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第三話 婿入りしてくれるのか!
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「着いた!」
吉川さんを降ろした途端、僕が限界を迎えてフラリと――
「義人さん!」
倒れる寸前を吉川さんに支えられて、今は吉川さんの膝枕の上。良い匂いだ。時折吹くそよ風が吉川さんの髪を揺らして、それでまた良い匂いに包まれる僕。
――ああ、幸せだ!――
吉川さんをお姫様抱っこしたまま講堂裏まで走りきった僕。なんか走れメロスのメロスになった気分。磔にされてる友人はいないけど、というか自分が磔にされそうだったし!
でも、吉川さんの体柔らかかった!背中も太腿も、それに吉川さんの甘くて良い匂いが疲れも飛ばしてくれて――
「義人さん、お姫様抱っこありがとう。私の夢が1つ叶っちゃった」
吉川さんが優しく微笑んでくれてる。
そういえば、僕、今朝から吉川さんにすっと下の名前で呼ばれてる気がするな――。
「ねぇ吉川さん、僕のこと下の名前で呼んでる?」
気になったので聞いてみた。
すると、
「はい。だって私の旦那様になってくれる人ですもの。苗字で呼ぶよりも名前で呼ぶ方がずっと親しく仲良くなれた気がするから――」
と、幸せそうに目を細めて僕の顔に浮かんだ汗を真っ白なハンカチで拭いながら答えてくれた。まだ告白した翌日だというのに、吉川さんが昨日までより一層可愛く見えてくる。
「思い切って告白して良かった」
僕は吉川さんの甘い匂いとハンカチ越しに感じる吉川さんの細い指に幸せを感じて目を瞑った。
「私、実は昨日、義人さんからのお手紙を頂いたときにね、義人さんと同じ気持ちだったらいいなと思ってたの――でも義人さん、緊張してるようだったから私と違うのかなって、もしそうなら私から義人さんに好きですって言うつもりだったんです。嫌われてもいいから私の気持ちは伝えようって――」
吉川さんから意外な言葉が聞こえて、僕は目を開けた。
「そうだったの?」
「はい。そしたら義人さんから結婚してくださいって――嬉しかった」
今度は吉川さんが何かを噛みしめるように目を瞑った。
「でも、あのとき僕は"付き合ってください"って、そういうつもりだったん……」
と頬をポリポリ書きながらカミングアウトした僕の唇を、吉川さんが人差し指で塞いできた。
「"結婚"の取り消しは受け付けておりません」
とそのまま僕に顔を近づけてきて、人差し指の代わりに吉川さんの唇で塞がれた。
どれくらいの時間だったんだろう――。一瞬にも一分にも十分にも感じられたその時間、僕は吉川さんとキスをした。それは僕のファーストキス。甘くて柔らかくて、でもどこかしょっぱくて、吉川さんの唇が離れていくのが切なくて、僕は吉川さんの唇を追いかけてもう一度キスをした。
唇を離した時、横から何やら複数の視線を感じた。
吉川さんも視線を感じたようで、僕たちは一緒に視線を感じる方へ顔を向けた。
そこには口を手で隠して目を輝かせているクラスや他のクラスの女子と、怒りに打ち震えている男子の集団がいた。
え、もしかして見られていたんですか?――
そしてさらに放送を知らせるチャイムが鳴って、期限の悪いときの菅原先生の声が響いた。
「二年A組の成川義人、同じく吉川若菜、今すぐ生活指導室に来い!二人が講堂裏にいることはわかっている!五分やる。それまでにとっとと出頭しやがれ!」
吉川さんは口に手を当てて驚いていて、僕も僕で居場所までバレていることに口があんぐり。さらに委員長が講堂の上の方の一点を指さしている。その方向に目をやると、なんとそこには監視カメラが!
