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6章 ドラマ撮影編

立花香帆との出会い 3

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「それと最後に一言。復帰してくれてありがとう。これで私はアナタを超えたことを証明できるわ」

 笑みを浮かべながら立花さんが言う。
 そんな立花さんに俺は言わなければならないことがある。

「なぁ、立花さん。君はどうやら俺のことを勘違いしているぞ」
「勘違い?」
「そうだ。俺に演技の才能があることは認める。だが、俺は天才じゃない。6年間のブランクをなかったことにできるほど天才じゃないぞ」
「そんなことないわ。アナタは天才よ。だって小5で名誉ある賞を受賞したのだから。きっと6年のブランクなんて感じさせない演技を披露してくれるはずよ」

 なぜ俺のことを頑なに天才と思っているのかは分からないが、真っ直ぐな瞳で言うので、本心から思っているらしい。

「そんなアナタを私は超えてみせる。俳優業を舐めている天才なんかに私は負けない。絶対、私みたいな凡人でも努力すれば天才を超えれることを証明してみせるわ」

 そう言った立花さんが踵を返して部屋から出る。
 どうやら俺に言いたいことは全て言ったようだ。

「なるほど。そういった理由で俺に怒り、ライバル視するようになったのか」

 とりあえず俺に怒っている理由は理解できた。
 しかし解決策が見当たらない。

「それにしても俺のことを天才と思ってるのか。そんなわけないのにな」

 確かに小さい頃から演技の才能はあったが、その才能を開花させたのは小学4年生の頃に受けた婆ちゃんからの特訓のおかげだ。
 1年間、寝る間も惜しんで婆ちゃんからの厳しい指導に耐えることができたから才能が開花し、優秀主演男優賞を受賞することができた。

「天才なら努力なんてしなくても優秀主演男優賞を受賞できるはずだ。だから俺は天才じゃなくて才能のある人、いわゆる才人って奴だよ」

 何なら6年間のブランクを埋めるため、ゴールデンウィーク期間中は婆ちゃんの家で特訓を受け、ゴールデンウィークが明けてからは1つも仕事を受けず、家で演技の練習をしていた。

「真奈美や立花さんは間違いなく努力家だ。子役時代の頃とは比べものにならないくらい上達している」

 2人の演技はドラマ撮影が始まる前に確認しており、2人とも驚くほど上手くなっていた。

「特に立花さんが人気女優になったのはつい最近。人気が出ず辛い時期を過ごしていた時も俺に負けないという気持ちだけで頑張ってきたんだな」

 そのことから俺への怒りが凄まじいことを理解する。

「それにしても立花さんは度々自分のことを凡人って言ってたが、日々努力を積み重ねることができる人は凡人じゃないぞ」

 そう言いたいが、立花さんはそう思わないだろう。

「これは2人に負けないよう練習量を増やさないといけないかもな」

 立花さんは俺を超えると宣言するくらい気合いが入っており、真奈美も昔より演技力が上昇している。
 2人の演技力に負け、みっともない姿を晒してしまいそうだ。

「今日は顔合わせだけって言ってたから帰ったら寧々に演技の特訓に付き合ってもらおう。それと、立花さんと仲良くなれる方法を寧々に聞いてみるか」

 そんなことを思いながら俺は控え室から出た。


【次話は香帆ちゃん視点となります】
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