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第47話 待望の偽装品
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自宅。
ディミトリは盗聴した結果をアオイに電話で伝えた。そして、彼を呼び出す様に言ったのだ。
『どうするの?』
「どうせ、まともに質問しても答えないだろう?」
『うん……』
「だからさ……」
ディミトリは自分の計画をアオイに言い聞かせた。彼女は絶句していたが、妹のために協力を約束した。
数時間後。アオイが公園で待っていると水野は一人でやって来た。
「こんばんは。 今日は妹さんはご一緒では無いので?」
「これからやって来るんです」
「そうなんで……」
ディミトリはアオイに気を取られている水野に近づき、後ろからスタンガンで気絶させてしまった。
「え?」
「ちゃんと自主的に答えやすいようにしてあげるのさ」
ディミトリはほほえみながら答えた。気絶させたのは、身柄を拐って廃工場に連れ込む為だ。
結束バンドで手を拘束して車に詰め込み、薬の売人たちを始末した工場に向かった。
(あの工場なら今も無人のはずだ)
一度、罠として使用した工場をチャイカたちが再び来るとは思えなかったからだ。
ディミトリとアオイは工場の奥の部屋に水野を運び込み椅子に縛り付けた。
(次は金庫の鍵を……)
水野の荷物から鍵を取り出し、アオイにマンションに向かうように頼み込んだ。鍵はどれだか分からないが、肌身離さず持っているはずだと睨んでいたのだ。違っていたら聞き出せば良い。その方法なら良く知っている。
「でも、そこって……」
ディミトリが言った住所を聞いた時にアオイの表情が曇った。彼女が『ストーカー男』を始末した場所だからだ。
「ああ、水野たちのアジトがあるんだよ」
「水野?」
「ん? あの男の名前だよ?」
「え? 偽名だったの?」
「そう、元はオレオレ詐欺のグループのメンバーなのさ」
元々、水野たちのマンションを見張るのが目的だったのだ。そのカメラに事故の様子が映っていたのだと、説明すると彼女は納得したようだった。
「君って本当は幾つなの?」
監視カメラの設置とか、拳銃を持っていたりとかアオイの常識の範疇を越えていた。とても、中学生とは思えなかったのだろう。
もっとも中身は三十五歳のおっさんだが、彼女が知っても意味が無いのでディミトリは言わない事にしていた。
「ぼくみっちゅ……」
「もう……」
ディミトリがふざけるとアオイが頭を小突いてからクスクス笑っていた。
鍵を入手したディミトリとアオイは、水野のマンションに入っていた。鍵を持っているので、今度は玄関から入っていく。
(金庫…… 結構大きめだと言ってたような……)
台所にあると言っていた。探してみたがソレらしい物は無い。
(騙しやがったか…… ん?)
シンクの下には排水管用の空間がある。こういう所には食器などが仕舞われている物だが、米びつがある事に気が付いた。
一般的な家であれば違和感が無い物だが、この部屋では異質な存在だ。彼らが自炊などするとは思えないからだ。
そして、米びつを動かそうとすると、前面がスライド出来る事に気が付いた。
「これか……」
ディミトリが米を退かせてみると、待望の金庫が現れた。中々に考えられた偽装の仕方だった。
(これじゃあ、ザッと見ただけじゃ分からないのも無理無いわな……)
前回、忍び込んだ時に気が付かなかったのも頷けた。違和感が無くて見過ごしたのだろう。
(じゃあ、開けるか……)
ディミトリは金庫を開ける作業に入った。
これは傭兵の時にベテランの兵隊からやり方を聞いていた。麻薬シンジケートには大概金庫が有るからだ。
通常のダイヤル錠は先ず鍵を鍵穴に差込んだ後に、ダイヤル錠を右に4回以上・左に3回・右に2回・左に1回と回しながら番号を合わせていく。これはほとんどの金庫に共通だ。
(面倒くさいが、これが一番早いんだよな……)
番号が分からない場合には、バールなどの工具でこじ開けると単純に考えてしまいがちだ。だが、家庭用と言えども金庫を壊すのは非常に困難なのだ。丈夫に出来ているのだ。そうでなければ意味が無い。
ダイヤル式の金庫は、数字の目盛りが付いた円盤状の座板を動かす。番号を正しく回すと、座板の切れ込みが揃い、デッドボルトが外れる。プロはデッドボルトが外れる僅かな振動を指先で感知して番号を割り出すのだ。
生憎とディミトリはプロでは無い。そこでスマートフォンの録音アプリを応用して感知させる事にした。音声をグラフ波形で表示させるのだ。デッドボルトが外れる僅かな振動が波形のスパイクとなって表示されるのだ。
ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「おおっ!」
「わっ、凄い……」
中には百万づつの束が収められていた。いつの間にか後ろに来ていたアオイが一緒に金庫を覗き込んでビックリしていた。
「君って何でも出来るんだね……」
「まあ、正直に生きて来た訳じゃないからね……」
そう言ってディミトリは部屋の中を見回した。
「うん、そこのバッグを頂戴……」
「はい」
仕事の出来に満足したのかディミトリは上機嫌だった。室内に有ったディバッグを、アオイに持ってきて貰い金を積み込んだ。全部で三千五百万程だった。中々の成果だ。
「先にコレを持って車に戻っていてくれる?」
「うん、良いよ」
ディミトリは後の処理をする為に残ったのだ。盗聴器を片付けたり部屋中に漂白剤を撒きちらす為だ。
自分たちが居た痕跡を消す。
その後で水野の携帯を充電器に差し込んでマンションを後にした。携帯には盗聴アプリを仕込んである。
リーダーの男はもうすぐ釈放されると言っていた。帰宅してみると金庫が開いていて、金が無く水野も居ない状況になっている。これを、どう判断するか興味が有るからだ。
(普通に考えれば、金を持って水野が飛んだと思うわな……)
廃工場に向かう車中でディミトリはニヤニヤと笑っていた。
ディミトリは盗聴した結果をアオイに電話で伝えた。そして、彼を呼び出す様に言ったのだ。
『どうするの?』
「どうせ、まともに質問しても答えないだろう?」
『うん……』
「だからさ……」
ディミトリは自分の計画をアオイに言い聞かせた。彼女は絶句していたが、妹のために協力を約束した。
数時間後。アオイが公園で待っていると水野は一人でやって来た。
「こんばんは。 今日は妹さんはご一緒では無いので?」
「これからやって来るんです」
「そうなんで……」
ディミトリはアオイに気を取られている水野に近づき、後ろからスタンガンで気絶させてしまった。
「え?」
「ちゃんと自主的に答えやすいようにしてあげるのさ」
ディミトリはほほえみながら答えた。気絶させたのは、身柄を拐って廃工場に連れ込む為だ。
結束バンドで手を拘束して車に詰め込み、薬の売人たちを始末した工場に向かった。
(あの工場なら今も無人のはずだ)
一度、罠として使用した工場をチャイカたちが再び来るとは思えなかったからだ。
ディミトリとアオイは工場の奥の部屋に水野を運び込み椅子に縛り付けた。
(次は金庫の鍵を……)
水野の荷物から鍵を取り出し、アオイにマンションに向かうように頼み込んだ。鍵はどれだか分からないが、肌身離さず持っているはずだと睨んでいたのだ。違っていたら聞き出せば良い。その方法なら良く知っている。
「でも、そこって……」
ディミトリが言った住所を聞いた時にアオイの表情が曇った。彼女が『ストーカー男』を始末した場所だからだ。
「ああ、水野たちのアジトがあるんだよ」
「水野?」
「ん? あの男の名前だよ?」
「え? 偽名だったの?」
「そう、元はオレオレ詐欺のグループのメンバーなのさ」
元々、水野たちのマンションを見張るのが目的だったのだ。そのカメラに事故の様子が映っていたのだと、説明すると彼女は納得したようだった。
「君って本当は幾つなの?」
監視カメラの設置とか、拳銃を持っていたりとかアオイの常識の範疇を越えていた。とても、中学生とは思えなかったのだろう。
もっとも中身は三十五歳のおっさんだが、彼女が知っても意味が無いのでディミトリは言わない事にしていた。
「ぼくみっちゅ……」
「もう……」
ディミトリがふざけるとアオイが頭を小突いてからクスクス笑っていた。
鍵を入手したディミトリとアオイは、水野のマンションに入っていた。鍵を持っているので、今度は玄関から入っていく。
(金庫…… 結構大きめだと言ってたような……)
台所にあると言っていた。探してみたがソレらしい物は無い。
(騙しやがったか…… ん?)
シンクの下には排水管用の空間がある。こういう所には食器などが仕舞われている物だが、米びつがある事に気が付いた。
一般的な家であれば違和感が無い物だが、この部屋では異質な存在だ。彼らが自炊などするとは思えないからだ。
そして、米びつを動かそうとすると、前面がスライド出来る事に気が付いた。
「これか……」
ディミトリが米を退かせてみると、待望の金庫が現れた。中々に考えられた偽装の仕方だった。
(これじゃあ、ザッと見ただけじゃ分からないのも無理無いわな……)
前回、忍び込んだ時に気が付かなかったのも頷けた。違和感が無くて見過ごしたのだろう。
(じゃあ、開けるか……)
ディミトリは金庫を開ける作業に入った。
これは傭兵の時にベテランの兵隊からやり方を聞いていた。麻薬シンジケートには大概金庫が有るからだ。
通常のダイヤル錠は先ず鍵を鍵穴に差込んだ後に、ダイヤル錠を右に4回以上・左に3回・右に2回・左に1回と回しながら番号を合わせていく。これはほとんどの金庫に共通だ。
(面倒くさいが、これが一番早いんだよな……)
番号が分からない場合には、バールなどの工具でこじ開けると単純に考えてしまいがちだ。だが、家庭用と言えども金庫を壊すのは非常に困難なのだ。丈夫に出来ているのだ。そうでなければ意味が無い。
ダイヤル式の金庫は、数字の目盛りが付いた円盤状の座板を動かす。番号を正しく回すと、座板の切れ込みが揃い、デッドボルトが外れる。プロはデッドボルトが外れる僅かな振動を指先で感知して番号を割り出すのだ。
生憎とディミトリはプロでは無い。そこでスマートフォンの録音アプリを応用して感知させる事にした。音声をグラフ波形で表示させるのだ。デッドボルトが外れる僅かな振動が波形のスパイクとなって表示されるのだ。
ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「おおっ!」
「わっ、凄い……」
中には百万づつの束が収められていた。いつの間にか後ろに来ていたアオイが一緒に金庫を覗き込んでビックリしていた。
「君って何でも出来るんだね……」
「まあ、正直に生きて来た訳じゃないからね……」
そう言ってディミトリは部屋の中を見回した。
「うん、そこのバッグを頂戴……」
「はい」
仕事の出来に満足したのかディミトリは上機嫌だった。室内に有ったディバッグを、アオイに持ってきて貰い金を積み込んだ。全部で三千五百万程だった。中々の成果だ。
「先にコレを持って車に戻っていてくれる?」
「うん、良いよ」
ディミトリは後の処理をする為に残ったのだ。盗聴器を片付けたり部屋中に漂白剤を撒きちらす為だ。
自分たちが居た痕跡を消す。
その後で水野の携帯を充電器に差し込んでマンションを後にした。携帯には盗聴アプリを仕込んである。
リーダーの男はもうすぐ釈放されると言っていた。帰宅してみると金庫が開いていて、金が無く水野も居ない状況になっている。これを、どう判断するか興味が有るからだ。
(普通に考えれば、金を持って水野が飛んだと思うわな……)
廃工場に向かう車中でディミトリはニヤニヤと笑っていた。
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