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迷宮大足長蜂
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「あれは迷宮大足長蜂だね」
「ほお、あれがか。ふむ、お主に会う前に一度見かけたのお。お主でも苦戦した魔物と言っておったが、さてどうするのじゃ?」
「一匹残して《仲間を呼ぶ》で増やしてみようか」
「六匹おるから、わしが三、ソルトが二じゃな」
「刺されたら麻痺かダメージだからね?」
「なに、油断はしとらぬよ。では行くとするかの!」
「あっ」
言うが早いか、ミツキが唐突にバッと駆け出した。
油断してない、って言う時って、敵を舐めて油断してる時のような気がするんだけど。
僕はジャイアントビーにはいい思い出がない。
一人の時に囲まれれば、麻痺毒を食らったタイミングで死ぬのがほぼ決まっちゃうから、僕は基本的に避けてきた魔物だ。
探索効率を下げる嫌な魔物だった。
それに、ペッパーを殺した魔物でもある。
ザッツバーグ達の策略だったとは言え、僕らのパーティーが解散した原因の一つなわけだから、怖い魔物と言うだけじゃなくて、因縁めいたものがあるんだよね。
期間限定とは言え、ある程度信頼できる実力者と一緒にいる今のうちに、ジャイアントビーに対するモヤっとしたものを払拭しておきたい。
僕も彼女の後を追って走る。
こちらに気がついたハチが、振動でブーンと空気を震わせながら宙に浮かび上がる。
そこにミツキが一閃、二閃、三閃と刀を振ると、あっという間に三匹のハチが地面に落ちた。
他の三匹は怯まずミツキに突撃していくが、彼女はそれをバッと横に素早く避けて躱した。
そして、ミツキを突撃した勢いのまま、僕に狙いを変えた二匹が突っ込んできた。
長剣、短剣の順に剣を振り抜くと、二匹のハチの頭がベコンと凹んで地面に落ちた。
が、ハチの尻が動いたのを見て、僕は右に大きくジャンプした。僕が居た所に針が飛んでいくのを見ながら、二匹にとどめを刺した。
「うっ」
三匹のハチの翅を落としただけだったミツキは、残りの一匹に気を取られている間に、地面に落ちたハチが飛ばした針にやられたようだ。
僕は動けなくなった彼女の代わりに、地面に落ちた三匹にとどめを刺してから、彼女の頭に停まって齧り付こうとしてるハチに《瞬歩》で近付き、《剣速上昇》を使って剣を突き刺した。
「何か言う事は?」
「…………」
痛いのか、悔しいのか。どちらかは分からないけど、何も言わないミツキ。
「油断はしてないんじゃなかったの?」
「…………」
別に嫌味を言いたい訳じゃなくて、今の戦いについて反省してほしいだけなんだけど、ミツキは何も言わない。
ただ、もうちょっと慎重に、魔物にはしっかりとどめを刺すとか基本的な事をしっかりやって欲しい。いや、僕にとっては既に当たり前のことだったから、ミツキに「ちゃんととどめを刺すように」とは言ってなかったもしれない。だとしたらこれは僕のせいだ……。
ミツキはまだ何も言わない。と言うかピクリとも動かない。これってもしかして。
「もしかして麻痺して喋れないとか?」
そう聞くと、彼女は目玉だけを動かして何かを訴えてきた。
後ろに回ってみると、彼女の背中と尻には三本の針が刺さっていた。全弾命中とか、ハチはやっぱり怖いな。
それにしても、複数の針が刺さると、ここまで強い麻痺になる事もあるのか。
一人の時にハチに出会ったら、やっぱり逃げる方がいいな。
僕はミツキに刺さった針を雑に抜きながら、勉強になったなぁと思ったのだった。
「すまなかったのじゃ」
「まあ、分かってくれたんならいいよ」
麻痺毒中和のポーションは一本二万円だ。
