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末路
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ギルドは探索者に対して常に中立だ。
だが、運営に携わっているのは人間だ。
だから、間違うこともあるし、ルールにそぐわない事をする者もいる。
それは、仲のいい探索者からの素材の買い取りを、内緒で少しだけ割高に買い取るサービスや、ギルドが手に入れた情報の横流しなどだが、それらのことは大目に見られてきていた。
あまりにも目立つことをすれば指導が入り、場合によっては、不正を行った者に呪いの装備を付けた上で、サウススフィアの街から追放した事などもあった。
ただ、今回の事は、これまでの不正が些細なものだったと思える程に、非道で残虐な内容だった。
街長、副長、商工会会長、商工会副会長、神殿の司祭や神官長、ギルドマスター、及び、不正に関わっていないサブマスター達によって罰が決定された。
死刑。
満場一致ではなかったが、一番重い罰が適当ということになった。
私利私欲を満たすの為の仲間殺しは最悪の罪だ。その為、殺しについて直接手を下していないギルド職員も死刑が適当と判断されたのだった。
メールスフィアの迷宮からの追放、と言う声もあったのだが、八人もの探索者を同時に外に出せば、その力を使ってまた悪事を働く危険があった。スキルを封じるなどの呪われた装備は、そんなに沢山ある訳でもなく、仕方なく死刑に賛成の手を上げた者もいた。
迷宮内でレベルを上げた者の中には、迷宮外で犯罪防止の為に働く者もいるのだが、その数はそれ程多くない。更に言えば、彼らは無給で働いている訳でもない。監視役として雇うとなれば、ほぼ無期限で二十四時間体制……いくら金が集まる迷宮の街とは言え、犯罪者にそこまでの金をかける訳にはいかない。
では、監視もなしに犯罪者を追放するとなれば……外で暴力を振るう迷宮資格者達が増えれば、迷宮に入れない者達からの、様々なふざけた要求が更に増えるのは目に見えている事なので、それは避けたいことだった。
「禁錮刑では足らぬだろうか」
そう食い下がったのは神殿の司祭だ。
彼らはとにかく罪を赦そうとする。
自然ならざる死を回避しようとするのだ。
「では、この八人を入れる牢屋の維持管理、彼らの食費、彼らが何か起こした場合の全責任を、神殿に持っていただけると言うことですかな?」
死刑に反対しているのは神殿の司祭、神官長達だけだった為、サウススフィアの街の長はそのように確認してみた。
サウススフィアの街自体の舵取りを行う自治体、商工会、ギルド、そして神殿。迷宮内に造られた、この街を形作る全ての組織は、それぞれ資沢な資金を持つ。
ただし、迷宮内で街として使用できるエリアは人口に対してまだまだ小さく、また、メールスフィアの迷宮に入る資格を持つ者の数が限られている為、人材は貴重なので、不要な人の使い方はしたくない。
つまり、刑務所や牢屋を造る土地がなく、また、牢屋番などに人を割きたくないのだ。
だから、赦せる程度の罪ならば罰金や奉仕活動程度で赦すし、そうでない場合は命を以て償ってもらうのが、迷宮の街サウススフィアの通例であった。
「それを為すには手が足らないのです」
その言葉を最後に、司祭達は言葉を発することが無くなる。
これはいつもの事なのだ。
いつものポーズ。
我々は赦そうとしたが、力足りず救う事ができなかったと、そう言う為のお決まりのやり取りなのだ。
この茶番を、誰もが面倒くさいと思っている。
おそらく、司祭達自身も面倒に思ってる事だろう。
果たして、ザッツバーグと名乗っていた男を始めとする、八人の男女の処刑が大々的に行われた。
やるのであれば、迷宮に住む全ての者に知らせねばならないからだ。
仲間殺しは、死刑が課せられる程の重罪であるのだと、知ってもらわねばならないのだ。
二度とこのような事をしでかす者が現れないように。
犯罪者達には、せめてそのくらいは役に立ってもらわねば。
そうか。
ザッツバーグ達は死刑になったのか。
迷宮の門前の公園広場で、ニュースキャスターが何度も繰り返して読み上げる話を聞いて、それを知った。
掲示板を見に行くと、この件について何枚もの紙が張り出されていた。
ザッツバーグ達が四人も仲間を殺していた事。
水魔法使いがいたパーティーが狙われ、死亡者が出た事。
ミントがギルドに騙されて、スパイとしてザッツバーグ達のパーティーに入っていた事。
ギルドの一部の職員が、ザッツバーグ達と組んで、最終的には二階層の魔鉱石エリアを占有しようと計画していた事。
などなど。奴らの悪事についてが書かれていた。
それらの内容をニュースキャスターが繰り返し読み上げ続け、それは拡声器で街中に反響していく。
僕は、なんとも表現できない気持ちで、それを聞いていた。
悲しくもなく、悔しくもなく、もはや怒りもない。
嬉しいわけでもなく、だからと言って何も感じない訳でもない。
空しいか。
虚しいのか。
自分の利益の為に、他者から命を奪う行為の末路を、ただただ虚しく思う。
