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自由
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「あ、出てきたっ」
「おう、ソルト」
「こんにちわっ」
僕が黒うさぎ亭から出ると、そこにはヴァイオレットレインの三人が待ち構えていた。
ミレニアとレッティ、それとイリヤだ。
「こんにちは」
僕は彼女達に挨拶をして、そのまま公園広場に向かって歩く。
「ん? 行き先はギルドじゃないのかい?」
「ね~ね~、一緒に行こうよ~」
「いや、自然な感じで背中に乗って来ないでくださいよ」
「え~いいじゃん。役得でしょ~」
「いや、体力が」
「わたし、そんなに重くないもんね~」
「ずるい」
僕がラングルのパーティーから追放されて二日間、ミレニア達からヴァイオレットレインに入らないかとしつこく誘われて困っている。
もうミツキが戻って来るまでは一人でやってこうと思ってるんだよね。
集団戦闘ならレイドモンスターが出る場所に行けば参加できるし、今の僕なら三階層でも一人で探索できそうだしね。
結局、レッティを公園広場までおぶって行くことになったけど、そこで降りてもらってちゃんと断りを入れた。
「暫くはパーティーには入らないことに決めたんで、すみません。それと、今からダールさんのとこに行くので付いて来るのはここまででお願いします」
ダールさんは、上位探索者達にはかなり有名な鍛冶職人なんだそうだ。逆に僕のような新人探索者にはほとんど知られていない。それはダールさんの店は、ダールさんが認めた人からの紹介でしか仕事をしないからなんだとか。
大勢で店に来られるのも嫌がると聞いたので、僕は一人で行くことを心に決めていた。
「そうかい。でもあたしは諦めないよ。あんたのあの凄い一撃に感動したんだ。絶対にまた一緒に戦ってもらうからね」
「それならどこかのレイド戦でいいんじゃないですか?」
「あんなのいつ出るか分からないじゃないか。あたしは待つのは好きじゃないんだよ」
なんとも勝手だなぁ。
「ソルトは今、未所属なんでしょ? だったらうちに入らなくてもいいからもっかい一緒に三階層に行こうよ~」
「うん。一緒に行きましょう」
「そう言われても……とりあえずそろそろ約束の時間なんで失礼します」
ミレニアに続いて、レッティもイリヤも追撃を掛けてきたけど、僕はダールさんを理由にしてその場を後にした。
上位探索者パーティーの一つであるヴァイオレットレインからお誘いを受けるのは、本音を言えば嬉しい。同じく重戦者隊からも声を掛けてもらえたことは光栄にすら思う。
でもなぁ……
「おう、来たか」
「ダールさん、ご無沙汰してます。今日はお時間頂いてしまってすみません」
「いい、いい。わしもお前にやった装備の使い心地を聞いて置きたかったからな。それになんぞ面白いもんでも持ってきてるんだろう?」
ギルドから話が行ってるのかな。僕が素材を持ってきてることはばれてる感じだ。
「これなんですけど、これと同じように物を収納できる指輪とかに加工できないでしょうか」
そう言って、僕は白竜の魔眼石と邪眼石をテーブルの上に置いた。「これ」と言うのは左手に着けてる三つまで物を収納できる指輪と、装備換装の指輪だ。この二つの指輪は青銀の魔眼石を元に造られている。
「むおっ、これは見たことが無い石だな……だが、凄い力を感じるな。これを預かることはできるか?」
「どなたかに見てもらうのなら僕も同席したいです」
「う~む……あいつは変わり者だからな」
「無理そうならギルドに持ち込んで頼んでみます」
「うむ……そうだな、それがいいだろう。これがどんな力を持ってるかが分かったらまた持って来い」
ん~、そうか、駄目かぁ。鑑定とかは企業秘密的な物なのかなぁ。まあ何でもかんでも思い通りにはいかないよね。仕方ない。僕は二つの石を腰に付けたポーション入れにしまった。
