上 下
77 / 163
5章 ドラマ撮影開始まで

『鷲尾の家族に乾杯』の放送 4

しおりを挟む
 弁明を諦めてテレビへと視線を戻す。
 すると、俺が大名行列の如く、女性たちを引き連れて歩いていた。

「おぉー、お兄ちゃんに女の子たちが群がってるよ」
「いや群がってるわけじゃ………って否定できないな」

 否定しようにも否定できないくらいの女性たちが俺の周りにいるため、寧々の言葉に頷いてしまう。
 そんな会話をしながらテレビを見ていると、俺がドーナツ屋を発見する。

『おっ!抹茶のドーナツが売ってあるぞ!』

 そう言って吸い寄せられるようにドーナツ屋へ向かう。
 そして優しそうなお爺ちゃんに話しかける。

『すみません、ドーナツを1つください』
『はいよっ!……って凛さんじゃないか!収録の途中かい?』
『はい。鷲尾の家族に乾杯という番組で……』
『おぉー!あの番組は婆さんといつも見てるよ!』
『ありがとうございます!』

 お決まりの会話をしながら、お爺ちゃんが紙に包んだ状態でドーナツを手渡してくる。
 それを受け取り会計を済ませた後、俺はパクっとドーナツを食べる。

『んーっ!美味しいっ!』
『そうだろ?俺の婆さんが丹精込めて作ったドーナツだからな』

 そう言ったお爺ちゃんが裏で作業をしているお婆ちゃんを指差すと、俺に気づいたお婆ちゃんが手を振ってくれた。

『これ、とても美味しいです!お持ち帰りとかできますか?』
『あぁ。何個持って帰る?』
『そうですね……5個お願いします』
『ちょっと待ってろ』

「へー!あのドーナツってここのドーナツだったんだ!めっちゃ美味しかったよね!」
「あぁ。美味しかったから父さんと寧々にも食べさせたかったんだ」

 お土産として買ったドーナツは送迎してくれた矢上さんへ1つプレゼントした後、家に持って帰って父さんと寧々にあげた。
 ドーナツをプレゼントした3人がとても美味しそうに食べていたのを今でも覚えている。

『また来てくれよ、凛さん。次も美味しいドーナツを提供するからさ』
『はいっ!』

 俺がそう答え、お爺ちゃんとお婆ちゃんに手を振ってから別れる。

 すると…

『私にもドーナツをくださいっ!』
『私は10個お持ち帰りで!』
『リン様大絶賛のドーナツ!これは食べなければっ!おじちゃん!私は2つお願い!』

 大名行列の如く俺の後ろにいた女性たちが一斉にドーナツ屋へ並び、大行列ができていた。

「すごっ!お兄ちゃんの宣伝効果、半端ないよ!」
「俺も驚いた。大絶賛しただけで行列ができるとは……」
「それだけお兄ちゃんに食レポの才能があったってことだよ!」
「俺、美味しいって言っただけなんだが……」

 そんなことを寧々と話す。
 すると画面が切り替わり、俺にドーナツを販売したお爺ちゃんとお婆ちゃんが映し出される。
 これはスタッフが後日撮影したもので、俺がドーナツを買ってから数日後に撮影している。

――夏目さんがドーナツを購入されましたが、その後の反響はいかがでしたか?

『いやぁ、凛さん様々だよ!世の中の人が「リン様リン様」って言ってる理由が分かったぞ!もう、凛さんに足を向けて寝れねぇよ!』

 お爺ちゃんがナレーターの質問に対して興奮気味に答える。

『あれから、すごく反響をいただいてね。凛さんが絶賛したドーナツ屋って噂が広まって近所に住んでる人たちや学生さんたちが買いに来てくださって。おかげで毎日、忙しい日々を過ごしております』

 対するお婆ちゃんは嬉しそうな顔でナレーターの質問に答えている。

――今日も大行列ができてましたね。

『あぁ、婆さんも言ってたが、凛さんが来て以降、毎日休む暇なく動いてるぞ』

 お爺ちゃんがナレーションの言葉に返答した後、忙しなく動くお爺ちゃんとお婆ちゃんの様子や、ドーナツを買いに来たお客さんの大行列が映し出された。

「お兄ちゃんの宣伝効果すごすぎっ!」
「確かに俺の宣伝効果かもしれないが、俺の宣伝だけじゃここまでの行列はできない。お爺ちゃんたちのドーナツが美味しかったから、行列ができてるんだ」
「確かにっ!」

 行列ができたキッカケは俺の宣伝かもしれないが、売っているドーナツが美味しくなければ毎日のように行列はできない。

「お爺ちゃんたち楽しそうに働いてるね」
「そうだな。きっと自分たちが作ったドーナツを美味しそうに食べる人たちを見るのが好きなんだろう」
「だね!」

 映像に映るお爺ちゃんとお婆ちゃんが生き生きとしながらドーナツを売っている様子を見て、自然と笑みが溢れる。

――夏目さんに何か一言お願いします。

『凛さん!いつでも遊びに来ていいからな!』
『美味しいドーナツを準備してお待ちしております。京都まで足を運んだ際はウチに寄ってくださいね』

 そう言ってお爺ちゃんとお婆ちゃんが手を振っている。

「寧々。今度の長期休みの時、京都まで遊びに行かないか?」
「うんっ!ドーナツを食べに京都まで行こうね!」

 俺の問いかけに寧々が満面の笑みで応えてくれる。
 そんな寧々を見た俺は笑みを溢しつつ、寧々の頭を優しく撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

男がほとんどいない世界に転生したんですけど…………どうすればいいですか?

かえるの歌🐸
恋愛
部活帰りに事故で死んでしまった主人公。 主人公は神様に転生させてもらうことになった。そして転生してみたらなんとそこは男が1度は想像したことがあるだろう圧倒的ハーレムな世界だった。 ここでの男女比は狂っている。 そんなおかしな世界で主人公は部活のやりすぎでしていなかった青春をこの世界でしていこうと決意する。次々に現れるヒロイン達や怪しい人、頭のおかしい人など色んな人達に主人公は振り回させながらも純粋に恋を楽しんだり、学校生活を楽しんでいく。 この話はその転生した世界で主人公がどう生きていくかのお話です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この作品はカクヨムや小説家になろうで連載している物の改訂版です。 投稿は書き終わったらすぐに投稿するので不定期です。 必ず1週間に1回は投稿したいとは思ってはいます。 1話約3000文字以上くらいで書いています。 誤字脱字や表現が子供っぽいことが多々あると思います。それでも良ければ読んでくださるとありがたいです。

処理中です...