上 下
93 / 167
6章 ドラマ撮影編

立花香帆との出会い 2

しおりを挟む
 立花さんを連れて自分の控え室に入る。

「誰もいない部屋に連れて来られたわ。もしかして私を襲うつもりなの?」
「アホかっ!」

 襲われるかもしれないと思ってるような素振りを全く見せない立花さんへ、すぐさま否定の言葉を言う。

「それで、なぜ俺が俳優業を舐めていると思ったんだ?」

 これから一緒に仕事をする立花さんとは仲良くしなければならないため、俺に怒っている原因を取り除く必要がある。
 そのため、まずは俺が俳優業を舐めていると思った理由を尋ねる。

「それは優秀主演男優賞を受賞した翌年に芸能界を引退したからよ」

 そう言って立花さんが話を続ける。

「私、子役として活動してる時から夢があったの。その夢を叶えるため、小さい頃から頑張ってきた。それが日本アカデミー賞で優秀主演女優賞を受賞することだった」

 その言葉を聞いて、俺に怒っている理由を概ね理解する。

「私みたいな凡人が一生かけても手に入らない賞を受賞したアナタのことを本気で尊敬したわ。私も夏目凛に近づけば受賞できるんじゃないかって希望も抱いた。でも、アナタは受賞した翌年に引退した。それを知った時、私はアナタに夢を馬鹿にされたと思ったわ。こんな賞なんか価値がない、受賞しても無駄だと言われてるような気がして」

 引退するということは受賞した栄光をも捨てることになるため、価値がない、受賞しても無駄だと言っていることになる。

(そりゃ俳優業を舐めているって言われても否定できないわ)

 そう思い、立花さんの言葉に何も反論できない。

「だから私はアナタに怒りが湧いたの。それと同時に絶対、夏目凛には負けたくないと思った。引退したアナタと比べるのは間違ってると思ったけど、私は夏目凛なんかに負けないという執念で今日まで頑張ってきたわ」

 きっと俺に負けないという気持ちだけで人気女優になったのだろう。

(その気持ちが立花さんを奮い立たせ、ここまで上達させたのか)

 どうやら引退した俺が立花さんの役に立ったらしく、嬉しさのあまり笑みをこぼす。

「な、なに笑ってるのよ!」
「あ、いや。立花さんは凄いよ。俺なんかよりずっと凄い女優だ」
「そ、そんなことないわよ!だってアナタは天才なんだから!」
「……天才かぁ」

 確かに昔、天才だの神童だのと呼ばれていたが、俺は1度たりとも自分のことを天才だと思ったことはない。
 だが、立花さんは俺のことを頑なに天才だと思い込んでいるようだ。

「そうよ。アナタは天才なの。だから私はアナタに勝つことがどれだけ難しいことか理解している。でも私は夢を馬鹿にした夏目凛には負けたくない。その気持ちが私を奮い立たせ、挫けそうな時も頑張れた。全てはアナタを超えるために!」

 立花さんの言葉から『絶対負けない』という強い意志を感じる。

(確かに俺は神童と呼ばれ、俳優としての才能があることも理解している。そうでなければ小5で優秀主演男優賞の受賞などあり得ない)

 何十年も俳優として活躍されている大人たちを押し退けて優秀主演男優賞を受賞できた理由は日々の努力に加え、演技の才能があったから。
 さすがの俺でも才能なんかないと謙遜することはできない。

「引退してたから6年のブランクがあるけど、かつて神童と呼ばれたアナタには関係ないよね?それとも、『二十歳過ぎれば只の人』という言葉通り、今は才能の無い只の人になり下がったの?」
「そんなわけないだろ」

 俺は堂々と答える。

「それは楽しみね。天才の演技を間近で見られるのだから。私、アナタの演技を見るのは好きだったの。だからガッカリさせないでよね」

 俺の発言を聞き、笑みを浮かべる立花さん。

「それと最後に一言。復帰してくれてありがとう。これで私はアナタを超えたことを証明できるわ」

 今まで引退した俺を超えるために頑張ってきたんだ。
 目標としていた人が復帰し、比べることができる状況となったため、俺の復帰を聞いて1番嬉しかったのは立花さんかもしれない。
 そんなことを思った。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...