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第 5話 理想的な家族像
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美良の実家。
雅史は夜になって美良の実家を訪ねた。今後の方針を決める為だ。誰もが同じことをしていても無駄になるからだ。
美良の実家は両親と美良と姫星の姉妹で四人家族だ。両親ともに教育関係者をしており、妹の姫星(きらら)はまだ高校生だった。
「ご無沙汰しております」
ご無沙汰と言っても先月来たばかりだ。一人暮らしの雅史の健康を気遣って、美良の母親が定期的に夕食に招いてくれるのだ。非常に美味しい料理と『んっ?』となる料理があるが、後者が美良の手作り料理である事は明白だった。
時々、明らかに料理の次元を超えた物が出て来るが、それは妹の月野姫星(つきのきらら)特製手料理であろう。
「学会が近いのに済まないね。 まったく、美良はどこをほっつき歩いているんだか……」
自分の恩師でもある父親が憔悴したように言ってきた。碌に睡眠を取ってないのか目の下に隈を作っていた。
「いえ、自分は大丈夫です。 先生こそ大丈夫ですか?」
雅史は相手を気遣いつつも、お茶を持って来てくれた母親に軽く頭を下げて、鞄の中からいくつかの記事を印刷したものを取り出した。
「実は地方新聞の記事を見ていて気が付いたのですが、美良さんが尋ねた神社や寺には泥棒が入っていたようですね」
雅史は美良が村に行く何日か前に、神社と寺に泥棒が入ったとの記事を見つけていた。大した被害は無かったらしいが、詳細は不明だった。この件は村に行って直接聞いてみる事にしている。
警察に問い合わせても弁護士ならいざ知らず、民間人に教えてなどはくれないのは解っていたからだ。
「ふむ…… その泥棒たちと何か問題を起こしたのか?」
美良の父親は、そんな疑念が湧き上がって来たように聞いて来た。隣に座って居る母親も同じようだった。
「でも、それだったらメールじゃなくて電話寄越すだろうし、親父さんに相談しますよね?」
雅史は自分にはそんな事は何も言ってなかった。
「あっ、そういえば……」
姫星が雅史の話を聞いていて思い出したように言った。
「おねぇが村から帰って来た時に、そんな事を言ってたよ」
いつもの雑談だと思っていたので聞き流していたそうだ。
「何でも泥棒が神社の本殿に入って、金目のものが無かったのに腹を立てた連中が、中の物を壊して回って村の人が困っていたって言ってた」
姫星は行方不明になる前に姉と交わした会話を思い出していた。
「でも、おねぇ自身が何かに困っている風じゃなかったよ?」
姫星が続けて答えた。
「あの日も、大学に行く時は普段と変わらずに出かけていったからねぇ」
今度は母親が答える。美良の家族は羨ましいぐらいに仲が良い。雅史が理想とする家族像であった。
「じゃあ、泥棒にどうこうされている訳では無いみたいですね……」
雅史が姫星と美良の会話内容を聞きながら答えた。泥棒の一味に捕らえられているのではないかとの懸念があったのだ。
「どっちにしろ無断で出かけるような娘では無い。 それで雅史君は、その何とかって村には行って来るのかね?」
父親が雅史に尋ねる。出来れば自分も行きたいそうだが、学期末という事もあって今が一番忙しいのだそうだ。
「はい、これから出かけて明日にでも現地調査してみようかと、何かしら手懸かりが有るものと考えています」
雅史は仕事が一段落しているので、ある程度には自由が効く。何かしらの手掛かりがないと探しようが無いので、村に行ってみようかと相談に来たのだった。
「あたしも行くーーーっ!」
話を大人しく聞いていた姫星が両手を挙げて言い出した。
「雅史君は遊びに行くんじゃないんだから、お前は家で大人しくしていなさい」
父親に叱られてしまう姫星。
「…… ぶぅーーーっ ……」
予想していたとはいえ、姫星は一方的な物言いに不貞腐れて、クッションを抱え込んでしまった。
彼女なりに心配しているのだが、子供扱いされていることに不満顔であった。
「何でも良いから手掛かりを見つけて来てくれ、この通り頼む……」
「はい、御期待に添える様に頑張ります」
