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3章
EP.25二人乗りの旅路
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天界の扉を抜け、見慣れた光に包まれた世界へと帰ってきた。たった二ヶ月半ほど前の、ここで暮らして居た頃の記憶が妙に遠い。
霊体に変換されたバイクは問題なく稼働しているようだ。風を切りながら、コンさんに体に変なところがないか問いかける。
「問題ないです、いつも通り戦えますよ。」
生物の肉体が霊体に変換されても、平気なものなのかと思いつつ、その言葉を信じて突き進む。
「俺の知識があっていれば、主はあの山の修道院にいらっしゃるはずだ!そこを目指すぞ!」
「ええ、そこであってます、進んでください。」
遠目に見える修道院目掛けてバイクを走らせる。そういえば、俺は長年主に仕えてきたが、直接主のお姿を見たことはなかったような。一体どんなお姿をしているのだろうと思いつつ、バイクは天使たちの住む市街に入った。赤信号が目の前に迫ろうとしている。
「あの信号無視するぞ。どうせ追われる身だ、しっかり掴まってくれよ!」
そう言ってアクセルに足をかける。コンさんが腰に腕を回す感触が伝わってくる。
俺は縫うように、横断しようとする車の間を走り抜けた。後ろからクラクションや衝突の音が聞こえ、罪悪感に苛まれる。
それを何回か繰り返すと、パトカーに目をつけられたのか、警報の音が後ろから迫ってくる。
「天界にもパトカーってあるんですね。ちょっと派手に行きますよ!」
真後ろから銃声が鳴り響いた。車のパンクする音、それから爆発音と煙の音が聞こえてくる。
「後ろうるさいですけど、ニカさん振り返っちゃダメですよ。安全に爆走していきましょう。」
被害に遭った天使たちの無事を心の中で祈りつつ、バイクは山道へと入っていく。天使たちは修道院に行く時には飛んで行くため、トラックが時々走るくらいしか使われない山道は、あまり整備されておらずガタガタだ。
バランスを崩さないように、時々ある急カーブに振り落とされないように、山道を駆け上っていく。
視界の端に飛翔する影が見えた。警官天使達が車を捨て、飛行して追いかけてきている!後ろでリロードする音が聞こえた。
「あれは撃ち落とします。カーブの時だけは撃てないので、カーブの前は声をかけてください。」
「……わかった!」
コンさんはそう言うと、後部座席に足を乗せ、飛行している天使達に威嚇射撃をする。
「曲がるぞ!」
掛け声と共にコンさんは座席に座り直し、カーブが終わるとまた警戒の視線を空に向ける。威嚇が効いたのか、天使たちは直接突っ込んでは来なくなったようだ。
修道院前の大階段を、バイクで駆け上る。修道院はもう目の前だというところで、コンさんが突然声をあげた。
「!来ます!伏せてください!」
言われるがままに頭を伏せると、登っている階段の足元が突然爆発した。
なるほど、奇跡で階段の爆破に出たか!
俺たちはバイクごと宙に舞う。だが、目的地である修道院は、視界にはっきりと入っている!この距離なら、空間転移の奇跡を使えば一瞬でたどり着ける!
少しでも転移先の座標を間違えると壁の中にめり込んでしまう、危険な奇跡だ。だが今は一か八か、やるしかない!
