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第31話 振動

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霧湧村公民館。

 公民館には宝来雅史と月野姫星と山形誠の三人で残っていた。車と仏像を盗んだのは、泥棒一味の残りに違いないと話し合っている処だ。

「鍵かけても無駄なのか…… とほほほ」

 雅史は自分の車のキーを握りしめながら嘆いた。

「鍵かけてる車を盗めるって、今時の泥棒ってすごいんだねぇ」

 姫星が感心したように呑気に話している。雅史は泥棒たちの努力の方向性が違っている気がした。

「もっと、真っ当な事に努力すれば、今頃は結果が違っているだろうに……」

 雅史は、まだブツブツと怨嗟の言葉を吐いている。

「ここに、残っていてもやる事がありません。 一旦、役場に行きませんか?」

 誠は意気消沈している雅史に声をかけて来た。

「そうですね。 詳しい経過が聞けるかもしれないです」

 雅史の車が走り去って、しばらくしてからパトカーのサイレンと、停車を促す声が聞こえて来ている。なので、雅史の車が直ぐに発見されたのは分かっていた。
 しかし、それだけだ。雅史たちに警察無線が聞ける訳でもないし、携帯電話も使えないので、経過がさっぱり分らないのだ。それならば、役場を通じて警察に連絡してもらえれば、少しは現状を教えてもらえるかもしれないと考えたのだ。

「じゃあ、僕の車で行きましょうか…… ちょっと、汚いけど我慢してくださいね」

 三人は誠の軽トラックで役場に到着した。すでに出勤していた村長の日村に公民館の出来事を話していると、村を抜ける谷の方角から大きな爆発音が聞こえて来た。

「あれって……」

 姫星が言いかけると、雅史が小さく首を振っていた。なんとなく雅史の車であるのは言われなくても分かる。

「とりあえず、電話してみますね」

 話を聞いた日村がさっそく警察署に電話した。公民館での出来事や車の盗難などの話をして、谷の方からの爆発音の事を問いただした。すると、雅史の車は崖から落ちて大破してしまったと報告を受けたそうだ。

「まだ、ローンが残っているのに……」

 予想が出来ていたと言え、がっくりと肩を落とした雅史に、日村は盗難扱いになるので保険でどうにかなるよと慰めていた。

「そういえば伊藤力丸さんに話を聞きたいとか?」

 日村が自らお茶を運んできた。人数が限られている村役場では珍しくない光景だ。

「はい、この村の規模の割に寺院の数が多いので、それが何故なのかをお尋ねしたいんですよ」

 起きてしまったことはしょうがないと雅史は割り切る事にした。物事を論理的に考える雅史は、立ち直りが早いのだ。

「美良さんの行方不明と関係するのですか?」

 日村が不思議そうに聞いてきた。

「いえ、関係無いです。 学者としての興味があるんですよ」

 雅史は、この村で発生してる怪異現象に少なからずも興味があった。

「どちらにしろ夜までやる事が無いので……」

 簡易的な祭りをやると言ってもそれなりに準備をしない実行は出来ない。それまでに疑問に思った事を解消しておこうと雅史は考えていた。


「た、大変ですっ!」

 その時、村長室に役場の斉藤が飛び込んできた。斉藤は主に農業支援などを行う役人だ。

「どうしたんですか?」

 日村が尋ねた。

「美葉川の空き家が倒壊したそうです」

 斉藤は村長室に張ってある村の地図を示しながら言った。

「え?!」

 室内に居た者が全員腰を上げた。妙な影が見えるとか、怪音が聞こえるとかのあやふやな話ではないからだ。

「被害者は?」

 日村はすぐに対策本部の立ち上げを考えた。村人たちが騒ぎ出すのは分かっているからだ。

「今、調べておりますが空き家なので不明です」

 それだけ言うと斉藤は退室して行った。事後の処理をする為だ。

「とりあえず、現地を見に行きましょう。 それから対策を考えないと……」

 日村は山形を見ながらそう言うと考え込んでしまった。

「私たちも行っても良いですか?」

 雅史が尋ねてみる。ここに居てもやる事が無いからだ。車が無いので自由に動けないのもある。

「ええ、どうぞ。 山形君。 君の車に乗せて差し上げなさい」

 日村は山形誠に指示を与える。

「はい、わかりました」

 誠は村の作業ジャンパーを羽織って、ズボンのポケットにある車のキーを確かめた。


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