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3章 大学入学編

修羅場 1

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 なぜか桃ちゃんから抱きつかれた俺は、桃ちゃんのことを覚えていなかった罪悪感から、両手を上に上げ、桃ちゃんの気が済むまで引き剥がさないことを決める。

(柔らかっ!何この弾力!しかも、めっちゃ良い匂いがするしっ!)

 味わった事のない柔らかさと桃ちゃんから香る甘い匂いをできるだけ堪能しないよう固まっていると、前方から見たことのある人が現れる。

(ま、真奈美!?何故ここにっ!)

 そう思うが、スキャンダルの観点から今は真奈美から隠れることが先だ。

(ってどこに隠れるんだよ!ここ、廊下だぞ!)

 そんなことを考えること数秒。
 近くに隠れる場所がなかった俺たちは真奈美に見つかってしまう。

「え……」

 その時、真奈美があり得ない物でも見るかのように絶望的な顔をして固まり、持っていたスマホを落とす。

「り、凛くん……何してるの?」

 そして震える声で聞いてくる。
 その言葉が桃ちゃんにも聞こえたのか、俺に抱きついたまま桃ちゃんが真奈美を見る。

「あ、雨宮さん!?」

 俺に抱きついている人を見て真奈美が驚く。

「初めまして、愛甲さん」

 そんな真奈美を見て桃ちゃんが挨拶をする。
 俺に抱きついたまま不機嫌そうな声で。

「私と夏目様は今、とても忙しいのです。夏目様への用事があるのなら、後にしていただけますか?」
「い、忙しい!?私の目には雨宮さんが凛くんに抱きついてるようにしか見えないです!それに凛くんは手を上げて困ってますよ!」
「ふふっ、何を言ってるのですか。私を引き剥がそうとしないので、夏目様は困ってないと思いますよ?」
「凛くん!」

 “キッ!”と真奈美から睨まれる。

(ひぃっ!)

 今まで見たことない真奈美の表情にビビりながら桃ちゃんに声をかける。

「そ、そろそろ離れよ?」
「いやです」
「えぇ……」

 しかし、抱きつく力が強くなるだけで全く離れる気配がない。
 それに加え、真奈美に向けていた顔を俺の胸に埋めだす。

「りーんーくーんー?」

 そんな俺たちを見て、真奈美がジト目で訴える。

「ど、どうしたら離れてくれる?」
「んー、そうですね……夏目様が私の身体をギュッと抱きしめたら離れます。できれば優しくお願いしますね?」

 埋めていた顔をあげて上目遣いでお願いしてくる。

「っ!」

 至近距離での上目遣いに俺の心臓が跳ねる。

「っ!り、凛くんから離れてください!」

 その様子を見た真奈美が焦った表情で俺たちを無理矢理引き剥がす。
 すると、引き剥がされた桃ちゃんが先ほど以上に不機嫌そうな顔で真奈美を見る。

「むぅ、私の邪魔をしないでください。私が夏目様に抱きついても愛甲さんには関係ありませんよね?」
「かっ、関係はあるもん!」
「そうなのですか?もしかして夏目様の恋人……ですか?」

 表情を曇らせ、不安そうに桃ちゃんが問いかける。

「ま、まだ恋人じゃなけど……か、関係はあるもん!」

 その問いかけに顔を赤くして真奈美が答える。

「まだ……ですか」

 その返答を聞いてホッとした表情で呟いた後、すぐに表情をもとに戻す。

「恋人でないのなら愛甲さんには関係ないと思いますよ?」
「こ、恋人じゃないけど……わ、私と凛くんは小学5年生の頃から付き合いがあります!だから無関係じゃないんです!」
「へー、愛甲さんは夏目様と小学5年生の頃から付き合いがあるのですね」
「ふふん!だから無関係じゃないんです!」

 真奈美が誇らしげに桃ちゃんへ言う。
 そんな真奈美を見て、桃ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。

「ですが、小学5年生からの付き合い如きで関係があると言われても困りますね。私の方が愛甲さんより先に夏目様と出会ってますので」
「……え?」

 先程の誇らしげな表情から一転、驚きの表情となる。

「私は愛甲さんよりも2年ほど前にお会いしてます。なので小学5年生の時に出会ったことを理由に関係があるアピールをされても困りますね」

 そして先程よりも不敵な笑みを浮かべる。

「り、凛くん!本当なの!?」
「あ、あぁ。桃ちゃんとは俺が小学3年生の時に出会ったんだ」
「も、桃ちゃん……」

 真奈美が絶望的な表情をする。

「どうやら、愛甲さんよりも私の方が夏目様との関係が深そうですね。なので私たちのことは放っておいてくださいね」

 そう言って桃ちゃんが俺の手を握る。

「ちょっ、桃ちゃん!?」
「愛甲さんに邪魔をされたので、感動の再会に水を刺されてしまいました。なのでもう一度、夏目様に抱きつかせてください。今度は誰もいない私の休憩室でね」

 そして俺の手を引いて歩き始める。

「ま、待って!」

 すると桃ちゃんに掴まれていない俺の手を“パシッ”と真奈美が取る。

「り、凛くんと出会ったのは雨宮さんの方が先だけど、私の方が凛くんとたくさん仕事したもん!」
「うっ……」

 その通りなので、桃ちゃんが言葉を詰まらせる。

「雨宮さんは高校の時にモデルとしてデビューしたので、小学6年生で一度引退した凛くんとは活動期間が被りません。なので今回が凛くんとの初仕事ですよね?」
「そ、その通りですが……それが何だと言うのですか?」

 その言葉を聞き、今度は真奈美が不敵に笑う。

「いえ、ただ私と凛くんの方が一緒に仕事をしてるという事実を伝えただけです。しかも、復帰後初のTV番組は私と一緒に出演した『おっしゃれ~イズム』。出会った速さも大事ですが、出会ってからは私の方が雨宮さんよりも関係が深そうだと思っただけですよ」
「うぅ~っ!」

(もう嫌っ!誰かこの空気を何とかして!)

 俺を間に挟んで睨み合う2人を見て、俺は心の中で叫んだ。
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