愛されホムンクルスの復讐譚

ごぶーまる

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3章

EP.22開戦(中編)

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「っ……!いっっってぇ……!」

オレは倒れ伏した後、なんとか起き上がり、長槍を引き抜いていた。
幸いにも核には当たらなかったようだ。瞬く間に肉体の再生が始まり、オレは再び動けるようになった。
道をよく見ると、少しずつだが血痕が続いている。先生が流した血の跡だろう。

「待ってろ先生、今行く!」

オレは血痕の跡を追って駆け出した。
走っている間に、今まで密かに練習していた、戦闘訓練の成果を思い出す。紺碧には負けていられないと、オレも色々やっていたんだ。
ただ、修得できたのは、全身の神経の帯電量を増加させること、それを骨を通して相手を感電させること。その帯電した骨を射出すること。その三つが限度だった。
ただ、幸いにもニカフィムが奇跡封じの奇跡を使ってくれているおかげで、相手は今奇跡を使える状態ではない。それなのにあの人形は問題なく稼働している。
つまり、あの人形はおそらく電気で動いている!高圧電流を流し込み、制御装置を破壊できれば、あの人形は止まる!そう目算していた。
おあつらえ向きに、自動人形オートマタがオレの進行方向に立ちはだかる。

「ホムンクルスを確認、攻撃を開始します。」

自動人形オートマタの長槍の薙ぎ払いを上に跳んでかわし、自身の内部の電気量を上げる。
帯電した状態は、オレの肉体も損傷する。長くはこの状態じゃいられないが、

「1秒ありゃ、充分だ!」

そう叫んで、自動人形オートマタの金属製の身体に触れ、自動人形オートマタに高圧電流を流し込む。
予想通り、制御装置の故障を起こした自動人形は、動作を停止した。

「よし、……これで人形には対処できるな。」

人形の破壊が上手くいって安堵しつつ、先生の血痕を再び追った。


血痕を追った先、とある曲がり角で、翼の生えた人物が立っているところに出会した。
奴は何かタブレットのようなものを操作しているようだった。察するに、奴が人形使いの天使で間違いなさそうだ。
奴の側に、先生が意識を失った状態で倒れ伏していた。奴は先生にもう興味がないのか、雑な体勢で放り出されている。
あのタブレットを壊せば、人形は止まり、先生も助けられる……!オレはそう確信すると、身体が勝手に駆け出していた。
足に電流を走らせ、高速で駆け、タブレットに帯電させた拳を叩き込まんと振りかぶる。
その次の瞬間、側にいた人形が反応し、オレの脇腹を殴り、吹き飛ばした。オレは壁に強く叩きつけられ、周囲に土埃が舞う。

「……それで不意打ちのつもりカ?」

奴の周囲に人形たちが集まってくる。人形たちは皆警戒体勢を取り、オレを睨みつけるように立ちはだかっている。

「我が名はニンギョウツカエル。この地域一帯の制圧の要を任されてイル。」

「ホムンクルスと対峙するのは想定外ダガ……ちょうどイイ。人類の過ちを精算するのニハ、ピッタリの機会ダ。」

陰気そうな天使はそう告げ、オレの吹き飛ばされたところに人形たちを差し向けた。めいめいに拳を向けたり、槍を向けたりしようとした時だった。
突如、人形たちの動きが止まった。

