60 / 165
幼少期編
30 パーティー終わって
しおりを挟む
あれから、またいつもの日常に戻った。
相変わらずお父様は忙しそうだし、お兄様は受験生よりお勉強している。
お母様も優雅にお茶を飲んで暇なのかなと思えばいつの間にか居なかったり、不定期だ。
そんな日々を過ごしながら、私はあることをやらかしてしまった。
それは、
「お嬢様……これ……」
チェニーが右手に箒を持ちながら差し出してくる紙束。
それは私が普段使いしている計算書だ。
電卓がないこの世界では、ちょっと計算してみたいことがあると頭で考えるより書いた方が早い。
私は昔の魔法理論を思い出すためにとか、時間を累計してみたいときとかに使っている。
いえば、小学生レベルの算数。
しかし、この世界では大人レベルの数学だ。
まずいよ、なんて言い訳しよう……。
紙に書いてある数字は間違いなく私が筆跡だ、チェニーは間違えないだろう。
現にこうやって持ってきたわけだし……。
私はひきつりそうになる顔をどうすることもできずにいいわけを始めた。
「チェニー……、えっとね、これは本を写しただけなの」
「いいえ、当家にこのような難しい数学の本は置いてありません」
……その口ぶりだと家に置いてある本をすべて把握していると言っているようだ。
「私も最初はそう思って図書室で探しましたので」
……なるほど。
「んー、はぁ……」
これ以上は思い付かなくて私は諦めた。
「……チェニー」
「はい」
「お願いだからこのことは他の人たちには内緒で……」
五歳が大人かおまけで数学できるとかヤバい。
変な目で見られるに決まっている、今チェニーがそうしているように……。
「いいえ、お嬢様。ご当主様には報告させてもらいます。それで、どうやってこの数学を身に付けましたか?」
ああ、報告しちゃうのね。
そうだよね、雇い主はお父様だもの……。
どうしようか、ここで前世の記憶ありますとか言ったら狂っている子供として見られるだろうか。
うう、と唸っているとちょんちょんとプロンが肩をつついてくる。
目の前にチェニーがいるので顔は向けられないが『テレパシー』で返事はした。
『なんですか?今絶讚言い訳考え中なのですけども……』
『うん、困ってるみたいだったから手助けしてあげようと思ってね。その言い訳、私たちを使えばいいわ~。妖精が教えてくれたってね』
『いいんでしょうか?それって私が妖精を見ることができるとばらしちゃうってことですよね』
『大丈夫、もうばれてるわ』
『ええっ!?』
『あなたのおばあちゃんは妖精が見える見たいよぉ。私たちのことをバッチリ見ていたわ。あの後でお父さんたちと報告会していたわよぉ』
なにぃ!?
『え、なんで教えてくれないんですか!?』
『だって、聞かれなかったし☆』
そのふざけた姿はあのときのルスピニーと重なって見えた。
こいつらぁ……。
しかし、怒っても解決はしない。
せっかくの助け船だしありがたく乗せてもらおうじゃあないか。
チェニーは黙っている私を無言で待っていてくれたらしい、気が利くなぁ。
「チェニー、実はね。私、妖精が見えるの」
「……はい?」
私はチェニーに今さっき考えた真実と嘘つきを交えた話をした。
「……なるほどです。確かにそれならば話は通りますが……」
妖精が見えるということに納得がいかないらしい。
「まあ、わかりました。ですが、報告はさせてもらいます。このことをご当主様はご存知なのですか?」
「ううん、話したことないわ」
「そうですか……」
チェニーはまたメイドとして仕事をするために下がっていった。
ごめんね、チェニー。
相変わらずお父様は忙しそうだし、お兄様は受験生よりお勉強している。
お母様も優雅にお茶を飲んで暇なのかなと思えばいつの間にか居なかったり、不定期だ。
そんな日々を過ごしながら、私はあることをやらかしてしまった。
それは、
「お嬢様……これ……」
チェニーが右手に箒を持ちながら差し出してくる紙束。
それは私が普段使いしている計算書だ。
電卓がないこの世界では、ちょっと計算してみたいことがあると頭で考えるより書いた方が早い。
私は昔の魔法理論を思い出すためにとか、時間を累計してみたいときとかに使っている。
いえば、小学生レベルの算数。
しかし、この世界では大人レベルの数学だ。
まずいよ、なんて言い訳しよう……。
紙に書いてある数字は間違いなく私が筆跡だ、チェニーは間違えないだろう。
現にこうやって持ってきたわけだし……。
私はひきつりそうになる顔をどうすることもできずにいいわけを始めた。
「チェニー……、えっとね、これは本を写しただけなの」
「いいえ、当家にこのような難しい数学の本は置いてありません」
……その口ぶりだと家に置いてある本をすべて把握していると言っているようだ。
「私も最初はそう思って図書室で探しましたので」
……なるほど。
「んー、はぁ……」
これ以上は思い付かなくて私は諦めた。
「……チェニー」
「はい」
「お願いだからこのことは他の人たちには内緒で……」
五歳が大人かおまけで数学できるとかヤバい。
変な目で見られるに決まっている、今チェニーがそうしているように……。
「いいえ、お嬢様。ご当主様には報告させてもらいます。それで、どうやってこの数学を身に付けましたか?」
ああ、報告しちゃうのね。
そうだよね、雇い主はお父様だもの……。
どうしようか、ここで前世の記憶ありますとか言ったら狂っている子供として見られるだろうか。
うう、と唸っているとちょんちょんとプロンが肩をつついてくる。
目の前にチェニーがいるので顔は向けられないが『テレパシー』で返事はした。
『なんですか?今絶讚言い訳考え中なのですけども……』
『うん、困ってるみたいだったから手助けしてあげようと思ってね。その言い訳、私たちを使えばいいわ~。妖精が教えてくれたってね』
『いいんでしょうか?それって私が妖精を見ることができるとばらしちゃうってことですよね』
『大丈夫、もうばれてるわ』
『ええっ!?』
『あなたのおばあちゃんは妖精が見える見たいよぉ。私たちのことをバッチリ見ていたわ。あの後でお父さんたちと報告会していたわよぉ』
なにぃ!?
『え、なんで教えてくれないんですか!?』
『だって、聞かれなかったし☆』
そのふざけた姿はあのときのルスピニーと重なって見えた。
こいつらぁ……。
しかし、怒っても解決はしない。
せっかくの助け船だしありがたく乗せてもらおうじゃあないか。
チェニーは黙っている私を無言で待っていてくれたらしい、気が利くなぁ。
「チェニー、実はね。私、妖精が見えるの」
「……はい?」
私はチェニーに今さっき考えた真実と嘘つきを交えた話をした。
「……なるほどです。確かにそれならば話は通りますが……」
妖精が見えるということに納得がいかないらしい。
「まあ、わかりました。ですが、報告はさせてもらいます。このことをご当主様はご存知なのですか?」
「ううん、話したことないわ」
「そうですか……」
チェニーはまたメイドとして仕事をするために下がっていった。
ごめんね、チェニー。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
酔って幼馴染とやっちゃいました。すごく気持ち良かったのでそのままなし崩しで付き合います。…ヤンデレ?なにそれ?
下菊みこと
恋愛
酔って幼馴染とやっちゃいました。気付いたら幼馴染の家にいて、気付いたら幼馴染に流されていて、朝起きたら…昨日の気持ち良さが!忘れられない!
…え?手錠?監禁?ジョークだよね?
んん?幼馴染がヤンデレ?なにそれ?まさかー。
小説家になろう様、ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる