銀河フロンティア物語

おじさんさん

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Twinkleスペシャル

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 朝の光を浴びながらアープのアイアンホースが赤い砂ボコリを巻きあげ走っている。

 フロンティアにも昼夜は訪れる。一日は故郷である星の時間とほぼ同じに流れている一日は約24時間40分。そして四季もめぐってくるのだ。多くの人たちが開拓の途中でこの星を離れる中、メタル・ゴールドの利権にしがみつく者とは別に故郷の星を想いこの地を離れられずに残る人たちもいた。

 アープは教会らしき建物の前にアイアンホースを停めて中に入っていく。
 
「神父さん!いるかーい?」
 
 建物に入るなりアープが叫んだ。

「そりゃあいるさ、ここは教会だ」

   神父らしい衣装を着た男がのそりと並べている長椅子から起き上がる

「ガウディ。私が言っているのは本物の神父さんの事だよ」
 
 ガウディと呼ばれた男はやさしい感じのいかにも神父という風体なのだが、どこか違和感を憶える不思議な男だった。
 
 相手の事を信用しているのか。無防備な動作で長椅子に腰掛けるアープ。

「たしかに。前にいた神父は『神よ!どこにおられる!』と言ったきり居なくなってしまったらしいからな」

 星の開拓が進んで人の生活が始まれば、神に心の安らぎを求め教会に人が集ってきた。しかし度重なる無法者の振る舞いに神父たちは逃げ出してしまっていたのである。

「で 着任そうそう派手にやったそうだな。正義のアープお姉さま」

 神速。ガウディの額にTwinkleスペシャルが押し付けられている。

「着任そうそうお別れしたいのか?」
 
 神速に首を振るガウディ。
 
 



 (これは夢・・・)

 ちいさいアンリが遊んでいる。お姉さんだろうか?アンリをやさしく見つめている。
 
 (いやな夢・・・)
  
 次の瞬間。盗賊団の集団がアイアンホースに乗って現れた。あろうことかロープで人を縛って引きずっている。

 (お父さん。お母さん)
 
 引きずられボロボロになった男女はアンリの両親だった。

  息はもうしていなかった。
 
 眼帯をした男の手から火がついたビンをアンリたちに方に投げた。お姉さんがアンリを庇うように体をかぶせる。

 人が焼ける臭いが鼻につく中力強い声が聴こえる。
 
「アンリ。あなたは生きなさい!」 
 
 (おねえちゃん!!!)
 
 ベットから起き上がるアンリ。汗で体中が濡れている。
 
 (また、あの時の夢)
  
 震えながら泣いているアンリ。手首の火傷に涙が落ちる。


 

 神父。

  どんな町でも怪しまれずに入ることができるという意味では銀河政府機関の隠れみのとしては最高の職業だろう。そして一部の施設でしか使えないはずの通信システムは銀河政府と連絡をとる為ここでは使えるのである。
 
「銀河政府の奴らは嘘つきは泥棒の始まりって言葉をわかっているのか?」
 
 皮肉まじりのアープに殴られたのであろう頭をおさえながらガウディが答える。 

「彼らは神の存在なんて信じていませんからね」
  
 宇宙に進出するとき人々は自分たちの力で星を開拓していく過程で神ではなく自分たちこそが創造主だと考える様になった。
  神は弱い人たちの心の支えの程度の存在になってしまっていた。

「銀河政府はこれ以上、ビルダーに権力がつくのを懸念している。お前にパワーバランスをとってもらいたい」

「つまり、メタル鉱山の権利を銀河政府が押さえたいと」
 
「鉱山の一つでいいんだ」
 
 莫大な富を与えられるメタル・ゴールドは成功した3人の男たちが創立者になってフロンティアに3つの鉱山を生んだ。その中のひとつがビルダー鉱山である。

「わかった。私は私の仕事をするだけだ」
 
「血まみれアープの本領。期待してるよ、あとこれを持っていくといい」
 
「これは・・・」
 
 手ごろな大きさの箱を手渡すガウディ。

  ビーム弾の カートリッジが詰め込まれていた。

「役にたつはずだ」

 箱をもらい後ろ向きのまま手だけを振って立ち去るアープ。
 



  今朝見た夢のせいだろうか?

  アンリは気分の晴れないまま酒場での仕事をこなしていた。

「いたっ!」
 
 床を磨いていてテーブルにお尻をぶつけたのは何度目だろうか?

「大丈夫かい?アンリちゃん」

 カウンターからグラスを磨きながらマスターが声をかけた。

「すみません。大丈夫です」
  
 アンリはマスターがお尻をぶつけて大丈夫と聞かれたと思っているがマスターはアンリの元気のなさを気にかけていた。

 入り口のドアが開く。アンリが気づく。

「すみません。まだ準備中なんですけど」

 アンリの言葉を無視をして男たちの集団が入ってきた。

「これはガイルさん。今お飲み物を用意いたしますのでお待ちください」
 
 そこに現れたのはシェーン団のNO2ガイルだった。

「マスター。おれたちが用があるのはそこのお嬢さんだから気にするな」

「な、なんですか」
 
 アンリは今朝見た夢を思い出し、目の前にいる大型の爬虫類みたいな男に怯えていた。
 
「ちょっとつきあってもらいたいんだけどな」
  
 そういうと同時にアンリのお腹に拳をめり込ませる。気を失い倒れるアンリ。

「よーし!例の場所まで連れていけ!」
 
 アンリを担いでどこかに連れて行くガイルたち。
 
「マスター。ひとつことづけを頼まれてもらえるかな?」
  
 あまりの出来事に唖然としているマスター。テーブルの上に手紙を置いていくガイル。

 