見られた。僕と吉川さんがしていること全部見られてた……。
「成川くん急いで!もう四分切るよ!」
委員長が左手を内側に曲げて手の甲を前にして右手で左手の腕時計を指して教えてくれる。
「ヤバイ!吉川さん、急ごう!」
「はい!」
僕は吉川さんの手をとって生活指導室へ急いだ。たぶん生活指導室までの間にある監視カメラ全部見てるんだろうから走らず、急ぎ足で向かう僕たち。
なぜか吉川さんは楽しそうだ――けど、僕は今から胃が痛いよ……。
生活指導室は音楽室、図書室、理科室、家庭科室等特別な教室や生徒会室、その他文化クラブの部室のある棟の一階、職員室の隣にある。
そこまで半ば競歩で向かう僕と吉川さん。
職員室が見えて、生活指導室が見えた。そしてその前に腕組みして機嫌が超絶悪そうな菅原先生も見えた。一瞬たじろいだけど、でも行かなきゃ吉川さんまで余計に悪くなる。吉川さんは僕が絶対に守るんだ!
僕たちが菅原先生の前についたのはタイムリミット十秒前。ギリギリセーフ!
菅原先生は「チッ」と舌打ちをすると第二生活指導室の鍵を開けてドアを開けた。
「ほら、二人ともさっさと入る!」
「はい」
「はい」
菅原先生の指示通りに第二生活指導室に入ると、そこにはすでに先客がいた。白髪混じりの優しい笑顔の男性、だけどその中の瞳はじっと僕を品定めしているようにも見えた。
「とりあえず、お前らはそっちに座れ」
と、菅原先生がその男の人の前のソファに僕達に座るように言ってきたので、僕は吉川さんを促して僕が右側、男の人の前、左側に吉川さんが座り、吉川さんの前に菅原先生が座った。
「あー、ゴホン――」
菅原先生が一つ咳払いをした。それが合図だったのか、目の前の男の人が身を乗り出してきた。僕はその勢いに押されて少し体を後ろに引いてしまった。
「君が成川義人君だね?」
男の人が笑顔のままで僕の名前を聞いてくるので、僕はその通りですと答えた。
すると目の前の男の人が吉川さんに向いて、
「若菜、優しそうな少年じゃないか!」
「はい、私の目が節穴だと仰りたかったのですか、お祖父様?」
へ?……お祖父様?
僕は吉川さんと目の前の男の人を交互に見てしまう。
えっと――どういうことですか?
「あー、ゴホン――」
僕が状況をつかめずにいると、菅原先生がもう一度咳払いをした。そして、菅原先生が僕を見て、
「こちらは、吉川正一郎さんと言って――」
「君が求婚した若菜の祖父だ。そして理事長の白河鉄次郎の従弟でな。頼まれてこの学園の理事もしておる。それからここにいる菅原あかねの叔従父でもある」
とんでもない人が現れたー!
えっと……もしかしてそれでさっき品定めされてるように感じたの?
ん?ちょっと待て。今菅原先生の叔従父って言わなかった?
「わしは若菜が選んだ男だから別に疑ったりはしてはおらんかったがの」
「私の目は節穴ではありません!それに義人さんは私が初めて一目惚れした方でもあるんですから」
えっと、僕……吉川さんに一目惚れされてたの?全っ然気づいてなかったんですけど、というかきっと誰も気づいてない――委員長はきづいてたのかな、思い返せば吉川さんが告白されたりしたとき、必ず委員長がいたような。そんなときにはよく委員長の鋭い自然を感じていたような。あのとき、僕は委員長から嫌われてるんだろうと思ってたんだけど、もしかして違ったとか?――い、いやいやそんな都合良いことなんてないって――
「聞いてくださいお祖父様。義人さんったら栞ちゃんが視線送ってくれてるのに全然気付いてくれなかったんですよ」
都合の良いことが真実だったー!
