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第二章★

048:アリスの壮絶な過去②

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◇◇◇◇◇◇

 あれは中学生の頃の出来事だった。

 あたいは金髪に碧眼で日本じゃ珍しかった。それでも持ち前のカラっとした性格のおかげで友達はいたし普通の女の子だった。だけど中学生になると、あたいは男子に人気が出始める。クラスの女子のリーダー各の女子生徒はそれが面白くなく、徐々にあたいは避けられ始めたのだ。

 だが、当時のあたいは何が原因で誰がいじめを指示しているのかまるで分からなかった。気付けば教科書や筆箱が亡くなっていたり、机には落書きをされていたりといった始末。

 意外とあたいはメンタルが強かったのかそこまで気にしてはいなかった。
もっと直接的な暴力とかだったらさすがに厳しいけど、無視とかぐらいならと放置していた。

 そんな時だった。

 女子グループで中心的な女があたいに話しかけてくる。

「ねぇねぇ?アリスちゃんってこのあと暇ー?一緒にちょろっと帰り道遊びに行かない?」

 その女の子の名前は三千院 舞。長く伸ばした髪にパッチリとした目…可愛い顔立ちだと女のあたいでも思う。…男子からも人気があるらしくよく話しかけられてるのを見る。

 ここ最近、誰からも話しかけてもらえていなかったので驚きはしたものの嬉しかった。だから特に警戒することもなく答える。この時もっと警戒しておけばよかったとあたいは後ほど後悔する。

 舞は、以前からアリスちゃんとは話してみたかったの言っていた。クラスの雰囲気的に話し掛けずらかったからとも言っていた。誰が黒幕なのかあたいは知らず、舞と一緒に下校した。

 あたいはこの時はまだ少しだけ人を信じていて…正直、舞には憧れてもいた。

 おっとりぼんやりしていて優しい性格だしクラス中に人気があった。
 でも、こいつがあたいの人生を狂わせた張本人だった。

 あたいと舞はすぐに仲良くなり、次の日には舞とショッピングの約束をした。

 次の日には二人で街に向かって歩きそして軽い買い物をした。舞とは今まであまり関わることがなかったか嬉しかった。新しい友達ができたと思っていた。この時までは普通の女の子のように遊び人生を謳歌していた。

 だけど、この後にとんでもないことが起きる。

 あらかた買い物を済ませそろそろ帰路に着こうかとしている時だった。

「ねぇ、アリス? 」

「ん? 何? 」

「寄りたいところがあるんだけど良い? 」

「え? うん、良いよ」

 この時の舞の表情はいつもと違っていた。まるで、殺気のような首筋にひりひりとしたものを感じた気がした。あたいと舞はいつも平日に通っている中学に何故か来ていた。

「舞? なんで学校に来るの? 忘れ物? 」

「そうなの。月曜日には提出しないといけないやつ忘れちゃってね」

舞はずかずかと歩いていき、ある場所の前に止まる。

「体育倉庫? 」

「ここに用があるのよぉー。きゃは」

「…!? 」

 舞がそう言った瞬間にあたいは何かに囲まれ、口と身体を拘束されてしまう。

「ふふふ。その可愛いお客様を素敵な場所に入れてあげてぇー」

 舞はいつもの穏やかな雰囲気が消え、今は凍てつくような視線をあたいに向けていた。その舞の顔は不気味に歪み微笑んでいた。

 あたいはろくに抵抗もできずに体育倉庫の中へと連れ込まれてしまう。中は埃っぽくて気管支を刺激してくる。あたいを中に運んだ奴等は今度はあたいの口にガムテープを張り、手足は縄で縛る。

