上 下
64 / 159
4章 ゴールデンウィーク編

帰省 4

しおりを挟む
 婆ちゃんから母さんの夢を聞いた俺は、その日以降、より一層気合を入れて指導を受ける。

「そこはもっと感情を込めて。凛がどんな想いで言っているかが全く分からないよ。もう一度、イメージし直して」
「わ、わかった」
「それとさっきのシーンだけど……」

 等々、演技する度に色々と指導される。
 さすがに6年もブランクがあればダメ出しばかりだが、指導される度に上達しており、特訓を見学している寧々から指導を終える度に褒められている。

 そんな日々を過ごしていた。




「うん。及第点ってところね」
「はぁはぁ……ありがとう。婆ちゃん」

 ゴールデンウィーク最終日の前日。
 毎日13時間以上もの指導を受けることで、ようやく及第点をもらえた。

「お疲れ、お兄ちゃんっ!」

 俺の特訓を見学していた寧々が飲み物を渡しながら言う。

「ありがと、寧々」

 それを俺は受け取り、一口飲む。

「一応言っておくけど及第点だからね。凛に指導できる期間がゴールデンウィークまでってことになってるから合格を出しただけで、今の演技内容に満足したらダメよ」
「もちろんだ。婆ちゃんから及第点をもらったからといって慢心はしないよ」

 俺は真剣な表情で伝える。
 婆ちゃんがこの程度の演技力で合格を出すとは思っていない。
 ゴールデンウィーク期間のみという縛りがなければ、まだまだ演技指導に付き合ってくれていただろう。

「えー、私はお兄ちゃんの演技、すごく良かったと思うけどなぁ。そこら辺の俳優さんよりも上手だと思うよ?」
「そこら辺の俳優よりかは上手だとは私も思うけど、凛が優秀主演男優賞を受賞した時の演技には程遠いよ」
「俺もそう思う」

 婆ちゃんのおかげでそこら辺の俳優さん並みの演技力は獲得できたが、6年のブランクを完全に埋めることはできなかった。

「あとは凛が家でどれだけ頑張るかよ」
「分かってる。慢心せずに努力を続けるよ」

 俺が『マルモのおきてだよ』で優秀主演男優賞を獲得できたのは、婆ちゃんからの指導に加え、真奈美の努力に負けないよう俺も努力したから。

(今回もらった仕事は真奈美がヒロイン役なんだ。恥ずかしいところは見せられないから、あの時みたいに毎日数時間は家で練習しないと)

 そう思い、気合が入る。

「良い顔ね。慢心していないことが伝わるわ」

 そんな俺を見て婆ちゃんが笑みを浮かべる。

「演技力に不安を感じたらいつでも来なさい。クタクタになるまで扱いてあげるから」
「いや、そこまでしてほしくはないんだが……」

 そんなことをボソッと呟く。

 こうして婆ちゃんからの演技指導が終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...