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ミント
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ソルトが街に帰り着く頃に、街の街灯が点き始めた。
メールスフィアの迷宮は地中にある為、常に暗いので時間の感覚がおかしくなりやすい。その為、人が住むエリアには街灯が数多く設置され、朝八時から夜八時までの間、それらが街の中を明るく照らすようになっている。
なんとか生きて帰ることができた。
ソルトは迷宮と街を隔てる門を通り抜けると、空いているベンチに座り、ホッとしたのだった。
ここは迷宮の門前広場。
迷宮内で人が住むエリアと、魔物が出るエリアとの間にある大きな門があり、その門の前には大きな公園広場がある。
迷宮内の街に朝の灯りが灯るこの時間帯は、これから探索に行く者達の待ち合わせでガヤガヤとしている。
ソルトは一人、疲れを癒やしながら、そんな人々をボーッと見ていた。
「まだ一人でやってるの?」
そんなソルトに、彼の背後から声を掛けてくる者がいた。
聞き覚えのある声だったが、ソルトは返事をせずに、聞こえないフリをする事にした。
暫くそのままでいると、追撃の声は掛からないままに、背後から気配が消えたのを感じた。
更にしばらくすると、さっきの声の主が、他の探索者と合流して門から迷宮に入って行くのが見えた。
「はぁ」
ソルトは、自分が情け無くて溜息が出てしまった。
先程の声の主はミント。
二ヶ月前まではソルトとパーティーを組んでいた元仲間だ。
レベル六になった時に《水魔法》という当たりスキルを手に入れた彼女は、その魔法で戦闘に貢献し、更に飲み水の心配も不要にしてくれた有能な探索者だった。
頼りになる仲間だったのだが、ペッパー……仲間が死んだ後、その戦闘の原因になったパーティーに、彼女は移籍したのだ。
だから、ソルトの中では、彼女は裏切り者以外の何者でもないのだった。
よくもまあ、平然と話しかけてくるものだと毎回呆れさせられる。
迷宮の探索には、最低限の装備として、食料と水を持って行かなければならない。
当たり前の話だが、これがなかなか初心者が見落としがちで大切な事なのだ。
迷宮に十二時間いる場合、必要な水の量は、パーティーの人数当たり四リットルくらいが最低ラインだ。
人による部分もあるのだろうが、迷宮探索という緊張した空間は、エネルギーや水分を通常よりも早く消費してしまう。
それに加えて、魔物との戦闘があるのだ。慣れた探索者であっても、すぐに喉が渇くというものだ。
更に、贅沢にもスープを飲みたくなった場合にも水を使う事になるし、怪我をした場合に傷口の汚れを落とす為に水を使う事もある。
そして、その大事な水の持ち運びはなかなか大変なものだ。かさばるし重い。
三日分ともなれば、最低でも一人十二キロだ。上級の探索者になれば、一週間以上も探索を続ける事もある。それを考えた場合、水を生み出す事ができるスキルの重要性が高いのは理解できる話だろう。
まあ、迷宮内にも水場があるので、探索の仕方によってはそんなにいらなかったりもするのだが。ただ、もしも、に備えられない探索者は長生きできないと言われており、ほとんどの探索者はそれぞれが最低限の水を持って迷宮に入る。
事実、たった今、迷宮に入っていったミント達のバックパックは随分と軽そうに見えた。
魔物のドロップ品を大量に持ち帰る為、荷物の入ってない大きなバックパックを背負ってたんだろうな。
ソルトはギリッと歯を噛み締めた。
ソルトの元のパーティーはソルトを含めて四人だった。
レベルが上がるにつれてソルト以外の三人はスキルを手に入れ、パーティーとしての戦い方も決まっていった。
マヨは《盾使い》と《頑丈》というスキルを手に入れたので、パーティーの盾役になってくれた。彼のおかげで多数の敵との戦いが楽になった。
ミントは《水魔法》と《索敵》というスキルを手に入れていた。彼女がいるおかげで水筒を持って入るだけで良かったので、探索を身軽に行うことができた。
ペッパーは《弓使い》というスキルを手に入れていた。彼が敵に先制攻撃をできるようになったおかげで、かなり戦闘が楽になった。
そして、僕は能無しだった。
いや、今も能無しのままか……スキルがなくてもパーティーの役に立ちたくて、剣の腕を必死に研いてみたけど、《剣使い》や《剣士》が使うような特別な技が身に付くはずもなく。
なんとか二刀流にはなってみたものの、戦闘系探索者としての攻撃力は低いままだった。
それでも、なんとかアタッカーとしての役目が果たせていたからか、彼らは何も不満を言わずに一緒に探索をしてくれていた。
そう言えばペッパーは接近戦が苦手だったな。彼は少し怖がりさんだったから、《弓使い》を手に入れた時は大喜びしてたっけな。
「俺はもう接近戦はやらないから」
そう言って、近距離戦になると魔物から逃げ隠れしてたっけ。
ただ、遠距離攻撃で役目は果たしてたから、僕らとしては彼に何の文句もなかったんだ。
