プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
上 下
104 / 118

勇者と風の剣 侍

しおりを挟む
「第二の扉は開かれた」
「迷宮の三魔将が一つ、魔獣王が生まれた」
「迷宮がこの世界のすべてを飲み込む」

 いくつもの魔獣の唸り声や咆哮が耳元で響き続ける。
 魔獣の言葉なんて分かるはずがないのに、それは言葉となって頭の中で繰り返し宣言してくる。

「なんだこれはっ!」
「きゃあ」
「魔獣王だと?」

 どうやら、この声が聞こえているのはわしだけではないようじゃ。皆の混乱を見て一安心してしまうとは情けない話じゃが、いつまでも狼狽えておるよりはマシじゃろう。
 しかし、六階層に足を踏み入れてはならん、と言う探索者ギルドの言葉は正しかったようじゃな。
 さて、それでこれから何が起こるのかの。
 まあ、何が起ころうとも、何が現れようともどうでも良いのじゃが。
 最早、わしには生き続ける理由はないしの。
 なんでもごされ、じゃ。

「……一旦戻りましょう」
「はあ? 何いってんだセイムス。あんたらが先導してここまで来たんだろうがよ。いきなり怯えて逃げ出すってのは許されねーよ」
「そうだよ。魔獣王なんて危険な物が生まれたと言われて逃げる訳にはいかない。風の剣の皆さんにも戦ってもらいます」

 逃げ腰で撤退を口にしたセイムスに、ヨルグとマサキが怒りの声を上げておる。なんのかんの言っても、ここに来る事に同意した時点で同類じゃろうに。たかが、と言っては何じゃが、ギルドが禁じておった物を破ったのじゃから。
 だから、わしも同罪じゃ。

 ……わしも同じ事をした。
 これと決めたにすべてを捧げられず、気持ちだけを残して逃げてしまった。
 国の為、戦士が前線で戦うのは当たり前のことじゃと教わり、それを疑いもせず生きてきた。
 何も考えずに道具の様に生きてきたツケが今の状況これじゃ。
 劣勢だったイースタールは、聖王国メイルーンと、その後ろに隠れていた風の剣と言うクランの助力を得て、なんとか獣王国を引き下がらせる事ができた。
 その結果、何人もの侍が聖王国と風の剣の為に働くことになったのじや。
「勇者の覇業を手助けせよ」
 イースタールの国王はそう言って、クラン風の剣からの当初の依頼通りに、国民であり、国を守った侍達を「奴隷として」風の剣に引き渡したのじゃった。

 自分で考えず、流されるように生きてきて、流れ着いた場所。
 何某かの考えはあったのだが、己を貫き通せず流されてしまった結果。
 どちらも同じことじゃ。

 地面から紫色の煙が湧き上がり、徐々にその姿を魔物、いや、魔獣へと変えていく。
 どこかで見たような猛獣の様に見えて、しかしその姿はやはり異形。
 そのような様々な姿の魔獣が何体も現れた。
 しかし、わしは自分の意志では戦うことができぬ。
 ここで喰われて終いじゃ。

「わ、私ではや、やはり無理なようです。魔物のレベルが高すぎる!」
「情けネーナですよ!」
「まったくです」

 セイムスは、自分の武器で攻撃をしてみたものの、それが魔獣に刃が立たないと分かると、情けなく後ずさった。
 半竜人のミューと半森人のレイナがそれぞれの武器で攻撃をしていくと、ミューの攻撃はなんとか通るように見えた。

「俺達もやるぞ」
 セイムスが五階層に逃げ出さないように、戻る道を塞いでいたマサキが声を上げると、ブレイカーズの面々も即座に動き出した。
 わしは相変わらず、放置されたままじゃ。

「ミツキ、クラン風の剣の一員として命ずる。お前に武器の使用を許可する。だから全力でギルドに戻れ。そして、ここで聞いた声のこと、見た物をアージェスさんに伝えてくれ。それができたらソルトともう一度話をしろ。これが達成できたならお前を奴隷から解放する」

 わしの後ろにやってきたゴードンが、わしの首輪に触れながら、小声で、そう「命令」した。
 何の事やら分からずに、一瞬、呆然としてしまったのじゃが、言葉の意味を理解すると一気に力が漲ってきた。

「誰か、ミツキと一緒にギルドに報告に行ってくれないか!?」
 ゴードンが今度は大声でそう言い放つ。
「ならマルメルが適任だろーな」
「そうだ、ねっと!」
 ヨルグとマサキが剣を振りながら即座に応答する。
    セイムスが「何を勝手なことを」と喚いていたが、ゴードンから先程の命令を受けたわしは、今やある意味で自由の身じゃ。単なる食料の運び屋などではない!
 マルメルは仲間を残してここを離れる事に躊躇したようじゃが、マサキの言葉で心を決めたようだ。

「嫌な予感がするんだ。それに《英雄体質スキル》が全力で反応してる。たぶんだけどここから出しちゃいけないヤツがいるんだ。だから僕達全員がここを離れる訳にはいかない。でもきっとソルトの力が必要になる。だからマルメル、名もなきクランを動かしてきてくれ!」
「……分かった。僕がソルトを連れて戻る。でも、君達もここが落ち着いたら少しずつでいいから最短ルートで戻るようにしてくれ。スキルに振り回されて倒れることのないようにするのだよ!」
「了解だ!」
「頼んだぜ、ちゃんと王子様を呼んできてくれよ、マルン姫!」
「私はマサキ様を全力でサポートいたしますわ! だからあなたは安心してソルトくんの元へ」
「皆、頼んだよ。ヨルグは後で覚えてるのだよ」

 わしはマルン姫と呼ばれたマルメルと共に、戦う彼らを尻目に五階層への通路を上ったのじゃった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...