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第29話 潜入者の手法
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学校。
大串との会話を終えたディミトリは教室に戻ってきた。大串たちはディミトリが代役を引き受けたので安心したようだ。
何度も礼を言ってきた。
(乱暴者を装ってもヤクザ相手はキツイって事か……)
そんな事を考えながら教室に入っていく。するとクラスメートの田島人志が話しかけてきた。
「よう、まだモデルガンの空き箱探してる?」
「いや、飾りたかっただけだから足りているよ」
「いつでも言ってくれ、新しい奴は取ってあるからさ」
「ああ、分かったよ。 ありがとう」
田島はミリタリーオタクだった。休み時間にはガン雑誌を広げて読みふけっている姿を良く見かけていた。
ディミトリは鏑木医師宅を襲撃した際に、多数の武器を鹵獲することが出来た。そして、武器を隠匿する必要があった。
そこでモデルガンに見せかけて飾って置くことにしたのだ。
「今度、オタクのコレクションを見せてくれよ」
「俺が持ってるのは古い奴ばかりだよ」
最初、田島はいきなり話し掛けてきたディミトリにビックリしていた。学校に来ても滅多に口を開くことが無いので有名だからだ。
そんな変わり者が、自分の趣味のことを聞いて来たので喜んでいた。何しろモデルガンの事を語り合う仲間など、今まで周りに居なかったのだ。
「古い奴は古い奴で味が或るってもんだ」
そう言って田島は笑った。
ディミトリの持っているものは、タダヤスの父親が集めていた物。押し入れを整理していたらダンボールに入っていたのだ。
それを見た時に隠し場所が閃いたらしい。
「ははは、そのうちにな」
「ああっ!」
ディミトリは彼から不要になったモデルガンの空き箱を調達したのだった。その空き箱に分解した武器をしまってある。
こうしておけば気付かれること無く秘匿出来ると考えていたのだ。
(うっかり触って暴発でもしたら怪我させてしまう……)
祖母が本物と玩具の違いを、理解できるとは考えにくいが万が一の事を考えたのだった。
(まあ、組み立ては一分も有れば余裕で出来るし)
咄嗟の事態に対処出来ないが、武器を剥き出しで持っているよりは安全だろうと考えたのだった。
夕方になり早めの夕食を済ませたディミトリは、ランニングに行くと言って出掛けた。行き先は現金受け渡し場所の廃工場だ。
地図によると自転車でも一時間はかかる。早めに下見を行っておくことにしたのだ。
廃工場に到着したディミトリは道路を挟んで観察を始めた。工場はフェンスに周りを囲まれている。高さは二メートル程。
正門の扉は閉まっていた。工場自体は町工場を少しだけ大きくしたような印象だ。さほど大きくは無い。
「あれか……」
ディミトリは場内を単眼鏡で中を観察し始めた。いくら無人だろうと思っても、防犯カメラくらいはあるだろうと踏んでいた。
しかし、それらしきものは無かった。それでも正門から入っていくのは止めにした。
まずは、潜入して中の様子を頭にいれる方が良いと判断したのだ。
(まずは、フェンスを乗り越えるか……)
ディミトリは見張りの居ないフェンスを乗り越えるべく道を横断した。そして、ガードレールをヒョイと飛び越そうとした。
「ぐあっ」
しかし、足をガードレールにぶつけて顔から地面に落ちてしまった。
「お、俺の長い足が引っ掛かってしまった……」
誰も聞いていないのに、そんな言い訳をブツブツと呟いていた。
フェンスを乗り越えるのは簡単だった。脇に立っている電柱を足掛かりにするのは以前に試しているからだ。
フェンスの中に入ったディミトリは目の前にある建物に取り付く。そして、工場をグルリと回って人がいないのを確認して回った。
(この窓から入ろうか……)
道路の反対側に面した建物の窓から入ることにしたようだ。中を覗き人の気配が無い事を再び確認したディミトリは、閉まっているのに気が付いた。
(くっそ…… ガムテープも無いしどうしよう……)
防音の為にガムテープを窓に貼り付けてガラスを割る手法がある。音もしないしガラスが飛び散らないので便利なのだ。
ディミトリは他の入り口は無いかと付近を見回した。
(ん? あれが使えるかも……)
ディミトリの目線の先に有ったのは制汗スプレーだ。近くに女性物のポーチが有るので誰かが落とした物なのだろうと考えた。
振ってみると少しだけ音がする。埃にまみれて古いようだが中身がまだあるようだ。
(よしよし……)
スプレー缶のガスはブタン・プロパンなどを主成分とした液化した可燃性のLPGガスが多い。
ディミトリは窓の鍵が有る部分に、スプレーを噴射したままライターで火を着けた。スプレーのガスで出来た炎は窓ガラスをメラメラと炙った。そのまま十秒ほど炙ったままにする。
次に缶を逆さにして液化したガスを噴射した。これで加熱したガラス部分を急速に冷却する事が出来る。しかし、加熱された部分で再び着火する可能性が高い危険な技だ。
(これでガラス部分は劣化したはず……)
ディミトリは缶の底でコツンと炙った部分を小さく叩いた。すると、もくろみ通りに加熱した部分だけボロボロと崩れ落ちた。
(よし、上手くいった!)
指が入るだけの隙間を作り施錠を外す事が出来たのだ。
(ふふふ…… 俺に隙は無いぜ……)
ディミトリが行った方法は、空き巣が使う『あぶり』と言われる手法だ。
難なく窓を開けたディミトリは室内に侵入した。長い事ほったらかしにされた空き家特有の埃っぽい空気が包み込んでくる。
(さて、隠れる場所がどこかにあるかな?)
