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もずく

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ダルダロイ

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 ダルダロイの街の北門は、メールスフィアの迷宮の出入り口の直ぐ側にある。
 そこには形だけの門番が立ち、メールスフィアの迷宮の街、サウススフィアからやってくる探索者達を出迎えている。
 もし、迷宮の魔物が溢れ出して、サウススフィアの街が崩壊した場合には、この出口から魔物が出てくることになる。
 その場合、探索者でもどうにもならなかった魔物を相手にすることになるのだ。基本的には門を閉めて魔物を寄せ付けないようにするしか道はない。

 ダルダロイの街の外壁は常に工事され、拡張されていっている。街の収入の半分は外壁の強化、拡張の為の新設工事に充てられているのだ。
 それは街長であるダルダロイが慎重を通り越して臆病だからなのだが、それを非難する者はあまりいない。いるとすれば所得が高い者達だろう。彼らが負担する税金が、湯水が湧くように壁に変わっていくのだから。

 街は今、三つの円形の壁で守られている。
 一番壁。
 一番内側の壁の中には街長であるダルダロイなどの要職に付いているものや、高額納税者達が住むことを許されている。一番最初に造られた壁で、当初は高さ一メートル程の木の柵だったのだが、今では高さ十メートルの石の壁になっている。厚さは三メートルもあり、所々に強化の為の魔法が仕込まれている。
 二番壁。
 その一つ外側にある壁は最初の街の拡張で造られた物だ。この壁の中のエリアを中央街と呼んでいる。壁の高さは三メートル、厚さは二メートルほどだが、まだ高さが二メートルくらいの所があり、そこをよじ登って中央街に入る者が多いのが悩みの種だ。中央街に入って来れたところで、住む所も食べる物も高くて手に入らないだろうに。盗みなどの犯罪を犯せば街からの追放が待っているだけだと何故分からないのか。
 中央街に入る為には中央街入場許可証か探索者ギルドのギルドカード、または魔法の刻印が必要になる。どちらかを持っていなければ中に入る事はできないのだ。
 中央街には様々な娯楽、高級宿、商店が立ち並ぶ、まさに街の中心部だ。
 入場許可証の取得にはかなりの金がかかる為、街に入れる者はある程度限られている。更には街で何か買い物一つするのにも許可証かギルドカードが必要になる為、壁を越えて中に入った所で景色を眺めるのと犯罪を犯す以外にできる事はないのだ。
 三番壁。
 さて、その更に外側に造られ始めているのが三番壁だ。ほとんどが高さ一メートルの木の柵で造られている。今はまだ、北門付近の左右三十メートル(全長六十メートル)だけが高さ三メートルの石壁という状況だ。
 そして今、工事が行われているのは二番壁。
 つまり、二番壁の外にいる者達よりも、二番壁の内側にいる者達に重きを置いているということだ。石壁を造る財源のほとんどが二番壁の内側にいる商売人達なのだから、これは仕方のない事なのかもしれない。

「ふう。いつものことだが、中央街は夜の方が明るいな」
「はい。今夜も探索者が数多く来ております」
「ホテル・カザミネはどうだ?」
「ここ最近は若い客が更に増えているようです」
「そうか」
「また、今日もホテルに出入りしていた探索者が二人、聖殿に運ばれてきました」
「むう、そうか」

 一番壁の上に立ち中央街を見下ろしながら話すのは、街長であるダルダロイと、その腹心たるムーディーの二人だ。
 転移者カザミネ。自らを「転生者」と公言する彼のおかげで、街は以前よりも発展した。娯楽が増え、便利な魔道具が流通し始め、街は前よりも活気づいている。
 だが、彼の手引であまりよろしくない者達までもが街に入り込むようにもなっているのは頭の痛い所だ。
 街に税金を納めない違法賭博場や、奴隷にも似た使用人制度、更に、若くてレベルの低い探索者に深層を漁らせようとするなど、見逃せない事案が増えてきている。

「アージェスの奴も苦労してると言っていたが、私の方が苦労してるとは思わないか?」
「ふふっ、そうですね」
「な、何故そこで笑うか」
「いえ、かつての英雄様達でも左うちわと言う訳にはいかないのですね。そう思ったら、つい。ふふっ」
「ふん。まあその通りだな。五階層・・・の魔物共と戦うことと比べても今の方が苦戦してるのだろうな。笑いたければ笑え」
「そこで拗ねないでください」
「知らん。寒くなってきた。戻るぞ」
「あ、お待ちください」

 かつて英雄と呼ばれた者達がいて、迷宮の五階層まで到達していた事を知る者は少ない。
 今の常識では、迷宮の攻略はようやっと三階層に到達した、というものなのだ。
 ムーディーは英雄達の活躍が封印された理由までは知らない。だが、そうする必要があったのだと言う話だけは聞いている。
 そしてもう一つ。
「今はただ、いつか誰かが階層に足を踏み入れたその時に備えているのだ」
 そう、お酒に酔って口が軽くなったダルダロイが語ったのを、ムーディーは二十年経った今も忘れずに覚えているのだった。
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