そして、なんの慰めにもならないけど、ペッパーの無念が少しでも晴れてくれたならいいな、と思うのだった。
だが、運営に携わっているのは人間だ。
だから、間違うこともあるし、ルールにそぐわない事をする者もいる。
それは、仲のいい探索者からの素材の買い取りを、内緒で少しだけ割高に買い取るサービスや、ギルドが手に入れた情報の横流しなどだが、それらのことは大目に見られてきていた。
あまりにも目立つことをすれば指導が入り、場合によっては、不正を行った者に呪いの装備を付けた上で、サウススフィアの街から追放した事などもあった。
ただ、今回の事は、これまでの不正が些細なものだったと思える程に、非道で残虐な内容だった。
街長、副長、商工会会長、商工会副会長、神殿の司祭や神官長、ギルドマスター、及び、不正に関わっていないサブマスター達によって罰が決定された。
死刑。
満場一致ではなかったが、一番重い罰が適当ということになった。
私利私欲を満たすの為の仲間殺しは最悪の罪だ。その為、殺しについて直接手を下していないギルド職員も死刑が適当と判断されたのだった。
メールスフィアの迷宮からの追放、と言う声もあったのだが、八人もの探索者を同時に外に出せば、その力を使ってまた悪事を働く危険があった。スキルを封じるなどの呪われた装備は、そんなに沢山ある訳でもなく、仕方なく死刑に賛成の手を上げた者もいた。
迷宮内でレベルを上げた者の中には、迷宮外で犯罪防止の為に働く者もいるのだが、その数はそれ程多くない。更に言えば、彼らは無給で働いている訳でもない。監視役として雇うとなれば、ほぼ無期限で二十四時間体制……いくら金が集まる迷宮の街とは言え、犯罪者にそこまでの金をかける訳にはいかない。
では、監視もなしに犯罪者を追放するとなれば……外で暴力を振るう迷宮資格者達が増えれば、迷宮に入れない者達からの、様々なふざけた要求が更に増えるのは目に見えている事なので、それは避けたいことだった。
「禁錮刑では足らぬだろうか」
そう食い下がったのは神殿の司祭だ。
彼らはとにかく罪を赦そうとする。
自然ならざる死を回避しようとするのだ。
「では、この八人を入れる牢屋の維持管理、彼らの食費、彼らが何か起こした場合の全責任を、神殿に持っていただけると言うことですかな?」
死刑に反対しているのは神殿の司祭、神官長達だけだった為、サウススフィアの街の長はそのように確認してみた。
サウススフィアの街自体の舵取りを行う自治体、商工会、ギルド、そして神殿。迷宮内に造られた、この街を形作る全ての組織は、それぞれ資沢な資金を持つ。
ただし、迷宮内で街として使用できるエリアは人口に対してまだまだ小さく、また、メールスフィアの迷宮に入る資格を持つ者の数が限られている為、人材は貴重なので、不要な人の使い方はしたくない。
つまり、刑務所や牢屋を造る土地がなく、また、牢屋番などに人を割きたくないのだ。
だから、赦せる程度の罪ならば罰金や奉仕活動程度で赦すし、そうでない場合は命を以て償ってもらうのが、迷宮の街サウススフィアの通例であった。
「それを為すには手が足らないのです」
その言葉を最後に、司祭達は言葉を発することが無くなる。
これはいつもの事なのだ。
いつものポーズ。
我々は赦そうとしたが、力足りず救う事ができなかったと、そう言う為のお決まりのやり取りなのだ。
この茶番を、誰もが面倒くさいと思っている。
おそらく、司祭達自身も面倒に思ってる事だろう。
果たして、ザッツバーグと名乗っていた男を始めとする、八人の男女の処刑が大々的に行われた。
やるのであれば、迷宮に住む全ての者に知らせねばならないからだ。
仲間殺しは、死刑が課せられる程の重罪であるのだと、知ってもらわねばならないのだ。
二度とこのような事をしでかす者が現れないように。
犯罪者達には、せめてそのくらいは役に立ってもらわねば。
そうか。
ザッツバーグ達は死刑になったのか。
迷宮の門前の公園広場で、ニュースキャスターが何度も繰り返して読み上げる話を聞いて、それを知った。
掲示板を見に行くと、この件について何枚もの紙が張り出されていた。
ザッツバーグ達が四人も仲間を殺していた事。
水魔法使いがいたパーティーが狙われ、死亡者が出た事。
ミントがギルドに騙されて、スパイとしてザッツバーグ達のパーティーに入っていた事。
ギルドの一部の職員が、ザッツバーグ達と組んで、最終的には二階層の魔鉱石エリアを占有しようと計画していた事。
などなど。奴らの悪事についてが書かれていた。
それらの内容をニュースキャスターが繰り返し読み上げ続け、それは拡声器で街中に反響していく。
僕は、なんとも表現できない気持ちで、それを聞いていた。
悲しくもなく、悔しくもなく、もはや怒りもない。
嬉しいわけでもなく、だからと言って何も感じない訳でもない。
空しいか。
虚しいのか。
自分の利益の為に、他者から命を奪う行為の末路を、ただただ虚しく思う。
そして、なんの慰めにもならないけど、ペッパーの無念が少しでも晴れてくれたならいいな、と思うのだった。
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