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第一章 呪われた男
30. 悪意の胎動
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暗い部屋の中、灯りもつけずにベッドの上に座り込む者が一人。何をするでもなく、その虚ろな目はただただ虚空を眺めていた。
「……玄ちゃん」
同室の誠一が部屋の扉から声をかける。勝と健司もその後ろから心配そうに隆人の様子を伺っていた。
「飯の時間だけど、行かないの?」
最初に声をかけられた時にビクッと体を震わせた隆人であったが、その後の誠一の言葉には全く反応を示さない。そんな隆人を見て諦めたようにため息をつくと、誠一は勝と健司を引き連れて食堂へと向かう。顔は動かさず、気配だけで三人が去って行った事を感じた隆人はほっと息をついた。
「誰も信用できねぇ……」
うわ言のように呟いた隆人は自分を守るように腕で足を抱えると、自分だけの世界へと逃避していった。
隆人がこんな風になってしまったのは、颯空の捜索結果が告げられた夜に起こった事が原因であった。
夕食を誰よりも早く終え、我先にと隆人は部屋に戻ってきた。御子柴颯空の死。それを聞いた瞬間、えも言われぬ達成感に包まれた。思わずにやけそうになるのを必死にこらえ、お通夜みたいな雰囲気の食堂から逃げてきたのだ。
無意識に鼻歌を歌っていた隆人は自分の枕元に真っ黒な封筒があることに気がつく。それには大きな白い文字で『玄田隆人様』と書かれていた。不審に思いながらそれを手に取り裏返してみるが差出人はない。薄気味悪く思いながらもその手紙を開け、中身を読んだ隆人は驚愕に目を見開いた。
『人殺しの玄田隆人様へ。
クラスメートを谷底に落とした気分はいかがですか。
玄田様の勇気ある行動を私は称賛いたします。
しかし、親しい人を失った貴方の想い人は心を痛めているご様子。
そんな彼女が貴方が成し遂げた事を知ったらどう思うでしょうか。
そうならないことを切に願うばかりです。
私が貴方にこのような手紙を出したのは他でもありません。
貴方の秘密を知るものとしてほんの少し助力を求めたいからです。
詳細はまた後日。
なお、この手紙はそちらで処分していただき、この封筒は大事に隠し持っていてください。
よき協力者になっていただけることを、心から期待しております』
隆人は目の前が真っ暗になった。初めは指だけだったのが、いまや体全体が極寒の地にいるかのようにブルブルと震えている。
なぜかわからないが、自分のした事を知っている奴がいる。そのことだけが頭の中をぐるぐると回り続け、隆人は力なくその場にへたり込んだ。不意に、澪の姿が頭に思い浮かぶ。
藤ヶ谷にばれたら……俺は……。
絶望にも似た感情が隆人の心を支配していった。
手に持っていた手紙をぐしゃりと握り潰すと、感情の赴くままにそのままベッドに叩きつける。
誰が……いったい誰がこれを……。
心当たりが全くない。颯空を落とした時、確かに自分は一人きりだったはずだ。様々な思考を巡らせていると、隆人は違和感を感じた。
「この手紙……どうやってここに?」
それぞれの部屋には鍵がついており、開けられるのはその部屋で暮らしているものだけであった。この手紙が隆人のベッドにあったということは必然的に手紙を出すことのできる人物は限られてくる。
「まさか……久我が……?」
高校一年の時から一緒の部活で、ずっとつるんでいる隆人が最も信頼している男が自分を? いや、確かに久我は同室だが、勝も健司もほとんどこの部屋に入り浸っている。しかし、それが意味するのは……。
「くそっ! 俺を嵌めようとしている奴があいつらの中にいるってのかっ!?」
信じられない。信じたくなかった。思考が堂々巡りとなって答えが出ることはない。
「……こうなったら自分の身は自分で守るしかねぇ」