ハチが残していったハリから抽出できる麻痺毒が原材料らしいけど、詳しい製法までは分からない。
ギルドでの買い取り価格は一本三千円くらいだったかな。これを元にして二万円の薬を作り出す人は、ある意味で錬金術師だよなぁ、とか思っちゃうよね。
「まだ怒っておるのかの?」
「いや、別に怒ってないよ」
だって、呆れてるだけだから。
いやでもあれだよね。三本も針が刺さって声まで出せないほど麻痺してたのに、麻痺毒中和のポーション一本だけで治せたのはよかったよね。
「ソルトよ、まっことすまなかったのじゃ。次からは気を付けるからゆる」
「いや、だから怒ってないってば。許すとか許さないとかでもないよ。ただ、もう油断はしないでね。それが原因で全滅する可能性だってあるんだから」
「わ、分かったのじゃ……」
やっぱりハチは僕には鬼門なのかなぁ。
ハチがパーティークラッシャーみたいなスキルを持ってるとは思わないけど、現れる度に痼を残していく。
……痼か。
この件で痼ができたと思ってるってことは
、僕がさっきの事を気にしてるってことだよね。
もしかして態度にでちゃってるのかな。
だからミツキがやたらと謝ってくるのかな。
だとしたら、この痼はちゃんと解消しておいた方がいいよね。
「ミツキ」
「は、はいっ」
うわ、なんか怯えてるよ。
ミツキが「はい」って言うなんて……この数日間で初めて聞いたよ。
僕、自分で気付いてないだけで、実は侍を怖がらせるほど怒ってるのかな。
「あのさ。さっきの件、やっぱりちゃんと話してもいい?」
ちゃんと話して、ハチの動きもお互いにちゃんと覚えて、これから出てくる魔物との戦いも油断せずにやっていく事を再確認しよう。
「は、はい、なのじゃ……」
だって、こんなにやたらと謝ってきたり、怯えたりしてるミツキと迷宮を歩くのはつまらないから。
まあ、こんな風にしおらしい彼女を見れる機会はなかなかなさそうだから、貴重なものが見れたって事にして、全部すっきりさせよう。
「ほお、あれがか。ふむ、お主に会う前に一度見かけたのお。お主でも苦戦した魔物と言っておったが、さてどうするのじゃ?」
「一匹残して《仲間を呼ぶ》で増やしてみようか」
「六匹おるから、わしが三、ソルトが二じゃな」
「刺されたら麻痺かダメージだからね?」
「なに、油断はしとらぬよ。では行くとするかの!」
「あっ」
言うが早いか、ミツキが唐突にバッと駆け出した。
油断してない、って言う時って、敵を舐めて油断してる時のような気がするんだけど。
僕はジャイアントビーにはいい思い出がない。
一人の時に囲まれれば、麻痺毒を食らったタイミングで死ぬのがほぼ決まっちゃうから、僕は基本的に避けてきた魔物だ。
探索効率を下げる嫌な魔物だった。
それに、ペッパーを殺した魔物でもある。
ザッツバーグ達の策略だったとは言え、僕らのパーティーが解散した原因の一つなわけだから、怖い魔物と言うだけじゃなくて、因縁めいたものがあるんだよね。
期間限定とは言え、ある程度信頼できる実力者と一緒にいる今のうちに、ジャイアントビーに対するモヤっとしたものを払拭しておきたい。
僕も彼女の後を追って走る。
こちらに気がついたハチが、振動でブーンと空気を震わせながら宙に浮かび上がる。
そこにミツキが一閃、二閃、三閃と刀を振ると、あっという間に三匹のハチが地面に落ちた。
他の三匹は怯まずミツキに突撃していくが、彼女はそれをバッと横に素早く避けて躱した。
そして、ミツキを突撃した勢いのまま、僕に狙いを変えた二匹が突っ込んできた。
長剣、短剣の順に剣を振り抜くと、二匹のハチの頭がベコンと凹んで地面に落ちた。
が、ハチの尻が動いたのを見て、僕は右に大きくジャンプした。僕が居た所に針が飛んでいくのを見ながら、二匹にとどめを刺した。
