僕と彼女の新婚物語

郡山浩輔

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第三・五話 婿養子に来てくれるのか! <若菜視点>

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「男子、いい加減に吉川さんは諦めなさい!吉川さんは成川くんと婚約したのよ!二人の幸せをアンタたちには絶対邪魔させないんだから!」

 私のことならたぶん家族よりも知ってる栞ちゃんがまだ秘密だよって言ったのにあっさりバラしちゃったよ。これじゃまた義人さんに迷惑かけちゃう。
 あのときだって内密に雪菜さんに処理してもらったのに。まあ、あの時は他にも色々してることが見つかってそれで退学になってくれたから良かったけど……。

――でもさすがにこれは逃げないと義人さんが危険よね――

 義人さんも危険を察知したようで、一緒に立ちがったとき、義人さんが私の手をとってきた。

――やっぱりこの人は一人で逃げようとしない人だった――

 でも、走り出すのが義人さんにワンテンポほど遅れちゃって足を絡ませてしまった。
 倒れちゃう――そう思ったとき、義人さんが私を引っ張って、その上お姫様抱っこしてきた。

――お姫様抱っこ!この人は私が望んでることが分かるのかしら?――

 いや、そんなことないよね。非常時だもの、義人さんは手を取って走るよりもこの方が走りやすいと思っただけにちがいない。

 でも義人さん、どこに行くんだろう?

「義人さん、どこに行くの?」
「喋らないで舌噛むよ」
「うん」

 そうだ!こういうときだから講堂裏の方が安全。だってあそこには――

「あ、講堂裏に行って」
「わかった。しっかり捕まってて」
「うん!」

 お言葉に甘えてしっかり捕まろう。
 だってこんな時じゃないと義人さんにお姫様抱っこしてもらえないかもしれない。だから、私は義人さんが苦しくないように気をつけながら義人さんの首に手を回して、義人さんが少しでも走りやすいように、恥ずかしいけど体も密着させた。

 私を抱っこしたまま義人さんは階段も降りて、本当は走っちゃだめなんだけど廊下も走って――。

 しがみつくように義人さんに捕まっていると、義人さんの匂いがしてくる。男の人の匂い。汗の匂いなのかな?みんな男の人の汗の匂いは臭いっていうけど、全然臭くない。それどころかすごくいい匂い。私、この匂い好き!
 でも、この匂いは義人さんの匂いだから好きなのかもしれない。好きな人の、私が心から愛する人の匂い。

 あ、そういえば……私車の中でも義人さんの匂い夢中で嗅いでたかも。もしかして変な子なんて思われてないかな?
 変な子なんて思われてたらどうしよう!
 私、今義人さんに嫌われたらたぶん生きていけない。
 ううん、きっとそう。

 だって、私にとっては義人さんは入学式の日に義人さんを知ってからずっと追いかけてきた人。今までそんな人いなかった。
 なぜそうなったかはわからないけど、入学式のときにたまたま義人さんと目があって、その時義人さんは顔を真っ赤にして視線をそらしたのよね。

 でもそれから私はなぜか義人さんしか見えなくなってた。

 私はC組、義人さんはB組。クラスが違うのが悲しかったけど、靴箱で義人さんと会えるようにレミさんと雪菜さんにお願いして登校時間を義人さんと同じ時間になるようにしてもらったりして、とにかく朝から義人さんの顔が見たかった。それだけで幸せな気持ちになれたから。

 しばらくして、朝学校に来て、義人さんの顔を見て気持ちが高揚して、放課後、義人さんと別れて帰るときには気持ちがすごく沈んで、この気持ちなんだろうって、栞ちゃんに相談したっけ。

「それ、恋だよ」

 栞ちゃんから言われた言葉「恋」。
 そうか。これが恋なんだ――初めて知った「恋」。
 そして、

「それで、相手は誰なの?サッカー部の戸川くん?」

 栞ちゃんから言われた名前の人は知らなかった。どうやらクラスメイトだったらしいけど、私の知らない人だった。だから――

「B組の――」

 私がクラスを言うと、栞ちゃんは手を打って、

「卓球部の田中君?」

 誰?――

 また私の知らない人。だから――

「B組の成川くん」

 義人さんの名前を出したら

「誰それ?」

 ねえ、ひどくない?
 あんなに素敵な人、知らないってひどくない?