「それでも成川くんはお前を選んでくれたんだろう?」
「それはそうですが……」
「人の心なんて操ろうとしたってできるわけないぞ?若菜が選んだ男が若菜を選んでくれた。これほどに素晴らしいことはないだろう?」
「そう、ですわね。そうです!ですから私はすごく嬉しくて幸せなのです!」
な、なんかね……そんな話聞いてていいのかなという気分になってくるんです、ハイ。ヘタレと呼ばれても仕方ないです。彼女いない歴=年齢(十七歳)だった僕に初めて彼女ができて、言葉違いからその彼女は結婚前提の関係で、クラスでは、僕と吉川さんは婚約者とされているわけで――
「はい、二人ともそこまで!」
菅原先生がパンと手を叩いて、吉川さんとお祖父さんの会話をストップさせると僕を見てきた。その視線は真剣なものだったので、僕も姿勢を正す。つられてか吉川さんも姿勢を正した。
「あー、なんだ――言いにくいんだがな……」
と菅原先生が視線を外して頬をポリポリと……そしてもう一度咳払いをしてから真剣な視線を僕に向けてくる。なんだろう、とにかく冗談とかではないだろうから、僕も真剣に聞かなきゃ!
「成川、お前は吉川と、その――」
そこまで言って、先生はまた視線を外した。なんかこころなしか先生の頬が赤くなってるようにも見えるんだけど……。
「吉川に……け、け、結婚をだな……その――」
菅原先生の顔が真っ赤だ――。先生って恥ずかしがることもあるんだなあ。にしてもこういう先生可愛いかも。
なんて考えたら、脇腹をつねられた。
「痛っ」
吉川さんを見ると、ぷくっと膨れている。吉川さんってこれはこれで可愛い。吉川さんに目でゴメンと合図すると、
「後でキスしてください」
と小さくつぶやいている。そんなことで許されるのなら是非。僕ももう一度吉川さんとキスしたいし!
「成川、聞いてるのか?」
菅原先生に視線を戻すと先生の顔はもう赤くなってはおらず少し怒ったような表情。ヤバイ!
「す、すみません!」
僕の謝罪にため息をついた先生は、改めて真剣な顔で僕を見ると、
「成川、お前は本気で吉川と結婚したいのか?」
と聞いてきたので、僕は「ハイ」と即答。
父さんからも「男に二言はない!」と言われてきたし、実際、吉川さんを好きな気持ちは偽りじゃなく、僕の本心だ。その吉川さんから僕の言い間違いだったけど結婚について承諾も貰っている。もちろんその承諾は吉川さん本人だけで、彼女のご両親にも僕の両親にも了承は取り付けていない。確か結婚するには男子十八歳、女子十六歳以上、それ以外の場合は両者両親の許可というか法的な承諾が必要だったはず。僕は五月生まれだから、僕が十八になるまで待てと言われるのなら、僕はそれに従う。
「そうか――しかし即答とはな」
と、菅原先生がまた豪快に笑う。菅原先生にはこういう笑い方が似合ってると思う。
「ではわしからだが、成川くん」
と、今度は吉川さんのお祖父さんに声をかけられたので、お祖父さんに体ごと向ける。
「成川くんは、吉川家に婿入りしてくれるということで良いのだな?」
婿入り?――突然何を言い出すんだこの人……ちょっと待てよ、このフレーズどこかで――
と、ディフォルメされた小さな僕がまた目の前に現れた。今度は一人――
僕A「じゃあ巻き戻してみよう」
と、映像が偉い速度で巻き戻る。再び再生されたのは僕が吉川さんに告白して失敗したと思いこんで逃げようとしてるところだった。
そして、成川さんが僕の腕を掴んだまま、真っ赤な顔でそして真剣な表情で、
「成川くんがお婿さんに来てくれるなら、私、成川くんのお嫁さんになりたいです!」
と言う映像。
僕A「ここだね」
「あ、確かに――」
僕A「じゃ、僕はここで。頑張ってよ僕!」
とディフォルメされた小さな僕かぽんという煙とともに消えた。
腹を決めよう。僕は吉川さんと結婚するんだ。そのためなら婿入りでも気にしない!