「ふふふー。アリスちゃんの拘束されている姿なんて興奮しちゃうぅー」

 舞は高らかに笑っていて、その笑みは本気で怖かった。あたいは大きな人影に囲まれる。

 嫌な予感が脳裏を横切りあたいは必死で逃げようとする。それを嘲笑うように見ている舞が口を開く。

「あんたがここに連れてこられた理由は分かるよねぇー? 」

 舞の口調は変わり、語尾の伸ばし方は独特だった。舞は話を続ける。

「あんたはね。目立ちすぐなのよぉー。それが不愉快なのぉー。だからねもう学校に来ないでほしいってわけぇー。なのにあんたは意外としぶとくて毎日学校に来るからもう来れないようにしようと思うのー」

 舞の変貌ぶりにあたいは混乱していたが、徐々に頭が整理されてく。

 舞はあたいと仲良くなりたくてショッピングに誘ったんじゃない。罠にはめるためだったんだ。舞が目で仲間に合図をすると仲間たちは何やらごそごそし始める。カチャカチャと音がする。

 あたいはこれから何をされるのか分かった瞬間、必死で逃げようとする。

「すぐに終わるから安心してねー。アリスちゃん」

「…!! 」

 あたいの頭は真っ白になった。着ていた服は剥ぎ取られ拘束される。遠のく向こうからは荒い吐息が聞こえていた。下腹部から強烈な痛みが走る。

 訳が分からなかった。あたいが何かをした記憶はない。なのに何故こんな目にあっているのか。あたいのこの容姿がいけないのか。日本人とは違うこの容姿が…。

 …あたいは舞にも嫌われていたんだ。そうか。…皆はあたいを……嫌っているんだ。

 ひとしきりことを終え満足したのか複数大きな影は消えていく。舞とあたいだけが体育倉庫に残っていた。

「アリス。初体験はどうだったあー?」

 意識の遠くから舞は話しかけてくる。ただ舞の顔は眼前にあり、不気味に微笑んでいた。

「なんで自分がこんな目に合っているかはっきりとは分かってないみたいねぇー」

「あなたはね目立ちすぎなの。クラス中の男子はあなたばかりに目を向けてるの。それが気にくわないのぉーあぁ!気に食わない!!!」

 舞はあたいの首元に何かを置いた。

「これは私からの今日のショッピング記念のプレゼントよ。それを上げるわー」

 舞は体育倉庫の出口に向かい歩き出す。そして、一言。

「もし、今後、学校に来たらあなたの一糸纏わぬ記念動画をばらまくからあー」

 舞は出ていき体育倉庫の扉は閉められ、辺りは暗くなる。

 そして、私の心も閉ざされた暗く寒い体育倉庫のように。

 プレゼントの中身は…ピンク色のピアスだった。そう、このピアスは舞からのプレゼント。あれからあたいは転校し、違う中学へ。ただ、人を信じることができなくなり、非行へと走った。そう、これがあたいのピアスにある思い出。

 恨む相手である舞からのプレゼントのピアスをわざわざつけているのは恨みを忘れないため。そして舞に再会し復讐をするためだ。


◇◇◇◇◇◇

 あたいは校庭の中央にいる土星と火星を見据え、切り札のサイレンサーを装着する。
実はこれはもともと支給品のマシンガンと一緒に入っていたものだ。これを装着することでこの武器の能力がさらに引き出されると説明に書いてあった。

「行くぜ! 」

 あたいは校舎の壁から跳躍し、存在力を解放した。

━━━━━━━━━━━
※技発動!
―――――――――
★最大出力電磁波砲
━━━━━━━━━━━

 あたいは現時点で修得している中で一番威力のある技を迷わず選択する。あたいは命は賭けるつもりだが、まだ死ぬ気はない。存在力が仮にカラになろうと生き残って見せる。矛盾してるが。

「はぁぁァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁァぁぁあぁぁぁぁっ!! 」

 銃口をゆっくりと土星と金星にポイントする。

「……必殺技を使うらしいな。ならば」

「土星! あの最大防御を使おうよ! 」

「……当然!! 」

━━━━━━━━━━━
※技発動!
―――――――――
★羅生門
━━━━━━━━━━━

 土星の勾玉から透き通るような綺麗な女性の声の機械音声が流れていた。

 あたいはこれで最後の攻撃になるだろう。絶対に打ち勝ってやる。大好きな仲間を守りたいからだ。そして、舞に復讐するためにも生き残ってやる。

 マシンガンの銃口に存在力が注がれてく。

 火星も存在力を解放する。奴の勾玉も発光し、やがて機械の音声が流れる。

━━━━━━━━━━━
※技発動!
―――――――――
流星火りゅうせいか
━━━━━━━━━━━

火星は必殺技を選択し、土星と同じように構える。
二人の前の土が盛り上がり、強大な門のような壁を築いていく。

あたいも準備ができ、拳銃のハンマーを起こし、引き金を引いた。

「食らえ! 」

 あたいの拳銃から強大なレーザーが放たれた。レーザーは土星が造り上げた土石流の壁に直撃する。地面が震え、校庭にヒビが入っていく。この技を外したらあとがない。確実に決めてやる。レーザーは徐々に羅生門という名の土石流の壁を崩し始める。

「……くっ! 火星! お前、なぜ援護をしな…!? 」

 なにやら火星と土星の間でトラブルがあったようだ。確かに火星も技を発動したはずなのに動かない。

 あたいはそのまま押しきり、土石流の壁は次第に崩れ始めた。

「あたいは生き残るんだ! 友のために! 復讐のために!! 」

 強大で高密度なレーザーが土星と火星のいる校庭の中央に降り注いだ。土星と火星の悲鳴が聞こえる。やがてその叫び声も聞こえなくなり校庭には静寂が戻る。

 あたいの荒い呼吸だけが辺りの校庭に響いていた。

「勝ったのか? 」

 あたいは拳銃を降ろし、辺りを見回す。校庭には砂塵が立ち、良く見渡せない。
 それに煙い。アリスの気管支を刺激する。

「……!! 」

 砂塵の中から誰かの気配を感じた。
 土星か?火星か?

 あたいは拳銃を構えるものの存在力はもう殆んどない。全てなくすとこの世に存在ができなくなり消滅する。
 最悪、肉弾戦か…砂塵の中にいる奴をじっと観察する。

砂塵が晴れてくると正体が分かってくる。

「火星か!? 」

 ただ、火星の存在力は既に薄く、身体からは白い煙が出ていた。既に消滅が始まっていた。アリスは何かが頭に引っ掛かっていた。さっきのあたいの技は土星は直撃した。だけど、火星はそもそも能力を発動していなかった。いや、できなかった?あたいはある結論に至り、納得する。

 火星は自身の存在力で手に終えない能力を出そうとした。だけど存在力が足りず、能力は発動せず、そして存在力を失った。

「う、嫌だよ…。死にたくない…さ…」

 火星が呟いている。

「死にたくない……僕はまだ死ねないんだ…あいつが…待ってくれているんだ」

 あいつとは誰だろう。当然分からない。

 あたいは消滅しかけている火星をただ観察していた。
負けたらこうやって消えていく。待っている人がいても容赦なく消される。

 アリスと消えかけている火星の所に一般生徒が何人か駆けつけてくる。

「だ、大丈夫ですか? アリスさん? 」

 鎖鎌を持った小動物のようなかわいい感じの男子生徒が聞いてくる。
 のちに分かるがこの男の名前はナル。

「ああ、あたいは大丈夫だ。ただ…もう存在力はゼロに近いけどな」

「上杉さんも無事みたいですよ」

「じゃあ、戻りましょう。アリスさんと上杉さんも早く治療しない! 」

 あたいは消えかけている火星に視線を向ける。
じゃあな火星。あたいがおめーの分も強く生きるよ。このよく分からない戦いが終わるまで戦い続けるよ。

 校庭にいた負傷者達は徐々に回復組の相坂の能力で移動が始まる。

 あたいは移動するまでの間、寒い風が吹き荒れる夜空を見上げていた。

……………
……
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