そう決意するとベッドからグシャグシャになった手紙を乱暴に掴み、それを処分するため部屋を後にする。
その姿を廊下の隅で見ながら、ほくそ笑む者がいることに気付くことはなかった。
「……玄ちゃん」
同室の誠一が部屋の扉から声をかける。勝と健司もその後ろから心配そうに隆人の様子を伺っていた。
「飯の時間だけど、行かないの?」
最初に声をかけられた時にビクッと体を震わせた隆人であったが、その後の誠一の言葉には全く反応を示さない。そんな隆人を見て諦めたようにため息をつくと、誠一は勝と健司を引き連れて食堂へと向かう。顔は動かさず、気配だけで三人が去って行った事を感じた隆人はほっと息をついた。
「誰も信用できねぇ……」
うわ言のように呟いた隆人は自分を守るように腕で足を抱えると、自分だけの世界へと逃避していった。
隆人がこんな風になってしまったのは、颯空の捜索結果が告げられた夜に起こった事が原因であった。
夕食を誰よりも早く終え、我先にと隆人は部屋に戻ってきた。御子柴颯空の死。それを聞いた瞬間、えも言われぬ達成感に包まれた。思わずにやけそうになるのを必死にこらえ、お通夜みたいな雰囲気の食堂から逃げてきたのだ。
無意識に鼻歌を歌っていた隆人は自分の枕元に真っ黒な封筒があることに気がつく。それには大きな白い文字で『玄田隆人様』と書かれていた。不審に思いながらそれを手に取り裏返してみるが差出人はない。薄気味悪く思いながらもその手紙を開け、中身を読んだ隆人は驚愕に目を見開いた。
『人殺しの玄田隆人様へ。
クラスメートを谷底に落とした気分はいかがですか。
玄田様の勇気ある行動を私は称賛いたします。
しかし、親しい人を失った貴方の想い人は心を痛めているご様子。
そんな彼女が貴方が成し遂げた事を知ったらどう思うでしょうか。
そうならないことを切に願うばかりです。
私が貴方にこのような手紙を出したのは他でもありません。
貴方の秘密を知るものとしてほんの少し助力を求めたいからです。
詳細はまた後日。
なお、この手紙はそちらで処分していただき、この封筒は大事に隠し持っていてください。
よき協力者になっていただけることを、心から期待しております』
隆人は目の前が真っ暗になった。初めは指だけだったのが、いまや体全体が極寒の地にいるかのようにブルブルと震えている。
なぜかわからないが、自分のした事を知っている奴がいる。そのことだけが頭の中をぐるぐると回り続け、隆人は力なくその場にへたり込んだ。不意に、澪の姿が頭に思い浮かぶ。
藤ヶ谷にばれたら……俺は……。
絶望にも似た感情が隆人の心を支配していった。
手に持っていた手紙をぐしゃりと握り潰すと、感情の赴くままにそのままベッドに叩きつける。
誰が……いったい誰がこれを……。
心当たりが全くない。颯空を落とした時、確かに自分は一人きりだったはずだ。様々な思考を巡らせていると、隆人は違和感を感じた。
「この手紙……どうやってここに?」
それぞれの部屋には鍵がついており、開けられるのはその部屋で暮らしているものだけであった。この手紙が隆人のベッドにあったということは必然的に手紙を出すことのできる人物は限られてくる。
「まさか……久我が……?」
高校一年の時から一緒の部活で、ずっとつるんでいる隆人が最も信頼している男が自分を? いや、確かに久我は同室だが、勝も健司もほとんどこの部屋に入り浸っている。しかし、それが意味するのは……。
「くそっ! 俺を嵌めようとしている奴があいつらの中にいるってのかっ!?」
信じられない。信じたくなかった。思考が堂々巡りとなって答えが出ることはない。
「……こうなったら自分の身は自分で守るしかねぇ」
そう決意するとベッドからグシャグシャになった手紙を乱暴に掴み、それを処分するため部屋を後にする。
その姿を廊下の隅で見ながら、ほくそ笑む者がいることに気付くことはなかった。
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