53 / 58
6章ーMr.Freedom
53話
しおりを挟む
バルクの競技の後、牢屋に戻るとロイロは包帯を外しているところだった。
「あれ、ロイロ包帯なんか外してどうしたんだ?」
「ああ、もう完治したんだ」
「良かったじゃないか!」
「いいや。これでまた競技に駆り出されることになる。ここに来るまで無かったな、怪我が治ることをこんなに恨んだことは」
「そうか……」
「まあ俺は生き抜くさ」
ロイロは詩音に笑って見せる。その笑顔はあまり心配するなと言っているようだった。
「それよりも、お前バルクさんと競技するんだろ?」
「お、もう知ってるんだ」
「あたりまえだ。超ビッグニュースだぞ。俺どころかここの連中みんな知ってんじゃねえか?」
「結構大事なんだな……」
「ともかくよかったじゃねえか。やりたかったんだろ?」
「ああ」
「俺も生きて見届けなきゃな。ルームメイトなんだから」
「ロイロ……」
ロイロは両手を剣を握るように構え、素振りをする。
「うん。感覚は全然なくなってねえな。運もあるがこれならいけそうだ」
「ロイロって強いんだ」
「どうだろうな。まあ自信はあるぜ。強いやつはお前が倒してくれたし、今だったら大型新人が来ない限り、お前とあたらなきゃ生き延びれるだろうよ」
「そりゃいいや。俺もロイロには生きていてほしいし。話し相手がいなくなるのは寂しいからな」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
「俺たちは生きるぞ。絶対にだ」
「もちろん。約束」
詩音はロイロに親友の様な強い絆を感じた。そしてたわいのない会話をしながら一日が過ぎて行く。
次の日、早速ロイロを呼びに看守がやってきた。
「ロイロ、出ろ」
「もう出番か」
「頑張れよ」
「おう、行ってくる」
そう言うとロイロは看守に連れられて闘技場へ向かった。
その10分後、詩音の元にも看守がやってきた。
「右京、出ろ」
「俺も競技か?」
「そうだ。いいから出ろ」
特に反抗する理由もないので、素直に看守と闘技場へ向かう。
入場門手前の武器庫で準備体操をしながら今日の相手を考える。そして最近人を殺すことにあまり抵抗感が無くなってきたことに恐怖を覚え、頬を叩いて気合を入れなおした。
「俺は生きなきゃいけないんだ。ロイロと約束したから。こんな事かんがえてる余裕ないんだ」
気合を入れなおした詩音は、競技場へ入場していった。
入場すると、ロングソードを持った対戦相手が立っていた。
「………………は?」
詩音は驚愕した。
「…………ロイロ?」
詩音の相手はロイロだったのだ。
「し、詩音」
「嘘だろ?」
「俺だって信じたくねぇよ……」
2人の困惑をよそに、開始の合図が出された。
「な、なあ」
「詩音」
ロイロの顔は完全に覚悟ができている表情だった。
「なんだよ」
「俺、お前とはやりたくなかったし、こういう事態が来ないことをずっと祈ってた。でももう仕方ないみたいだな。いいか、俺は生きたい。だから恨みっこなしだ。本気で行く。お前も本気で来い!!」
ロイロが剣を振りかぶり突進してくる。対する詩音はまだ行動出来ずにいた。
「うあああああああああああああ!!!!!」
ロイロは剣で連続攻撃を仕掛ける。だが詩音は何も反撃しない。ただ避けるだけだ。
「本当に戦わなきゃいけないのかよ!」
「仕方ねえだろ! そんな調子じゃ俺がお前をやっちまうぞ!!!」
尚もロイロは剣を振る。剣筋はいい。この実力ならば今まで生き延びてこられたのも理解できた。
詩音はどうしてもロイロに攻撃できなかった。どこかで期待していたからだ。実は自分より強くて、自分を殺して生きてくれることを。
剣を振り続ける。それを避け続ける。この状況が続いている。そして詩音は段々と分かってきた。
急に詩音が動きを止めた。
「もらったぁ!!!」
すかさずロイロは渾身の力で詩音の横腹に斬りつけた。
