俺は魔王なんだが

百舌巌

文字の大きさ
上 下
10 / 14

第10話 双頭

しおりを挟む
 ハジメは夜中にコッソリと屋敷を抜け出した。

 皇国の様子を見て回る為だ。
 飛翔魔法と隠蔽魔法を兼用している。速度は出さない予定なので防護壁魔法は展開させていない。
 学校の図書館から借りだした地図を元にフラフラと飛び回った。
 大体の建物の位置を覚えた後、近場の迷宮に降り立った。

『転移魔法陣』

 壁に右手を当ててそっと念じた、
 名前だけは覚えておいて中には立ち入らずに次を迷宮へと飛んだ。
 ハジメは日本中の迷宮に転移魔法陣を敷設するつもりであった。
 自分の世界との差異が知りたかったのだ。
 これは帰還する魔法陣の構築に役立つはずだ。

「ん?」

 東京と千葉の境目辺りに微弱な迷宮の反応が在ることに気が付いた。

(地図に無いぞ?)

 その迷宮の側に降りたハジメは地面に手を当てた。地脈の様子を探る為だ。

(そうか、魔蘇不足で迷宮を造成に失敗したのか……)

 魔蘇とは地脈に魔力が混ざった物だ。

(この辺は関東フラグメントの境界だから地震でも起きたんだろ)

 関東フラグメントとは、大陸プレートに潜り込もうとするフィリピンプレートの上に乗っている陸塊のことだ。
 不安定な作りなので地震の発生源になったりしている。

 迷宮を造り出そうとしたときに、邪魔が入って失敗したのであろう。
 地脈との接続に失敗した迷宮核は、未成熟のままになってしまったのだ。

「コレを使うか……」

 ハジメは魔王である。全知全能だが疲れるし腹も減る。魔力を回復させる必要も有る。
 地上でも回復するが魔宮の方が回復が早いのだ。

 それに誰にも邪魔されずにくつろげる場所の必要性を感じている。
 魔宮核は一階に有るのは感知していた。後は核に魔力を流し込んでやれば良いのだ。

『造宮』

 ハジメが両手を広げて念じた。
 迷宮の上に魔法陣が光り、ゆっくりと回りだし魔法陣の中心から雷のようなモノが迷宮に落ちていく。
 そして回転に呼応するかのように大地の揺れが四方に走っている。
 中にはひび割れから光が漏れ出ている箇所もあった。木々がざわめき突然の揺れに驚いた鳥たちにが飛び立っていた。

「………………」

 土煙が落ち着いた頃にハジメは魔力の注入を止めた。

「百階位かな?」

 迷宮は迷宮核を中心として階層を増やしていく。多階層となるには核が吸収して合成される魔蘇の量と濃度に左右される。
 勿論、濃くて量が多い方が階層が深くて、強い魔獣が強くなるのだ。

『探査』

 探査魔法で作った迷宮の様子を探った。
 すると、自分が造成した迷宮がやたらと深い事に気が付いた。

「あああ、また加減を間違えた……」

 ハジメは頭を抱えてしまった。太平洋で極限魔法を使った時にちょっとだけ大きいかなと印象を受けた。

「なんか…… 五割り増しって感じなんだよなあ……」

 この世界ではハジメの魔力の通りが良すぎるのか強めに出てきしまうようだ。
 それは感じていたので弱めに魔法を掛けたつもりだったが大きかったようだ。

「大体、二百五十五階くらいか……」

 極種クラスの迷宮をウッカリ作成したようだ。
 この世界の魔王では無いので力の使い方に慣れていないのだ。

「まあ、ピッタリだから良いか……」

 入り口を誤魔化す為に、近くにあった廃神社を移動させた。転移魔法陣は鳥居を潜る場所にした。
 全体に結界と防護壁を施して外界と切り離した。
 これでうっかり足を踏み入れない限り、人には認知されなくなったはずである。

「一階に門番置きたいんだがな」

 門番となるとAクラス位の魔獣を置かないと駄目だ。

(攻守に優れたウロボロス辺りかな?)

 その為には魔導回路を地下深くから誘導しないといけない。地表面に近い場所は濃度が薄いのだ。

「まあ、それは後で作りに来よう……」

 最下層辺りの様子が不昧なので、朝までに終わらないかも知れないと思った。
 だから、それは後日に暇な時にやろうとした。

「まあ、取りあえず門番を置いておくか……」

 ハジメは迷宮アンノウンの一階に移動した。

『召喚 ウロボロス』

 双頭の蛇ウロボロスが現れた。体長は二十メートル程。中層あたりのラスボスに相応しい魔獣だ。
 これを入口に配置することで、低層階には弱い魔獣しかいないと思い込んでる探索者を刈り取ることが出来る。
 俗に言う初見トラップだ。
 卑怯と思うかも知れないがハジメとしては誰にも侵入されたくないので用意した。

 一際大きな雄叫びを上げたかと思うとハジメをパクリと飲み込もうとした。

バクンっ!

