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覚悟
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僕は今、一人で五階層の奥地を目指している。
ミツキは、『僕と共にギルドに戻り報告する』と言う「命令」をクラン風の剣から受けていた。
マルメルは『僕を連れてマサキ達の元に戻る』と、ブレイカーズの仲間に約束していた。
そして僕は、どちらか片方の願いを聞くのではなく、どちらも断ったわけだ。
残念ながら、今回のアークリッチの件で、はっきりと分かってしまった事がある。
それは、ヴァイオレットレインも、スマッシャーズも、重戦者隊も、僕抜きだと、五階層クラスの魔物と戦うにはまだちょっとレベルが足りてない、という事だ。
残念ではあるけど、それなら、彼らには彼らにできる事をお願いすればいい話だ。
だから、僕はみんなにはギルドに戻ってもらう事にした。
でもこれは仕方がない事だ。
僕は《再生機》と言うズルい力を使って、それこそ他の人の倍以上の経験を積むことが出来てしまうんだから。つまりそれは、他の人の倍以上の速さで強くなる事ができてしまってるということだ。更には他の人のスキルまで使えるようになってしまう。
たぶん、僕が異常な存在なんだから、他の人に同様の強さを求めたらいけない。
そういうわけで、僕は火炎系の魔獣を倒しつつ、六階層への螺旋通路に到着した。
グリフォンレイスとアークリッチ、それに魔獣系の新種を何度も何度も倒したおかげで、さっくりとレベルが二三も上がってしまっていた。
普通なら、レイド級の魔物とは一ヶ月に一度出会えるかどうかだし、必ず勝てるというものでもない。
でも、僕の場合は、負けそうになった戦い、つまり、相手を倒せてなくても実戦経験を積むことができて、尚且、やり直した結果、最終的に勝てば経験値として相手の存在を吸収してレベルアップする事ができる。
死んだり意識を失ったりしなければ、経験も経験値も両方共がん積みできてしまうのだ。
初対面の敵でも、戦いが終わった時には、戦いなれた相手になっているという、なんだかよく分からない関係性が構築されてしまう。
だからかも知れないけど、ある程度知性のある奴と戦ったあとは、ほんの少しだけど感傷的な気持ちになる事もある。
特に、アークリッチは「元人間」で、「異世界から召喚された被害者」という奴だったらしいし。
まあ、召喚した奴を恨んで、そして自ら望んで魔物になったような奴だったから、同情半分、倒しても魔物を倒したのと大して変わらないのが半分、くらいのものだけど。
自分でもよくまとめきれない、そんなふわふわとした事を考えながら《広範囲索敵》で六階層を索敵する。
螺旋階段を降りきった場所はまあまあ広い空洞で、西と南に向かって通路が二本伸びている。
「どっちに行こうか……」
その両方の通路の奥の方に、それぞれ人の気配があるっぽい。どちらかがマサキ達で、どちらかが風の剣なのか、それともごちゃまぜで人を分けてるのか。
とりあえず、人の気配の少ない南側に向かう事にして、それが風の剣だった場合はどうするか、を考えながら走り出した。
六階層には魔獣が現れる。
大小様々な怪鳥や混成・合成魔獣がポコポコと湧き出す。一気に十体以上湧くこともあって、《魔法陣》を使わないといけない場面が二度ほどあった。
《魔法陣》はマルメルの創造魔法を再現するのに使う事ができて、広範囲にばらける複数の敵に対して有効な魔法を発動する事ができる。
《爆炎瀑布》《溶岩流》、《千の槍》など、いくつかのマルメルのオリジナルの魔法は、対大群に使うと本当に効果的だ。
問題点は、味方が近くにいると被害が出るから使えないことと、僕が《魔法陣》を使えるのはおかしいから、一人の時にしか使えない、ってことだ。
なので、そろそろ使用を控えないといけない。たぶん、次の空洞に誰かがいるから。
「ったく、シツケーなですよっ」
「へっ、逃してやんねーよ。勇者様からのご指名だからな」
「なら、魔物とイッショに殺るだけデス」
「うおっと、危ねーなぁ」
通路から中を覗くと、そこにはヨルグとミューの二人がいて、魔獣と戦いながらお互いを牽制し合っているようだった。
どうみても火力はミューという女の子の方が高く見えるけど、ヨルグは例の独特なリズムで攻撃を躱し続けている。
「そろそろ聞きたかったんだよな。おまえらが聖王国メイルーンに肩入れする理由を、よっ」
「誰がオシエテやるかですよ」
彼らが戦っている空洞には、僕がいる通路の他に、あと二つの通路がある。
僕は覚悟を決めて《魔法陣》を発動する事にした。
二つの通路の天井部分に、鈍色の魔法陣が浮かび上がる。そこから太い岩が鍾乳石のように何本も伸び出してきて、それが地面まで届けば完成だ。
《石牢》と名付けられたこの魔法は、マルメル曰く、「絶対に壊せない門」をイメージして作った土魔法だそうだ。
岩はほぼ隙間なく通路を遮っている。
逃げ道は僕がいる通路だけだけど、実はこの通路も、後方を《石牢》で塞いできているので、実はこの空間は現時点をもって牢屋状態になってたりする。
「マルメル、戻ってきたのか!?」
「誰ダですよ!」
