ヒーローズベース株式会社

廿楽

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十八歳の就活

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「高校生」という類の人間は多岐に分かれている。
 大学に進学する者もいれば様々な理由で敢えて高校卒業後に働く選択をする者もいる。
 そして後者は三者三葉、いち早く働いて金銭を稼ぎたいと思っている者から親による束縛から逃れようと一人暮らしするため働く者、勉強に嫌気が差した者、さらには大切な家族に楽な生活を送らせるため働く者もいる。
 これは家族に楽な生活を送らせるために働くことを決意した一人の男を描いた物語である。

赤川あかがわ君、卒業後の進路は就職でいいのね?あなたの学力だったらある程度いい大学に行けるんだけど・・・」ととある学校で一人の生徒と教師が面談をしていた。
 生徒の名は赤川信壱しんいち。貧しい家庭で生まれ育ち卒業後は妹をいい大学に行かせるため就職を検討している。
「はい、俺ん家はお世辞にも裕福とは言えませんし妹もいます。お袋だって俺と妹を育てるため昼夜問わず働いていたのでこれ以上苦労を掛けさせるわけにはいきません。」と信壱は教師に言う。
 するとその教師は「そう、だったら今丁度あなたにぴったりな求人があるわ。」と信壱にある求人票を見せる。
 信壱はその求人を見て「名前はヒーローズベース株式会社、完全週休二日制、家賃補助有、月給三十万円・・・すごい、好待遇だ。」と目を輝かせた。
 そして「先生、俺、ここの面接受けます!」と信壱は面接を受ける意思を伝えた。
「赤川君、本当にここを受けるのね?」と教師が尋ねると「はい、絶対ここに就職して妹をいい大学に進学させてやります!」と答える。
 信壱の意欲を目の当たりにした教師は「それだったら応援するわ、妹さんのために頑張りなさい!」と激励した。
 それから数ヶ月が経過し、信壱は履歴書を書き終えて郵送し面接に向けての練習も欠かさなかった。
 面接の本番である十二月初めになり、信壱はヒーローズベース株式会社のビルへと来ていた。
 制服である学ランのボタンを全て閉めてから襟のホックを閉じ、受付で「本日こちらで面接を受ける赤川と申します。」と伝えると受付の女性に「あちらのエレベーター前に青色のラインが入った服の方がいますのでそちらへ向かってください。」と言われる。
 受付の女性が差した場所にはエレベーターがありその脇に会社の制服と思われる青色のラインが入った服を着用した茶髪の男性が立っていた。
 信壱はそこへ向かうと「ここに五人来たらエレベータを呼びますんでお待ちくださーい。」と茶髪の男性がやや崩し気味に言う。
 受付では信壱の後ろにも人がいたためすぐ五人揃いエレベーターが来る。
 信壱を含めた五人は上へと上がるエレベーターで三階へと上がりそこで待っていた黄色のラインが入った服を着た短髪の女性に誘導されて会議室へと入った。
 会議室には既に十人ほどの人がおり学校の制服を着ている者からリクルートスーツを着ている者までいる。
 数分後、会議室にいる人数が三十名ほどになったところで信壱達を案内した短髪の女性が「ではこれから面接がありますので受験番号一番から五番の方は廊下に置いてある椅子に腰かけてお待ちください。」と受験者を呼んだ。
 一番から五番の受験者が会議室から出ると信壱は一つ前の席に座っていた茶髪の受験者であるリクルートスーツを着た男に「いやー、緊張するよなー。だって面接だぜ、自分の人生が関わるから俺みたいなやつでも緊張するわー。」と声を掛けられた。
 信壱は「まあな、でも俺の場合それに加えて妹の人生と家族の生活も背負ってるからな。ヘマはできないさ。」と返事をする。
 すると茶髪の受験者は「マジかー、大変だなお前。あっ、俺は南條なんじょうてる。お前は?」と反応するとともに自己紹介した。
