5 / 19
Y1
しおりを挟む
とりあえず、迷宮拡張を放置してるのが気になったので、自分がいる部屋の反対側に向けて幅1メートルの通路をうねうねっと5メートル分伸ばしてみた。
ちなみに、通路を伸ばすのは、壁に指を付けて伸ばしたい方向に線を引くことでできた。
「幅を1メートルに……あ、ここら辺は少し広めに」
指で線を引っ張りながら幅について指定すると、壁にイメージに近い感じの通路を引くことができた。
声と体の動きに連動するとか随分と自由度が高い。無駄に高機能なのはドッキリとかじゃなくてベータテスト的なものなのかも知れないな。
なんで俺がターゲットになったのかは謎だけど。
「何を以て迷宮が完全攻略されたことになる?」
今気になっているのはこのことだった。
新たに上に書かれていたこの一行。
死ぬよ。迷宮を完全攻略されると。
これがゲームオーバーの条件なんだろう。
でも実際に死ぬとかはないだろうけど。
……ないよな?
それはそれとして、そういえばゲームのクリア条件は書かれてなかった。
まあベータテストでクリアも何もないだろうし、クリアしなきゃ家に帰してもらえないというわけでもないだろう。
……ないよな?
気が付けば、壁の空白部分に先程の質問の回答が書かれていた。
最終階層の階層主が討伐される。侵入者に。
全部魔石だよ。迷宮主の力。
「この迷宮の最終階層は何階?」
1階層。
これはまずい。
本当にできたばかり、って設定なのか。
「侵入者はいつ頃やって来る?」
しばらく待ってみたが、これに対する応答はなかった。
迷宮内に関する質問にしか答えないか、答えられないのかも知れない。
今、侵入者がやってきたら、よっぽど弱い奴じゃない限りゴブリンリーダーは殺られるだろう。
そもそも、ゴブリンってのはそんなに強い魔物じゃないはずだ。
物語によっては、村人数人で囲めば倒せる、くらいの強さじゃなかったか。
とりあえず、強化するか……?
いや……
「侵入者はどこから入って来る?」
壁の図面が縮小されていき、まあまあ離れた位置に紫色の四角が現れた。
情報には「外界扉98」と書かれている。
つまり、ここまで通路を繋げなければゲームは始まらない?
また98か。
いや、俺の持ち点は今や96点に減ったはずだ。
さっき迷宮拡張で使ったからな。
そう思って何気に紙を見てみると、そこには98点ではなくて、96点と書かれていた。
ゾクリ。
またもや背中が冷っとした。
なんでだ。
これはただの紙のはずだろ?
ーー
破壊まで9.8時間。
死ぬよ。
ーー
しかも紙の下の方に書かれていることがまたもや変わっていた。
9.8時間?
破壊ってなんだ?
「破壊ってなんだ!?」
半ば半狂乱気味に、震える声が口をついて出た。
破壊可能だよ。迷宮扉。
「迷宮扉? それはなんだ? 破壊されるとどうなる?」
繋ぐよ。迷宮と外。
死ぬよ。
また死ぬとか……
「迷宮扉を破壊されない為にはどうしたらいい!?」
繋ぎなよ。迷宮と門。
階層主がいる場所、俺がいる部屋。
ここと外界扉を繋ぐと、外にある迷宮扉は破壊できなくなるのか?
繋げなければあと9.8……9.7時間で迷宮扉が壊されてゲームオーバーになる?
壁の表示が「外界扉97」になっていた。
紙を見ると、そこも「破壊まで9.7時間」に更新されていた。
ゲームオーバーじゃないんじゃないか。
これ、ここに書かれてるように本当に死ぬんじゃないか?
