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6章 ドラマ撮影編

『生徒会長は告らせたい』の撮影 9

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 内山社長との話が終わり、矢上さんの車で撮影現場に向かう。

「いよいよ明日が1話の放送日ですね」
「そうですね。1ヶ月があっという間に経ちましたよ」

 6月初めから撮影していた『生徒会長は告らせたい』が、ついに明日放送スタートとなる。

「前評判はとてもいいみたいですね」
「寧々も言ってました。7月から放送されるドラマの中では1番注目度が高いと」
「漫画が原作のドラマはヒットしにくいという話は良く聞きますが、今回はヒットしそうな予感がしますね」
「監督がこの業界で有名な森野さんに加え、真奈美や立花さんといった凄腕女優が出演してます。そりゃ注目されますよ」
「それに凛さんの俳優としての復帰作でもありますからね!」

 そういった理由で放送開始前にも関わらず、かなり注目されている。
 そんな会話をしているといつの間にか撮影現場に到着していた。
 俺はいつも通り監督やスタッフたちに挨拶をしながら撮影現場に入る。

「今日は原作第2巻に掲載されている黒川くんが告白される話を撮影するぞ」

 とのことで監督が俺たちに指示を出す。
 この話は黒川くんが1つ年下の女の子から告白され、その現場を目撃した二宮さんと藤崎さんが、黒川くん攻略に向け作戦会議を行う話だ。
 俺は監督が指示を出している間、1人の女の子に話しかける。

「おはよ、浜崎さん。今日はよろしくね」
「は、はいっ!お、おはようございます!きょ、今日はよろしくお願いします!」

 俺の挨拶にガチガチに緊張しながら返事をする浜崎さん。

 この娘は浜崎涼菜はまさきすずなさん。
 女優としての実績がなく、この作品では俺に告白するだけの役となっており、浜崎さんにとってはデビュー作となる。
 実年齢は俺の2つ年下の高校2年生で金髪をポニーテールにしており、真奈美や立花さんに負けず劣らず可愛らしい容姿をしている。

「緊張してるな。もっとリラックスした方がいいよ」
「そ、そうなのですが……」

 初めての演技ということで緊張しまくっており、なかなかリラックスできないようだ。

「うーん……あ、そうだ!緊張してる時は手のひらに『人』という字を3回書いて飲み込むと緊張がほぐれるらしいよ」
「そ、そうですね!やってみます!」

 ぎこちない動きで浜崎さんが手のひらに『人』という字を3回書いて飲み込む。

「ごくっ」
「どうかな?少しはほぐれた?」
「……ダメです。まだまだ人を飲み込まないとダメみたいですね」
「人喰い狼みたいなこと言ってるな」

 そんな感じでガチガチに緊張している浜崎さんの側で、少しでも緊張がほぐれるよう話しかけること数分。

「よしっ、準備ができたから撮影を始めるぞ」

 との言葉が聞こえてきた俺たちは森野監督から指示をもらい配置につく。
 そして監督が「よーい……アクションっ!」との声を発する。
 そのタイミングで体育館裏に呼び出された黒川くんが告白されるシーンの撮影が始まった。



『あの……お忙しい中、来ていただきありがとうございます』

 弱弱しい声で浜崎さんが話し始める。

『それは構わないけど……何か用か?』
『え、えーっと……わ、私、黒川会長のことが好きです!付き合ってくださいっ!』

 顔を赤くして浜崎さんが告白する。
 浜崎さんの仕草や表情から精一杯勇気を振り絞った告白だということが伝わってくる。

(演技ではなく本気で俺に告白したんじゃないかと勘違いしそうになるくらい良い演技だ)

 浜崎さんの迫真の演技に内心驚きつつ、俺はセリフを言う。

『……ごめん。俺は君と付き合うことができない』
『っ!』

 俺の返答に浜崎さんが泣きそうな表情となる。

『そう……ですよね。ぐすんっ。お時間いただきありがとうございました』

 浜崎さんが一筋の涙を溢しながら俺の前から走り去る。

『本当にごめん。俺には好きな人がいるんだ。生徒会室で駄弁るだけで想いを伝えることはできてないけど』

 走り去る背中を見つめながら誰も聞かれていないと思い、申し訳なさそうに呟いた。



「カットぉぉーっ!」

 そのタイミングで森野監督の声が響き渡る。

「浜崎さん」
「は、はいっ!」
「黒川くんへ告白する時だけど……」

 そう言って監督が浜崎さんへ要望を出す。

「この点に注意してもう一度やってくれ」
「はいっ!」

 元気よく返事をした浜崎さんと共に、俺は撮影の撮り直しを行った。
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