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1章 リブロ編

ラジハルとの決闘 1

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 支部長とラジハルの後に続き、訓練場へ向かう。

「カミトさん!」

 その最中、俺はルーリエさんに呼び止められた。
 そのため振り返るとルーリエさんを始め、いつも優しい対応をしてくれる受付嬢たちがいた。

「頑張ってくださいね!私たち、カミトさんがオーガを倒すことのできる実力者だと信じてますから!」

 ルーリエさんが受付嬢全員の想いを代弁してくれたのだろう。
 みんなの表情からそう判断する。

(俺が嘘をついてるとは思ってないんだな)

 そのことをとても嬉しく思う。

「ありがとうございます、ルーリエさん。それに皆さんも。絶対、勝ってきます!」

 そう答えた俺はルーリエさんたちに背を向けて歩き出した。



 リブロ支部に併設されている訓練場に到着する。
 そこには円形のステージが設置されており、ステージには場外とならないよう、壁も建てられている。
 また、周りには闘技場のように観戦することのできる観客席が設けられており、俺たちの会話を聞いた冒険者たちが観客席に座っている。

「ラジハルー!一瞬で終わらせるなよー!ザコがサンドバッグにされるところを見に来たんだから!」
「気絶させないよう気をつけろよ!」

 等々、俺を罵倒する声や俺が惨めに負けるところを期待する声が多々聞こえてくる。
 そんな声が聞こえる中、俺とラジハルは向かい合い、その中央に支部長が立つ。

「審判は私が務める」

 そう言って審判を務める支部長がルール説明を行う。

「ルールは2つ。武器の使用に制限はないことと、どちらかが気絶するまで戦うこと。以上だ」
「だってよ。つまり、お前は気絶するまで俺のサンドバッグになるってことだ。ま、そう簡単に気絶なんかさせないけどな」

(なるほど。支部長は俺が気絶するまでラジハルに攻撃させる予定か。そして、ラジハルは俺を気絶させる予定なんかないと。嫌なルールだ)

 支部長は俺を弱者と思っているにも関わらずこのルール。
 支部長の性格が悪さが著明に現れてる。

「先ほど預かった金貨2枚については勝者に渡す。ラジハルが勝った場合はオーガを倒し、魔石を手に入れた者へ返却するように」
「へーい」

 ラジハルが口だけの返事をする。

 すると「あ、そうだ」と、思い出したかのようにラジハルが話し始める。

「決闘の報酬、1つ追加させれくれよ。俺はお前の実力を証明するために巻き込まれたんだから1つくらい増やしてもいいだろ?」
「は?巻き込まれたとか全く思ってないだろ」
「そんなことねぇぞ。決闘なんか起きなかったら俺は今頃8階層でオーガを倒しているんだ。得るはずだった金額くらいの報酬はあってもいいだろ?」

 現時刻は夕方なので決闘がなかったら8階層にいるとは思えない。

 そう思い反論しようとするが…

「ラジハルの言う通りだな。B級冒険者であるラジハルの貴重な時間を使ってるんだ。報酬の追加はすべきだぞ」

 審判である支部長がラジハルがの提案に同意する。
 全然同意できる内容ではないが決闘が無くなってしまうのは困るので引き受けることにする。

「いいだろう。負けるつもりなんてないからな」
「弱いくせに物分かりがいいじゃねぇか」
「で、追加の報酬ってのはなんだ?」
「あぁ。お前の妹をよこせ」
「………は?」
「お前の妹をよこせって言ったんだ」
「はぁ!?なんでクレアが追加の報酬になるんだよ!」
「そりゃ、兄が『スライムしか倒せないゴミ』ってことが広まってるせいで学校では肩身の狭い思いをしてるからな。俺が救ってやろうと思ったんだ。まぁ、お前みたいに不出来じゃないからイジメられてはねぇがな」
「なっ!」

 その言葉に俺は衝撃を受ける。

(俺のせいでクレアは普通の学園生活を送ることができていなかったのか?不甲斐ない俺のせいで……)

 そして自分を責めてしまう。

(それなのにクレアは学校のことを俺に話さず、いつも俺に元気を与えてくれてたのか)

 俺が帰るといつもクレアは笑ってくれた。
 俺が困っているといつもクレアは助けてくれた。
 そしてクレアは常に俺の味方でいてくれた。

 だが…

(何がお兄ちゃんだ。俺は一番近くにいる妹でさえ守ることができないなんて)

 クレアは俺に心配をかけないよう、学校のことを言わず、1人で抱え込んでいた。
 そんなクレアを俺は助けることができなかった。
 そのことに心を痛める。
 すると聞き捨てならないセリフが聞こえてきた。

「お前の妹って顔と身体が俺のタイプなんだよ。だから以前、お前の妹を遊びに誘ったんだ。でも、アイツは俺の誘いを断った。だから俺は『兄はスライムしか倒せないゴミだ』という噂を学校中に広めてやったんだ。いやぁ、噂ってすごいな。一瞬でお前の妹は1人になったぞ!」
「っ!」

 その言葉を聞き、心の底から怒りが込み上げてくる。

「でもよ、アイツは泣きもせずに毎日学校に通ってるんだから心が強いよな。そんな奴ほど俺の物にして俺色に調教したくなるよなぁ!」

 その言葉を聞いて、俺は自分を押さえつけていた何かが消し飛んだ。
 当初はラジハルに俺がオーガを倒せる実力を持っていることだけを証明する予定だったが、そんな気持ちは一瞬で吹き飛ぶ。

「―――ねぇ」
「あ?」
「お前は絶対許さねぇ!」
「はっ、ザコの分際で調子に乗るなよ!」

 俺たちは向かい合いながら敵意をむき出しにする。
 それを見た支部長が「始めっ!」という声をあげた。
 するとラジハルが握り拳を作って俺の下に突っ込んでくる。

「死ねっ!」

 普通の冒険者なら回避することができないスピードだが、全ステータス12,000越えの俺は問題なく視認できる。

 “パシっ!”

 俺はラジハルのパンチを左手で受け止める。

「!?」

「お前の攻撃はこんなもんかよ。なら、次は俺の番だな」

 そう言って俺は右手をグーにする。
 そしてラジハルが気絶しない程度で腹を殴る。

「かはっ!」

 俺のパンチを喰らい吹き飛んだラジハルが“ドンっ!”という大きな音ともに壁にぶつかる。
 まさか俺がラジハルを吹き飛ばすとは思わなかったのか、俺たちの決闘を見ている観客が一言も喋らなくなった。

「立てよ、ラジハル。俺とクレアが味わった苦しみを味わわせてやるから」

 俺は吹き飛んだラジハルに向けて、そう言った。
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