建物の中への侵入に成功したディミトリは、素早く中を見回して工場の奥へと進んでいった。
大串との会話を終えたディミトリは教室に戻ってきた。大串たちはディミトリが代役を引き受けたので安心したようだ。
何度も礼を言ってきた。
(乱暴者を装ってもヤクザ相手はキツイって事か……)
そんな事を考えながら教室に入っていく。するとクラスメートの田島人志が話しかけてきた。
「よう、まだモデルガンの空き箱探してる?」
「いや、飾りたかっただけだから足りているよ」
「いつでも言ってくれ、新しい奴は取ってあるからさ」
「ああ、分かったよ。 ありがとう」
田島はミリタリーオタクだった。休み時間にはガン雑誌を広げて読みふけっている姿を良く見かけていた。
ディミトリは鏑木医師宅を襲撃した際に、多数の武器を鹵獲することが出来た。そして、武器を隠匿する必要があった。
そこでモデルガンに見せかけて飾って置くことにしたのだ。
「今度、オタクのコレクションを見せてくれよ」
「俺が持ってるのは古い奴ばかりだよ」
最初、田島はいきなり話し掛けてきたディミトリにビックリしていた。学校に来ても滅多に口を開くことが無いので有名だからだ。
そんな変わり者が、自分の趣味のことを聞いて来たので喜んでいた。何しろモデルガンの事を語り合う仲間など、今まで周りに居なかったのだ。
「古い奴は古い奴で味が或るってもんだ」
そう言って田島は笑った。
ディミトリの持っているものは、タダヤスの父親が集めていた物。押し入れを整理していたらダンボールに入っていたのだ。
それを見た時に隠し場所が閃いたらしい。
「ははは、そのうちにな」
「ああっ!」
ディミトリは彼から不要になったモデルガンの空き箱を調達したのだった。その空き箱に分解した武器をしまってある。
こうしておけば気付かれること無く秘匿出来ると考えていたのだ。
(うっかり触って暴発でもしたら怪我させてしまう……)
祖母が本物と玩具の違いを、理解できるとは考えにくいが万が一の事を考えたのだった。
(まあ、組み立ては一分も有れば余裕で出来るし)
咄嗟の事態に対処出来ないが、武器を剥き出しで持っているよりは安全だろうと考えたのだった。
夕方になり早めの夕食を済ませたディミトリは、ランニングに行くと言って出掛けた。行き先は現金受け渡し場所の廃工場だ。
地図によると自転車でも一時間はかかる。早めに下見を行っておくことにしたのだ。
廃工場に到着したディミトリは道路を挟んで観察を始めた。工場はフェンスに周りを囲まれている。高さは二メートル程。
正門の扉は閉まっていた。工場自体は町工場を少しだけ大きくしたような印象だ。さほど大きくは無い。
「あれか……」
ディミトリは場内を単眼鏡で中を観察し始めた。いくら無人だろうと思っても、防犯カメラくらいはあるだろうと踏んでいた。
しかし、それらしきものは無かった。それでも正門から入っていくのは止めにした。
まずは、潜入して中の様子を頭にいれる方が良いと判断したのだ。
(まずは、フェンスを乗り越えるか……)
ディミトリは見張りの居ないフェンスを乗り越えるべく道を横断した。そして、ガードレールをヒョイと飛び越そうとした。
「ぐあっ」
しかし、足をガードレールにぶつけて顔から地面に落ちてしまった。
「お、俺の長い足が引っ掛かってしまった……」
誰も聞いていないのに、そんな言い訳をブツブツと呟いていた。
フェンスを乗り越えるのは簡単だった。脇に立っている電柱を足掛かりにするのは以前に試しているからだ。
フェンスの中に入ったディミトリは目の前にある建物に取り付く。そして、工場をグルリと回って人がいないのを確認して回った。
(この窓から入ろうか……)
道路の反対側に面した建物の窓から入ることにしたようだ。中を覗き人の気配が無い事を再び確認したディミトリは、閉まっているのに気が付いた。
(くっそ…… ガムテープも無いしどうしよう……)
防音の為にガムテープを窓に貼り付けてガラスを割る手法がある。音もしないしガラスが飛び散らないので便利なのだ。
ディミトリは他の入り口は無いかと付近を見回した。
(ん? あれが使えるかも……)
ディミトリの目線の先に有ったのは制汗スプレーだ。近くに女性物のポーチが有るので誰かが落とした物なのだろうと考えた。
振ってみると少しだけ音がする。埃にまみれて古いようだが中身がまだあるようだ。
(よしよし……)
スプレー缶のガスはブタン・プロパンなどを主成分とした液化した可燃性のLPGガスが多い。
ディミトリは窓の鍵が有る部分に、スプレーを噴射したままライターで火を着けた。スプレーのガスで出来た炎は窓ガラスをメラメラと炙った。そのまま十秒ほど炙ったままにする。
次に缶を逆さにして液化したガスを噴射した。これで加熱したガラス部分を急速に冷却する事が出来る。しかし、加熱された部分で再び着火する可能性が高い危険な技だ。
(これでガラス部分は劣化したはず……)
ディミトリは缶の底でコツンと炙った部分を小さく叩いた。すると、もくろみ通りに加熱した部分だけボロボロと崩れ落ちた。
(よし、上手くいった!)
指が入るだけの隙間を作り施錠を外す事が出来たのだ。
(ふふふ…… 俺に隙は無いぜ……)
ディミトリが行った方法は、空き巣が使う『あぶり』と言われる手法だ。
難なく窓を開けたディミトリは室内に侵入した。長い事ほったらかしにされた空き家特有の埃っぽい空気が包み込んでくる。
(さて、隠れる場所がどこかにあるかな?)
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