婚約者の父に頭を下げられた雅史は、自分も一緒になって頭を下げていた。
雅史は夜になって美良の実家を訪ねた。今後の方針を決める為だ。誰もが同じことをしていても無駄になるからだ。
美良の実家は両親と美良と姫星の姉妹で四人家族だ。両親ともに教育関係者をしており、妹の姫星(きらら)はまだ高校生だった。
「ご無沙汰しております」
ご無沙汰と言っても先月来たばかりだ。一人暮らしの雅史の健康を気遣って、美良の母親が定期的に夕食に招いてくれるのだ。非常に美味しい料理と『んっ?』となる料理があるが、後者が美良の手作り料理である事は明白だった。
時々、明らかに料理の次元を超えた物が出て来るが、それは妹の月野姫星(つきのきらら)特製手料理であろう。
「学会が近いのに済まないね。 まったく、美良はどこをほっつき歩いているんだか……」
自分の恩師でもある父親が憔悴したように言ってきた。碌に睡眠を取ってないのか目の下に隈を作っていた。
「いえ、自分は大丈夫です。 先生こそ大丈夫ですか?」
雅史は相手を気遣いつつも、お茶を持って来てくれた母親に軽く頭を下げて、鞄の中からいくつかの記事を印刷したものを取り出した。
「実は地方新聞の記事を見ていて気が付いたのですが、美良さんが尋ねた神社や寺には泥棒が入っていたようですね」
雅史は美良が村に行く何日か前に、神社と寺に泥棒が入ったとの記事を見つけていた。大した被害は無かったらしいが、詳細は不明だった。この件は村に行って直接聞いてみる事にしている。
警察に問い合わせても弁護士ならいざ知らず、民間人に教えてなどはくれないのは解っていたからだ。
「ふむ…… その泥棒たちと何か問題を起こしたのか?」
美良の父親は、そんな疑念が湧き上がって来たように聞いて来た。隣に座って居る母親も同じようだった。
「でも、それだったらメールじゃなくて電話寄越すだろうし、親父さんに相談しますよね?」
雅史は自分にはそんな事は何も言ってなかった。
「あっ、そういえば……」
姫星が雅史の話を聞いていて思い出したように言った。
「おねぇが村から帰って来た時に、そんな事を言ってたよ」
いつもの雑談だと思っていたので聞き流していたそうだ。
「何でも泥棒が神社の本殿に入って、金目のものが無かったのに腹を立てた連中が、中の物を壊して回って村の人が困っていたって言ってた」
姫星は行方不明になる前に姉と交わした会話を思い出していた。
「でも、おねぇ自身が何かに困っている風じゃなかったよ?」
姫星が続けて答えた。
「あの日も、大学に行く時は普段と変わらずに出かけていったからねぇ」
今度は母親が答える。美良の家族は羨ましいぐらいに仲が良い。雅史が理想とする家族像であった。
「じゃあ、泥棒にどうこうされている訳では無いみたいですね……」
雅史が姫星と美良の会話内容を聞きながら答えた。泥棒の一味に捕らえられているのではないかとの懸念があったのだ。
「どっちにしろ無断で出かけるような娘では無い。 それで雅史君は、その何とかって村には行って来るのかね?」
父親が雅史に尋ねる。出来れば自分も行きたいそうだが、学期末という事もあって今が一番忙しいのだそうだ。
「はい、これから出かけて明日にでも現地調査してみようかと、何かしら手懸かりが有るものと考えています」
雅史は仕事が一段落しているので、ある程度には自由が効く。何かしらの手掛かりがないと探しようが無いので、村に行ってみようかと相談に来たのだった。
「あたしも行くーーーっ!」
話を大人しく聞いていた姫星が両手を挙げて言い出した。
「雅史君は遊びに行くんじゃないんだから、お前は家で大人しくしていなさい」
父親に叱られてしまう姫星。
「…… ぶぅーーーっ ……」
予想していたとはいえ、姫星は一方的な物言いに不貞腐れて、クッションを抱え込んでしまった。
彼女なりに心配しているのだが、子供扱いされていることに不満顔であった。
「何でも良いから手掛かりを見つけて来てくれ、この通り頼む……」
「はい、御期待に添える様に頑張ります」
婚約者の父に頭を下げられた雅史は、自分も一緒になって頭を下げていた。
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