「……はい。たぶん、ダールさんにお願いすることになると思います」
「ん? 今の間は何じゃ。まさか、これだけの素材をわし以外の所に持ち込もうってんじゃないだろうな?」
いや、そんなことをする気はないですよ。ただ、この素材を鑑定してる所とか、魔法を入れる所を見てみたいと思ったんですけどね。
「……あ、いや、そんなことをするつもりはないですよ。はい」
駄目だな。考え事してて返事が遅くなるとか失礼だよな。
「本当か?」
「え、あ、はい」
やたらと必死な顔で迫られると、ダールさんの顔は迫力があってちょっと怖い。でも、そんなに気になるなら鑑定してくれる人を紹介してくれたらいいのにな。
「えっと、じゃあちょっとギルドに行ってきますね」
「おいおい、随分と急ぐじゃねぇか」
「はい。これが探索に役立つ物ならなるべく早く使える形にしたいので。まずは何に使えるかを確認できないとダールさんに依頼もできないですし……あ、確認なんですが、石に魔法の仕組みを付与する所ってやっぱり見せてもらえないんでしょうか」
「あ、ああ。たぶん無理だな」
「……そうですか。分かりました。では失礼しますね」
そう言って、僕は武具屋プリペアを後にした。ダールさんが「また来いよぉ」と言ってるのが聞こえた。上位探索者に有名な鍛冶師が気になるほどの素材だって事が分かっただけでも収穫かな。
「親方~、どうしたんすか」
「ん? いや、なんでもねぇ」
「何でもなくはないっすよね? 珍しく狼狽えた声が聞こえたんすけど」
「何でもねえったら何でもねえ」
とは言うものの、もしも尻尾落としが別の奴ん所に持ち込んじまったら……あー、くそ。
あれだけ力のある素材はなかなかお目にかかれない。例え指輪にするんでも是非ともわしが叩きたいもんだが……くそっ、マールの偏屈のせいだ。いや落ち着け。尻尾落としはここに来る。絶対に来る。
…………ぬお~~!
気になる!
気になるぞお!
それから暫くの間、弟子のビーニュは、石が気になって落ち着かない親方に八つ当たりをされてしまうのであった。
頑張れビーニュ、負けるなビーニュ。
「おう、ソルト」
「こんにちわっ」
僕が黒うさぎ亭から出ると、そこにはヴァイオレットレインの三人が待ち構えていた。
ミレニアとレッティ、それとイリヤだ。
「こんにちは」
僕は彼女達に挨拶をして、そのまま公園広場に向かって歩く。
「ん? 行き先はギルドじゃないのかい?」
「ね~ね~、一緒に行こうよ~」
「いや、自然な感じで背中に乗って来ないでくださいよ」
「え~いいじゃん。役得でしょ~」
「いや、体力が」
「わたし、そんなに重くないもんね~」
「ずるい」
僕がラングルのパーティーから追放されて二日間、ミレニア達からヴァイオレットレインに入らないかとしつこく誘われて困っている。
もうミツキが戻って来るまでは一人でやってこうと思ってるんだよね。
集団戦闘ならレイドモンスターが出る場所に行けば参加できるし、今の僕なら三階層でも一人で探索できそうだしね。
結局、レッティを公園広場までおぶって行くことになったけど、そこで降りてもらってちゃんと断りを入れた。
「暫くはパーティーには入らないことに決めたんで、すみません。それと、今からダールさんのとこに行くので付いて来るのはここまででお願いします」
ダールさんは、上位探索者達にはかなり有名な鍛冶職人なんだそうだ。逆に僕のような新人探索者にはほとんど知られていない。それはダールさんの店は、ダールさんが認めた人からの紹介でしか仕事をしないからなんだとか。
大勢で店に来られるのも嫌がると聞いたので、僕は一人で行くことを心に決めていた。
「そうかい。でもあたしは諦めないよ。あんたのあの凄い一撃に感動したんだ。絶対にまた一緒に戦ってもらうからね」
「それならどこかのレイド戦でいいんじゃないですか?」
「あんなのいつ出るか分からないじゃないか。あたしは待つのは好きじゃないんだよ」
なんとも勝手だなぁ。
「ソルトは今、未所属なんでしょ? だったらうちに入らなくてもいいからもっかい一緒に三階層に行こうよ~」
