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6章 ドラマ撮影編

『生徒会長は告らせたい』の撮影 1

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~立花香帆視点~

「よーい……アクションっ!」

 監督の声が響き渡り、原作第1話である黒川くんが二宮さんから告白してもらうよう暗躍する話が始まる。
 まずはナレーターの方が状況説明を含め、話し始める。
 今回は適当なスタッフがナレーターを務め、後日、しっかりとしたナレーターを用意し、収録する予定だ。

――生徒会長黒川と副会長二宮は、お互いに惹かれ合い恋人になりたいと思っているが告白する勇気がなく、生徒会室で駄弁るだけの日々を過ごしていた。そんなヘタレ2人は自分から告白するのではなく、相手から告白させようという思考回路に至り、日々相手を惚れさせ告白させるための努力していた。

『そういえば先週、デパートのくじ引きでこんな物を当てたんだ』

 そう言って会長席に座っている凛が映画のペアチケットを真奈美に見せる。

『運がいいですね、会長』

 真奈美が手にしていた書類を目の前のテーブルに置きながら淡々と返答する。

 普段は元気いっぱいで弾ける笑顔を振りまく真奈美だが、本作に登場する二宮さんはお金持ちのお嬢様でクールな女の子。
 黒川くんのことが好きだけど素直になれず、クールな態度で振る舞っている二宮さんを完璧に演じきっており、この演技を見ただけで原作を何度も読み込み、練習してきたことが分かる。

『偶々当たったんだ。でも、これの使用期限が明日の土曜日までなんだよ』
『それは急いで使わないといけませんね。せっかくのタダ券ですから』
『そうなんだけど誘った人全員から断られたんだよ。だから一緒に行ってくれる人を探していたところなんだ』

 凛がチラッと真奈美を見る。

――虚言である!この男、二宮が明日暇なことを知り、今日まで誰にも話さず隠し持っていたのだ!

『そうなのですね。それなら明日私と一緒に……っ!』

 そこまで言って自分の失言に気づいた真奈美が勢いよく口を閉ざす。
 その瞬間、凛の口角が上げる。

――異性を遊びに誘うということは相手に好意的な感情を抱いていると言っているようなもの!その好機を逃す黒川ではない!

『ん?何だ?もしかして二宮は俺と映画館に行きたかったのか?』

 真奈美から待望の返答が聞こえたため、凛がここぞとばかりに追撃する。

『そ、そんなことありません』
『ならさっきの言葉はどういった意図があったんだ?二宮が俺と映画館に行きたいと言ってるように聞こえたんだけど俺の気のせいか?』

 凛がドSイケメンのような雰囲気を醸し出しながら会長席から立ち上がり、イケメンスマイルで真奈美へ迫る。

『どうなんだ?二宮』

 至近距離で真奈美の顔を見つめ、問いかける。

『そ、それは……』

 真奈美が目を逸らしながら言い淀む。
 そんな真奈美を見て追撃の手を緩めない凛が、イケメンスマイルを崩さず問いかける。

『異性を映画館デートに誘うという行為は相手に何らかの感情を抱いていることになる。例えば好意とか』
『っ!』
『もしかして二宮は俺のことが……』

 と、凛が決定的な言葉を言おうとした時、真奈美が遮るように言葉を発する。

『な、何を言っているのか理解できませんね。私はただ、使用しなければ券が勿体ないと思っただけです』

 必死に脳内をフル回転させながら弁明する姿をしっかりと表現しつつ、反撃に移る。

『会長の方こそ、全員に断られたことを私に話さなくても良かったと思います。もしかして遊んでくれる友達がいないことをアピールしたかったのですか?』
『っ!』

 真奈美の発言に凛が息を呑む。

『あ、それとも会長は私と映画館デートしたかったから、わざわざ私の目の前で行く人がいないアピールをされたのですね』
『くっ!』

 今度は真奈美の発言に凛が慌てだす。

『となれば、会長こそ私に何らかの感情を抱いてるのではないですか?例えば好意とか?』

 形勢逆転。
 今度は真奈美がドS美女のような表情で問いかける。

 普段の真奈美からドS美女など想像できないが、これまたしっかりと演技できており、反論できない謎の雰囲気を醸し出している。

『そ、そんなわけないだろ。た、確かに二宮は可愛くて魅力的な女の子だから好意的な感情を抱いていないと言えば嘘になるが…』
『……ふぇっ!可愛くて魅力的……っ』

 真奈美が顔を赤くして嬉しそうに照れ、ドS美女の雰囲気が一瞬で霧散する。

(あ、素の反応が出ちゃってるわ)

 凛の言葉に恋する乙女のような顔となる真奈美。
 セリフだと分かっていても好きな男から言われ舞い上がっているようだ。

――人間とは動揺している時、往々にして自分の発言に客観性を失い、ぽろっと本心が出てしまう。そのため、生徒会室にカオスとなる!

『か、会長が可愛くて魅力的な女の子って……』
『ってなわけでだな、二宮が可愛いことは認めるが俺は映画デートを誘ったわけじゃなくて、くじ引きでタダ券をゲットしたことを自慢したかっただけで……』

――その後、黒川の言葉に嬉しすぎてバグる二宮と、必死になって弁明する黒川の姿が数十分ほど続き、本日も全く進展しなかった。

「カットぉぉーっ!」

 そこで森野監督の声が響き渡った。
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