      
  アープが酒場にやってきたのは 無法者の嵐が去った後だった。いつもなら抱きついてくるはずのアンリがいないことに気づく。
  
「マスター。アンリは?」
  
  アープに手紙を渡すマスター。

  手紙を見るなり店を飛び出すアープ。

「ド外道が!」

 停めてあったアイアンホースに飛び乗った瞬間アクセルターンを決めて走り去っていくアープ。

 走り去っていくアープを見ている。手に持っていたウェスをテーブルに置き店を飛び出すマスター。
 


  
  人気のない牧場跡にガイルたちがいた。柱には男たちに殴られたのか破れたメイド服から見える肌のところがアザだらけになっているアンリが吊るされている。

「アープ....お姉さま・・・」

 弱い者を爬虫類並みの陰湿な性格のガイルに執拗に暴力を受けたのだろう、かろうじて意識を保っているアンリ。

 吊るされているアンリから部下で壁を作りすこし離れたところにガイルがいる。

「それにしてもシェーンのやつめオレにこんな貧乏くじをひかせるとは」 

 NO2とはいえ実質はビルダー兄弟の部下でしかないガイルは不満だった。人質をとったとはいえ相手はあのアープ。自分を捨て駒としか見られていない事になおさらアンリへの暴力に拍車をかけたのだろう。
 
「こっちは15人からいるんだ。いくらやつが早撃ちだからといってもカートリッジの交換が間に合うはずがない」

 SAAは六発のビーム弾しか撃てない。交換にはそれなりに時間がかかる。したがって15人を相手にするには二人でくるか、2丁拳銃で対応するしかないはずなのだ。
 
 よほどアープが怖いのか独り言をいって気を紛らわそうとしていた。

「アープがきたぞ!」
  
 部下の声のする方をみるガイル。

 アープがゆっくりと歩いてきた。

  ひとりだ。

  腰にはTwinkleスペシャルが1丁だけホルスターにささっていた。

 勝利を確信したのか最高の笑みを浮かべるガイル。
 
「おねえちゃん」

 アープに気づくアンリ。薄れゆく意識の中でアープの姿に姉さんが重なったのか涙があふれ出しアンリの頬に伝わって落ちていく。

「このド外道どもが~」
  
 怒りの表情のアープ。右手の指がゴキゴキと鳴っているのが聞こえてくるようだ。
 
 「よーし!そこまでだ!」
 
 無法者たちは人質をとっているという安心感からくる優越感が態度に表れている。

「そこでガンを捨てて!手をあげろ!」
 
 銃口をアンリに向けている男が吠えている。
 
 ゆっくりとした動作で手をあげていくアープ。手をあげた瞬間、一斉にSAAをアープの体に撃ち込むつもりなのだろう。

 しかし。
 
「がっっ!!」

 男の額からはナイフが生えていた。アープが投げたのだろう。胸から次のナイフを取り出し投げる。アンリのロープを見事に切る。

  落ちるアンリを助ける人影があった。

「大丈夫かい?アンリちゃん」

 いつの間にこの場にいたのか。マスターがアンリを抱きとめていた。

「マスター。ナイス!」

 姿が見えていたのか偶然なのかアープにはマスターが来ると信じていたのだろう。

「撃て~!!こいつら全員穴だらけにしてやれ~!」
 
 先ほどまでの余裕はあっという間になくなり叫ぶガイル。

 脱兎のごとくその場から立ち去ろうとするマスター。三人の男が狙っていたがそこまでだった。

 一発。

  ただ一発のビーム弾が光った!
 
 アープの撃ったTwinkleスペシャルが三人の男たちのこめかみを撃ち抜いたのだ。

「バカな!SAAで人の体を撃ち抜けるわけがねェ」

 ガイルが驚くのも無理はない、SAAのビーム弾の出力では人ひとり撃ちぬくのが精一杯なのである。

  「こいつは特別製のカートリッジなのさ!」
  
 Twinkleスぺシャルの銃口からビームがでる度に男たちが三人、四人とまとめてと倒れていく。

 単純にカートリッジのビーム弾の出力を上げれば威力は増すがエネルギーの放出に銃身がもたないはずだった。

「そうか、あの銃身か。ただ長いだけじゃあないんだな」

 身を隠しアンリを庇いながらマスターがアープの戦いを見ている。

 ビーム弾のエレルギーの放出に耐えるだけの銃身が長さが12インチという答えなのだろう。
  
「で、でたらめだ・・・」
 
 最初からひとりだったかのようにガイルが立ち尽くしていた。
 
「さて、ジェシー団のガイルだな」
 
 ホルスターに銃をもどしガイルと対峙するアープ。
  
「だと、なんなんだよ」
  
 ほんの数分前までは想像もつかない現実に恐怖するガイル。(否)どこかでこんなことになるんじゃあないかと思っていたのかもしれない。 

「ボスに伝えておけ。この町を返してもらうと」

「このあばずれが~~もう弾は残っていないだろが~」

 この場にもっとも相応しい態度と言葉だろう。SSAを抜きアープを撃とうとするが・・

 神速の速さで抜かれたアープのTwinkleスペシャルがガイルの頭を一瞬で吹き飛ばした。
 
「ちゃんと数えていたのかい?一発は残しておくだろうさ」

 ガイルはあまりの恐怖に冷静ではいられなかったのだろう。

 事の成り行きを見ていたマスター。アンリのロープはすでに解かれていた。
 
「マスタ~」
 
 泣き顔でくしゃくしゃになるアンリ。やさしく笑顔を見せるマスター。
  
「アンリちゃん。全部終わったよ」

「いいとこもっていくな。マスター」

 アープも笑顔で二人をみている。

 保安官の活躍で町の平和は守られた。しかし銀河政府までもが鉱山を狙っている。欲望渦巻くフロンティアの明日はどうなる!

 

  
 
 
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