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学園編

70 またですか

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そして、三日後。
建物の日陰にそって歩いていると、上からなにかが落ちてきた。
私は暑さで苛立ちを感じながら、ぼやぁとそれを見る。

ーーー誰だ、木桶バケツごと水を落とすやつは……。

普通、中身の水をひっくり返すものではないのか。
注目するべきはそこではないだろうに、イライラとしていた私はつい令嬢らしからぬ行動をとった。
木桶の着地地点からスルリと外れて、おもいっきりの右ストレートをぶちかます。
途端、木桶は粉砕されて破片が足元に飛び散った。
霧散される水は結界を張って弾く。

「……あ、今の公共物破壊になるのかしら?」
それで、一番最初に思い浮かぶことがそれだからどうしようもない。

二階からパタパタと慌てる音がしたから、サーチをかけてみればメロディではない令嬢が犯人だとわかる。
しかも、今回は複数犯のようだ。

「……はぁ」

思わずため息が漏れ出た。
やっとの思いでメロディを説得した途端これである、疲れたしか感想が出てこない。

「おいっ、大丈夫か!?」

突然後ろから声がかかった。
そういえば近くにもう一人いたな。

「お久しぶりですわ、サウラス様」
銀髪が日光に照らせれて眩しい、直感で動く自称ライバルが来た。
「……なんか、嫌みな言い方だな」
「あら、気のせいですわ?」

気のせいではない。
クラスで孤立するのは君のせいでもあるからね。
散々人の評判を下げてくれたくせに、逃げたくなったらとっとと逃げるなんて最低である。
まあ、人様の家族事情に首を突っ込んだのは悪いとは思っているが、そもそも相談してきたのだからその覚悟はしておくべきところだろうに。

彼は私が言ったそれに気がつかなかったわけじゃあない。
彼はメロディと違って頭は良いし、人の感情に疎いわけでもない。
ただ受け入れたくなかっただけ。
まあ、そういうお年頃なのだろう。

それでも目を背けないで欲しいと思ったのは、過去の自分と見比べたからにすぎない。
お節介と思えば楽だったろうに、真面目に考えるものだから私も相手にしなくてはならない。
サウラスは居心地悪そうに目を泳がせている。

「その……、手慣れたようすだったが、いつもこうなのか?」
手慣れたようすというのは、先程のパンチのことだろうか?
なにかしら、女性として恥になるような勘違いを生んでいる気がしてならない。

「ええ、でもいつもこうなわけではないですよ?ちゃんと素手じゃなくて魔法で止めてます」
本当はナイフ等は魔法を使ってすらいないのだが、そこは黙っておく。
「素手?俺には魔法で防いでいるようにしか見えなかったが……?」

首を傾げるサウラス。
はて?確実に見ていたと思うけれどな?
距離、場所ともにばっちり見えていたはずである。
うーん、まばたきでもしたか……。
殴る構えは一瞬だったので、まばたきしたら見ていないかもしれない。
結論、そうなった。

「あー、うん、そうですわ。結界で防ぎましたわ」
棒読みだがしかたない。
私は見ていないのを良いことにはぐらかした。

しかし、戦士としてそれはどうなのだろうか。
学園に入る大半の貴族次男たちは軍に就職する。
がたいのよさから見て、剣が使えないわけではないだろうに、つくづく惜しい奴だな。

私はなにも言わずに口をそっと閉ざした。
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