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幼少期編

29 お母様の苦労

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何事も無かったかのようにしれっと戻ってきた私は、お母様を探した。
お母様はお綺麗な貴族達の中でも群を抜いて一等綺麗な容姿だったので、あっさりと見つかった。
お父様とお兄様も揃っている。

ーーーうわぁ、あそこだけ別次元なんだけど……。
あの人たちが私の家族なんだと思うと、嬉しいのやら悲しいのやら……。
いや、私もちゃんと遺伝はしているはずだから、多分。

きっとそうだと自分に言い聞かせて、あの薔薇が咲いている集団に突っ込んだ。
「おお、サラ。どこに行っていたんだい?探していたんだよ」
「少しお花摘みに行っていたのですわ」

お花摘み……自分で言っといて吐き気がしそうだった。
私、五十のBBAだし。

「そうかい、なら良いけどね。それよりも、先程、王族の方が入場されたところだったんだ」
「まあ、ごめんなさい、お父様」

王族に挨拶をすることは必要事項だ。
だいたいは位が高い順番から挨拶に行く。
うちは公爵家だから、かなり最初だったのだろう、出遅れちゃったかぁ。

「気にすることはないよ」
「そうそう、この人、娘自慢したかっただけだから」
お母様はうふふと笑う。
王様に娘自慢ですか、お母様、大変ですね……。

「いいよ、挨拶とか。どうせ今日は第二王子の婚約者探しだろ?むしろ良かったよ」
いえ、お兄様。
相手は王族なんですよ?良くないですよね?
「そうだな」
滑らかに頷くお父様。
なんで二人ともそんなに偉そうなの?

「いい加減にしてくださいませ、お説教が足りなかったのかしら?」
にこりと微笑むお母様。
私は知っている、こういうときのお母様は鬼に化けると。
帰ったら反省会コースまっしぐらです。
そして、その家族にしかわからない威圧感で見事にお父様とお兄様を怯ませていました、パチパチ。

しかし、婚約者探しか。
うちは公爵家だし、もしかしたら回ってくるかもしれない。
第二王子は同い年らしいし、可能性は高い。
明らかに面倒だとわかるので勘弁したいが。

「どうしましょうか、サラ。あなただけでも挨拶に行ってくる?」
お母様は私を試すように扇子をパッと開いた。
その答えはもちろんノーセンキューだ。
「いいえ、お母様。私まだ五歳ですのよ。一人で挨拶に行くなんて失礼になっちゃいますわ」

ここで「目をつけられるのが嫌、婚約したくない」と言えば、ドボン。
私もお説教に参加しなければならなくなるだろう。
お母様のマナー教室はスパルタである。
ちゃんと正解だったようで、お母様は扇子を閉じた、やれやれ。

正直、第二王子でも王族なのだから親孝行するなら、いい物件なのだろうけど、王族だけにはなりたくなかった。
私は魔法を研究するという願望がある。
そのためには婚約者とかなるべきじゃない。

とはいえ、どんな人か気にならないわけではない。
もちろん、この国を治める人である国王と王族たちには会ってみたいのだ。
今回はそこに罠があるみたいだから諦めるけどね。

私は王族たちの顔もろくに見ずに、パーティー会場をあとにして、馬車に乗り込んだ。
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