 次の瞬間、ウロボロスの頭が吹き飛び、粘液塗れのハジメが現れた。

「この大馬鹿者っ!」

 ハジメはウロボロスの残った頭をぶん殴った。

「主もわからんのかっ!」

 ウロボロスは萎縮して丸まってしまった。
 召喚されて出現した目の前に人間がいたのだ。
 本能に従って捕食しようとしだけなのだ。

「ったく……」

 出現したばかりでレベルが低いのだろう。まだ知能が未発達なのだ。
 ある程度、レベルアップしてやれば意思の疎通が出来るようになる。
 進化というやつだ。

『超回復』

 ウロボロスの全身が光りだす。するとハジメが砕いた片方の頭がみるみる内に生えてきた。
 ハジメはウロボロスの頭を再生させたのだ。
 一般的な傷を治す回復と違って、超回復は欠損した部分を含めて再生出来る。高度な回復魔法だ。

「そういえば教育もしないといけないのか……」

 顔に付着した粘液を拭いながら、やはりケルベロスにしようかと考えた。
 ハジメはワンコが好きなのだ。まあ、ワンコと呼ぶには凶悪な気がする。

(アレも同じだったっけ……)

 以前に召喚した時に、甘噛みされて頭が血だらけになったことを思い出した。

(まあ、可愛かったけど……)

 人間と違って忠誠心は揺るがない。
 その点が大いに気に入っている点だ。

(まあ、どっちにしろ最下層まで行くから連れていくか……)

 最下層をある程度加工してあげないといけない。自分専用の寛ぎ空間を作りたかったのだ。
 なので、レベルアップはその時についでにやってやろうと考えたのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

異世界転移の特典はとんでも無いチートの能力だった。俺はこの能力を極力抑えて使わないと、魔王認定されかねん!

アノマロカリス
ファンタジー
天空 光(てんくう ひかる)は16歳の時に事故に遭いそうな小学生の女の子を救って生涯に幕を閉じた。 死んでから神様の元に行くと、弟が管理する世界に転生しないかと持ち掛けられた。 漫画やゲーム好きで、現実世界でも魔法が使えないかと勉強をして行ったら…偏った知識が天才的になっていたという少年だった。 そして光は異世界を管理する神の弟にあって特典であるギフトを授けられた。 「彼に見合った能力なら、この能力が相応しいだろう。」 そう思って与えられた能力を確認する為にステータスを表示すると、その表示された数値を見て光は吹き出した。 この世界ではこのステータスが普通なのか…んな訳ねぇよな? そう思って転移先に降り立った場所は…災害級や天災級が徘徊する危険な大森林だった。 光の目の前に突然ベヒーモスが現れ、光はファイアボールを放ったが… そのファイアボールが桁違いの威力で、ベヒーモスを消滅させてから大森林を塵に変えた。 「異世界の神様は俺に魔王討伐を依頼していたが、このままだと俺が魔王扱いされかねない!」 それから光は力を抑えて行動する事になる。 光のジョブは勇者という訳では無い。 だからどんなジョブを入手するかまだ予定はないのだが…このままだと魔王とか破壊神に成りかねない。 果たして光は転移先の異世界で生活をしていけるのだろうか? 3月17日〜20日の4日連続でHOTランキング1位になりました。 皆さん、応援ありがとうございました.°(ಗдಗ。)°.

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

凌辱系エロゲの世界に転生〜そんな世界に転生したからには俺はヒロイン達を救いたい〜

美鈴
ファンタジー
※ホットランキング6位本当にありがとうございます! 凌辱系エロゲーム『凌辱地獄』。 人気絵師がキャラクター原案、エロシーンの全てを描き、複数の人気声優がそのエロボイスを務めたという事で、異例の大ヒットを飛ばしたパソコンアダルトゲーム。 そんなエロゲームを完全に網羅してクリアした主人公豊和はその瞬間…意識がなくなり、気が付いた時にはゲーム世界へと転生していた。そして豊和にとって現実となった世界でヒロイン達にそんな悲惨な目にあって欲しくないと思った主人公がその為に奔走していくお話…。 ※カクヨム様にも投稿しております。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

処理中です...