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勇者と風の剣 侍
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「第二の扉は開かれた」
「迷宮の三魔将が一つ、魔獣王が生まれた」
「迷宮がこの世界のすべてを飲み込む」
いくつもの魔獣の唸り声や咆哮が耳元で響き続ける。
魔獣の言葉なんて分かるはずがないのに、それは言葉となって頭の中で繰り返し宣言してくる。
「なんだこれはっ!」
「きゃあ」
「魔獣王だと?」
どうやら、この声が聞こえているのはわしだけではないようじゃ。皆の混乱を見て一安心してしまうとは情けない話じゃが、いつまでも狼狽えておるよりはマシじゃろう。
しかし、六階層に足を踏み入れてはならん、と言う探索者ギルドの言葉は正しかったようじゃな。
さて、それでこれから何が起こるのかの。
まあ、何が起ころうとも、何が現れようともどうでも良いのじゃが。
最早、わしには生き続ける理由はないしの。
なんでもごされ、じゃ。
「……一旦戻りましょう」
「はあ? 何いってんだセイムス。あんたらが先導してここまで来たんだろうがよ。いきなり怯えて逃げ出すってのは許されねーよ」
「そうだよ。魔獣王なんて危険な物が生まれたと言われて逃げる訳にはいかない。風の剣の皆さんにも戦ってもらいます」
逃げ腰で撤退を口にしたセイムスに、ヨルグとマサキが怒りの声を上げておる。なんのかんの言っても、ここに来る事に同意した時点で同類じゃろうに。たかが、と言っては何じゃが、ギルドが禁じておった物を破ったのじゃから。
だから、わしも同罪じゃ。
……わしも同じ事をした。
これと決めた男にすべてを捧げられず、気持ちだけを残して逃げてしまった。
国の為、侍が前線で戦うのは当たり前のことじゃと教わり、それを疑いもせず生きてきた。
何も考えずに道具の様に生きてきたツケが今の状況じゃ。
劣勢だったイースタールは、聖王国メイルーンと、その後ろに隠れていた風の剣と言うクランの助力を得て、なんとか獣王国を引き下がらせる事ができた。
その結果、何人もの侍が聖王国と風の剣の為に働くことになったのじや。
「勇者の覇業を手助けせよ」
イースタールの国王はそう言って、クラン風の剣からの当初の依頼通りに、国民であり、国を守った侍達を「奴隷として」風の剣に引き渡したのじゃった。
自分で考えず、流されるように生きてきて、流れ着いた場所。
何某かの考えはあったのだが、己を貫き通せず流されてしまった結果。
どちらも同じことじゃ。
地面から紫色の煙が湧き上がり、徐々にその姿を魔物、いや、魔獣へと変えていく。
どこかで見たような猛獣の様に見えて、しかしその姿はやはり異形。
そのような様々な姿の魔獣が何体も現れた。
しかし、わしは自分の意志では戦うことができぬ。
ここで喰われて終いじゃ。
「わ、私ではや、やはり無理なようです。魔物のレベルが高すぎる!」
「情けネーナですよ!」
「まったくです」
セイムスは、自分の武器で攻撃をしてみたものの、それが魔獣に刃が立たないと分かると、情けなく後ずさった。
半竜人のミューと半森人のレイナがそれぞれの武器で攻撃をしていくと、ミューの攻撃はなんとか通るように見えた。
「俺達もやるぞ」
セイムスが五階層に逃げ出さないように、戻る道を塞いでいたマサキが声を上げると、ブレイカーズの面々も即座に動き出した。
わしは相変わらず、放置されたままじゃ。
「ミツキ、クラン風の剣の一員として命ずる。お前に武器の使用を許可する。だから全力でギルドに戻れ。そして、ここで聞いた声のこと、見た物をアージェスさんに伝えてくれ。それができたらソルトともう一度話をしろ。これが達成できたならお前を奴隷から解放する」
わしの後ろにやってきたゴードンが、わしの首輪に触れながら、小声で、そう「命令」した。
何の事やら分からずに、一瞬、呆然としてしまったのじゃが、言葉の意味を理解すると一気に力が漲ってきた。
「誰か、ミツキと一緒にギルドに報告に行ってくれないか!?」
ゴードンが今度は大声でそう言い放つ。
「ならマルメルが適任だろーな」
「そうだ、ねっと!」
ヨルグとマサキが剣を振りながら即座に応答する。
セイムスが「何を勝手なことを」と喚いていたが、ゴードンから先程の命令を受けたわしは、今やある意味で自由の身じゃ。単なる食料の運び屋などではない!
