プレーヤープレイヤー

もずく

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約束

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 なかなか自分の部屋に帰れない。
 黒うさぎ亭に戻ると、そこには宿の看板の灯りに照らされて、薄い青緑色の髪の毛の人が立っていたからだ。
 目的が分からなかったから無視して宿に入ろうとしたら、服の裾を引っ張られてしまった。
 ミツキとの約束もあるから、できれば話したくなかったんだけどなぁ。

「はぁ……なに?」
「あのね、ちょっとだけでいいから、ちゃんと話を聞いてほしくて」

 ミツキとの約束がある・・から仕方ないか。
 僕は、んふー、と鼻から空気を出して、意を決して踵を返した。

「ま、待って」
「話を聞くよ。でも宿の前じゃあれだから」
「……部屋には入れてくれないの?」
「話するの、やめておく?」
「……分かった」

 とは言え、この時間だと探索者向けの飲み屋か、ギルドに併設された食堂くらいしかないんだよね。
 少し悩んだけど、食堂が広いギルドの方が安全かな、と考えてそちらに行くことにした。
 僕がミントと食堂に入っていくと、いくつかの席から見られて、少しどよめきがあったけど、僕はそれに気が付かないふりをして適当なテーブルに座った。ミントもそれに続いて対面に座った。
 僕から話す事はあまりないので、彼女の方から話すのを待った。

「あのね……」

 ミントが話したのは、僕が既に知っている事ばかりだった。
 今は別にミントに対して文句がある訳では……ない。いや、少しはあるけどね。でも、解散したについては僕にも責任があるんじゃないかと思ったりもしたから、その事をこれ以上掘り返そうとは思わない。「自分が軽率だった」とちゃんと謝ってくれたことだしね。

「終わったことだし、もういいよ」
 事のあらましを話し終わったミントに、僕がそう答えると、彼女は怯えていた顔を情けなく崩して、拍子抜けしたような顔になった。

「話はそれだけかな? じゃあ、ちょっと疲れてるから部屋に帰らせてもらうね」
 僕が椅子から立ち上がると、「ままま待って」と引き留められてしまった。
 ミツキとの約束があるから、話を長引かせたくない僕はそのまま帰ろうとした、んだけど。

「も、もう怒ってないなら、もう一回、もう一回前みたいにパーティーを組もう?」

 ガタンッ、と音を立てて立ち上がったミントが、できれば聞きたくなかった言葉を発したんだ。
 あ~あ……



「わしがいなくなった後、もし、彼女がお主とパーティーを組みたいと言ったなら、受け入れてやってほしいのじゃ」



 ミツキは、結果的に僕の傷心につけ込んだ形でこうなってしまったのではないか、と言うことを心配していたらしい。
 だから、自分がいなくなった後、僕がミントとパーティーを組んでも、心がミツキに残っているかどうかを確認したいと言うことだった。
 流石にそれはちょっと違うんじゃないかと思ったんだけど、ミツキの顔があまりにも真剣だったから、納得はしてないけど受け入れる事にした。
 ミツキは戦争をしている国に帰るんだ。ミツキにここに戻ってくると言う気持ちがあったとしても、いつここに帰ってこれるか分からないし、何があるかも分からない。
 だから、もしかしたら、この別れは一生の別れになるのかも知れないと思ってるのかも知れない。自分が僕の元に戻れるかどうか分からないから、僕がいつまでも一人でいないようにと思っての……

「分かった」
「ほんとっ!?」
「でも、先にパーティーを組む約束してた人達がいるんだ。だからその人達に話しをさせてほしい。その人達が僕を受け入れてくれた時は、キミも一緒でいいかどうかを聞いてみて、ってことでもいい?」
「うん……先に約束してたんなら仕方ないよね。でも、その話の時は私も一緒にいてもいい?」
「もちろん。キミの話でもあるんだから」
「今はいないみたいだから、カウンターにメモをお願いしておくよ」
「私にも連絡が来るようにしておいてね」
「了解」

 やっぱり、話し始めてしまえば、少しずつ昔のように喋ることができてしまう。
 前のようにもっと気安い感じで話すようになるのもすぐの事なんだろうな。
 それは、少しずつミツキの事を忘れていくこととイコールなような気がして、僕はまた、胸が苦しくなるのだった。



 僕は一人で戦っていた。
 例の真っ暗ゾーンの先にある空洞で、《再生機》で身に付けた色々なスキルの使用感を確認していく。
 剣は古い方の鉄剣で二刀流をメインにしている。爪剣や質のいい短剣よりも、こちらの方がかなり重いので訓練には丁度いいからだ。
 魔物を倒した後も、僕は剣を振り続けた。何十回も、何百回も……もしかしたら千回を越えていたかも知れない。とにかく我武者羅に剣を振った。
 魔物が現れれば、剣と魔法を使って即座に倒した。
 そんな事を動けなくなるまでやったら、《癒やしの光》で体力を回復させる。《癒やしの光》は怪我や生命力を回復させるだけでなくて、疲労を回復する力がある事を僕は《再生機》で観て知っていた。
 だから、バカみたいにひたすらに動き続けた。
 バカになって、約束も何もかも忘れてしまえたらと思ったけど、何一つ忘れる事ができなかった。
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