愛されホムンクルスの復讐譚

ごぶーまる

文字の大きさ
上 下
12 / 35
2章

EP.12かつての友との戦い(前編)

しおりを挟む
 ふと目覚めると、俺は白い空間にいた。見慣れた天界とも違う。遠くには霧がかかり、地平線がはっきりと見えない。この場所が一体どこなのか、俺には見当もつかない。

「ニカフィム!」

軽快な声が耳に飛び込んでくる。俺は声のした方向に振り向いた。そこには、かつての親友レヴィエルが立っていた。彼の姿を見て、胸が締め付けられる思いがした。

「レヴィエル……」

俺は彼や、彼の所属する天界を裏切った身だ。この状況が理解できず、どこか気が引けた。

レヴィエルは笑顔で近づいてきた。「ニカフィム、前はひどいこと言ってゴメンな。」
彼の言葉に、俺は戸惑いを隠せない。
「俺、お前が男好きでも、全然気にしないからさ。」
「だからこれからも友達でいてくれよ。」

レヴィエルは手を差し伸べてきた。しかし、その笑顔と言葉は、どこか不自然に感じられた。俺は以前、彼にカミングアウトをして否定されたのだ。この展開は、あまりにも都合が良すぎる。

「嘘だ。レヴィエルはそんなこと言わない。」
俺は冷静に状況を分析した。「これは夢だろう、俺にとって都合のいい夢だ。」

レヴィエルの手を拒むと、彼の表情が一変した。笑顔が消え、冷たい視線に変わる。

「な~~~んでそんな気付き方するかな~~~」

レヴィエルの声音が変わり、両手に双剣を召喚した。俺に向かって斬りかかってくる。咄嗟に俺も剣を召喚し、応戦する。

状況を整理する。ここが異空間であること、レヴィエルの不自然な態度。答えは一つしかない。

「『夢見の奇跡』を使ったな!レヴィエル!」
夢見の奇跡。相手の夢の中に入る奇跡。
それだけなら何の害もないが、天使の夢に入り、その中で天使を殺害すれば、「殺害された」と認識した天使は本当に死んでしまう。

俺の叫びに、レヴィエルは薄笑いを浮かべた。

「ああそうだよ!堕天したお前を処刑しにな!」

レヴィエルは後方に跳び、羽根を広げて空中に飛び上がった。俺は地に足をつけたまま、彼を見上げる。

「なんでだよ、なんで堕天なんかしちまったんだ、ニカフィム!」

彼の叫びとともに、レヴィエルは急降下してきた。双剣を振り下ろす。俺は刃で受け止めようとするが、勢いが強すぎて弾き飛ばされてしまう。

地面に叩きつけられ、仰向けで起き上がろうとする。その時、レヴィエルの剣が迫ってくる。

「お前が堕天しなければ、ずっと友達のままでいられたじゃないか、なぁ?」

レヴィエルの言葉に、怒りが込み上げてくる。

「……っ、調子の良いことを!」

俺は腕で地面を支え、全身の力を込めてレヴィエルの顎を蹴り上げた。相手が怯んでいる隙に、素早く剣を再召喚し、体勢を整える。

「先に俺を否定したのはお前だろレヴィエル!お前が否定しなきゃ、もう少し我慢できたかもしれなかったのに!」

「我慢って何だよ!黙ってればいいだけの話だろ!」

レヴィエルの言葉に、さらに怒りが沸き起こる。

「その黙ってるだけが辛いって言ってるんだよ!」

叫びながら、俺はレヴィエルに向かって剣を叩きつけた。羽がない分、勢いはないが、相手を押し切るだけの気迫はあった。レヴィエルは双剣で防ぐが、徐々に刃が彼の首元に迫っていく。

「レヴィエル、俺はな、本当は堕天なんてしたくなかったよ。」
言葉を続けながら、さらに力を込める。
「好きな人と一緒にいることを認めてくれたら……堕天なんてしなくてもよかったんだよ。」
「お前みたいな奴がいるから!俺がずっと我慢しなくちゃいけなくて!周りが認めないから、俺が出て行かなくちゃいけなかったんだよ!」

感情の爆発とともに、俺の剣がレヴィエルの胴を切り裂いた。しかし、傷は浅い。
レヴィエルはふらつきながらも、戦闘体勢を崩さず、笑って剣を再び構えた。

「もっとかかって来いよ、ニカフィム。お前なんかちっとも怖くねぇ。」

そう言うとレヴィエルは再び飛び上がる。先程のような急降下をするつもりだろう。
しかし、俺にも策がある。天使の飛行能力は翼ではなく、「飛行の奇跡」によるものだ。

「なっ……!?」

レヴィエルの驚きの声が聞こえる。俺は空中を階段を登るように駆け上がり、彼に肉薄した。

刃をレヴィエルの首元に振り下ろす。双剣で防がれたが、刃は彼の首元にわずかに突き刺さった。

「悪いなレヴィエル、俺はもういい子じゃないんだよ。」
「ぐっ……!」

そのまま刃を押し切ろうとしたが、腹に蹴りを入れられて吹き飛ばされた。だが、その瞬間、俺の刃はレヴィエルの首の中程まで通った感覚があった。

地面を転がりながら、何とか受け身を取る。立ち上がり、レヴィエルの様子を確認する。

「……っ、はは……」
「俺は、お前のこと、全然わかってなかったんだなぁ……」

レヴィエルは多量の出血をしているが、まだ生きている。先ほどの傷では、彼に「死」を認識させるには至らなかったようだ。
レヴィエルは「治療の奇跡」を使い、瞬時に首の傷を癒した。

俺は再び剣を構えたが、レヴィエルの両手は、剣を放してしまっていた。

この展開に、俺は戸惑いを隠せない。レヴィエルの次の行動を慎重に見守りながら、緊張感が漂う空間に沈黙が広がった。​​​​​​​​​​​​​​​​
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

ふたつの足跡

Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。 今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。 そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...