全部この日のためだったなら

夏田

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01 毎日不幸と思うこと

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「今日はなんだかいい事ありそう」
と思ったことはあるだろうか。

ふむ、なんて羨ましいんだろう。
いや、俺も幼い頃は思った日もあったかもしれない。
でもそんなこと思い出せないくらい過去の話だ。

この世に生まれて15年。
もういい日がくるのを待つのに飽きた。
思春期を拗らせた訳では無い。
これは事実。俺の遠い昔のご先祖さまが優秀すぎたせいだ。

あきー!早く起きないと遅刻するわよー」

「はーい」

1階から呼ぶお母さんの声に少し気だるげそうに返事をしてしまった。
わざわざ起こしてくれたのに申し訳ない。お母さんも朝から息子に嫌そうな返事をされて…嫌だろうな。

すぐ自己嫌悪に陥ってしまう。
今日から通う高校の制服に腕を通しながら窓辺に置いてある花を見る。
俺が育てている花。
また今日も萎れていた。

1階に降りると父は新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
しかしその新聞は何があったのか知らないがところどころ破れている。

「お母さん、ごめんね、さっきだるそうに返事しちゃって…。また花が枯れててさ」

「あら?幸ったらそんなこと考えてそんな顔してるの?」

そんな顔とはどんな顔だろうか。
エプロン姿のお母さんは俺の朝ごはんを用意しながら笑顔で返事をしてくれた。

「ほーら!そんな辛気臭い顔しないで?今日から高校生よ!DKってやつね」

「DKって…あんま聞かないんだけど」

「そうなの?私の頃はよく言ってだんだけど。あら、おはよう明心あけみ

「お母さん…おはよう。お兄ちゃんもお父さんもおはよう」

「お?あぁ、明心も幸もおはよう。2人とも制服似合ってるぞ」

ビリビリの新聞に集中していたお父さんがようやく顔を上げた。
明心は俺の三つ下の妹で今日から中学生だ。
俺の横に座ってもそもそ朝食を食べ出す。この様子を見る限り俺と同じで花が枯れていたのだろうか。

明心が朝から元気がないのも、
お父さんの新聞が破れていることも、
俺の育てた花が萎れていることも、
全部俺の家が特殊だからだ。

俺の家は「日本中の不幸を代わりに受け持つ」という役割をしている。
正確に言えば「少しでも減らすために不幸を吸収している」の方がいいかもしれない。
まぁ要するに不幸体質ってやつだ。
なんでそうなったのかは俺の超ご先祖さまが、超エリートだったからだ。

平安時代とかに超ヤベー奴が現れて、日本中が超やべー感じになって、そこで超エリート先祖が「俺が受け止める」的な超かっこいいことしちゃって、今でもそれが受け継がれてて、俺は超迷惑してるってこと。

この家で唯一無害なのはお母さんだけ。
超エリート先祖の血を引いてないからだ。超羨ましい。

不幸なことばっかりすぎて不幸だった回数を数えるのを辞めた。
そんなの無駄すぎるからな。

こんな不幸を日本中から受け持っている家だが、世間はそんなこと知らない。なんせ平安時代の話だ。仕方ない。
だが、国のお偉いさんだけ知っている。まぁさすがに文献とかな?
平安時代に始まった俺の家の不幸体質はずっと語り継がれてるし不幸も受け継がれてて、国からはずっとありがたられてる。
が、公にはされない。というかできない。
もし俺たちが政治とかに携わろうもんならなんやかんやあって大事な情報をぶちまけちゃうかもしれない。
もし俺たちが実は不幸受け持ってマース!なんか言っちゃうとまじ誰も寄り付かなくなるし、不幸受け持ってくれるんならって感じでストレスの吐き溜めにされかねない。わんちゃん殺される可能性もある。

そのため、公にはされず、感謝もされず、不幸を受け持つ代わりに、国から穏やかに暮らせる分は支給される。
何が支給されるか?
もちろんマネーだ。
この世はお金しか信じられない。
お金があればお金が変わりに不幸を受け持ってくれる。
まぁその意味は次第にわかるさ。

あー不幸だ不幸だ。
毎日思って俺は生きる。
いや、
今日から始まる高校生活だって並以下な日常しか送れない。
最低じゃなければいいんだがな。
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