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第24話 眼福のヒトトキ
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兵部アオイのアパート。
ディミトリは夕方になるのを待って目的のアパートにやってきた。
二階建てのアパートには部屋が上下合わせて十戸だ。
出入り口は外に面しているが、隣家との壁があり人目は避けられそうだ。
住宅街に在る為なのか、幸いにも人通りはまばらだった。ディミトリはアパートが見える道路に自転車を止めた。
まだ、夕刻を少し過ぎたあたりだ。一般的な家庭なら夕飯の支度で忙しいし、勤め人なら帰宅の途中のはずだ。
そのタイミングを狙ってやって来たのだ。
(うん、どの部屋も電気は点いていないな……)
目的の部屋は電気が点いている様子は無い。睨んだ通り留守のようだ。
ディミトリは自転車から降りて、まるで帰宅した住人のようにアパートに近づいていった。
此処までで人とすれ違った事が無い。人通りが途絶える瞬間なのであろう。
ディミトリは誰かとすれ違うようなら中止して帰宅しようと考えていた。
(確か、この部屋のはず……)
アパートの安そうなドアを見ると、想像した通りのドアスコープが付いている。
これなら詐欺グループのマンションに入った時と同じ手口が使えると彼は安心した。
(よしよし、想定内だ……)
ディミトリはドアスコープを外し、穴から内視鏡を入れて鍵を外した。ドアを静かに開けて目的の室内に素早く忍び込んだ。
そのまま、ドアに張り付いて外の様子を窺う。誰かが近づいてくる気配が有れば見つかっていると言う事だ。
窃盗などで見つかるのは侵入する瞬間が多いと聞く。ディミトリにとっては緊張の瞬間であった。
(まあ、アパートの住人は独身者だけだったみたいだけどな……)
幸いにも何も動きは無かった。まだ、誰も帰宅していないのであろう。だからこの時間帯なのだ。
ディミトリは安心したのか、一度深く深呼吸をしてから振り返った。
落ち着きを取り戻してから室内を観察する。朝から見張っている訳では無いので、住人が居る可能性があるのだ。
薄暗い室内だが、整然とされている様子ぐらいは分かる。きっと、住人は生真面目な性格なのであろう。
(何だか、動画の映像から受ける印象と違っているなあ……)
轢き逃げなんて事をする人間なので、だらしない人という印象を持っていたのだ。
ディミトリの少なくない経験で、粗暴な犯罪を平気で行う人間は生活がだらし無い奴が多かったのだ。
逆に銀行強盗や窃盗など行う人間は、潔癖症かと疑うぐらいに部屋が整理されていた。これは計画を良く練らないと、犯行が成功しないと信じ込んでいるせいだろうと考えていた。
(思い込みで行動してはイケナイという事か……)
そんな事を考えながら、ディミトリは履いている靴の上から靴下を被せた。室内に土足で上がるためだ。
こうしておけば脱出する時に靴のことを気にしないでいられる。それに、外に出たら靴下は捨てれば良い。
何より下足痕を残さないので、警察に通報されても足取りが付き難くなるのだ。
警察の能力を評価はしてはいないが、侮ってはいけないのを知っている。色々と手痛い経験をしているせいだ。
彼なりに慎重に事を運んでいるつもりだった。
(どうも~お邪魔します……)
誰も居ないことは確認済みだが、静かに部屋の中を移動していた。
ベッドに机にちゃぶ台・タンスと質素な暮らし向きらしかった。余計な装飾品が無い。
室内の本棚には医療関係の本が多かった。それも家庭用ではなく医者の使う専門書の類だ。
中には外国語で書かれた背表紙も見受けられる。
(睨んだ通りに医者の卵という事か……)
次にタンスの引き出しを下から開けていく。上から開けると上段の引き出しが邪魔になるからだ。
因みにコレは窃盗犯が行うやり方だ。短時間で家探しが出来るのだ。
ベテランになると五分もあれば一部屋分の家探しが完了するらしい。
(むっ コレは……)
とある引き出しを開けた時にディミトリの手が止まった。
そして、コレまで見せたことが無い様な険しい顔付きになっていった。
「うーむ……」
その引き出しには色とりどりの下着が詰め込まれていたのだ。恐らくアオイのモノであろう。
何となく良い香りがするような気がする。
(ををを…… 眼福眼福)
下着入れを開けてしまったディミトリは何故か喜んでしまっている。
一枚取り出して目の前に広げてみたりしていた。しばらくニヤニヤと眺めていたがハッと気がついたことが有るようだ。
(いやいやいやいや…… 目的が違うし……)
そんな場合では無いと、被りたい衝動を抑え込んで引き出しを元に戻した。
洋の東西を問わず、いくつであろうと男はしょうもない生き物なのだ。
(ふん、男に関係するものは何も無しか……)
ディミトリが探していたものは男の影だった。彼女の部屋には女性の匂いはあるが、男関係のものは一切見受けられない。
あのひき逃げ事件を起こした原因は、痴情のもつれなのかも知れないと推測していた。
(男関係じゃない…… 借金とか薬関係とかかな?)