「……何ダト?」

人形たちの額には、オレの帯電させた骨が突き刺さっていた。奴らは全て高圧電流を流され、機能停止していたのだ。

「ニンギョウツカエルだぁ?ふざけた名前しやがって。」

「てめーの主ってネーミングセンスねぇんだな!その機械ぶっ壊してニンギョウツカエナイに改名させてやるよ!」

「主を侮辱するとは、何たる下郎……!ヤハリホムンクルス、ここで始末スル!」

ニンギョウツカエルは人形を周囲から呼び出し、オレと人形たちは再び対峙した。
ニンギョウツカエルが指示を出し、人形を戦わせる。今度は人形は長槍を中心に、間合いを開けながら戦っている。
頭部を狙って帯電させた骨を射出する。だが、人形たちは反射神経に優れるのか、全て回避されてしまった。
槍がオレの頬を掠め、鮮血が流れる。また、人形たちは宙に浮き、上空からオレに向かって槍を投擲して来た。
「そんなんアリかよ!」オレは咄嗟に前転して回避する。だが、回避した先には人形が立ちはだかっており、視認した時にはもう遅く、左の太ももを串刺しにされてしまった。
痛みで声にならない悲鳴が出る。自動人形は槍を引き抜き、続けて頭部を刺そうとするが、手のひらを前に出し、それに刺させることでなんとか頭部に刺されることは回避した。
貫かれた手が痛む。だが、これはある意味では好機だ。
そのまま槍を握りしめる。金属の感触が手のひらに伝わる。槍も金属でできているなら、電気が通るはずだと、体内で思いっきり発電する!
思惑通り、オレに槍を刺した自動人形オートマタは停止した。自動人形オートマタから槍を奪い、ニンギョウツカエルを囲むように守る人形たちと対峙する。
足の傷は再生した。今ならもう走れる。そう確信したオレは、助走をつけ、槍を棒代わりにした棒高跳びの要領で飛び上がった。

「ナッ……!?」

驚きのままに硬直するニンギョウツカエル。その手に持つ端末に槍の穂先を向け、着地と同時に貫いた。

「これでもう人形は呼べねぇな?ニンギョウツカエナイさんよぉ」

「ア……リエナイ……!天使がホムンクルスに敗北するナド……!」

「さぁどうだかな。オレの同期は、奇跡ありの天使ともやり合って勝ってたぜ。」

「……グヌヌ……わかっタ!降参スル!だから、どうか殺さないでクレ……」

「はぁ?」突然の命乞いに困惑するが、考えてみれば、オレの目的は人形使いを止めることと、先生を助けることだ。人形は先の端末破壊で全て停止した。遠くから来た駆けつけていた人形も、動作を停止して倒れている。確かに人形を止めたので、こいつの生死は問題じゃない。
「……チッ、まぁどうでもいいけどよ。」槍の穂先を下げ、残りのオレに刺さった槍を引き抜いた。


 身体の損傷を修復し終え、先生に近づく。首元に切り傷はあるが、それ以外に目立った外傷は見られない。

「ほら先生起きろ、オレ、勝ったぞ。天使にオレ一人で勝ったんだ。」

先生の頬を軽く叩く。しかし先生は意識を取り戻す様子がない。
不思議に思いつつ、その様子を見て、ニンギョウツカエルは口を開いた。

「ワタシは本来、戦闘が業務ではナイ。普段は地上の統計を取るのが仕事ダ。」

「……だから何だってんだよ。先生起こしてんだから黙ってろよ。」煩わしいと思いつつ、ニンギョウツカエルの方を向いた。

「……一億。一億ダ。ホムンクルスに殺された者、ホムンクルスの素材となった者、それらの合計死者数は一億に昇ル。」

「ワタシは……許せなかっタ……!これだけの死者を出し、自身だけ甘い蜜を啜る、この男の一族ガ……!」

「だからソイツだけは確実に地獄に送りたかっタ!自動人形にはこの男の顔を行動パターンにインプットし、見つけたらワタシの元に連れて来るようにシタ!」

「おいてめぇ、まさか……!」オレは最悪の想像をして、血の気が引くような思いをした。


「ああソウダ。その男はワタシの元に来た時点で殺しタ。高圧電流を流してナ。」


オレは再び先生の顔を見た。その顔には既に生気はなく、閉じられた瞼が、虚に開いた唇が、再び動くことはないのだと理解してしまった。
先生との記憶がフラッシュバックする。口答えするオレに対して毒物を流して笑っていた顔。紺碧や娘に向けた、嘘のように優しい顔。そしてそれが、オレにも向けられる瞬間を。
オレは先生にどうして欲しかった?オレみたいに酷い目に遭って欲しかった?
違う、違う。本当はどうして欲しかったのか、気づいた瞬間、オレは叫んでいた。

「なぁぁあんでだよぉぉぉぉ!!!!!」

「なんで死んじまうんだよぉ!オレがせっかく助けに来てやったのに!オレは強くなったのに!」

「なんでオレには『愛してる』って言ってくれないんだよぉぉぉ!!!」

ただその一言が欲しかった。そう自覚した瞬間には、全てが手遅れになっていた。
ニンギョウツカエルが逃げ出すかもとか、他の天使に襲われるかもとか、そういう憂慮すべき可能性を全部放り出して、オレは泣いていた。

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