 信壱は「赤川信壱。それが俺の名だ。もし受かったら仲良くしような。」と名乗ると後ろから緑色の髪をツインテールにした活発な雰囲気の受験者であるブレザーを着た少女が「ねえ、良かったらでいいんだけどあたしとも仲良くしてくれない?」と信壱に声を掛ける
「えっ、別にいいけど君は?」と信壱が言うとその少女は「あたしは日下くさか由真ゆま。勉強に嫌気が差したから高卒でもよく稼げる仕事探してたらここに行き着いたの。」と自己紹介して信壱も「俺は・・・」と自己紹介しようとすると「あんたは名前聞いたから大丈夫。」と遮られた。
 こうして三人で話していると信壱の隣に座っていた受験者である黒く長い髪の大人しめの少女が「あの・・・できたら私も・・・」とオドオドしつつも声を掛けて来る。
「どうした?」と信壱が声を掛けると「あなたたち三人を見てたら楽しそうで・・・」とその少女は答え、信壱は「何だよ、友達になりたいのか?それならいいよ。」と信壱が言うとその少女は嬉しそうに「ありがとうございます。私、最上もがみ寿葉ことはと言います。」と名乗る。
 こうして四人で話しているうちに信壱から見て右隣の列に座っていた受験者が全員呼ばれ信壱は否が応でも緊張する。
 それから時間が経ち、短髪の女性が「受験番号十二番から十四番の方は廊下に置いてある椅子に奥から番号順になるように並び、腰かけてお待ちください。」と声を掛け、照が「十二番って俺じゃねえか。信壱、由真、行くぞ。」と促して廊下へと出る。
 指示通りに並んで椅子に座っている間も信壱は(うらら、絶対に面接を突破してお前をいい大学に入れるようにしてやるからな。)と心の中で呟いていた。
 こうしている間にも照が面接官に呼ばれて会場へと入って行きそれが信壱へのプレッシャーとして襲い掛かるも由真が「大丈夫、自分なりに緊張をほぐせばいいから。」と信壱の手を握って励ます。
 そして数分が経過し、照が会場から出て行き信壱の番となった。
 ドアをノックして「どうぞ。」と聞こえると「失礼します。」と挨拶をして扉を開け、中にいた紺色を基調とし水色のラインが三本入った制服を着用した面接官と思われる二人の男性と一人の女性に一礼して着席する。
 最初に信壱から見て左にいるやや若めの男性に「それでは所属している学校と名前をお願いします。」と言われると「群馬県立上南高校在籍、赤川信壱です。」と答える。
 続いて真ん中にいる初老の男性が「では弊社での就職を希望する理由を教えてください。」と質問し、信壱は「家族のために高校卒業後は就職を希望しており貴社であれば家族に楽な生活をさせられると思ったので入社を希望した所存です。」と答える。
 その後も面接は続き、全ての質問が終わると右側の女性が「では、一週間をめどにそちらのご住所宛に郵便で採用通知を送らせていただきます。お疲れさまでした。」と言い、面接は終わった。
 帰りの電車の中で信壱は(やれる事はやれた。あとは採用されるのを祈るだけだ!)と真顔になる。
 こうして帰宅してリビングのソファでゆっくりしていると信壱の妹である麗が「兄ちゃんおかえりー。どうだった?」と話しかける。
 それに対して信壱は「やれる事はやれたさ。一週間経てばどうだったか分かるよ。」と答え「何としてでも兄ちゃんがお前をいい大学に進ませてやるからな。」と笑顔を向ける。
 それからおよそ一週間が経った月曜日、学校から帰って郵便入れを確認すると信壱宛の郵便物が入っていた。
「ヒーローズベース株式会社・・・という事は採用通知か。どれどれ・・・」と信壱が封筒を開封して中身を確認する。
「赤川信壱 弊社は貴方を正社員として採用する事に致しました。つきましては三月二十日までに独身寮への入居手続きを行ってください。」と書かれた通知を見て信壱は「これって・・・受かったのか・・・」と小声で言うと「よっしゃぁーーー!」と喜びの声を上げる。
 その声に反応した麗が「えっ、兄ちゃん面接受かったの!?」と聞くと信壱は「ああ、そうだ。これで安心できるな。」と笑顔を向けたのだった。
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