2人は闘技場に音が無くなったように感じた。ただ剣の折れる音が虚しく2人の間に響き渡る。
「………………あ?」
詩音に剣は通らなかった。腹斜筋に当たり、剣が負けて折れてしまったのだ。
なのに詩音は泣いていた。完全に気付いたからだ。期待通りでは無かったこと。それどころか全くの無傷でロイロを葬ることができるほどの実力差を。
「…………そうか。なあ、詩音」
ロイロは悟り、詩音に笑いかける。その目からは何粒も涙がこぼれていた。
「バルクとの戦いも、その先も、必ず生き残れ、俺の分も。そして俺にお前の勝利を、最強の世界を見せてくれ」
「だったら生きなきゃ……生きなきゃだめだ!」
「どっちかが死ななきゃ終わらねぇ。そういうもんだ…………俺は天国でいつでもお前を見てる。いつか世界最強になるその日まで、いつまでも見届ける。約束するよ…………さぁ、やってくれ」
「…………絶対成し遂げるから……最強を証明するから!!!」
詩音は構える。大きく息を吸い、気を高める。そして一歩踏み込んだ。
「行くぞ!」
「来い!!」
「島場流、水波紋ッ!!!!!」
一瞬で間合いを詰め、右拳をロイロの腹部へ送り込む。魔力が反応し、会場内の空間に波紋が走る。
拳が到達するまでの一瞬が、2人にとっては永遠のように長く感じられた。ゆっくりと、2人の今までの時間をたどるように流れていく。
そのときは訪れた。詩音の拳がロイロに到達し、衝撃と振動を与えていく。ロイロの体は液体のように波打ち、波紋を作っている。
そのままロイロは倒れた。白目をむいて完全に意識が無かった。
詩音が駈け寄り、脈を測る。何も感じない。もう生きていなかった。
しかし突然、ロイロの口が動いた。
「こ……これはすげえや…………お前なら……必ず……やれ……る」
これがロイロの最後の言葉だった。
もう詩音は何も言わなかった。涙を拭き、入場門へ戻っていく。そのときの詩音は、迷いが晴れ、覚悟を決めた目をしていた。
「あれ、ロイロ包帯なんか外してどうしたんだ?」
「ああ、もう完治したんだ」
「良かったじゃないか!」
「いいや。これでまた競技に駆り出されることになる。ここに来るまで無かったな、怪我が治ることをこんなに恨んだことは」
「そうか……」
「まあ俺は生き抜くさ」
ロイロは詩音に笑って見せる。その笑顔はあまり心配するなと言っているようだった。
「それよりも、お前バルクさんと競技するんだろ?」
「お、もう知ってるんだ」
「あたりまえだ。超ビッグニュースだぞ。俺どころかここの連中みんな知ってんじゃねえか?」
「結構大事なんだな……」
「ともかくよかったじゃねえか。やりたかったんだろ?」
「ああ」
「俺も生きて見届けなきゃな。ルームメイトなんだから」
「ロイロ……」
ロイロは両手を剣を握るように構え、素振りをする。
「うん。感覚は全然なくなってねえな。運もあるがこれならいけそうだ」
「ロイロって強いんだ」
「どうだろうな。まあ自信はあるぜ。強いやつはお前が倒してくれたし、今だったら大型新人が来ない限り、お前とあたらなきゃ生き延びれるだろうよ」
「そりゃいいや。俺もロイロには生きていてほしいし。話し相手がいなくなるのは寂しいからな」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
「俺たちは生きるぞ。絶対にだ」
「もちろん。約束」
詩音はロイロに親友の様な強い絆を感じた。そしてたわいのない会話をしながら一日が過ぎて行く。
次の日、早速ロイロを呼びに看守がやってきた。
「ロイロ、出ろ」
「もう出番か」
「頑張れよ」
「おう、行ってくる」
そう言うとロイロは看守に連れられて闘技場へ向かった。
その10分後、詩音の元にも看守がやってきた。
「右京、出ろ」
「俺も競技か?」
「そうだ。いいから出ろ」
特に反抗する理由もないので、素直に看守と闘技場へ向かう。
