プレーヤープレイヤー

もずく

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僕を壊すモノ

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 僕らは今、大量の魔晶石を持ってサウススフィアの街を目指している。
 その道中、カインやミレニア達は「ちらっとでもいいから六階層を見てから帰りたかった」と、偶に思い出しては恨み言のように口にしていたけど、その度に僕は「ギルマスからの厳命だからさ。カイン達も一緒に聞いてたでしょ?」と返していた。

 既にここは三階層だ。
 帰りは寄り道せずに進んできたけど、それでも四階層では毒を撒き散らす腐乱死体ゾンビ屍鬼グールの大集団との戦いは避けられなかったし、三階層に上がってきた所でレイドモンスターの迷宮巨大土竜マウスドラゴンとの戦闘があったせいで、ここまでに四日間かかってしまっている。
 みんなは知らないことだけど、僕だけが知っている「あの声」が何だったのかを、早くギルマスに質問したい。なんと言って質問するかは少し悩む所だけど、予知とか予感とか言う言葉で納得してくれたらいいな。

「おっ」
「やあ」

 マウスドラゴンを倒して後、出発してすぐ、先頭を歩くミレニアが他のパーティーと出会ったようだ。そして、聞こえてきた爽やかな声は知ってる者の声だ。
 僕は着ているローブのフードを引っ張って、顔が隠れるように少し俯いた。
 そうすると足元しか見えなくなる。
 少しすると僕のすぐ前にいるワッキーのローブの裾が動き出したから、僕も遅れないように付いて歩く。
 すれ違う時に何人かから名前を呼ばれたけど、僕は何も聞こえないふりをして、ワッキーのローブの裾を追いかけ続けた。



 二階層への螺旋階段を上り、少し歩いてレイド部屋に着くと、僕らは長めの休憩を取ることにした。
 ここからなら、最短ルートを最速で進めば半日くらいで街に帰れるんだけど、ここで食事を摂って六時間ほどゆっくり休む予定だそうだ。
 ここら辺のスケジュール調整はラナ、ワッキー、グファーダ、イリヤが話し合って決めてくれている。僕はあまり口を出さない。

「はい、これどうぞ」
 そう言って、僕にピラフと焼肉とスープが載せられたプレートを手渡してくれたのはイリヤだ。
「ありがとう」
 僕がそれを受け取ると、彼女はたたたっと走って僕から離れ、自分の分のプレートを持って戻ってきた。
 そして、その間に僕の両隣に座ってきたレッティとワインを見て、少し頬を膨らませつつ、僕の正面に座った。
 最近は調理器具の小型化が進んだ事と、異空間収納系の魔道具がある程度出回ってきた事もあって、迷宮内でもちゃんとした温かい食事を食べられるようになってきている。
「にしてもさ~、ソルトはまだダメなの~?」
 レッティが無神経にもそんな事を聞いてきた。
「レッティ、その話はしないって約束でしょう?」
「したでしょ?」
「イリヤとワインはそれでいいわけ~?」
 イリヤとワインがレッティを諌めてくれるけど、レッティは不満気だ。
「わたしは待ちますからね、ソルトくん」
「ええ、待つわ」

 まだダメなの、かぁ。
 そうだね、まだダメだね。

 レッティが言ってるのは、ミツキの事だ。
 彼女は今、数時間前に三階層の最奥ですれ違ったパーティーに所属している。
 そのパーティー名はブレイカーズだ。

 獣人国ズーラズーとの戦争が一段落ついたらしい彼女は、一年くらい前にメールスフィアの迷宮に帰ってきた。
 帰ってきた彼女とはほんの少しだったけど、ちゃんと話をする事ができた。
 その話し合いの結果、彼女は勇者マサキの率いるブレイカーズに入る事になったんだ。
 いや、そもそも、彼女が迷宮ここに帰ってきた理由は、僕の所に戻ってくる為じゃなくて、ブレイカーズに入る為なんだと聞かされた。
 彼女は事の経緯をあまり説明してくれなくて、僕は彼女の心変わりの理由を理解する事が出来なかったんだ。と言うか、何も考える事ができなくなってしまったんだよね。
 ただ、分かったのは、ミツキにとって僕は大事な存在ではなくなったのだと言うことと、僕にとってミツキは途轍もなく大きな存在だったんだな、ってことだった。

 うん、まあ、これ以上、彼女の話をぶり返すのは辛いからやめておこうかな。

 えーと、そして、そのブレイカーズだけどね。ミツキの件を除いたとしても仲良く連携する事ができない状態になってしまっている。
 何故なら、彼らのパーティーは今や以前の倍の十人もいて、その内の四人がゴードン、セイムス、レイナ、ミューだからね。
 ゴードンは以前は探索者ギルドのサブマスターだった男だ。今はギルド職員を辞めて探索者として復帰してる。彼は《暗殺者》という職業スキルを持っていて、クラン風の剣との関わりを疑っていたんだけど、それは正解だったみたいなんだよね。
 だって、セイムス、レイナ、ミューと言う三人はクラン風の剣のメンバーだから。
 セイムスとはホテル・カザミネで会った事があるし、レイナはギルドホールで《不協和音》を使ったハーフエルフだ。ミューと言う娘とは話したことはないけど、彼女のステータスにも「クラン風の剣所属」と書かれてる。
 つまり、勇者パーティー・ブレイカーズは、今や約半分がカザミネの配下の人間(?)が占めるパーティーになってしまってるわけだ。

「ソルト~?」
「うぐっ」
 油断した。
 と言うか、また考え事に集中してしまってた。考えたって、もう、どうにもならない事ばかりなのに。
 僕は背後から首に腕を巻き付けて締め上げてきたレッティを引き剥がしながら、この人達と、できる限りのことを……探索をしていけたらな、と思うのだった。
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