でも慌てたら駄目だ。
今のまま線を……通路を外界扉とやらに単純に繋いでも、侵入者が入って来たら一直線でここまでやって来て、そしてゴブリンリーダーを倒してしまうだろう。
まだだ。
まだ時間はある。
俺は思いつく限りの質問を壁に投げ掛け、そしてどうすれば自分を、階層主を、そして迷宮を守れるのか必死に考えた。
出し惜しみはしない。
もちろん、生きる為に食料は必要だから、八週間分、つまり8点は残しておくことにしたけど。
それすらも侵入者の強さによっては使い切らないと駄目かも知れない。
ただ、まずは命あっての物種だ。
まずは食事を切り詰めて、一週間分の食料で三週間は生きたい。
つまりは一日一食分でなんとかするつもりだ。
「食料が欲しい」と言ったら、持ち点1点と引き換えに21食分の食材がテーブルの上に溢れんばかりに現れた。
一食分を残して、他は全部、小さな冷蔵庫に詰め込んだ。
どう見たって小さな冷蔵庫に入りきる量じゃなかったのだが、何故か入れることができてしまった。
もう、このくらいの不思議な現象は受け入れることにした。
あと1.2時間。
約1時間12分だ。
残りの持ち点はあと10点。
食料用にとってある8点と、最後の通路を外界扉に繋げる為の迷宮拡張用の2点だ。
これを繋げることによって、いきなり侵入者が入って来るようになるのだろうか。
もう少し時間があることだし、洞窟内の状況をもう一度だけ確認しておこう。
我ながら結構思い切った構成にしたからな。
もしかするとあっという間に完全攻略されてしまうかも知れない。
……それならそれでもいいか。
なんか、この数時間で数年間分くらいの集中力を使ったかも知れない。
頭を使ったというよりは、自分の思う現時点での最適解を極限の集中と勘で引き出したという感じだ。
なんだか妙な達成感がある。
たぶん、これからやって来るのは俺と同じ人間なんだと思う。
同じようにこの変な所に連れてこられた人なのか、それとも別の世界の住人なのかは分からないけど。
俺が強くなりながら生き延びる為には、つまり、そういった人たちの死が必要になるわけだ。
生きる為に他の生き物を食べている。
食物連鎖。
その対象が同族になるだけ。
分かってはいるけど、自分が生き残る為に他人を殺すって言うのはどうもな……。
いや、もう、人を殺す為の魔物や罠を配置したあとだ。
今更いい子ぶっても意味がない。
殺るか殺られるか。
生き残りたいけど、俺の全力が突破されて死ぬのなら受け入れる。
何故か、覚悟とかじゃなくて、そんな変な心の持ちようになっている。
そんな中、俺は、最後の迷宮拡張を実行したのだった。
ちなみに、通路を伸ばすのは、壁に指を付けて伸ばしたい方向に線を引くことでできた。
「幅を1メートルに……あ、ここら辺は少し広めに」
指で線を引っ張りながら幅について指定すると、壁にイメージに近い感じの通路を引くことができた。
声と体の動きに連動するとか随分と自由度が高い。無駄に高機能なのはドッキリとかじゃなくてベータテスト的なものなのかも知れないな。
なんで俺がターゲットになったのかは謎だけど。
「何を以て迷宮が完全攻略されたことになる?」
今気になっているのはこのことだった。
新たに上に書かれていたこの一行。
死ぬよ。迷宮を完全攻略されると。
これがゲームオーバーの条件なんだろう。
でも実際に死ぬとかはないだろうけど。
……ないよな?
それはそれとして、そういえばゲームのクリア条件は書かれてなかった。
まあベータテストでクリアも何もないだろうし、クリアしなきゃ家に帰してもらえないというわけでもないだろう。
……ないよな?
気が付けば、壁の空白部分に先程の質問の回答が書かれていた。
最終階層の階層主が討伐される。侵入者に。
全部魔石だよ。迷宮主の力。
「この迷宮の最終階層は何階?」
1階層。
これはまずい。
本当にできたばかり、って設定なのか。
「侵入者はいつ頃やって来る?」
しばらく待ってみたが、これに対する応答はなかった。
迷宮内に関する質問にしか答えないか、答えられないのかも知れない。
今、侵入者がやってきたら、よっぽど弱い奴じゃない限りゴブリンリーダーは殺られるだろう。
そもそも、ゴブリンってのはそんなに強い魔物じゃないはずだ。
物語によっては、村人数人で囲めば倒せる、くらいの強さじゃなかったか。
とりあえず、強化するか……?
いや……
「侵入者はどこから入って来る?」
壁の図面が縮小されていき、まあまあ離れた位置に紫色の四角が現れた。
情報には「外界扉98」と書かれている。
つまり、ここまで通路を繋げなければゲームは始まらない?
