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幼少期編

22 おばあさま到来

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目の前のキスシーンが終わったのを見計らってそう言えばと玄関に目線をいかせた。
そこには先程からにこにことこちらをうかがっているドレス姿のご婦人が一人。
いや、ご夫人かな?

ご夫人と目が合うとにこりと微笑むものだからよけい分からない。

「にいに、あのご夫人はどなたでしょうか?ずっとあそこで立たせていては失礼ですよね?」
するとお兄様は意外そうな顔をする。
「なんだ、サラ。覚えていないのか?」

どうやら私とあのご夫人は会ったことがあるらしいが、それはきっと私じゃなくサラだ。

「あの方は僕たちのおばあさま、アンリエット・デューク・ニコラス様だ。思い出したかい?アンおばあさまだ」
「まぁ、そうでしたわっ」

本当ははじめましてだが、さも思い出したように振る舞った。
怪しまれるのはちょっとまずい。

名字がニコラスならばきっと父方のおばあさま。
そうなると私はおじいさまにもあったことがあるのだろう、情報収集しなければ、今なら子供パワーで取り繕える。
いっそのこと「中身違います」と言えてしまったら楽なのだろうが、万が一にでも殺される可能性はないほうがいい。
魔法がファンタジーな世界だし、私が死ねばサラが復活するなんて可能性がないとは言えないのだから。

私は上手に猫を被って表情を取り繕う。
今はひさしぶりに会えたおばあさまに会えて嬉しい孫の顔だ。
頭上でルスピニーやルリミアが『うまいな』とか『うまいのぉ』とか言っているが無視だ無視。

「アンおばあさま!いらっしゃいませ」
軽やかにおばあさまに近寄るとおばあさまは嬉しそうに笑った。
「こんにちわ、サラちゃん。会わない間に随分言葉が上手になったんだね、もうすっかり、素敵なレディーじゃないかい」
「うふふ、そうですか?」

おばあさまはお母様とはまた違った美人で優しそうな目元に穏やかな微笑みが印象的だ。
うん、好きなタイプのおばあちゃんです。
遅れてお兄様もおばあさまに挨拶をする。

「お久しぶりです、アンおばあさま。お母様との小旅行は楽しまれましたでしょうか?」
「ええ、上々よ」
「それはよかったです」

にこやかに微笑むおばあさまはいいのだが、お兄様はなんだか少し黒い雰囲気を醸し出している。
それは家族じゃないと気づかないような小さな変化だ。
なにを考えているのだね、少年。

「さて、おばあさまは少しばかりお父様に用事があるのですよ。サラちゃんとタファくんはお部屋で遊んでいて待っていてくれないかしら?」
おばあさまから言われれば決定事項だろう、私は「はい」と二つ返事をしたが、お兄様は不満があるようだった。
「僕は一緒に行きたいのですが……」

つまりは、私だけに聞かせたくない話と言うわけですね。

「いいえ、タファくんはサラちゃんの護衛よ。妹を守れない兄は失格、わかるかしら?」
「もちろん、サラが生まれたときから一生守ると心に誓っていますから」

あら、頼もしい。

妹なんかにとその騎士の誓いが勿体ない気もするが、嬉しさと安心を感じることができて兄の背中が頼もしく見えた。

その後、部屋へ移動するさいに手を繋ぎ、片手は剣を握る兄の可愛らしい姿に私は内心微笑みながら手を口にそえた。
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