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3章 大学入学編

小鳥遊美奈の熱愛報道 2

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~小鳥遊美奈視点~

「あーあ、やっちゃったなぁ」

 私は今日発売された週刊⚪︎春の記事を読みながら、自分の部屋で呟く。
 記事の内容は私の熱愛報道。
 この記事が出回ったため、私は急遽、今日予定されていたレッスンを中止して家に帰ってきた。

「ホントやってしまったなぁ。リン様とのお散歩デートを盗撮されちゃったよ」

 そう言って記事に写っている写真の数々を見る。
 そこには楽しそうにリン様と話している写真や、私がリン様の手を引いている写真が載っていた。

「何故かリン様の顔がモザイクで隠されて一般男性ってことになってるけど、その点はありがたい。私のせいでリン様に迷惑をかけるところだったからね」

 私がリン様を散歩に誘ったせいで、このような事態になってしまったため、スキャンダルとして取り上げられるのは私だけで十分だ。
 そのため相手が一般男性ではなくリン様であることは公言しない。

「とりあえず今回のことでアイドル人生が終わっちゃったね。まぁ、仕方ないか。私はファンを裏切ったんだから」

 今もなお鳴り止まない通知の嵐を見て私は呟く。

「熱愛は間違った情報だけど、ファンの皆んなは熱愛を信じてるみたい。そりゃそうだよね、手を繋いでる写真まであるんだから」

 そんなことを呟きながら、私はSNSを開く。

 そこには様々なコメントが飛び交っており…

〈俺、美奈ちゃんのファンだったけど、もう応援するのやめよ〉
〈小鳥遊はファンを裏切った。応援する価値なし〉
〈今まで使った金を返せ〉
〈死んで詫びろ〉

 等々、どれもこれも私を悪く言うコメントばかりで、読んでるだけで涙が出そうになる。

 でも、1番泣きたくなるコメントは…

〈のぞみ坂47のみんなが嫌いになったわ〉
〈のぞみ坂47にはアイドルなのに熱愛する奴がいるのか。のぞみ坂47のファンやめよ〉

 と、のぞみ坂47のファンを辞めるとのコメント。

(どんな顔してみんなに会えばいいのかな……)

 一所懸命、頑張ってきたみんなの努力を私が無駄にしてしまった。
 そう思うと、自然と涙が溢れそうになる。

「違う!今は泣いてる場合じゃない!」

 私は両眼を強くこすり、流しそうになった涙を無理やり引っ込める。
 そしてマイナスな考えを振り払うため、掲載されている写真の数々を見る。

「それにしても良い写真だなぁ。写真を撮ったのはプロのカメラマンかな?」

 撮られた自分が言うのもおかしな話だが、絶賛したくなるくらい素晴らしい2ショットの数々だ。

「知り合いが撮ってたら絶対私に転送してもらってるよ」

 そんなことを思いつつ、撮られた写真の数々を眺める。

「この女の子、楽しそうだね。一緒に写ってる一般男性とのデートを心の底から満喫してることが伝わってくるよ。まぁ、その女の子、私だけどね」

「ふふっ」と少しだけ口角が上がる。

「この写真を見ると、熱愛報道って言葉を強く否定できないね」

 写真の女の子が一緒に写っている男性に恋をしていることは一目瞭然。
 それだけ生き生きとしている。
 この写真を見れば、ファンのみんなが相思相愛の熱愛だと勘違いするのも理解できる。

(アイドルにスキャンダルが発生したら、現在陥っている事態になる事は知っていた)

 だからリン様とはスキャンダルにならないよう注意しながら散歩をした。
 しかし溢れる愛を抑えきれず、数秒間だけリン様と手を繋いでしまった。

「仕方ない。一瞬でも気を緩めてリン様の手を取った私が悪い。むしろ、リン様に迷惑がかかってないことを喜ばないと」

 写真の男性は一般男性ということになっているので、リン様に迷惑がかかることは絶対にない。

(完全なる自業自得。自分の欲求を制御できなかった私が悪い。でも……)

「もう少しアイドルをやりたかったなぁ」

 できるならもう少し、もう少しだけアイドルをしたかった。
 のぞみ坂47のみんなとアイドルを続け、大きな会場でライブをして、年末にある歌番組に出たかった。
 アイドル活動だけでなく、ドラマやバラエティ番組にも出たかった。

(でも、今回のことで……)

「ダメだよ!まだ、諦めちゃダメなんだよ!」

 私は声を出して自分に喝を入れる。

(今回のことで信用は地に落ちてしまうし、仕事もなくなるだろう。でも、また1から始めればいいんだ。また1から始めるだけなんだ)

 前を向くため、泣きそうな眼を乱雑にこすって、これからのことを考える。

(泣いちゃダメだよ。泣いてる場合じゃないんだから。今は泣いてる場合じゃ……うぅ……泣くな私……泣くな……泣くな……っ!)

「うわぁぁぁぁぁんっっっ!!」

 “泣くな!”と思えば思うほど、涙が溢れ出してくる。
 どれだけ取り繕っても泣きたい気持ちを騙すことはできず、ついに壊れてしまう。

 その後、私の泣き声だけが部屋中に響き渡った。
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