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三階層の突破者
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「行くよ!」
「おう!」
「は~い!」
「はい!」
ブレスが糸状に見えるくらい細くなった時、ミレニアの号令が出た。
ミレニア、レッティ、サブマスがヒュドラに向かって走り出す。
全力だ。僕も、まずは全力の一撃を入れてみよう。切り落とせても切り落とせなくても、まずはそこからだ。
あと少しで、だらんとした竜の首に到達する。その距離まで近付いた所で、《瞬歩》を発動させて首の付け根の真下まで突っ込む。そして、三メートルくらいの高さにあるその付け根に向かって《怪力》《筋力強化》《必中》《一撃》を同時発動させて、ジャンプしながら下から上へ赤虎の爪剣を振り切った。
そして既視感。
それは《再生機》のような既視感じゃなくて、もう少しリアルな既視感だった。
思い出した場面はツインフレイムの首を落とした時の感覚だ。
前回との違いは《怪力》があることだけど、ワニの手応えと同じくらいに感じたのはこれのおかげだろうか。
一瞬の間の後、右端の首は少しだけゆっくりとずれて、その後一気に滑って地面に落っこちた。
地面に落ちた竜の顔が、自分が何をされたのか分かってないようなそんな間抜けな顔をしている。
そいつが動き出さないのをいい事に、僕は剣を上段に振りかぶって、竜の頭を真っ二つに叩き割った。
他の首も予定通りに落とせてるだろうか。
いや、カインがいない分、サブマスは二本の首を交互に叩いて、ダメージを与えつつ引き付けておいてくれると言ってたから、少なくともあと二本は残ってるはずだ。
一本目を倒し終わった僕は、すぐに右から二番目の、今は右端になってしまった首を見上げた。その付け根、つまり背中にはサブマスが立っていて、驚いた顔でこっちを見ていた。
そんな所に立つなんて流石ギルマスだ。でも、そこに居られたら僕が攻撃できない。
「サブマス! 行きますよっ!」
僕にしては珍しく大きめの声で呼び掛けると、サブマスが慌てて少し下がってくれた。
さっきのスキルの組み合わせならまだまだ発動できる。僕は二本目の首に向かって、《怪力》《筋力強化》《必中》《一撃》を発動しつつ、怪力と筋力強化のおかげで思ったよりも上がってるジャンプ力を利用して、上から下に剣を振った。
「ソ、ソルト! お前は真ん中の首を落とせ! 落ちた首は俺とデンドルッフで叩く! デンドルッフ、来い!」
「は、はい!」
サブマスがヒュドラの背中から飛び降りつつ、地面に落ちた首を踏みつけるように振り上げた踵を落とした。そこに剣を振りかぶったデンドルッフが走り込んでくる。
その頃になってようやっと、僕が切り落とした首の付け根に向かって《火弾》や《水弾》、《石礫》が矢の雨のように降り注ぎ始めた。もしかすると、僕なんかが首を落とせるはずが無いと思ってたから、ミレニア達の方ばかりを追撃してたのかも知れないな。
よし、ザイアンからの号令もまだないみたいだし、三本目、行ってみるか。
僕が三本目の首を落とすと、「本体に突撃ーぃ!」と言うザイアンの声が響いた。
「「「「「「「おお!」」」」」」」
たぶん、タンカーと後衛全員が気合を入れ直した声だ。ヒュドラは鳴かなかったけど、今のはまるで竜の咆哮だった。
僕までもが身震いする程の高揚感に包まれる。
よし、僕も本体を叩こう。
真ん中の首も頭を割ってとどめを刺し、僕は攻撃が入り乱れるヒュドラの本体に、少し離れた所から《水弾》で攻撃をしつつ、ミレニアとレッティが落ちた頭と戦っているのを見守ったのだった。
