プレーヤープレイヤー

もずく

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約束

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「ミツキ殿、これだけあれば足りるだろうか」

 そう言って、ギルマスがテーブルの上に魔晶石と魔鉱石を出していった。

「いや……これは多すぎではないのか?」

 そこには五個の魔晶石と、二十個の魔鉱石が置かれていた。実は僕には魔鉱石の価値は「高く買い取ってもらえる」ことくらいしか分かってないんだけど、ミツキがあ然としてるのを見ると、これはかなりのボリュームなんだろうなって事が想像できた。

「これはミツキ殿との約束の分」と言いながら、ギルマスが魔晶石二個を押し出す。
「そして残りは、ヤヨイ殿との約束の分だ。だからあなたは気にしなくていい」

「アージェス殿、いったいヤヨイとはどのような……」
「それを聞くのは野暮ってものだよ」
「そうか……分かった。かたじけない。ありがたく頂くことにする」
 ミツキは何かを悟ったような顔をして、深々と礼をすると、石を大きなリュックに入れていった。

 僕もなんとなくだけど、ギルマスとヤヨイという人の関係が分かった気がした。
 それはきっと、僕とミツキのような関係だったんじゃないだろうか。
 そして、ギルマス達には大人として下した結末があったんじゃないだろうか。
 いや、こうやってまだ繋がっているんだから、結末なんて言い方は失礼かも知れないけど。

 僕ら二人は、ギルマスの部屋を出ると少し複雑な気持ちもあってか、何故か何も話せないでいた。
 そのまま無言で階段を降りていき、ギルドホールに繋がる扉を開けると、そこにいる探索者達が一斉に喝采の声を上げた。
 何が起きたのかと驚いていると、どうやら僕の事で騒ぎになっているらしい。

「ギ・ロ・チン! ギ・ロ・チン!」
「首落としだろ!」
「尻尾落としのがスゲーって!」
「レイドマスターで決まりだっての!」

 その迫力に負けてカウンター側に追いやられると、ギルドの人が状況を説明してくれた。
 短期間で連続してハイレアドロップを出したと言うのは、もはや偶然のラッキーボーイなんかじゃなくて、立派なレイド戦巧者であると騒ぎになったとのこと。
 そして、功績に相応しい二つ名を決めなくてはと言う流れがあって、当人不在でいくつかの候補のどれにするかで盛り上がっていた。
「と言う状況なんです」
「は、はぁ……いやいやいや、僕、二つ名なんていらないですから! と言うかなんですかギロチンって!」



「凄い人気だったの。くくく」
「人気とかじゃないよあれは……」

 黒うさぎ亭の部屋に戻ってきた僕はぐったりしていた。
 ギルドでのお祭り騒ぎは、リングウさんやメイナードさん、ラングル、アネッサ達が手に入れた武具のお披露目をしたのがきっかけだったそうだ。
 その上で、質の良い武具が大量に武具屋に卸されるぞと言う話に繋がっていき、それらがレイドモンスター迷宮火吹きワニツインフレイムが特殊な手順で倒された事による、ハイレアドロップの恩恵である事が話題に上り、僕の名前が出て以下略……

「それにしてもあっという間だったね」

 布団にぐでっと寝そべる僕は、顔を上げずに、今思ってることを正直に口にした。
 少なくとも一ヶ月以上先になると思われていたレイド戦は、一週間近く前倒しで実現してしまった。

「僕はなんて言ってキミを見送ればいいんだろう」

 ミツキは変な人だ。
 短期間に色々な人の色々な面を見せられてやさぐれてた僕の心に、気が付いたら勝手に住み込んでた感じの人だ。
 人の家でも我が家のように振る舞って、それがいつの間にか普通になってしまったような。

「こんな気持ちになるなら、こんな関係になんてならな」

 グキッ、と首の骨が大きな音を立てた。
 痛い。

 ミツキは何も答えてくれなかったけど、僕の背中に重なるように乗ってきて、そして僕の顔を無理矢理上に向けた。
 そして僕に「痛い」と言わせないスピードで、無理矢理僕の口を塞いできたのだった。



 翌夜。
 心地よい気怠さが薄れてきた頃、僕らは身支度を整えて部屋を出た。
 ギルドに顔を出し、ミツキがギルマスに迷宮の街サウススフィアを出る事を伝える。
 ミツキと僕はその足で迷宮メールスフィアを出た。ミツキには一ヶ月振りの、僕にとっては三、四ヶ月くらい振りの外の空気だった。
 夜空には青白い大きな月が浮び、数え切れないほどの星々が煌めいている。
 僕はペッパーを送った時の事を思い出していた。彼が無事に天国に着いているようにと、心の中で祈った。

 外街ダルダロイの夜は相変わらず華やかだった。
 ミツキが乗る馬車の予約をして、食事をして、いくつかの探索者向けの店を見て回った。
 馬車はタイミングの悪いいいことに、明後日にはイースタールの領土との境目にある砦町向けに出発する商隊があった。
 イースタールの領土までは馬車で二週間かかるそうだ。そこからミツキの住む町までは更に徒歩で一週間、なだらかな山道を登らないといけないそうだ。

 それから、宿で一部屋借りて、二日後の馬車の時間まで、僕らは誰にも聞こえないほど小さな声で話し続けた。
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