また98か。
いや、俺の持ち点は今や96点に減ったはずだ。
さっき迷宮拡張で使ったからな。
そう思って何気に紙を見てみると、そこには98点ではなくて、96点と書かれていた。
ゾクリ。
またもや背中が冷っとした。
なんでだ。
これはただの紙のはずだろ?
ーー
破壊まで9.8時間。
死ぬよ。
ーー
しかも紙の下の方に書かれていることがまたもや変わっていた。
9.8時間?
破壊ってなんだ?
「破壊ってなんだ!?」
半ば半狂乱気味に、震える声が口をついて出た。
破壊可能だよ。迷宮扉。
「迷宮扉? それはなんだ? 破壊されるとどうなる?」
繋ぐよ。迷宮と外。
死ぬよ。
また死ぬとか……
「迷宮扉を破壊されない為にはどうしたらいい!?」
繋ぎなよ。迷宮と門。
階層主がいる場所、俺がいる部屋。
ここと外界扉を繋ぐと、外にある迷宮扉は破壊できなくなるのか?
繋げなければあと9.8……9.7時間で迷宮扉が壊されてゲームオーバーになる?
壁の表示が「外界扉97」になっていた。
紙を見ると、そこも「破壊まで9.7時間」に更新されていた。
ゲームオーバーじゃないんじゃないか。
これ、ここに書かれてるように本当に死ぬんじゃないか?
でも慌てたら駄目だ。
今のまま線を……通路を外界扉とやらに単純に繋いでも、侵入者が入って来たら一直線でここまでやって来て、そしてゴブリンリーダーを倒してしまうだろう。
まだだ。
まだ時間はある。
俺は思いつく限りの質問を壁に投げ掛け、そしてどうすれば自分を、階層主を、そして迷宮を守れるのか必死に考えた。
出し惜しみはしない。
もちろん、生きる為に食料は必要だから、八週間分、つまり8点は残しておくことにしたけど。
それすらも侵入者の強さによっては使い切らないと駄目かも知れない。
ただ、まずは命あっての物種だ。
まずは食事を切り詰めて、一週間分の食料で三週間は生きたい。
つまりは一日一食分でなんとかするつもりだ。
「食料が欲しい」と言ったら、持ち点1点と引き換えに21食分の食材がテーブルの上に溢れんばかりに現れた。
一食分を残して、他は全部、小さな冷蔵庫に詰め込んだ。
どう見たって小さな冷蔵庫に入りきる量じゃなかったのだが、何故か入れることができてしまった。
もう、このくらいの不思議な現象は受け入れることにした。
あと1.2時間。
約1時間12分だ。
残りの持ち点はあと10点。
食料用にとってある8点と、最後の通路を外界扉に繋げる為の迷宮拡張用の2点だ。
これを繋げることによって、いきなり侵入者が入って来るようになるのだろうか。
もう少し時間があることだし、洞窟内の状況をもう一度だけ確認しておこう。
我ながら結構思い切った構成にしたからな。
もしかするとあっという間に完全攻略されてしまうかも知れない。
……それならそれでもいいか。
なんか、この数時間で数年間分くらいの集中力を使ったかも知れない。
頭を使ったというよりは、自分の思う現時点での最適解を極限の集中と勘で引き出したという感じだ。
なんだか妙な達成感がある。
たぶん、これからやって来るのは俺と同じ人間なんだと思う。
同じようにこの変な所に連れてこられた人なのか、それとも別の世界の住人なのかは分からないけど。
俺が強くなりながら生き延びる為には、つまり、そういった人たちの死が必要になるわけだ。
生きる為に他の生き物を食べている。
食物連鎖。
その対象が同族になるだけ。
分かってはいるけど、自分が生き残る為に他人を殺すって言うのはどうもな……。
いや、もう、人を殺す為の魔物や罠を配置したあとだ。
今更いい子ぶっても意味がない。
殺るか殺られるか。
生き残りたいけど、俺の全力が突破されて死ぬのなら受け入れる。
何故か、覚悟とかじゃなくて、そんな変な心の持ちようになっている。
そんな中、俺は、最後の迷宮拡張を実行したのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる