愛されホムンクルスの復讐譚

ごぶーまる

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3章

EP.21開戦(前編)

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 「天使が来た」とコンさんに言われて飛び起きる。奇跡で瞬時に着替えを済ませた後、隣室で窓の割れる音がした。そこからは人の悲鳴が聞こえてくる。

「あまり褒められたことじゃないが……仕方ない!」

隣室との壁に向かって両手を突き出し、奇跡を使う。一瞬の後、轟音とともに壁が粉々に砕け散り、灰埃が舞い上がる。
そこに駆け込むと、天界の自動人形オートマタが、無機質な動きで長槍を振るい、人々を次々と貫いていく光景が目に飛び込んできた。血しぶきが飛び散り、悲鳴と呻き声が入り混じる。

「……!ニカさん、あれは一体……!?」

自動人形オートマタだ!奴ら、人形の軍勢を引き連れて、人を殺めている!」

俺は自動人形オートマタの弱点を思い出す。剣を召喚し、躊躇なく、槍を振り回す自動人形に向かって突進する。鋭い槍先をかわしながら、相手の懐に潜り込む。胴体中央にある制御装置を目指し、全身の力を込めて一撃を放つ。金属音とともに、自動人形オートマタの動きが止まり、その場に崩れ落ちた。

「……ひとまず一階に降りよう。説明は降りてからする。」

「ここから飛び降りる。着地は奇跡でなんとかする、コンさんは俺の背中に掴まってくれ。」

コンさんは頷いて、俺の背中におぶさった。
割れた窓から飛び降り、奇跡で着地の衝撃を和らげ、地上へ降りる。


そこには地獄が広がっていた。
街を歩いていた人々は既に血を流し息絶えており、自動人形オートマタたちが眠っていた人々を襲っては、虐殺を繰り返している。
そこら中から悲鳴や混乱する声が聞こえてくる。
酷い、と俺が口にする前に、コンさんがそれを口にしていた。
コンさんは俺の背中から降り、一つ呟いた。

「……九十九。」

その意味を確認する前に、コンさんは街の方へと駆け出してしまった。

「僕は街の人を助けに行って来ます!ニカさんは天使たちをお願いします!」

そう言って走り去るコンさんはいつになく焦っていて、俺は止めることができなかった。

「一体何が起こってるんだ!?」

降りて来たアイディンとミドと合流する。

「わからない。ただ、ここまでするとなれば、おそらく……」

その続きを言う前に、殺気を感じ、飛んできた飛翔物を咄嗟に奇跡で弾き返す。
それは投げ槍だった。俺たちの前に、一体の天使が現れる。

「ここにいたか、堕天使ニカフィム。探したぞ。」

槍を携えた、豪奢な身なりの天使は俺に敵意を向けている。その天使に向かって俺は問いかけた。

「答えろ、これはハルマゲドンか?」

「そうだ。主はこの世を終わらせるおつもりだ。」

やはりそうか……!ハルマゲドン、最終戦争であり、人の世に予言された終末!
それを今この時だと定めたのか、主は!

「安心しろ、敬虔なる信徒には天国への道が約束されている。自らの信仰を胸に、迷うことなく首を差し出せば良い。」

「そういう問題じゃねぇだろ!」

俺の胸には、怒りと殺意が沸っていた。俺は迷うことなく、奇跡封じの奇跡を発動した。

「アイディンさん!ミド!この近くに人形使いの天使がいるはずだ!そいつを止めれば人形による殺戮は止まる!俺はこいつの相手をする、そっちを任せて良いか!?」

「……!わかった。行くぞミド!」

そう言ってアイディンさんはミドを連れて駆け出した。
俺も剣を携え、槍使いの天使に相対する。

「私は天使バラニマミレル。その短い剣で私と戦おうとは、舐められたものだな。」

確かに俺の扱う片手剣は、槍よりもずっと間合いが短く、不利だ。しかもここは開けていて、槍を遮るものはない。
しかし、俺は自身を鼓舞するように笑った。

「自分の有利を確信してる奴ほど、足元を掬われるもんだぞ?」

刃のぶつかり合う音が、暗い街の中に響き渡った。


 先生と共に、悲鳴に包まれる街をオレは駆けていた。人形使いを探せって言ったって、どこにいるんだよ!そう思っていた矢先、先生がとんでもないことを口走った。

「あの商業施設は地下鉄に続いている。地下を通って、君は逃げなさい。」

それを聞いてオレは反射的に反論する。

「ハァ!?何言ってんだよ!?あいつらを見捨てて逃げ出せって言うのか!?」

先生は冷たい目で言った。

「君は天使に敵うほどの戦力ではない。ここは大人に任せて、子供は安全なところに逃げなさい。」

「なっ……今更何言ってんだ、オレだって戦うために作られ━━」

「私に!これ以上ホムンクルスを死地に送らせないでくれ!」

オレの言葉を遮り、先生は叫んだ。
反論する言葉に悩んでいると、オレたちの目の前に、自動人形オートマタが現れる。

「ホムンクルスを確認、攻撃を開始します。」

手に持った長槍を、自動人形オートマタは振りかぶる。
それに対して先生が片手銃で応戦する。が、弾は装甲に弾かれ、全く効いている様子がない。

「逃げろ!早く!」

その言葉に反応する間もなく、自動人形は長槍を投げ、それはオレの腹部に直撃した。

「がっ……!ごぼ……っ!」

腹から出た血が、口から込み上げてくる。あまりの痛みに、一瞬意識を失いかけ、膝から崩れ落ちる。

「…………!」先生がすごく、悲しみに満ちた顔をしたのが一瞬、目に入った。

「ホムンクルス、無力化完了。対象の捕縛に移ります。」

そう言うと自動人形オートマタは、先生の胴を掴み、首元に槍の先端を突きつけ、引きずるようにして何処かへ連れていった。

「待て!先生を……どこに……」

追いかけようとしたが、槍が腹部に刺さった痛みで動けない。

「ミド……逃げろ……」

先生はそう言った。何もできない無力感と激烈な痛みに、オレは倒れ伏した。

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