僕は吉川さんのお祖父さん、吉川正一郎さんの目をじっと見て僕の気持ちを伝えた。
「はい、構いません!吉川家に婿入りさせていただきます!」
吉川さんを降ろした途端、僕が限界を迎えてフラリと――
「義人さん!」
倒れる寸前を吉川さんに支えられて、今は吉川さんの膝枕の上。良い匂いだ。時折吹くそよ風が吉川さんの髪を揺らして、それでまた良い匂いに包まれる僕。
――ああ、幸せだ!――
吉川さんをお姫様抱っこしたまま講堂裏まで走りきった僕。なんか走れメロスのメロスになった気分。磔にされてる友人はいないけど、というか自分が磔にされそうだったし!
でも、吉川さんの体柔らかかった!背中も太腿も、それに吉川さんの甘くて良い匂いが疲れも飛ばしてくれて――
「義人さん、お姫様抱っこありがとう。私の夢が1つ叶っちゃった」
吉川さんが優しく微笑んでくれてる。
そういえば、僕、今朝から吉川さんにすっと下の名前で呼ばれてる気がするな――。
「ねぇ吉川さん、僕のこと下の名前で呼んでる?」
気になったので聞いてみた。
すると、
「はい。だって私の旦那様になってくれる人ですもの。苗字で呼ぶよりも名前で呼ぶ方がずっと親しく仲良くなれた気がするから――」
と、幸せそうに目を細めて僕の顔に浮かんだ汗を真っ白なハンカチで拭いながら答えてくれた。まだ告白した翌日だというのに、吉川さんが昨日までより一層可愛く見えてくる。
「思い切って告白して良かった」
僕は吉川さんの甘い匂いとハンカチ越しに感じる吉川さんの細い指に幸せを感じて目を瞑った。
「私、実は昨日、義人さんからのお手紙を頂いたときにね、義人さんと同じ気持ちだったらいいなと思ってたの――でも義人さん、緊張してるようだったから私と違うのかなって、もしそうなら私から義人さんに好きですって言うつもりだったんです。嫌われてもいいから私の気持ちは伝えようって――」
吉川さんから意外な言葉が聞こえて、僕は目を開けた。
「そうだったの?」
「はい。そしたら義人さんから結婚してくださいって――嬉しかった」
今度は吉川さんが何かを噛みしめるように目を瞑った。
「でも、あのとき僕は"付き合ってください"って、そういうつもりだったん……」
と頬をポリポリ書きながらカミングアウトした僕の唇を、吉川さんが人差し指で塞いできた。
「"結婚"の取り消しは受け付けておりません」
とそのまま僕に顔を近づけてきて、人差し指の代わりに吉川さんの唇で塞がれた。
どれくらいの時間だったんだろう――。一瞬にも一分にも十分にも感じられたその時間、僕は吉川さんとキスをした。それは僕のファーストキス。甘くて柔らかくて、でもどこかしょっぱくて、吉川さんの唇が離れていくのが切なくて、僕は吉川さんの唇を追いかけてもう一度キスをした。
唇を離した時、横から何やら複数の視線を感じた。
吉川さんも視線を感じたようで、僕たちは一緒に視線を感じる方へ顔を向けた。
そこには口を手で隠して目を輝かせているクラスや他のクラスの女子と、怒りに打ち震えている男子の集団がいた。
え、もしかして見られていたんですか?――
そしてさらに放送を知らせるチャイムが鳴って、期限の悪いときの菅原先生の声が響いた。
「二年A組の成川義人、同じく吉川若菜、今すぐ生活指導室に来い!二人が講堂裏にいることはわかっている!五分やる。それまでにとっとと出頭しやがれ!」
吉川さんは口に手を当てて驚いていて、僕も僕で居場所までバレていることに口があんぐり。さらに委員長が講堂の上の方の一点を指さしている。その方向に目をやると、なんとそこには監視カメラが!