「うっ」
三匹のハチの翅を落としただけだったミツキは、残りの一匹に気を取られている間に、地面に落ちたハチが飛ばした針にやられたようだ。
僕は動けなくなった彼女の代わりに、地面に落ちた三匹にとどめを刺してから、彼女の頭に停まって齧り付こうとしてるハチに《瞬歩》で近付き、《剣速上昇》を使って剣を突き刺した。
「何か言う事は?」
「…………」
痛いのか、悔しいのか。どちらかは分からないけど、何も言わないミツキ。
「油断はしてないんじゃなかったの?」
「…………」
別に嫌味を言いたい訳じゃなくて、今の戦いについて反省してほしいだけなんだけど、ミツキは何も言わない。
ただ、もうちょっと慎重に、魔物にはしっかりとどめを刺すとか基本的な事をしっかりやって欲しい。いや、僕にとっては既に当たり前のことだったから、ミツキに「ちゃんととどめを刺すように」とは言ってなかったもしれない。だとしたらこれは僕のせいだ……。
ミツキはまだ何も言わない。と言うかピクリとも動かない。これってもしかして。
「もしかして麻痺して喋れないとか?」
そう聞くと、彼女は目玉だけを動かして何かを訴えてきた。
後ろに回ってみると、彼女の背中と尻には三本の針が刺さっていた。全弾命中とか、ハチはやっぱり怖いな。
それにしても、複数の針が刺さると、ここまで強い麻痺になる事もあるのか。
一人の時にハチに出会ったら、やっぱり逃げる方がいいな。
僕はミツキに刺さった針を雑に抜きながら、勉強になったなぁと思ったのだった。
「すまなかったのじゃ」
「まあ、分かってくれたんならいいよ」
麻痺毒中和のポーションは一本二万円だ。
ハチが残していったハリから抽出できる麻痺毒が原材料らしいけど、詳しい製法までは分からない。
ギルドでの買い取り価格は一本三千円くらいだったかな。これを元にして二万円の薬を作り出す人は、ある意味で錬金術師だよなぁ、とか思っちゃうよね。
「まだ怒っておるのかの?」
「いや、別に怒ってないよ」
だって、呆れてるだけだから。
いやでもあれだよね。三本も針が刺さって声まで出せないほど麻痺してたのに、麻痺毒中和のポーション一本だけで治せたのはよかったよね。
「ソルトよ、まっことすまなかったのじゃ。次からは気を付けるからゆる」
「いや、だから怒ってないってば。許すとか許さないとかでもないよ。ただ、もう油断はしないでね。それが原因で全滅する可能性だってあるんだから」
「わ、分かったのじゃ……」
やっぱりハチは僕には鬼門なのかなぁ。
ハチがパーティークラッシャーみたいなスキルを持ってるとは思わないけど、現れる度に痼を残していく。
……痼か。
この件で痼ができたと思ってるってことは
、僕がさっきの事を気にしてるってことだよね。
もしかして態度にでちゃってるのかな。
だからミツキがやたらと謝ってくるのかな。
だとしたら、この痼はちゃんと解消しておいた方がいいよね。
「ミツキ」
「は、はいっ」
うわ、なんか怯えてるよ。
ミツキが「はい」って言うなんて……この数日間で初めて聞いたよ。
僕、自分で気付いてないだけで、実は侍を怖がらせるほど怒ってるのかな。
「あのさ。さっきの件、やっぱりちゃんと話してもいい?」
ちゃんと話して、ハチの動きもお互いにちゃんと覚えて、これから出てくる魔物との戦いも油断せずにやっていく事を再確認しよう。
「は、はい、なのじゃ……」
だって、こんなにやたらと謝ってきたり、怯えたりしてるミツキと迷宮を歩くのはつまらないから。
まあ、こんな風にしおらしい彼女を見れる機会はなかなかなさそうだから、貴重なものが見れたって事にして、全部すっきりさせよう。
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