 それから二年生になって、義人さんと同じクラスになって、その時に戸川くんという、みんながイケメンとか、かっこいいとか言ってる男の子から告白されたけど、そんな戸川くんなんて興味ないもの。それに、何やらサッカー部の副主将だとか、試合見に来てとか、とにかくしつこかったから、私言ってやったの。

「私、あなたに興味はありません。私は付き合ってる彼氏がいますから、声かけないでください」

 って。
 もちろん付き合ってる人・・・・・・・なんていないけど、私この人は好きになれないもん。
 そしたら、戸川くんが「誰なのか」って食いついてきたから、

「あなたには関係ありません!」

 とはっきり断った。
 そして、一緒にいた栞ちゃんも呆然としていた。なぜ栞ちゃんが呆然とするんだろう?

 でも一人撃墜して気分がスッとした。
 振り返ったとき、義人さんと目があった。義人さんからはすぐに視線を外されてちょっと悲しかったけど、でも義人さんが見れたそれだけで私は幸せだった。

 そして、それからなぜかよく告白されることが多くなった。でも男の人って何してくるかわからないから、いつも栞ちゃんに一緒にいてもらってた。私が告白を撃墜するたびに、栞ちゃんは、誰かを睨んでた。それが義人さんであることを知ったのは、義人さんが私の靴箱にお手紙を入れてくれたときだった。

 栞ちゃんが遊びに来るといつも義人さんの話ばかりしてた私に、

「あのね若菜、あなたのその気持ちが恋なのは確かよ。でもあなたの恋はあなたの一目惚れ。もしかしたら呼び出されたところであなたの望まないことを言われるかもしれないわよ?
 それでもいいなら私はもう止めない。
 でもそれで泣いたからって、今回の件に限っては私はノータッチ。それでいい?」

 栞ちゃんが私を思って言ってくれてるのはよくわかるの。でも、私は少しの可能性にでも掛けてみたかった。もし私望まない話だったとしても、もし嫌われていたとしても、そのときは私のこの気持ちを伝えよう。もし、あとで泣くことになっても、それでも伝えるだけ伝えよう。その時は私の気持ちを伝えるだけ伝えてスッパリ諦めよう。

 そう思ってこれから行く場所へ行ったら、

「よ、吉川さんのことが好きです!ぼ、ぼきゅと結婚してくだしゃいっっ!」

 少し声が裏返ったりしてたけど、それは私の望む言葉だった。
 でも、私は家系的にお嫁に行くことはできない。もし、その時はお付き合いだけしてその思い出を大切にして、その思い出だけで私は生きていけるから。だから聞いてみよう。

 でも、なかなか言い出せなかった。私の中で思い出だけで終わるのはイヤだって言ってる私がいる。でもこればかりは男の人にとってものすごく大切なことだから。だから、やっぱり聞かなきゃ!

 そんな思い悩んでいたら、義人さんは私が迷惑してると勘違いして帰ろうとしてた。

――こんなのでこの人との未来を逃したくない――

 私は義人さんの腕を掴んでた。
 そして、お婿さんに来てくれるかどうかを聞いたけど、でも私の聞き間違いだったのか、義人さんとの間に温度差を感じて、涙が出てきた。卑怯だったと思う。でも、それが逆に功を奏したといえばそうなる。
 だから、ナイス私!

 昨日までのことを思い出してたら――

「着いた!」

 と義人さんが私を下ろすと、ふらりと倒れそうになったので、私は義人さんを支えながらその場に寝かせて、気がついたら義人さんに膝枕をしてた。

 私肉付きは良い方だけど、太ってないよね?