マルメルは仲間を残してここを離れる事に躊躇したようじゃが、マサキの言葉で心を決めたようだ。
「嫌な予感がするんだ。それに《英雄体質》が全力で反応してる。たぶんだけどここから出しちゃいけないヤツがいるんだ。だから僕達全員がここを離れる訳にはいかない。でもきっとソルトの力が必要になる。だからマルメル、名もなきクランを動かしてきてくれ!」
「……分かった。僕がソルトを連れて戻る。でも、君達もここが落ち着いたら少しずつでいいから最短ルートで戻るようにしてくれ。スキルに振り回されて倒れることのないようにするのだよ!」
「了解だ!」
「頼んだぜ、ちゃんと王子様を呼んできてくれよ、マルン姫!」
「私はマサキ様を全力でサポートいたしますわ! だからあなたは安心してソルトくんの元へ」
「皆、頼んだよ。ヨルグは後で覚えてるのだよ」
わしはマルン姫と呼ばれたマルメルと共に、戦う彼らを尻目に五階層への通路を上ったのじゃった。
「迷宮の三魔将が一つ、魔獣王が生まれた」
「迷宮がこの世界のすべてを飲み込む」
いくつもの魔獣の唸り声や咆哮が耳元で響き続ける。
魔獣の言葉なんて分かるはずがないのに、それは言葉となって頭の中で繰り返し宣言してくる。
「なんだこれはっ!」
「きゃあ」
「魔獣王だと?」
どうやら、この声が聞こえているのはわしだけではないようじゃ。皆の混乱を見て一安心してしまうとは情けない話じゃが、いつまでも狼狽えておるよりはマシじゃろう。
しかし、六階層に足を踏み入れてはならん、と言う探索者ギルドの言葉は正しかったようじゃな。
さて、それでこれから何が起こるのかの。
まあ、何が起ころうとも、何が現れようともどうでも良いのじゃが。
最早、わしには生き続ける理由はないしの。
なんでもごされ、じゃ。
「……一旦戻りましょう」
「はあ? 何いってんだセイムス。あんたらが先導してここまで来たんだろうがよ。いきなり怯えて逃げ出すってのは許されねーよ」
「そうだよ。魔獣王なんて危険な物が生まれたと言われて逃げる訳にはいかない。風の剣の皆さんにも戦ってもらいます」
逃げ腰で撤退を口にしたセイムスに、ヨルグとマサキが怒りの声を上げておる。なんのかんの言っても、ここに来る事に同意した時点で同類じゃろうに。たかが、と言っては何じゃが、ギルドが禁じておった物を破ったのじゃから。
だから、わしも同罪じゃ。
……わしも同じ事をした。
これと決めた男にすべてを捧げられず、気持ちだけを残して逃げてしまった。
国の為、侍が前線で戦うのは当たり前のことじゃと教わり、それを疑いもせず生きてきた。
何も考えずに道具の様に生きてきたツケが今の状況じゃ。
劣勢だったイースタールは、聖王国メイルーンと、その後ろに隠れていた風の剣と言うクランの助力を得て、なんとか獣王国を引き下がらせる事ができた。
その結果、何人もの侍が聖王国と風の剣の為に働くことになったのじや。
「勇者の覇業を手助けせよ」
イースタールの国王はそう言って、クラン風の剣からの当初の依頼通りに、国民であり、国を守った侍達を「奴隷として」風の剣に引き渡したのじゃった。
自分で考えず、流されるように生きてきて、流れ着いた場所。
何某かの考えはあったのだが、己を貫き通せず流されてしまった結果。
どちらも同じことじゃ。
地面から紫色の煙が湧き上がり、徐々にその姿を魔物、いや、魔獣へと変えていく。
どこかで見たような猛獣の様に見えて、しかしその姿はやはり異形。
そのような様々な姿の魔獣が何体も現れた。
しかし、わしは自分の意志では戦うことができぬ。
ここで喰われて終いじゃ。
「わ、私ではや、やはり無理なようです。魔物のレベルが高すぎる!」
「情けネーナですよ!」
「まったくです」
セイムスは、自分の武器で攻撃をしてみたものの、それが魔獣に刃が立たないと分かると、情けなく後ずさった。
半竜人のミューと半森人のレイナがそれぞれの武器で攻撃をしていくと、ミューの攻撃はなんとか通るように見えた。
「俺達もやるぞ」
セイムスが五階層に逃げ出さないように、戻る道を塞いでいたマサキが声を上げると、ブレイカーズの面々も即座に動き出した。
わしは相変わらず、放置されたままじゃ。
「ミツキ、クラン風の剣の一員として命ずる。お前に武器の使用を許可する。だから全力でギルドに戻れ。そして、ここで聞いた声のこと、見た物をアージェスさんに伝えてくれ。それができたらソルトともう一度話をしろ。これが達成できたならお前を奴隷から解放する」
わしの後ろにやってきたゴードンが、わしの首輪に触れながら、小声で、そう「命令」した。
何の事やら分からずに、一瞬、呆然としてしまったのじゃが、言葉の意味を理解すると一気に力が漲ってきた。
「誰か、ミツキと一緒にギルドに報告に行ってくれないか!?」
ゴードンが今度は大声でそう言い放つ。
「ならマルメルが適任だろーな」
「そうだ、ねっと!」
ヨルグとマサキが剣を振りながら即座に応答する。
セイムスが「何を勝手なことを」と喚いていたが、ゴードンから先程の命令を受けたわしは、今やある意味で自由の身じゃ。単なる食料の運び屋などではない!
マルメルは仲間を残してここを離れる事に躊躇したようじゃが、マサキの言葉で心を決めたようだ。
「嫌な予感がするんだ。それに《英雄体質》が全力で反応してる。たぶんだけどここから出しちゃいけないヤツがいるんだ。だから僕達全員がここを離れる訳にはいかない。でもきっとソルトの力が必要になる。だからマルメル、名もなきクランを動かしてきてくれ!」
「……分かった。僕がソルトを連れて戻る。でも、君達もここが落ち着いたら少しずつでいいから最短ルートで戻るようにしてくれ。スキルに振り回されて倒れることのないようにするのだよ!」
「了解だ!」
「頼んだぜ、ちゃんと王子様を呼んできてくれよ、マルン姫!」
「私はマサキ様を全力でサポートいたしますわ! だからあなたは安心してソルトくんの元へ」
「皆、頼んだよ。ヨルグは後で覚えてるのだよ」
わしはマルン姫と呼ばれたマルメルと共に、戦う彼らを尻目に五階層への通路を上ったのじゃった。
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