そして、それから一分も経たないうちに、少し前まではヒュドラだった巨大な肉の塊は、鳴き声をあげることなく、地面に浮かび上がった魔法陣の中に沈みながら、割れるように、煙になるように、何とも言えない寂しげな余韻を残しつつ消えていった。
「「「「おおおおおおおおお!」」」」
「「やった!」」
「「「きゃー!」」」
「「敵を取ったぞ!」」
そして、その余韻は、上位探索者達が上げた様々な歓声に掻き消されていったのだった。
「え、僕が貰ってもいいんですか?」
「当たり前だ。首三本落して、頭も三つもとどめ刺してるんだからな」
確かに、ミレニアが落とした首の素早さに苦戦していたので、彼女に協力して僕がとどめを刺したけど、それは彼女の戦果なんじゃないだろうか。そう思ってミレニアの方を見る。
「いいんだよ。あたしにはあのスピードで動く頭をあんなに正確に叩けないからね」
そう言ってくれるなら、ちょっと悪い気もするけど、素直に報酬をもらっておこう。
白竜の白金の長剣
白竜の白金の短剣
白竜の白金の鱗の外套
白竜の魔眼石
白竜の邪眼石
白竜の爪
それから金貨銀貨に大きな宝石。これが僕に与えられた報酬だった。
サブマス達の見立てによると、どうやらあの五竜は三階層のレイドモンスターなんじゃないか、という話だ。消える前に現れた魔法陣や、そこから噴出した報酬がその理由らしい。
三階層を降りてすぐのここが発生場所なのか、それとも他の所で湧いたレイドモンスターが「移動」したのか、どちらなのかは現時点では分からないものの、ギルドへの最初の報告では五竜と言うモンスターについては一言もなかったのだ。
おそらく、どこかのパーティーがレイドモンスターを起こしてしまい、それを放置した結果、三階層の魔物が活性化し、レイドモンスターも強化されていったのだろう、と。
でも、強化されてあのくらいなら、二階層で出てきた本巨大魔人像の方が強かったような気も……あれは単に数の暴力か。
まあ、なにはともあれ、サブマスやミレニア達の立てた作戦通りに一気に倒す事ができてよかった。
「おう!」
「は~い!」
「はい!」
ブレスが糸状に見えるくらい細くなった時、ミレニアの号令が出た。
ミレニア、レッティ、サブマスがヒュドラに向かって走り出す。
全力だ。僕も、まずは全力の一撃を入れてみよう。切り落とせても切り落とせなくても、まずはそこからだ。
あと少しで、だらんとした竜の首に到達する。その距離まで近付いた所で、《瞬歩》を発動させて首の付け根の真下まで突っ込む。そして、三メートルくらいの高さにあるその付け根に向かって《怪力》《筋力強化》《必中》《一撃》を同時発動させて、ジャンプしながら下から上へ赤虎の爪剣を振り切った。
そして既視感。
それは《再生機》のような既視感じゃなくて、もう少しリアルな既視感だった。
思い出した場面はツインフレイムの首を落とした時の感覚だ。
前回との違いは《怪力》があることだけど、ワニの手応えと同じくらいに感じたのはこれのおかげだろうか。
一瞬の間の後、右端の首は少しだけゆっくりとずれて、その後一気に滑って地面に落っこちた。
地面に落ちた竜の顔が、自分が何をされたのか分かってないようなそんな間抜けな顔をしている。
そいつが動き出さないのをいい事に、僕は剣を上段に振りかぶって、竜の頭を真っ二つに叩き割った。
他の首も予定通りに落とせてるだろうか。
いや、カインがいない分、サブマスは二本の首を交互に叩いて、ダメージを与えつつ引き付けておいてくれると言ってたから、少なくともあと二本は残ってるはずだ。
一本目を倒し終わった僕は、すぐに右から二番目の、今は右端になってしまった首を見上げた。その付け根、つまり背中にはサブマスが立っていて、驚いた顔でこっちを見ていた。
そんな所に立つなんて流石ギルマスだ。でも、そこに居られたら僕が攻撃できない。
「サブマス! 行きますよっ!」