見られた。僕と吉川さんがしていること全部見られてた……。
「成川くん急いで!もう四分切るよ!」
委員長が左手を内側に曲げて手の甲を前にして右手で左手の腕時計を指して教えてくれる。
「ヤバイ!吉川さん、急ごう!」
「はい!」
僕は吉川さんの手をとって生活指導室へ急いだ。たぶん生活指導室までの間にある監視カメラ全部見てるんだろうから走らず、急ぎ足で向かう僕たち。
なぜか吉川さんは楽しそうだ――けど、僕は今から胃が痛いよ……。
生活指導室は音楽室、図書室、理科室、家庭科室等特別な教室や生徒会室、その他文化クラブの部室のある棟の一階、職員室の隣にある。
そこまで半ば競歩で向かう僕と吉川さん。
職員室が見えて、生活指導室が見えた。そしてその前に腕組みして機嫌が超絶悪そうな菅原先生も見えた。一瞬たじろいだけど、でも行かなきゃ吉川さんまで余計に悪くなる。吉川さんは僕が絶対に守るんだ!
僕たちが菅原先生の前についたのはタイムリミット十秒前。ギリギリセーフ!
菅原先生は「チッ」と舌打ちをすると第二生活指導室の鍵を開けてドアを開けた。
「ほら、二人ともさっさと入る!」
「はい」
「はい」
菅原先生の指示通りに第二生活指導室に入ると、そこにはすでに先客がいた。白髪混じりの優しい笑顔の男性、だけどその中の瞳はじっと僕を品定めしているようにも見えた。
「とりあえず、お前らはそっちに座れ」
と、菅原先生がその男の人の前のソファに僕達に座るように言ってきたので、僕は吉川さんを促して僕が右側、男の人の前、左側に吉川さんが座り、吉川さんの前に菅原先生が座った。
「あー、ゴホン――」
菅原先生が一つ咳払いをした。それが合図だったのか、目の前の男の人が身を乗り出してきた。僕はその勢いに押されて少し体を後ろに引いてしまった。
「君が成川義人君だね?」
男の人が笑顔のままで僕の名前を聞いてくるので、僕はその通りですと答えた。
すると目の前の男の人が吉川さんに向いて、
「若菜、優しそうな少年じゃないか!」
「はい、私の目が節穴だと仰りたかったのですか、お祖父様?」
へ?……お祖父様?
僕は吉川さんと目の前の男の人を交互に見てしまう。
えっと――どういうことですか?
「あー、ゴホン――」
僕が状況をつかめずにいると、菅原先生がもう一度咳払いをした。そして、菅原先生が僕を見て、
「こちらは、吉川正一郎さんと言って――」
「君が求婚した若菜の祖父だ。そして理事長の白河鉄次郎の従弟でな。頼まれてこの学園の理事もしておる。それからここにいる菅原あかねの叔従父でもある」
とんでもない人が現れたー!
えっと……もしかしてそれでさっき品定めされてるように感じたの?
ん?ちょっと待て。今菅原先生の叔従父って言わなかった?
「わしは若菜が選んだ男だから別に疑ったりはしてはおらんかったがの」
「私の目は節穴ではありません!それに義人さんは私が初めて一目惚れした方でもあるんですから」
えっと、僕……吉川さんに一目惚れされてたの?全っ然気づいてなかったんですけど、というかきっと誰も気づいてない――委員長はきづいてたのかな、思い返せば吉川さんが告白されたりしたとき、必ず委員長がいたような。そんなときにはよく委員長の鋭い自然を感じていたような。あのとき、僕は委員長から嫌われてるんだろうと思ってたんだけど、もしかして違ったとか?――い、いやいやそんな都合良いことなんてないって――
「聞いてくださいお祖父様。義人さんったら栞ちゃんが視線送ってくれてるのに全然気付いてくれなかったんですよ」
都合の良いことが真実だったー!