「コンさん!」と叫んで、吹っ飛ばされたコンさんに手を伸ばす。コンさんも意図を汲んでくれたのか、手を強く握り返してくれた。
俺は修道院の軒先、一番距離を測りやすい屋根の上目掛けて、空間転移の奇跡を使う。
視界が動転する。身体に重力がかかり、傾いた地面に足がつく。無事屋根の上に転移できたみたいだ。
「コンさん、大丈夫か?何をやったか、説明してる暇はないんだが。」
「大丈夫です。僕も埋まったりせずに済みました。」
俺たちを追う天使たちは、俺たちが屋根の上に転移したことにすぐさま気づき、追ってくる。追いつかれるのも時間の問題だろう。
屋根の真下のバルコニーに降りる。そこには豪奢なステンドグラスがあり、その先は修道院内部だ。
「これ割って突入します、三で突っ込みます。いいですね?」
相変わらず即断即決のコンさんには驚かされるが、頷いて突入の構えを取る。
「一、二の……三!」
俺たちはステンドグラスに体当たりし、そのまま修道院内部へと入った。
バラバラと割れたガラスを踏みながら、目の前の天使達を睨みつける。
目を丸くして口を開けている天使たちの中に、一人だけ羽も光輪もない人物がいた。
あれが、主だと直感的に理解した。
その姿は青白い男だった。主は俺たちを取り押さえようとする天使を諌め、口を開く。
「何用かね、穢れたホムンクルスに裏切り者よ。」
主に俺たちのことをはっきり否定されると、天使の本能か、やはり恐れが全身に走ってしまう。咄嗟に言葉が出ない俺をよそに、コンさんは前に出て告げた。
「神よ、あなたに手紙です。」
主は眉を上げて尋ねた。
「手紙だと?ホムンクルスを配達人にして?差出人は?」
「お伝えするより、中身を見ていただいた方が建設的かと。」
そう言うとコンさんは、借りた鞄から一通の封をされた手紙を差し出し、主に向けた。いつの間に手紙なんて預かっていたんだ?
主は黙って手紙を受け取り、封を切って中身を見た。その内容を目にした途端、その目は見開かれ、驚きに満ちた表情になった。
その後、一つ大きなため息をつき、コンさんに向かって言った。
「紺碧、だったか。来なさい、君に話さねばならぬことがある。」
そう言うと、主はコンさんを連れて奥の部屋へと向かう。
「この部屋には我々以外誰も入れぬように!その堕天使にもひとまず危害を加ないでおきなさい。」
コンさんは黙って主についていき、奥の分厚い扉は閉められた。
一体何の話をするんだ……?気がかりで仕方ないが、天使たちが警戒の眼差しで俺を睨んでいる。ひとまず主の指示には従おうと、俺はこの場で暫し待つことにした。
霊体に変換されたバイクは問題なく稼働しているようだ。風を切りながら、コンさんに体に変なところがないか問いかける。
「問題ないです、いつも通り戦えますよ。」
生物の肉体が霊体に変換されても、平気なものなのかと思いつつ、その言葉を信じて突き進む。
「俺の知識があっていれば、主はあの山の修道院にいらっしゃるはずだ!そこを目指すぞ!」
「ええ、そこであってます、進んでください。」
遠目に見える修道院目掛けてバイクを走らせる。そういえば、俺は長年主に仕えてきたが、直接主のお姿を見たことはなかったような。一体どんなお姿をしているのだろうと思いつつ、バイクは天使たちの住む市街に入った。赤信号が目の前に迫ろうとしている。
「あの信号無視するぞ。どうせ追われる身だ、しっかり掴まってくれよ!」
そう言ってアクセルに足をかける。コンさんが腰に腕を回す感触が伝わってくる。
俺は縫うように、横断しようとする車の間を走り抜けた。後ろからクラクションや衝突の音が聞こえ、罪悪感に苛まれる。
それを何回か繰り返すと、パトカーに目をつけられたのか、警報の音が後ろから迫ってくる。
「天界にもパトカーってあるんですね。ちょっと派手に行きますよ!」
真後ろから銃声が鳴り響いた。車のパンクする音、それから爆発音と煙の音が聞こえてくる。
「後ろうるさいですけど、ニカさん振り返っちゃダメですよ。安全に爆走していきましょう。」
被害に遭った天使たちの無事を心の中で祈りつつ、バイクは山道へと入っていく。天使たちは修道院に行く時には飛んで行くため、トラックが時々走るくらいしか使われない山道は、あまり整備されておらずガタガタだ。
バランスを崩さないように、時々ある急カーブに振り落とされないように、山道を駆け上っていく。
視界の端に飛翔する影が見えた。警官天使達が車を捨て、飛行して追いかけてきている!後ろでリロードする音が聞こえた。
「あれは撃ち落とします。カーブの時だけは撃てないので、カーブの前は声をかけてください。」
「……わかった!」
コンさんはそう言うと、後部座席に足を乗せ、飛行している天使達に威嚇射撃をする。
「曲がるぞ!」
掛け声と共にコンさんは座席に座り直し、カーブが終わるとまた警戒の視線を空に向ける。威嚇が効いたのか、天使たちは直接突っ込んでは来なくなったようだ。
修道院前の大階段を、バイクで駆け上る。修道院はもう目の前だというところで、コンさんが突然声をあげた。
「!来ます!伏せてください!」
言われるがままに頭を伏せると、登っている階段の足元が突然爆発した。
なるほど、奇跡で階段の爆破に出たか!