だが、違っていたようだ。ひき逃げ事件の詳細は彼女に聞くしかなさそうだ。
その時、表の方で車が停車する音が聞こえた。
ディミトリは夕方になるのを待って目的のアパートにやってきた。
二階建てのアパートには部屋が上下合わせて十戸だ。
出入り口は外に面しているが、隣家との壁があり人目は避けられそうだ。
住宅街に在る為なのか、幸いにも人通りはまばらだった。ディミトリはアパートが見える道路に自転車を止めた。
まだ、夕刻を少し過ぎたあたりだ。一般的な家庭なら夕飯の支度で忙しいし、勤め人なら帰宅の途中のはずだ。
そのタイミングを狙ってやって来たのだ。
(うん、どの部屋も電気は点いていないな……)
目的の部屋は電気が点いている様子は無い。睨んだ通り留守のようだ。
ディミトリは自転車から降りて、まるで帰宅した住人のようにアパートに近づいていった。
此処までで人とすれ違った事が無い。人通りが途絶える瞬間なのであろう。
ディミトリは誰かとすれ違うようなら中止して帰宅しようと考えていた。
(確か、この部屋のはず……)
アパートの安そうなドアを見ると、想像した通りのドアスコープが付いている。
これなら詐欺グループのマンションに入った時と同じ手口が使えると彼は安心した。
(よしよし、想定内だ……)
ディミトリはドアスコープを外し、穴から内視鏡を入れて鍵を外した。ドアを静かに開けて目的の室内に素早く忍び込んだ。
そのまま、ドアに張り付いて外の様子を窺う。誰かが近づいてくる気配が有れば見つかっていると言う事だ。
窃盗などで見つかるのは侵入する瞬間が多いと聞く。ディミトリにとっては緊張の瞬間であった。
(まあ、アパートの住人は独身者だけだったみたいだけどな……)
幸いにも何も動きは無かった。まだ、誰も帰宅していないのであろう。だからこの時間帯なのだ。
ディミトリは安心したのか、一度深く深呼吸をしてから振り返った。
落ち着きを取り戻してから室内を観察する。朝から見張っている訳では無いので、住人が居る可能性があるのだ。
薄暗い室内だが、整然とされている様子ぐらいは分かる。きっと、住人は生真面目な性格なのであろう。
(何だか、動画の映像から受ける印象と違っているなあ……)
轢き逃げなんて事をする人間なので、だらしない人という印象を持っていたのだ。
ディミトリの少なくない経験で、粗暴な犯罪を平気で行う人間は生活がだらし無い奴が多かったのだ。
逆に銀行強盗や窃盗など行う人間は、潔癖症かと疑うぐらいに部屋が整理されていた。これは計画を良く練らないと、犯行が成功しないと信じ込んでいるせいだろうと考えていた。
(思い込みで行動してはイケナイという事か……)
そんな事を考えながら、ディミトリは履いている靴の上から靴下を被せた。室内に土足で上がるためだ。
こうしておけば脱出する時に靴のことを気にしないでいられる。それに、外に出たら靴下は捨てれば良い。
何より下足痕を残さないので、警察に通報されても足取りが付き難くなるのだ。
警察の能力を評価はしてはいないが、侮ってはいけないのを知っている。色々と手痛い経験をしているせいだ。
彼なりに慎重に事を運んでいるつもりだった。
(どうも~お邪魔します……)
誰も居ないことは確認済みだが、静かに部屋の中を移動していた。
ベッドに机にちゃぶ台・タンスと質素な暮らし向きらしかった。余計な装飾品が無い。
室内の本棚には医療関係の本が多かった。それも家庭用ではなく医者の使う専門書の類だ。
中には外国語で書かれた背表紙も見受けられる。
(睨んだ通りに医者の卵という事か……)
次にタンスの引き出しを下から開けていく。上から開けると上段の引き出しが邪魔になるからだ。
因みにコレは窃盗犯が行うやり方だ。短時間で家探しが出来るのだ。
ベテランになると五分もあれば一部屋分の家探しが完了するらしい。
(むっ コレは……)
とある引き出しを開けた時にディミトリの手が止まった。
そして、コレまで見せたことが無い様な険しい顔付きになっていった。
「うーむ……」
その引き出しには色とりどりの下着が詰め込まれていたのだ。恐らくアオイのモノであろう。
何となく良い香りがするような気がする。
(ををを…… 眼福眼福)
下着入れを開けてしまったディミトリは何故か喜んでしまっている。
一枚取り出して目の前に広げてみたりしていた。しばらくニヤニヤと眺めていたがハッと気がついたことが有るようだ。
(いやいやいやいや…… 目的が違うし……)
そんな場合では無いと、被りたい衝動を抑え込んで引き出しを元に戻した。
洋の東西を問わず、いくつであろうと男はしょうもない生き物なのだ。
(ふん、男に関係するものは何も無しか……)
ディミトリが探していたものは男の影だった。彼女の部屋には女性の匂いはあるが、男関係のものは一切見受けられない。
あのひき逃げ事件を起こした原因は、痴情のもつれなのかも知れないと推測していた。
(男関係じゃない…… 借金とか薬関係とかかな?)
だが、違っていたようだ。ひき逃げ事件の詳細は彼女に聞くしかなさそうだ。
その時、表の方で車が停車する音が聞こえた。
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