プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
上 下
108 / 118

魔導王の死霊

しおりを挟む
「悪いんだけどここからは急がないとダメみたいだ」
 カイン達にそう言うと、僕は一人で全力で走り出した。
 彼らはきっと「またいつものやつか」と理解して諦めてくれることだろう。
 僕が時々、唐突な行動に出ることや、やたら的確な指示を出す事を、彼らは「予言オラクル」や「天啓オラクル」などとと呼んでいて、その行動や言葉の先には良い結果が多い(今の所、百発百中)ことから、僕の奇行は彼らにとっても天恵ギフトに近しいものになっているから。



 四階層の超巨大空洞で、鷲獅子の死霊グリフォンレイスに倒されてしまったと思われるミツキとマルメルを見つけた僕は、《再生機プレーヤー》を即座に発動した。
 そこで観たものは鷲獅子の死霊グリフォンレイスの特性と戦い方、それと、まだ・・息のあったマルメルの数時間の記憶だ。
 マルメルが王女だったことや、ミツキが隷属魔法と言うやつで奴隷なっていたこと、その他にも僕がこっそり聞いてはいけないような二人の話など、を知った。
 マルメルの想いも、ミツキが苦しんでいたことも知らなかった。僕は自分で自分を殴りつけたい衝動にかられたけど、今はそれよりも先にやるべき事がある。
 全力で超大空洞に向かう。
 そしてグリフォンレイスをぶっ倒す。
 一人でなら回避できる戦闘もあったし、あの場所に着くまで、クラン全員で動くよりも一時間は短縮できるはずだ。

 熱くなって頭を使わずに全力で突進した結果、僕は更に二回もミツキの死に顔を見ることになった。

 一度目の挑戦では、回避できると思った戦いは、壁をすり抜ける事のできるレイスに追い縋られ、大量の魔物や魔獣に囲まれて、結果的に余計に時間が掛かってしまった。

 かと言って、二度目の挑戦では、瞬殺を目指しつつ、出てくる敵を全部倒していったら、最初には湧かなかった魔導王の死霊アークリッチとか言うのが出てきて、危なく死ぬ所だった。

 僕は《再生機プレーヤー》の力で、いくつもの危機を回避してきた。それはつまり、本来腕を失う場面だった所を無傷で切り抜けたり、死ぬはずだった仲間を死なさずに済ませたりと、未来を変えて来た。
 だから、今、僕はミツキが死なない未来、マルメルが瀕死にならない未来を迎える為に、三度目の挑戦をしているのだけど、ちょっとおかしな事になっていた。
再生機プレーヤー》で過去からやり直す場合は、基本的に「僕以外は、僕が動きを変えない限り、一度目と同じ動きをする」はずなんだ。
 それなのに、今、僕の目の前には「二度目の挑戦」の時よりも早いタイミングでアークリッチが出てきた。
 確かに、やり直す時に僕が違う動きをすれば、それに対応する為に敵の動きが変わる事は今までもあった。
 だけど、僕が同じ行動をしている場合は、敵も仲間も、その他の人も、一度目と同じ行動をするはずなのに……しかも、アークリッチは僕が《超断魔剣》の構えをした瞬間に横方向に逃げたんだ。

《超断魔剣》はトーヤの必殺技で、後方下段に構えた剣を、自分の真上を通して半円を描く様にして前方にいる敵を斬る攻撃だ。
 二度目の挑戦の時には、僕の火の魔力を乗せた魔法剣・白竜の白金の長剣の《超断魔剣》でアークリッチにとどめを刺したんだけど、その時には横に避ける様な動きはしなかったのに。

 僕が逡巡したを見て、ローブの中の骸骨の顔がニヤッと嗤ったような気がした。
 この魔物、アークリッチはもしかしたら僕と似たようなスキルを隠し持ってるんだろうか。
《隠蔽》されているステータスやスキルが見れないのは、僕のように相手のスキルを見る事ができる人間にとっては逆に罠になってしまう事もある。
 とにかく、出てきてしまったものは倒すしかないし、相手が学習してしまうなら、なるべく新しいを見せないで戦わないといけない。
 二度目の時と同じく、僕は火の魔力を白金の白竜の長剣に乗せて、既に見破られている一撃必殺ではなく、高頻度で単純な《連撃》を使いながら削り倒した。《連撃》は単純に手数を増やすだけな分、このスキルだけでも多彩な攻撃が繰り出せるので、何度使っても、敵に《連撃スキル》を使っている事が見破られてもあまり問題はない。実力差で追い込みやすい有能なスキルだ。
 でも、やっぱり《超断魔剣》で倒した時よりも五分か十分以上も時間が掛かってしまった。
 その後は更にスピードを上げて全力で走った。
 アークリッチ以降の魔物は二度目とほとんど同じだったと思う。
 でも、結局、到着までにそれほど時間を短縮することは出来ず、僕がグリフォンレイスにとどめを刺した時には、ミツキは死んでしまっていた。
 マルメルの記憶を辿ると、あと五分早く着くことができれば、グリフォンレイスの死の氷息ブレスが出る前になんとかできそうなんだけど……



 四度目はアークリッチをひたすらに無視して、現れる魔物や魔獣は、手の届く相手だけを一蹴しながら超巨大空洞を目指した。
 なんとかギリギリで、ミツキが生きてる内に超巨大空洞に着いたんだけど、壁をすり抜けて追い掛けてきたアークリッチとレイスの群れがやって来てしまい、グリフォンレイスと挟み撃ちになったことで、僕は《再生機プレーヤー》を使わざるを得ない状況になってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...