通路が塞がれた事に気が付いた二人は、空洞内に入った僕を見て、それぞれ驚いた顔を見せたのだった。
ミツキは、『僕と共にギルドに戻り報告する』と言う「命令」をクラン風の剣から受けていた。
マルメルは『僕を連れてマサキ達の元に戻る』と、ブレイカーズの仲間に約束していた。
そして僕は、どちらか片方の願いを聞くのではなく、どちらも断ったわけだ。
残念ながら、今回のアークリッチの件で、はっきりと分かってしまった事がある。
それは、ヴァイオレットレインも、スマッシャーズも、重戦者隊も、僕抜きだと、五階層クラスの魔物と戦うにはまだちょっとレベルが足りてない、という事だ。
残念ではあるけど、それなら、彼らには彼らにできる事をお願いすればいい話だ。
だから、僕はみんなにはギルドに戻ってもらう事にした。
でもこれは仕方がない事だ。
僕は《再生機》と言うズルい力を使って、それこそ他の人の倍以上の経験を積むことが出来てしまうんだから。つまりそれは、他の人の倍以上の速さで強くなる事ができてしまってるということだ。更には他の人のスキルまで使えるようになってしまう。
たぶん、僕が異常な存在なんだから、他の人に同様の強さを求めたらいけない。
そういうわけで、僕は火炎系の魔獣を倒しつつ、六階層への螺旋通路に到着した。
グリフォンレイスとアークリッチ、それに魔獣系の新種を何度も何度も倒したおかげで、さっくりとレベルが二三も上がってしまっていた。
普通なら、レイド級の魔物とは一ヶ月に一度出会えるかどうかだし、必ず勝てるというものでもない。
でも、僕の場合は、負けそうになった戦い、つまり、相手を倒せてなくても実戦経験を積むことができて、尚且、やり直した結果、最終的に勝てば経験値として相手の存在を吸収してレベルアップする事ができる。
死んだり意識を失ったりしなければ、経験も経験値も両方共がん積みできてしまうのだ。
初対面の敵でも、戦いが終わった時には、戦いなれた相手になっているという、なんだかよく分からない関係性が構築されてしまう。
だからかも知れないけど、ある程度知性のある奴と戦ったあとは、ほんの少しだけど感傷的な気持ちになる事もある。
特に、アークリッチは「元人間」で、「異世界から召喚された被害者」という奴だったらしいし。
まあ、召喚した奴を恨んで、そして自ら望んで魔物になったような奴だったから、同情半分、倒しても魔物を倒したのと大して変わらないのが半分、くらいのものだけど。
自分でもよくまとめきれない、そんなふわふわとした事を考えながら《広範囲索敵》で六階層を索敵する。
螺旋階段を降りきった場所はまあまあ広い空洞で、西と南に向かって通路が二本伸びている。
「どっちに行こうか……」
その両方の通路の奥の方に、それぞれ人の気配があるっぽい。どちらかがマサキ達で、どちらかが風の剣なのか、それともごちゃまぜで人を分けてるのか。
とりあえず、人の気配の少ない南側に向かう事にして、それが風の剣だった場合はどうするか、を考えながら走り出した。
六階層には魔獣が現れる。
大小様々な怪鳥や混成・合成魔獣がポコポコと湧き出す。一気に十体以上湧くこともあって、《魔法陣》を使わないといけない場面が二度ほどあった。
《魔法陣》はマルメルの創造魔法を再現するのに使う事ができて、広範囲にばらける複数の敵に対して有効な魔法を発動する事ができる。
《爆炎瀑布》《溶岩流》、《千の槍》など、いくつかのマルメルのオリジナルの魔法は、対大群に使うと本当に効果的だ。
問題点は、味方が近くにいると被害が出るから使えないことと、僕が《魔法陣》を使えるのはおかしいから、一人の時にしか使えない、ってことだ。
なので、そろそろ使用を控えないといけない。たぶん、次の空洞に誰かがいるから。
「ったく、シツケーなですよっ」
「へっ、逃してやんねーよ。勇者様からのご指名だからな」
「なら、魔物とイッショに殺るだけデス」
「うおっと、危ねーなぁ」
通路から中を覗くと、そこにはヨルグとミューの二人がいて、魔獣と戦いながらお互いを牽制し合っているようだった。
どうみても火力はミューという女の子の方が高く見えるけど、ヨルグは例の独特なリズムで攻撃を躱し続けている。
「そろそろ聞きたかったんだよな。おまえらが聖王国メイルーンに肩入れする理由を、よっ」
「誰がオシエテやるかですよ」
彼らが戦っている空洞には、僕がいる通路の他に、あと二つの通路がある。
僕は覚悟を決めて《魔法陣》を発動する事にした。
二つの通路の天井部分に、鈍色の魔法陣が浮かび上がる。そこから太い岩が鍾乳石のように何本も伸び出してきて、それが地面まで届けば完成だ。
《石牢》と名付けられたこの魔法は、マルメル曰く、「絶対に壊せない門」をイメージして作った土魔法だそうだ。
岩はほぼ隙間なく通路を遮っている。
逃げ道は僕がいる通路だけだけど、実はこの通路も、後方を《石牢》で塞いできているので、実はこの空間は現時点をもって牢屋状態になってたりする。
「マルメル、戻ってきたのか!?」
「誰ダですよ!」
通路が塞がれた事に気が付いた二人は、空洞内に入った僕を見て、それぞれ驚いた顔を見せたのだった。
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