入場門手前の武器庫で準備体操をしながら今日の相手を考える。そして最近人を殺すことにあまり抵抗感が無くなってきたことに恐怖を覚え、頬を叩いて気合を入れなおした。
「俺は生きなきゃいけないんだ。ロイロと約束したから。こんな事かんがえてる余裕ないんだ」
気合を入れなおした詩音は、競技場へ入場していった。
入場すると、ロングソードを持った対戦相手が立っていた。
「………………は?」
詩音は驚愕した。
「…………ロイロ?」
詩音の相手はロイロだったのだ。
「し、詩音」
「嘘だろ?」
「俺だって信じたくねぇよ……」
2人の困惑をよそに、開始の合図が出された。
「な、なあ」
「詩音」
ロイロの顔は完全に覚悟ができている表情だった。
「なんだよ」
「俺、お前とはやりたくなかったし、こういう事態が来ないことをずっと祈ってた。でももう仕方ないみたいだな。いいか、俺は生きたい。だから恨みっこなしだ。本気で行く。お前も本気で来い!!」
ロイロが剣を振りかぶり突進してくる。対する詩音はまだ行動出来ずにいた。
「うあああああああああああああ!!!!!」
ロイロは剣で連続攻撃を仕掛ける。だが詩音は何も反撃しない。ただ避けるだけだ。
「本当に戦わなきゃいけないのかよ!」
「仕方ねえだろ! そんな調子じゃ俺がお前をやっちまうぞ!!!」
尚もロイロは剣を振る。剣筋はいい。この実力ならば今まで生き延びてこられたのも理解できた。
詩音はどうしてもロイロに攻撃できなかった。どこかで期待していたからだ。実は自分より強くて、自分を殺して生きてくれることを。
剣を振り続ける。それを避け続ける。この状況が続いている。そして詩音は段々と分かってきた。
急に詩音が動きを止めた。
「もらったぁ!!!」
すかさずロイロは渾身の力で詩音の横腹に斬りつけた。
2人は闘技場に音が無くなったように感じた。ただ剣の折れる音が虚しく2人の間に響き渡る。
「………………あ?」
詩音に剣は通らなかった。腹斜筋に当たり、剣が負けて折れてしまったのだ。
なのに詩音は泣いていた。完全に気付いたからだ。期待通りでは無かったこと。それどころか全くの無傷でロイロを葬ることができるほどの実力差を。
「…………そうか。なあ、詩音」
ロイロは悟り、詩音に笑いかける。その目からは何粒も涙がこぼれていた。
「バルクとの戦いも、その先も、必ず生き残れ、俺の分も。そして俺にお前の勝利を、最強の世界を見せてくれ」
「だったら生きなきゃ……生きなきゃだめだ!」
「どっちかが死ななきゃ終わらねぇ。そういうもんだ…………俺は天国でいつでもお前を見てる。いつか世界最強になるその日まで、いつまでも見届ける。約束するよ…………さぁ、やってくれ」
「…………絶対成し遂げるから……最強を証明するから!!!」
詩音は構える。大きく息を吸い、気を高める。そして一歩踏み込んだ。
「行くぞ!」
「来い!!」
「島場流、水波紋ッ!!!!!」
一瞬で間合いを詰め、右拳をロイロの腹部へ送り込む。魔力が反応し、会場内の空間に波紋が走る。
拳が到達するまでの一瞬が、2人にとっては永遠のように長く感じられた。ゆっくりと、2人の今までの時間をたどるように流れていく。
そのときは訪れた。詩音の拳がロイロに到達し、衝撃と振動を与えていく。ロイロの体は液体のように波打ち、波紋を作っている。
そのままロイロは倒れた。白目をむいて完全に意識が無かった。
詩音が駈け寄り、脈を測る。何も感じない。もう生きていなかった。
しかし突然、ロイロの口が動いた。
「こ……これはすげえや…………お前なら……必ず……やれ……る」
これがロイロの最後の言葉だった。
もう詩音は何も言わなかった。涙を拭き、入場門へ戻っていく。そのときの詩音は、迷いが晴れ、覚悟を決めた目をしていた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる