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第42話 拍子抜けする音

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自宅。

 ミリタリーオタクの田島はディミトリの家に来ていた。
 今日は、祖母が老人会の催しで出掛けている。カラオケ大会なのだそうだ。夜までディミトリ独りなので都合が良いのだ。
 田島は河原で実験しようと言っていったが、人目に付きたく無いので家でやることにした。

 田島は持参した鉄パイプをディミトリに手渡した。少し年季が入っている奴だ。ガレージに捨てられていた奴だそうだ。

「ちょっと錆びてるけど問題ねぇよ!」

 それと同時に買い物袋を床に置いた。中には爆竹が入っているのだそうだ。

「で、爆竹は何本入れるの?」
「十本くらいでどうよ?」

 ディミトリは鉄パイプをカメラの三脚に紐で縛り付けた。グラつかないようにだ。
 それから鉄パイプの中に爆竹を詰め込んで、延びている導火線を一本に縛り付けた。

「了解……」

 まず、最初にサプレッサー無しで撃ってみる。それをスマートフォンの騒音計測アプリで調べてみた。
 『パンッ』と大きな音がして部屋中に硝煙の匂いが立ち込める。

「百十か……」

 アプリが示す数値を見ながら呟いた。ネットで調べた拳銃の発射音よりは小さかった。
 一般的な拳銃の発する銃声は百四十デシベルから百七十デシベルだ。間近で聞けば耳を痛めてしまう程だ。

「次はサプレッサーを付けてみるべ?」
「了解……」

 ディミトリは再び爆竹を鉄パイプに詰め込んだ。そして、鉄パイプの先端にサプレッサーをねじ込んで点火した。
 『ポン』まるで手を打ったかのような音がした。何だか拍子抜けする音だった。
 アプリで測定した結果は八十デシベルだった。

「んーーーーー」

 田島は渋い顔をしている。彼としては映画やドラマで見るような『プシュ』とか『プス』とかの音を期待していたらしい。

「ちゃんと密閉しているわけじゃないから、音が漏れてしまっているんだよ」

 ディミトリとしては音が減衰している事の方が重要だった。彼の基準からすれば成功の部類に入る。
 だが、田島がガッカリしているらしいので励ましてあげたのだ。

 銃声の正体は火薬が爆発するときの衝撃波。サプレッサーはこの衝撃波を一旦受け止めて音を減少させなければならない。
 プラスチックで出来たサプレッサーでは、衝撃波が本体を通して漏れているのだ。工夫すればもう少し音が小さく出来ると思われる。

(爆竹みたいな火薬だと大丈夫だが、本物の発射薬では駄目そうだな……)

 ディミトリはサプレッサーを見ながらどうするかを考えていた。
 それから二人はサプレッサーの実験と称して何回か爆竹の爆破テスト行った。夕方に帰っていった。

「面白かった。 サプレッサーはあげるよ!」

 構造を見直した奴を作ると言ってサプレッサーを置いていった。

 一人になったのでディミトリは本物の銃を机の中から取り出した。モデルガンを雑多に仕舞い込んであるので、今度は捨てられないだろうと考えていたのだ。

 それから薄手のステンレスパイプに、作成したサプレッサー本体をねじ込んだ。これは予め用意しておいた。
 プラスチックで出来ているので、発射の衝撃に耐えられないのは明白だからだ。

(こうすれば発射薬の圧力に耐えられるはずだ……)

 次に、銃の遊底を引いてサプレッサーを装着してみた。銃身にサプレッサーを取り付けるためのネジ切りをしてないのでグラグラしていた。

 ディミトリは漫画本を複数冊壁に立て掛けて的にした。壁を撃ち抜かないようにする為だ。
 それから銃を構えて引き金を弾いた。

『ドンッ』

 発射音と一緒にサプレッサーは飛んでいってしまった。

「ぬあ!?」

 飛んでいったサプレッサーを見ると根本が折れている。

(所詮、プラスチックだしな……)

 本体は発射薬の圧力に耐えられたが、銃にマウントさせる部分が力に耐えられなかったようだ。
 これでは笑いは取れるが命は取れない。

 銃に装着させるアタッチメントを金属で加工して、マウントさせるようにしてみた。加工と言っても接着剤と結束バンドだ。
 再び銃を構えて引き金を弾いた。

『ポヒュッ』

 今度は耐えることが出来たようだ。

(う~ん、正規のメーカー品とは音が違うな……)

 アプリの示した数値は七十デシベルだ。どうやら高音域が巧く音を消せないようだ。
 それでも金属で覆った効果は有ったようだ。

(改造の余地はあるな……)

 結果に満足したディミトリはサプレッサーを分解してみた。中身を確認する為だ。
 金属のケースからサプレッサーを取り出してみると縦に割れていた。

(まあ、そりゃそうだわな……)

 少しため息を付いたが、結果には満足したようだ。ニコニコしながらサプレッサーをひっくり返したりしながら眺めている。
 玩具の出来に満足した子供のようだ。

(まあ、まだ工夫すればどうにか出来るか……)

 そんな事を考えていると、スマートフォンが着信を告げた。

「ん?」

 ディミトリが電話に出てみると、兵部アオイであった。

『相談事があるので早めに家に来て欲しい……』

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