俺たちはバイクごと宙に舞う。だが、目的地である修道院は、視界にはっきりと入っている!この距離なら、空間転移の奇跡を使えば一瞬でたどり着ける!
少しでも転移先の座標を間違えると壁の中にめり込んでしまう、危険な奇跡だ。だが今は一か八か、やるしかない!
「コンさん!」と叫んで、吹っ飛ばされたコンさんに手を伸ばす。コンさんも意図を汲んでくれたのか、手を強く握り返してくれた。
俺は修道院の軒先、一番距離を測りやすい屋根の上目掛けて、空間転移の奇跡を使う。
視界が動転する。身体に重力がかかり、傾いた地面に足がつく。無事屋根の上に転移できたみたいだ。
「コンさん、大丈夫か?何をやったか、説明してる暇はないんだが。」
「大丈夫です。僕も埋まったりせずに済みました。」
俺たちを追う天使たちは、俺たちが屋根の上に転移したことにすぐさま気づき、追ってくる。追いつかれるのも時間の問題だろう。
屋根の真下のバルコニーに降りる。そこには豪奢なステンドグラスがあり、その先は修道院内部だ。
「これ割って突入します、三で突っ込みます。いいですね?」
相変わらず即断即決のコンさんには驚かされるが、頷いて突入の構えを取る。
「一、二の……三!」
俺たちはステンドグラスに体当たりし、そのまま修道院内部へと入った。
バラバラと割れたガラスを踏みながら、目の前の天使達を睨みつける。
目を丸くして口を開けている天使たちの中に、一人だけ羽も光輪もない人物がいた。
あれが、主だと直感的に理解した。
その姿は青白い男だった。主は俺たちを取り押さえようとする天使を諌め、口を開く。
「何用かね、穢れたホムンクルスに裏切り者よ。」
主に俺たちのことをはっきり否定されると、天使の本能か、やはり恐れが全身に走ってしまう。咄嗟に言葉が出ない俺をよそに、コンさんは前に出て告げた。
「神よ、あなたに手紙です。」
主は眉を上げて尋ねた。
「手紙だと?ホムンクルスを配達人にして?差出人は?」
「お伝えするより、中身を見ていただいた方が建設的かと。」
そう言うとコンさんは、借りた鞄から一通の封をされた手紙を差し出し、主に向けた。いつの間に手紙なんて預かっていたんだ?
主は黙って手紙を受け取り、封を切って中身を見た。その内容を目にした途端、その目は見開かれ、驚きに満ちた表情になった。
その後、一つ大きなため息をつき、コンさんに向かって言った。
「紺碧、だったか。来なさい、君に話さねばならぬことがある。」
そう言うと、主はコンさんを連れて奥の部屋へと向かう。
「この部屋には我々以外誰も入れぬように!その堕天使にもひとまず危害を加ないでおきなさい。」
コンさんは黙って主についていき、奥の分厚い扉は閉められた。
一体何の話をするんだ……?気がかりで仕方ないが、天使たちが警戒の眼差しで俺を睨んでいる。ひとまず主の指示には従おうと、俺はこの場で暫し待つことにした。
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