僕にしては珍しく大きめの声で呼び掛けると、サブマスが慌てて少し下がってくれた。
さっきのスキルの組み合わせならまだまだ発動できる。僕は二本目の首に向かって、《怪力》《筋力強化》《必中》《一撃》を発動しつつ、怪力と筋力強化のおかげで思ったよりも上がってるジャンプ力を利用して、上から下に剣を振った。
「ソ、ソルト! お前は真ん中の首を落とせ! 落ちた首は俺とデンドルッフで叩く! デンドルッフ、来い!」
「は、はい!」
サブマスがヒュドラの背中から飛び降りつつ、地面に落ちた首を踏みつけるように振り上げた踵を落とした。そこに剣を振りかぶったデンドルッフが走り込んでくる。
その頃になってようやっと、僕が切り落とした首の付け根に向かって《火弾》や《水弾》、《石礫》が矢の雨のように降り注ぎ始めた。もしかすると、僕なんかが首を落とせるはずが無いと思ってたから、ミレニア達の方ばかりを追撃してたのかも知れないな。
よし、ザイアンからの号令もまだないみたいだし、三本目、行ってみるか。
僕が三本目の首を落とすと、「本体に突撃ーぃ!」と言うザイアンの声が響いた。
「「「「「「「おお!」」」」」」」
たぶん、タンカーと後衛全員が気合を入れ直した声だ。ヒュドラは鳴かなかったけど、今のはまるで竜の咆哮だった。
僕までもが身震いする程の高揚感に包まれる。
よし、僕も本体を叩こう。
真ん中の首も頭を割ってとどめを刺し、僕は攻撃が入り乱れるヒュドラの本体に、少し離れた所から《水弾》で攻撃をしつつ、ミレニアとレッティが落ちた頭と戦っているのを見守ったのだった。
そして、それから一分も経たないうちに、少し前まではヒュドラだった巨大な肉の塊は、鳴き声をあげることなく、地面に浮かび上がった魔法陣の中に沈みながら、割れるように、煙になるように、何とも言えない寂しげな余韻を残しつつ消えていった。
「「「「おおおおおおおおお!」」」」
「「やった!」」
「「「きゃー!」」」
「「敵を取ったぞ!」」
そして、その余韻は、上位探索者達が上げた様々な歓声に掻き消されていったのだった。
「え、僕が貰ってもいいんですか?」
「当たり前だ。首三本落して、頭も三つもとどめ刺してるんだからな」
確かに、ミレニアが落とした首の素早さに苦戦していたので、彼女に協力して僕がとどめを刺したけど、それは彼女の戦果なんじゃないだろうか。そう思ってミレニアの方を見る。
「いいんだよ。あたしにはあのスピードで動く頭をあんなに正確に叩けないからね」
そう言ってくれるなら、ちょっと悪い気もするけど、素直に報酬をもらっておこう。
白竜の白金の長剣
白竜の白金の短剣
白竜の白金の鱗の外套
白竜の魔眼石
白竜の邪眼石
白竜の爪
それから金貨銀貨に大きな宝石。これが僕に与えられた報酬だった。
サブマス達の見立てによると、どうやらあの五竜は三階層のレイドモンスターなんじゃないか、という話だ。消える前に現れた魔法陣や、そこから噴出した報酬がその理由らしい。
三階層を降りてすぐのここが発生場所なのか、それとも他の所で湧いたレイドモンスターが「移動」したのか、どちらなのかは現時点では分からないものの、ギルドへの最初の報告では五竜と言うモンスターについては一言もなかったのだ。
おそらく、どこかのパーティーがレイドモンスターを起こしてしまい、それを放置した結果、三階層の魔物が活性化し、レイドモンスターも強化されていったのだろう、と。
でも、強化されてあのくらいなら、二階層で出てきた本巨大魔人像の方が強かったような気も……あれは単に数の暴力か。
まあ、なにはともあれ、サブマスやミレニア達の立てた作戦通りに一気に倒す事ができてよかった。
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