二ヶ月前のあの時、ザッツバーグのパーティーが魔物を引き連れて来なければ、僕らは今も四人で迷宮探索を続けられてたはずなのに……
メールスフィアの迷宮は地中にある為、常に暗いので時間の感覚がおかしくなりやすい。その為、人が住むエリアには街灯が数多く設置され、朝八時から夜八時までの間、それらが街の中を明るく照らすようになっている。
なんとか生きて帰ることができた。
ソルトは迷宮と街を隔てる門を通り抜けると、空いているベンチに座り、ホッとしたのだった。
ここは迷宮の門前広場。
迷宮内で人が住むエリアと、魔物が出るエリアとの間にある大きな門があり、その門の前には大きな公園広場がある。
迷宮内の街に朝の灯りが灯るこの時間帯は、これから探索に行く者達の待ち合わせでガヤガヤとしている。
ソルトは一人、疲れを癒やしながら、そんな人々をボーッと見ていた。
「まだ一人でやってるの?」
そんなソルトに、彼の背後から声を掛けてくる者がいた。
聞き覚えのある声だったが、ソルトは返事をせずに、聞こえないフリをする事にした。
暫くそのままでいると、追撃の声は掛からないままに、背後から気配が消えたのを感じた。
更にしばらくすると、さっきの声の主が、他の探索者と合流して門から迷宮に入って行くのが見えた。
「はぁ」
ソルトは、自分が情け無くて溜息が出てしまった。
先程の声の主はミント。
二ヶ月前まではソルトとパーティーを組んでいた元仲間だ。
レベル六になった時に《水魔法》という当たりスキルを手に入れた彼女は、その魔法で戦闘に貢献し、更に飲み水の心配も不要にしてくれた有能な探索者だった。
頼りになる仲間だったのだが、ペッパー……仲間が死んだ後、その戦闘の原因になったパーティーに、彼女は移籍したのだ。
だから、ソルトの中では、彼女は裏切り者以外の何者でもないのだった。
よくもまあ、平然と話しかけてくるものだと毎回呆れさせられる。
迷宮の探索には、最低限の装備として、食料と水を持って行かなければならない。
当たり前の話だが、これがなかなか初心者が見落としがちで大切な事なのだ。
迷宮に十二時間いる場合、必要な水の量は、パーティーの人数当たり四リットルくらいが最低ラインだ。
人による部分もあるのだろうが、迷宮探索という緊張した空間は、エネルギーや水分を通常よりも早く消費してしまう。
それに加えて、魔物との戦闘があるのだ。慣れた探索者であっても、すぐに喉が渇くというものだ。
更に、贅沢にもスープを飲みたくなった場合にも水を使う事になるし、怪我をした場合に傷口の汚れを落とす為に水を使う事もある。
そして、その大事な水の持ち運びはなかなか大変なものだ。かさばるし重い。
三日分ともなれば、最低でも一人十二キロだ。上級の探索者になれば、一週間以上も探索を続ける事もある。それを考えた場合、水を生み出す事ができるスキルの重要性が高いのは理解できる話だろう。
まあ、迷宮内にも水場があるので、探索の仕方によってはそんなにいらなかったりもするのだが。ただ、もしも、に備えられない探索者は長生きできないと言われており、ほとんどの探索者はそれぞれが最低限の水を持って迷宮に入る。
事実、たった今、迷宮に入っていったミント達のバックパックは随分と軽そうに見えた。
魔物のドロップ品を大量に持ち帰る為、荷物の入ってない大きなバックパックを背負ってたんだろうな。
ソルトはギリッと歯を噛み締めた。
ソルトの元のパーティーはソルトを含めて四人だった。
レベルが上がるにつれてソルト以外の三人はスキルを手に入れ、パーティーとしての戦い方も決まっていった。
マヨは《盾使い》と《頑丈》というスキルを手に入れたので、パーティーの盾役になってくれた。彼のおかげで多数の敵との戦いが楽になった。
ミントは《水魔法》と《索敵》というスキルを手に入れていた。彼女がいるおかげで水筒を持って入るだけで良かったので、探索を身軽に行うことができた。
ペッパーは《弓使い》というスキルを手に入れていた。彼が敵に先制攻撃をできるようになったおかげで、かなり戦闘が楽になった。
そして、僕は能無しだった。
いや、今も能無しのままか……スキルがなくてもパーティーの役に立ちたくて、剣の腕を必死に研いてみたけど、《剣使い》や《剣士》が使うような特別な技が身に付くはずもなく。
なんとか二刀流にはなってみたものの、戦闘系探索者としての攻撃力は低いままだった。
それでも、なんとかアタッカーとしての役目が果たせていたからか、彼らは何も不満を言わずに一緒に探索をしてくれていた。
そう言えばペッパーは接近戦が苦手だったな。彼は少し怖がりさんだったから、《弓使い》を手に入れた時は大喜びしてたっけな。
「俺はもう接近戦はやらないから」
そう言って、近距離戦になると魔物から逃げ隠れしてたっけ。
ただ、遠距離攻撃で役目は果たしてたから、僕らとしては彼に何の文句もなかったんだ。
二ヶ月前のあの時、ザッツバーグのパーティーが魔物を引き連れて来なければ、僕らは今も四人で迷宮探索を続けられてたはずなのに……
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