「うん。一緒に行きましょう」
「そう言われても……とりあえずそろそろ約束の時間なんで失礼します」
ミレニアに続いて、レッティもイリヤも追撃を掛けてきたけど、僕はダールさんを理由にしてその場を後にした。
上位探索者パーティーの一つであるヴァイオレットレインからお誘いを受けるのは、本音を言えば嬉しい。同じく重戦者隊からも声を掛けてもらえたことは光栄にすら思う。
でもなぁ……
「おう、来たか」
「ダールさん、ご無沙汰してます。今日はお時間頂いてしまってすみません」
「いい、いい。わしもお前にやった装備の使い心地を聞いて置きたかったからな。それになんぞ面白いもんでも持ってきてるんだろう?」
ギルドから話が行ってるのかな。僕が素材を持ってきてることはばれてる感じだ。
「これなんですけど、これと同じように物を収納できる指輪とかに加工できないでしょうか」
そう言って、僕は白竜の魔眼石と邪眼石をテーブルの上に置いた。「これ」と言うのは左手に着けてる三つまで物を収納できる指輪と、装備換装の指輪だ。この二つの指輪は青銀の魔眼石を元に造られている。
「むおっ、これは見たことが無い石だな……だが、凄い力を感じるな。これを預かることはできるか?」
「どなたかに見てもらうのなら僕も同席したいです」
「う~む……あいつは変わり者だからな」
「無理そうならギルドに持ち込んで頼んでみます」
「うむ……そうだな、それがいいだろう。これがどんな力を持ってるかが分かったらまた持って来い」
ん~、そうか、駄目かぁ。鑑定とかは企業秘密的な物なのかなぁ。まあ何でもかんでも思い通りにはいかないよね。仕方ない。僕は二つの石を腰に付けたポーション入れにしまった。
「……はい。たぶん、ダールさんにお願いすることになると思います」
「ん? 今の間は何じゃ。まさか、これだけの素材をわし以外の所に持ち込もうってんじゃないだろうな?」
いや、そんなことをする気はないですよ。ただ、この素材を鑑定してる所とか、魔法を入れる所を見てみたいと思ったんですけどね。
「……あ、いや、そんなことをするつもりはないですよ。はい」
駄目だな。考え事してて返事が遅くなるとか失礼だよな。
「本当か?」
「え、あ、はい」
やたらと必死な顔で迫られると、ダールさんの顔は迫力があってちょっと怖い。でも、そんなに気になるなら鑑定してくれる人を紹介してくれたらいいのにな。
「えっと、じゃあちょっとギルドに行ってきますね」
「おいおい、随分と急ぐじゃねぇか」
「はい。これが探索に役立つ物ならなるべく早く使える形にしたいので。まずは何に使えるかを確認できないとダールさんに依頼もできないですし……あ、確認なんですが、石に魔法の仕組みを付与する所ってやっぱり見せてもらえないんでしょうか」
「あ、ああ。たぶん無理だな」
「……そうですか。分かりました。では失礼しますね」
そう言って、僕は武具屋プリペアを後にした。ダールさんが「また来いよぉ」と言ってるのが聞こえた。上位探索者に有名な鍛冶師が気になるほどの素材だって事が分かっただけでも収穫かな。
「親方~、どうしたんすか」
「ん? いや、なんでもねぇ」
「何でもなくはないっすよね? 珍しく狼狽えた声が聞こえたんすけど」
「何でもねえったら何でもねえ」
とは言うものの、もしも尻尾落としが別の奴ん所に持ち込んじまったら……あー、くそ。
あれだけ力のある素材はなかなかお目にかかれない。例え指輪にするんでも是非ともわしが叩きたいもんだが……くそっ、マールの偏屈のせいだ。いや落ち着け。尻尾落としはここに来る。絶対に来る。
…………ぬお~~!
気になる!
気になるぞお!
それから暫くの間、弟子のビーニュは、石が気になって落ち着かない親方に八つ当たりをされてしまうのであった。
頑張れビーニュ、負けるなビーニュ。
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