「それでも成川くんはお前を選んでくれたんだろう?」
「それはそうですが……」
「人の心なんて操ろうとしたってできるわけないぞ?若菜が選んだ男が若菜を選んでくれた。これほどに素晴らしいことはないだろう?」
「そう、ですわね。そうです!ですから私はすごく嬉しくて幸せなのです!」
な、なんかね……そんな話聞いてていいのかなという気分になってくるんです、ハイ。ヘタレと呼ばれても仕方ないです。彼女いない歴=年齢(十七歳)だった僕に初めて彼女ができて、言葉違いからその彼女は結婚前提の関係で、クラスでは、僕と吉川さんは婚約者とされているわけで――
「はい、二人ともそこまで!」
菅原先生がパンと手を叩いて、吉川さんとお祖父さんの会話をストップさせると僕を見てきた。その視線は真剣なものだったので、僕も姿勢を正す。つられてか吉川さんも姿勢を正した。
「あー、なんだ――言いにくいんだがな……」
と菅原先生が視線を外して頬をポリポリと……そしてもう一度咳払いをしてから真剣な視線を僕に向けてくる。なんだろう、とにかく冗談とかではないだろうから、僕も真剣に聞かなきゃ!
「成川、お前は吉川と、その――」
そこまで言って、先生はまた視線を外した。なんかこころなしか先生の頬が赤くなってるようにも見えるんだけど……。
「吉川に……け、け、結婚をだな……その――」
菅原先生の顔が真っ赤だ――。先生って恥ずかしがることもあるんだなあ。にしてもこういう先生可愛いかも。
なんて考えたら、脇腹をつねられた。
「痛っ」
吉川さんを見ると、ぷくっと膨れている。吉川さんってこれはこれで可愛い。吉川さんに目でゴメンと合図すると、
「後でキスしてください」
と小さくつぶやいている。そんなことで許されるのなら是非。僕ももう一度吉川さんとキスしたいし!
「成川、聞いてるのか?」
菅原先生に視線を戻すと先生の顔はもう赤くなってはおらず少し怒ったような表情。ヤバイ!
「す、すみません!」
僕の謝罪にため息をついた先生は、改めて真剣な顔で僕を見ると、
「成川、お前は本気で吉川と結婚したいのか?」
と聞いてきたので、僕は「ハイ」と即答。
父さんからも「男に二言はない!」と言われてきたし、実際、吉川さんを好きな気持ちは偽りじゃなく、僕の本心だ。その吉川さんから僕の言い間違いだったけど結婚について承諾も貰っている。もちろんその承諾は吉川さん本人だけで、彼女のご両親にも僕の両親にも了承は取り付けていない。確か結婚するには男子十八歳、女子十六歳以上、それ以外の場合は両者両親の許可というか法的な承諾が必要だったはず。僕は五月生まれだから、僕が十八になるまで待てと言われるのなら、僕はそれに従う。
「そうか――しかし即答とはな」
と、菅原先生がまた豪快に笑う。菅原先生にはこういう笑い方が似合ってると思う。
「ではわしからだが、成川くん」
と、今度は吉川さんのお祖父さんに声をかけられたので、お祖父さんに体ごと向ける。
「成川くんは、吉川家に婿入りしてくれるということで良いのだな?」
婿入り?――突然何を言い出すんだこの人……ちょっと待てよ、このフレーズどこかで――
と、ディフォルメされた小さな僕がまた目の前に現れた。今度は一人――
僕A「じゃあ巻き戻してみよう」
と、映像が偉い速度で巻き戻る。再び再生されたのは僕が吉川さんに告白して失敗したと思いこんで逃げようとしてるところだった。
そして、成川さんが僕の腕を掴んだまま、真っ赤な顔でそして真剣な表情で、
「成川くんがお婿さんに来てくれるなら、私、成川くんのお嫁さんになりたいです!」
と言う映像。
僕A「ここだね」
「あ、確かに――」
僕A「じゃ、僕はここで。頑張ってよ僕!」
とディフォルメされた小さな僕かぽんという煙とともに消えた。
腹を決めよう。僕は吉川さんと結婚するんだ。そのためなら婿入りでも気にしない!
僕は吉川さんのお祖父さん、吉川正一郎さんの目をじっと見て僕の気持ちを伝えた。
「はい、構いません!吉川家に婿入りさせていただきます!」
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