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探索隊が出てから22日が過ぎていた。
だが、ダンジョンを見つけたら戻って来るはずの三人がまだ戻らない。
探索10日目でダンジョンが見つからない場合は、二人は先に「まだ見つかっていない」という連絡の為に戻って来るはずだったのだが。
可能性として考えられることはいくつかある。
・25人全員が探索の途中で魔物に全滅させられてしまった。
・ダンジョンを発見したが、報告に戻って来る途中で報告者が全滅させられてしまった。
・ダンジョンを発見したが、報告担当も一緒にダンジョン攻略を始めてしまった。
報酬は魔物の討伐数、つまり魔石の買い取りで行う約束になっている。
ダンジョンの発見による位置確定についての報酬も勿論帰ってきてからの話だ。
つまり、彼らは数万ずつの支度金しか受け取っていないのだ。
まあ、寸借詐欺ならぬ、支度金詐欺だったのかも知れないが、そんなはした金で探索者人生を終わりにするような連中ではなかったはずだ。
つまり、先に上げた三つの可能性が高いと考えている。
ここ暫くの間は、新たな魔物が増えてないことから、おそらくだが、彼らが道中の魔物を倒していってくれたのだと思う。
ダンジョンを発見して、中に入って魔物の数を減らしてくれてれば、次のスタンピードまで暫くの時間的余裕ができただろう。
だが、もう22日だ。
彼らが持って行った食料は切り詰めて食べても1ヶ月分くらいだ。
人数が減っていればもう一、二週間は持つかもしれないがそんな無茶は……ダンジョンの独り占めは旨味があるからありえる、か?
なんにせよ、とりあえずの所は、このまま魔物が町まで来なければ良しとするしかないか。
また魔物が大量に押し寄せて来るような事態になれば、探索隊は全滅したものとして次の隊を編成して出発させるしかない。
「やっぱり秩父市の方はかなりダメージが大きいみたいだな。死者数は死体が残ってないから数えられないが残ってるのは年寄ばかりだ。動ける年代は熊谷や飯能の方に移動してるらしい」
ノックもなしに入って来たマハサッサルがそう言いながらソファーにドカッと座る。
「帰って来たか。探索者の方はどうだ?」
「残念ながら出会えず、だ。ただ、花園、長瀞、皆野辺りの国道沿いは魔物がほどんどいなくなってたから、仕事はちゃんとやってくれてたようだ。秩父の市街地にはまだまだ相当な数の魔物がぶらついてるから危ねえな。老人たちは籠城を決め込んでたよ」
「そうか。偵察ご苦労だったな。明朝までゆっくり休んでくれ。明日は防衛隊と探索隊の再編と訓練、それから秩父から流れてきた連中の中で戦えそうな者に声をかけるぞ」
「あいあい」
マハサッサルはソファーに背を付け、両足を高く上げてから床に下ろす反動で立ち上がる。
「じゃあ、お先に休ませてもらうわ」
「おう。酒は程々にな」
「あいあい~」
後ろ手に手を振るマハサッサルが適当にドアをはたくとパタンとドアが閉まり、部屋に静けさが戻った。
ある時を境にして世界が変わってしまった。
電気が徐々に使えなくなり、電話もネットも使えなくなると色々な物の流れが止まった。
事故や火事が至る所で発生し、多くの犠牲者を出した。
暫くすると更におかしな事が起き始めた。
自分の名前が書き換えられた。
元の名前はなんとなく覚えているのだが、その事に意味がないように感じられ、新しく付けられた名前での生活を受け入れるようになった。
そして、ゲームのようにレベルが割り振られていることに気が付く人が現れ始めた。
割り振られたと言っても1だ。
レベル1。
だが、ゲームのように、いくつかの能力と技能がある事に気が付くと、若者や過去にゲームで遊んでいた世代の者たちが、どうにかしてレベルを上げられないかと戦闘訓練や本気のケンカをするようになった。
