通路も、後方を《石牢》で塞いできているので、実はこの空間は現時点をもって牢屋状態になってたりする。

「マルメル、戻ってきたのか!?」
「誰ダですよ!」

 通路が塞がれた事に気が付いた二人は、空洞内に入った僕を見て、それぞれ驚いた顔を見せたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...