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第73話 狐のアイマスク
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パチンコ屋。
パチンコ機が醸し出す独特の騒音が店内に響いていた。それに乗るかのように場内アナウンスが客の射幸心を煽る。
それは何処にでも有るパチンコ屋の風景だ。
突然。店内の喧騒を打ち負かすかのような轟音が響いた。店の壁を突き破って車が入ってきたのだ。
清潔感が溢れていた店内には、壁の瓦礫と埃が散らばっていった。
「ダイナミックな入店する奴がいるもんだな」
「うんこ漏れそうだったんじゃね?」
「いや、ここ二階だし……」
間近で見ていた客たちが呟いていた。何人かは立ち上がったがそれだけだった。
突入してきた車は店内の柱にぶつかって停車した。車の後部は衝撃でひしゃげており、エンジンルームからは白い煙が吹き出ていた。
そして、後輪のタイヤが衝突した時のショックで外れてしまった。タイヤはパチンコ台の島に向かっていき、通路に積み上げられたドル箱を倒していった。
その場に居たパチンコの客たちは、一瞬に呆気に取られてしまっていた。だが、直ぐに店内は悲鳴と怒号に包まれていく。
「え?」
「ええ!?」
「ちょっ!」
「ああーーーっ! 俺のドル箱に何をする!」
誰かが大声で喚いていた。それでも、彼らはパチンコのハンドルを握る手を緩めない。
リーチ(大当たりの前兆)が掛かるかも知れないからだ。緊急事態より眼の前にある台の去就の方が大事なのだろう。
普通の人とは感覚が違うのだからしょうがない。
そんな喧騒とは別に運転席でモゾモゾと動く影があった。
「痛たたた……」
ディミトリだ。彼は無事だったようだ。すぐに自分の両手を握ったり開いたりして怪我の有無を確認していた。
足の無事を確かめようとして、顔が歪んでしまった。どうやら打ち所が悪い部分があったようだ。
(ヤバイ…… 早く逃げないと……)
ふと見るとディミトリは自分の銃の遊底が、引かれっぱなしになっているのに気がついた。弾丸を撃ち尽くしたのだ。
予備の弾倉も使い切っている。
(コイツは何か得物を持ってないか……)
助手席で事切れている男の身体を触ってみた。すると男の懐にベレッタを見つけた。弾倉はフルに装填されている。
右手が銃床を握っているので取り出そうとしたのだろう。乗り込もうとした時に銃撃したのは正解だったようだ。
ディミトリは銃を奪い取ってから、予備の弾倉を探したが持っていなかった。
(まあ良い。 これだけでも闘える……)
そして、懐から狐のアイマスクを取り出して被った。
(くそっ、玩具のアイマスクしか無いのかよ……)
本当は目出し帽で顔を隠したかった。だが、狐のアイマスクしか無かったのだ。
これはケリアンが手配してくれた車のシートポケットに入っていた物だ。恐らくシンウェイの物であろう。
(無いよりマシか……)
パチンコ店の至る所に監視カメラがあるのは承知している。それらの監視の目を誤魔化す必要が有るのだ。
これだけの大騒ぎを起こしたのだから、警察が乗り出すのは目に見えている。いずれバレるだろうが、今はまだ警察相手にする余裕が無い。時間稼ぎが目的だ。
(時間を稼いで楽器ケースにでも隠れて外国に逃げるか……)
ディミトリは足を少しだけ引き摺るように階段を下りていった。最早、痛みがどうのこうの言ってられない。
急がないと駐車場ビルから、奴らがすぐにでも駆けつけて来るだろう。市民を巻き込むような所での銃撃戦は避けたかったのだ。
店を飛び出したディミトリは道路を渡ろうとした。道路は片側二車線の道路だ。交通量もそこそこにある。
道路をちらりと見て車が来ないことを確認して渡り始めた。
道路を渡る目的は信号待ちで止まっているらしい車を『借りる』為だ。丁度、気の弱そうなサラリーマンが運転している車が目に止まったからだった。
ところが、次の瞬間に反対方向から、車が突進してくるのが目の端に見えた。世間で一大ブームとなっている逆走車だ。
(え?)
ディミトリは咄嗟にボンネットの上に、身体を投げ出したが間に合わなかった。
アクションシーンで良く見かけるように、車を飛び越えたかったらしい。残念な事に叶わなかった。そのまま刎ねられてしまったのだ。
(何で、コイツは反対車線を走ってくるんだっ!)
車のフロントガラスが割れ、ディミトリは車の屋根の上をクルリと一回転して地面に落ちてしまった。
車は咄嗟にブレーキを踏んだらしいが、それなりに速度は出ていたのだろう。直ぐには停車できなかった。
「コイツがいきなり飛び出して来たんじゃ!」
老人が車の中で喚いていた。彼は訳が分からずパニック状態に成っているようだった。
運転手からすれば人間がいきなり現れた様に見えたのだろう。自分が逆走しているのに気が付いていないらしい。
「最近の若いものはなっとらんっ! わしの若い頃は……」
老人はまだ喚いている。
そこに駐車場ビルから車が二台飛び出してきた。ディミトリたちを追いかけ回してた車だ。そして、ディミトリの傍に車を停車させた。
「ちっ……」
車から男たちがバラバラと飛び出してくる。そして、銃を構えたまま慎重にディミトリに近づいてきた。
そこでディミトリの視界は消えてしまった。余りの痛みに失神してしまったのだ。
(クソッタレが…………)
こうしてディミトリは捕まってしまったのだった。
パチンコ機が醸し出す独特の騒音が店内に響いていた。それに乗るかのように場内アナウンスが客の射幸心を煽る。
それは何処にでも有るパチンコ屋の風景だ。
突然。店内の喧騒を打ち負かすかのような轟音が響いた。店の壁を突き破って車が入ってきたのだ。
清潔感が溢れていた店内には、壁の瓦礫と埃が散らばっていった。
「ダイナミックな入店する奴がいるもんだな」
「うんこ漏れそうだったんじゃね?」
「いや、ここ二階だし……」
間近で見ていた客たちが呟いていた。何人かは立ち上がったがそれだけだった。
突入してきた車は店内の柱にぶつかって停車した。車の後部は衝撃でひしゃげており、エンジンルームからは白い煙が吹き出ていた。
そして、後輪のタイヤが衝突した時のショックで外れてしまった。タイヤはパチンコ台の島に向かっていき、通路に積み上げられたドル箱を倒していった。
その場に居たパチンコの客たちは、一瞬に呆気に取られてしまっていた。だが、直ぐに店内は悲鳴と怒号に包まれていく。
「え?」
「ええ!?」
「ちょっ!」
「ああーーーっ! 俺のドル箱に何をする!」
誰かが大声で喚いていた。それでも、彼らはパチンコのハンドルを握る手を緩めない。
リーチ(大当たりの前兆)が掛かるかも知れないからだ。緊急事態より眼の前にある台の去就の方が大事なのだろう。
普通の人とは感覚が違うのだからしょうがない。
そんな喧騒とは別に運転席でモゾモゾと動く影があった。
「痛たたた……」
ディミトリだ。彼は無事だったようだ。すぐに自分の両手を握ったり開いたりして怪我の有無を確認していた。
足の無事を確かめようとして、顔が歪んでしまった。どうやら打ち所が悪い部分があったようだ。
(ヤバイ…… 早く逃げないと……)
ふと見るとディミトリは自分の銃の遊底が、引かれっぱなしになっているのに気がついた。弾丸を撃ち尽くしたのだ。
予備の弾倉も使い切っている。
(コイツは何か得物を持ってないか……)
助手席で事切れている男の身体を触ってみた。すると男の懐にベレッタを見つけた。弾倉はフルに装填されている。
右手が銃床を握っているので取り出そうとしたのだろう。乗り込もうとした時に銃撃したのは正解だったようだ。
ディミトリは銃を奪い取ってから、予備の弾倉を探したが持っていなかった。
(まあ良い。 これだけでも闘える……)
そして、懐から狐のアイマスクを取り出して被った。
(くそっ、玩具のアイマスクしか無いのかよ……)
本当は目出し帽で顔を隠したかった。だが、狐のアイマスクしか無かったのだ。
これはケリアンが手配してくれた車のシートポケットに入っていた物だ。恐らくシンウェイの物であろう。
(無いよりマシか……)
パチンコ店の至る所に監視カメラがあるのは承知している。それらの監視の目を誤魔化す必要が有るのだ。
これだけの大騒ぎを起こしたのだから、警察が乗り出すのは目に見えている。いずれバレるだろうが、今はまだ警察相手にする余裕が無い。時間稼ぎが目的だ。
(時間を稼いで楽器ケースにでも隠れて外国に逃げるか……)
ディミトリは足を少しだけ引き摺るように階段を下りていった。最早、痛みがどうのこうの言ってられない。
急がないと駐車場ビルから、奴らがすぐにでも駆けつけて来るだろう。市民を巻き込むような所での銃撃戦は避けたかったのだ。
店を飛び出したディミトリは道路を渡ろうとした。道路は片側二車線の道路だ。交通量もそこそこにある。
道路をちらりと見て車が来ないことを確認して渡り始めた。
道路を渡る目的は信号待ちで止まっているらしい車を『借りる』為だ。丁度、気の弱そうなサラリーマンが運転している車が目に止まったからだった。
ところが、次の瞬間に反対方向から、車が突進してくるのが目の端に見えた。世間で一大ブームとなっている逆走車だ。
(え?)
ディミトリは咄嗟にボンネットの上に、身体を投げ出したが間に合わなかった。
アクションシーンで良く見かけるように、車を飛び越えたかったらしい。残念な事に叶わなかった。そのまま刎ねられてしまったのだ。
(何で、コイツは反対車線を走ってくるんだっ!)
車のフロントガラスが割れ、ディミトリは車の屋根の上をクルリと一回転して地面に落ちてしまった。
車は咄嗟にブレーキを踏んだらしいが、それなりに速度は出ていたのだろう。直ぐには停車できなかった。
「コイツがいきなり飛び出して来たんじゃ!」
老人が車の中で喚いていた。彼は訳が分からずパニック状態に成っているようだった。
運転手からすれば人間がいきなり現れた様に見えたのだろう。自分が逆走しているのに気が付いていないらしい。
「最近の若いものはなっとらんっ! わしの若い頃は……」
老人はまだ喚いている。
そこに駐車場ビルから車が二台飛び出してきた。ディミトリたちを追いかけ回してた車だ。そして、ディミトリの傍に車を停車させた。
「ちっ……」
車から男たちがバラバラと飛び出してくる。そして、銃を構えたまま慎重にディミトリに近づいてきた。
そこでディミトリの視界は消えてしまった。余りの痛みに失神してしまったのだ。
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