 義人さんを見たら気持ち良さそうにしてるから、私の足、そんなに太くないのかな?心配だけど、でも義人さんに気持ちいいって感じてもらえたらそれだけでもういいや。

 あ、そうだ。義人さんにお礼言わなきゃ。
 私は義人さんにお姫様抱っこしてもらったことで夢が叶ったことを伝えた。
 そしたら、義人さんから名前で呼んでるかと聞かれたから、

「はい。だって私の旦那様になってくれる人ですもの。苗字で呼ぶよりも名前で呼ぶ方がずっと親しく仲良くなれた気がするから――」

 と素直な気持ちを答えた。
 義人さんを見ると汗がすごい。
 そりゃそうだよね、教室からここまで私を抱っこしたまま走ってきたんだもの。私重くなかったかな?
 そう考えながら、ポケットからハンカチをとって義人さんの汗を拭う。
 義人さん、気持ち良さそうにしてる、良かった。

 昨日のことを話していたら、義人さんが昨日のはいい間違えなんてことを言ってくるから、私は義人さんの唇を人差し指で抑えて、

「"結婚"の取り消しは受け付けておりません」

 そう言って義人さんを見つめてたら、ふいに義人さんを愛おしく思う気持ちが溢れて、気がついたらキスしてた。

 それは私のファーストキス。

 私の人生ではじめて男性の唇にする、はじめてのキス。今朝義人さんの頬にキスしたけど、あれはノーカウント!
 私のファーストキスは誰がなんと言っても今のキス。

 少し汗の匂いと味がしたけど、とても幸せなときだった。
 時間にしてみれば、たった数秒だったと思う。でもこれから義人さんとは何度もするキスのこれが始まりのキス。

 みんなレモンの味がしたと言ってたけど、私には義人さんの味がした。

 でも恥ずかしくなって唇を離したら、義人さんが私を追いかけて今度は義人さんからしてくれた。
 キスって、するよりされる方がずっと幸せになれるんだ、とそう思った。

 キスってすごい。
 ただ唇を合わせるだけで、こんなにも幸せになれるんだから。

 もう家のことなんてどうでもいい!
 もし義人さんがお婿さんに来れないって言われたら、駆け落ちしても良い!義人さんがいない世界なんて、そんな人生なんて考えられない!

 そんなふうに思ってたら、なにか視線を感じた。その視線の一つはいつもそばにある視線のような気が――。

 義人さんも視線に気づいたようで、二人一緒に視線の方を見た。きっとそこにはクラスの殆どがいるような気がする。

 男子は悔しそうな顔をしてる人な怒ってる人もいる。なぜ怒ったり悔しがったりするのかよくわからない。

 と、放送のチャイムが鳴る。

「二年A組の成川義人、同じく吉川若菜、今すぐ生活指導室に来い!二人が講堂裏にいることはわかっている!五分やる。それまでにとっとと出頭しやがれ!」

 あかねちゃんの声だ。
 あかねちゃん、それは私のクラスの担任教師の菅原あかね先生で、私とはハトコに当たる人、昔は怖い格好してたけど私にはいつも優しい人だった人。今は学校の先生。まあ理事長のお孫さんだもん、先生くらいしなきゃ、あかねちゃんよりも怒ったら怖いオジサマの雷が茜ちゃんに落ちてしまう。

 ここには監視カメラがある。
 わかってて義人さんにここを指定した私。
 きっとあかねちゃんなら見てると思ったからここを指定したの。
 だって、あかねちゃんあんなふうにしてて、実は恋愛にすごく純情なの。いつも私をからかってきてるから、そのお返し。
 そのために義人さんを使ったことは絶対内緒。

 義人さんと走っててあかねちゃんがどんな顔するのか今からら楽しみ。

 ても、生活指導室にお祖父様がいたことにはビックリ。
 これには本当に一本取られちゃった。

 でも、おじいさんと話してる義人さん、頼もしくてすごくカッコよかった。

 そして、

「吉川家に婿入りさせていただきます!」

 この一言に私は涙が出てきた。
 嬉しくて申し訳なくて、そして私はきっと世界で一番の幸せものです。
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