そうこうするうちに、市役所の地下駐車場に2メートルくらいの不思議な黒い塊、宙に浮いた穴と表現できるようなモノが発見された。
無謀な若者たちが中に入り、大人たちがそれを追いかけた。
何人かが戻って来た。
結論から言うとそれがダンジョンというものだった。
中には洞窟が広がっていて、カピバラのように大きいドブネズミや、蜘蛛などの生き物がいて、そのどれもが攻撃的だったのだという。
実際、若者からも大人からも被害者が出てしまっていた。
更にはファンタジー映画で見たようなゴブリンと呼ばれる魔物がいて、武器を手に攻撃を仕掛けてきたのだそうだ。
そういった情報を元に黒い塊への立ち入りを禁止したのだが、一月もすると今度はそこから大きなネズミや蜘蛛、それからゴブリンが外に出てきてしまった。
この現象は小説や漫画ではスタンピードと呼ぶんだそうだ。
そういった情報を持つ者たちから話を聞くと、ダンジョンを放置し過ぎると発生するものらしい。
対策としてはダンジョンに入って魔物を倒すのが通例なんだそうだ。
半信半疑ではあったものの他に手はなく、前回ダンジョンから生還した者たちと、新たな若者たちに中に入ってもらうこととなった。
前回の戦いでレベルアップしていた者たちは順調に魔物を倒していき、二週間後にはダンジョンの最奥に居たというボスキャラを倒したのだった。
ボスキャラなどとふざけた話を信じた理由は、彼らがダンジョンから出てきた後に、黒い塊が大きな魔石を残して消え去ったからだ。
信じるしかない状況、というやつだ。
こうして市役所の地下駐車場に出来たダンジョンは無くなり、危険がなくなった。
だが、今度は秩父市方面から140号線を行進してきた魔物に襲われてしまったのだ。
これは、間違いなく秩父市、またはその奥でダンジョンが発生し、そしてスタンピードが起こった為にここまで来てしまっているのだと、私たちは考えていた。
だから探索者集め、秩父方面の調査、ダンジョンの発見を依頼したのだ。
ダンジョンが発見できたのなら、ダンジョン内の魔物減らし、可能ならダンジョンのボスキャラの討伐までも頼んでいたのだが……
だが、ダンジョンを見つけたら戻って来るはずの三人がまだ戻らない。
探索10日目でダンジョンが見つからない場合は、二人は先に「まだ見つかっていない」という連絡の為に戻って来るはずだったのだが。
可能性として考えられることはいくつかある。
・25人全員が探索の途中で魔物に全滅させられてしまった。
・ダンジョンを発見したが、報告に戻って来る途中で報告者が全滅させられてしまった。
・ダンジョンを発見したが、報告担当も一緒にダンジョン攻略を始めてしまった。
報酬は魔物の討伐数、つまり魔石の買い取りで行う約束になっている。
ダンジョンの発見による位置確定についての報酬も勿論帰ってきてからの話だ。
つまり、彼らは数万ずつの支度金しか受け取っていないのだ。
まあ、寸借詐欺ならぬ、支度金詐欺だったのかも知れないが、そんなはした金で探索者人生を終わりにするような連中ではなかったはずだ。
つまり、先に上げた三つの可能性が高いと考えている。
ここ暫くの間は、新たな魔物が増えてないことから、おそらくだが、彼らが道中の魔物を倒していってくれたのだと思う。
ダンジョンを発見して、中に入って魔物の数を減らしてくれてれば、次のスタンピードまで暫くの時間的余裕ができただろう。
だが、もう22日だ。
彼らが持って行った食料は切り詰めて食べても1ヶ月分くらいだ。
人数が減っていればもう一、二週間は持つかもしれないがそんな無茶は……ダンジョンの独り占めは旨味があるからありえる、か?
なんにせよ、とりあえずの所は、このまま魔物が町まで来なければ良しとするしかないか。
また魔物が大量に押し寄せて来るような事態になれば、探索隊は全滅したものとして次の隊を編成して出発させるしかない。
「やっぱり秩父市の方はかなりダメージが大きいみたいだな。死者数は死体が残ってないから数えられないが残ってるのは年寄ばかりだ。動ける年代は熊谷や飯能の方に移動してるらしい」
ノックもなしに入って来たマハサッサルがそう言いながらソファーにドカッと座る。
「帰って来たか。探索者の方はどうだ?」
「残念ながら出会えず、だ。ただ、花園、長瀞、皆野辺りの国道沿いは魔物がほどんどいなくなってたから、仕事はちゃんとやってくれてたようだ。秩父の市街地にはまだまだ相当な数の魔物がぶらついてるから危ねえな。老人たちは籠城を決め込んでたよ」
「そうか。偵察ご苦労だったな。明朝までゆっくり休んでくれ。明日は防衛隊と探索隊の再編と訓練、それから秩父から流れてきた連中の中で戦えそうな者に声をかけるぞ」
「あいあい」
マハサッサルはソファーに背を付け、両足を高く上げてから床に下ろす反動で立ち上がる。
「じゃあ、お先に休ませてもらうわ」
「おう。酒は程々にな」
「あいあい~」
後ろ手に手を振るマハサッサルが適当にドアをはたくとパタンとドアが閉まり、部屋に静けさが戻った。
ある時を境にして世界が変わってしまった。
電気が徐々に使えなくなり、電話もネットも使えなくなると色々な物の流れが止まった。
事故や火事が至る所で発生し、多くの犠牲者を出した。
暫くすると更におかしな事が起き始めた。
自分の名前が書き換えられた。
元の名前はなんとなく覚えているのだが、その事に意味がないように感じられ、新しく付けられた名前での生活を受け入れるようになった。
そして、ゲームのようにレベルが割り振られていることに気が付く人が現れ始めた。
割り振られたと言っても1だ。
レベル1。
だが、ゲームのように、いくつかの能力と技能がある事に気が付くと、若者や過去にゲームで遊んでいた世代の者たちが、どうにかしてレベルを上げられないかと戦闘訓練や本気のケンカをするようになった。
そうこうするうちに、市役所の地下駐車場に2メートルくらいの不思議な黒い塊、宙に浮いた穴と表現できるようなモノが発見された。
無謀な若者たちが中に入り、大人たちがそれを追いかけた。
何人かが戻って来た。
結論から言うとそれがダンジョンというものだった。
中には洞窟が広がっていて、カピバラのように大きいドブネズミや、蜘蛛などの生き物がいて、そのどれもが攻撃的だったのだという。
実際、若者からも大人からも被害者が出てしまっていた。
更にはファンタジー映画で見たようなゴブリンと呼ばれる魔物がいて、武器を手に攻撃を仕掛けてきたのだそうだ。
そういった情報を元に黒い塊への立ち入りを禁止したのだが、一月もすると今度はそこから大きなネズミや蜘蛛、それからゴブリンが外に出てきてしまった。
この現象は小説や漫画ではスタンピードと呼ぶんだそうだ。
そういった情報を持つ者たちから話を聞くと、ダンジョンを放置し過ぎると発生するものらしい。
対策としてはダンジョンに入って魔物を倒すのが通例なんだそうだ。
半信半疑ではあったものの他に手はなく、前回ダンジョンから生還した者たちと、新たな若者たちに中に入ってもらうこととなった。
前回の戦いでレベルアップしていた者たちは順調に魔物を倒していき、二週間後にはダンジョンの最奥に居たというボスキャラを倒したのだった。
ボスキャラなどとふざけた話を信じた理由は、彼らがダンジョンから出てきた後に、黒い塊が大きな魔石を残して消え去ったからだ。
信じるしかない状況、というやつだ。
こうして市役所の地下駐車場に出来たダンジョンは無くなり、危険がなくなった。
だが、今度は秩父市方面から140号線を行進してきた魔物に襲われてしまったのだ。
これは、間違いなく秩父市、またはその奥でダンジョンが発生し、そしてスタンピードが起こった為にここまで来てしまっているのだと、私たちは考えていた。
だから探索者集め、秩父方面の調査、ダンジョンの発見を依頼したのだ。
ダンジョンが発見できたのなら、ダンジョン内の魔物減らし、可能ならダンジョンのボスキャラの討伐までも頼んでいたのだが……
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