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6章ーMr.Freedom
51話
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ハヤスイとの対戦から1日後、その日は競技が全く入っていなかったので詩音は暇していた。
「そう言えばここって警備どうなってんの?」
「俺に聞くなよ……いや、でも昔看守が行ってた様な。でもなんでだ?」
「いや暇でさ。ボーっとしてたらふと気になったんだよな」
「暇か。普通は今を生きてること、今日死ぬことが無いってことでそれどころじゃないと思うんだがなあ」
「それで看守はなんていってたんだ?」
「ああ。確か2班3班は暇そうでいいなぁって言ってたな。小さいころ見学した時の記憶だと入り組んだ構造じゃないが頑丈で巨大な扉が2つあった気がする。恐らく底周辺の警備が担当なんだろうな」
「なんで暇なんだ?」
「そりゃ脱獄でも試みなきゃ仕事は無いだろ。たぶん看守たち1班が飯とかの担当だろうし」
詩音は何か企んだ顔をする。
「ロイロは物知りだなぁ。……脱獄かぁ」
「なんだよ、やる気か? まさか」
「面白そうだな」
「やめとけって。第一脱獄なんてしたら殺されちまうぞ?」
「そんな難しいことに思えないんだよなぁ。例の人もやってることなんだし。見てろよ?」
詩音は檻へ近づき、檻の鍵に手を掛ける。すると一瞬にして鍵が壊れてしまった。
「こんな風にすぐ壊れる。そして……ホラ、もう出られた」
「おい! そこのお前、何をしている!!」
異変に気付いた看守2人が詩音の元へ駈け寄ってくる。
「早く中へ戻って来い! まずいって」
詩音は聞く耳を持たない。そのまま看守の方を向く。
「ちょっとごめんね」
走ってくる看守のうち、右側の方へ高速で拳を繰り出す。顎に当て脳震盪を起こさせる。この時点で片方は完全にブラックアウト。
それを見た左側の看守は腰の剣を抜き構える。だがその剣は震えていた。一瞬でノックアウトされた相棒の姿、そして今やコロッセオの大人気剣闘士である詩音の前という事実は、看守を恐怖させるのには十分すぎるものだった。
詩音は両手で勢いよく剣を挟み、叩き折る。看守はすっかり戦意喪失し、腰が抜け動けなくなってしまった。
「すぐそこまでだから、ごめんね」
そう看守に告げると、詩音は歩いて出口の方へ向かっていった。
ここからは簡単だった。詩音は第一の扉を警備を退けた後軽々突破し、第二の扉も苦労しなかった。
扉を開けた先に待っていたのは、驚くほど栄えた街とおびただしい数の人だった。
「おお、これが外か……すぐにこんな所へぶち込まれたから分からなかったが、なかなかいいところじゃねえか」
「ねえ、あれって右京じゃない?」
「あ、本当だ!! 右京だ!」
「でもなんで外に居るんだ?」
「もしかして脱獄!?」
あっという間に詩音の周りに人だかりができた。まあ、当たり前である。剣闘士である詩音は普通コロッセオの外にいない。しかし、今こうして外に居るのは異様な光景だからだ。
詩音はそんな人だかりも気にせず、街の方へ歩き出す。それについていく様に野次馬も動き出した。
詩音は麺料理の屋台の前で立ち止まった。そこからは出汁の効いた良い匂いがしており、腹をすかせた詩音の気を引いていた。
詩音は席に座り、店主に一杯の料理を注文する。数分後出てきた料理はどことなくうどんに似ていた。詩音は受け取るなりすぐに食べだした。
そこには非日常的な光景が広がっていた。屋台に群がるたくさんの野次馬。そして屋台のうどんをすする剣闘士。それに気づきビビる店主。
と、そこへ野次馬をかき分けながら近づいていく男がいた。
そして男は詩音の隣の席に座り、一杯注文した。
「アンタもこういう飯食うんだな。もっと高級志向なのかと思った」
「…………脱獄した気分はどうだ」
「…………別に。簡単にできることだから俺もやっただけ」
「それで自由にでもなったつもりか」
「俺もアンタも同じ剣闘士で、いまコロッセオの外で同じ飯を食ってるだろ?」
「俺と並んだつもりか」
「俺とアンタ、一緒だろ」
突然男はどんぶりを詩音に投げつけた。どんぶりは詩音の頭に当たり粉々に砕け散る。しかし詩音は全く動じなかった。
「なに怒ってんだよ。もしかして俺の存在が気に入らないってのか?」
詩音は何事もなく席を立った。
「俺は飯食えて満足したから帰るわ。じゃあな」
そう言い残すと、コロッセオへ帰っていった。
「あ、あの御代は……」
「ああ。彼の分も私が払おう」
「バルクさん……ありがとうございます」
バルクはポケットから紙幣を出すとカウンターへたたきつけた。カウンターは真っ二つに割れ、崩れてしまう。
「ああ、すまない。壊してしまった。後で弁償するから待っていたまえ」
バルクはそのまま立ち去ってしまった。壊れた屋台と呆然としている店主、そして野次馬だけがその場に取り残された。
牢屋に何食わぬ顔で戻ってきた詩音をロイロは心配そうな表情で覗いた。
「大丈夫だったか?」
「ああ。屋台のうどん美味かったぜ」
「マジで脱獄しやがったのか……まあ無事でよかった」
「ああ。ま、気が向いたらまたやるかな」
その日は詩音に対して何のお咎めもなく1日が終わった。
「そう言えばここって警備どうなってんの?」
「俺に聞くなよ……いや、でも昔看守が行ってた様な。でもなんでだ?」
「いや暇でさ。ボーっとしてたらふと気になったんだよな」
「暇か。普通は今を生きてること、今日死ぬことが無いってことでそれどころじゃないと思うんだがなあ」
「それで看守はなんていってたんだ?」
「ああ。確か2班3班は暇そうでいいなぁって言ってたな。小さいころ見学した時の記憶だと入り組んだ構造じゃないが頑丈で巨大な扉が2つあった気がする。恐らく底周辺の警備が担当なんだろうな」
「なんで暇なんだ?」
「そりゃ脱獄でも試みなきゃ仕事は無いだろ。たぶん看守たち1班が飯とかの担当だろうし」
詩音は何か企んだ顔をする。
「ロイロは物知りだなぁ。……脱獄かぁ」
「なんだよ、やる気か? まさか」
「面白そうだな」
「やめとけって。第一脱獄なんてしたら殺されちまうぞ?」
「そんな難しいことに思えないんだよなぁ。例の人もやってることなんだし。見てろよ?」
詩音は檻へ近づき、檻の鍵に手を掛ける。すると一瞬にして鍵が壊れてしまった。
「こんな風にすぐ壊れる。そして……ホラ、もう出られた」
「おい! そこのお前、何をしている!!」
異変に気付いた看守2人が詩音の元へ駈け寄ってくる。
「早く中へ戻って来い! まずいって」
詩音は聞く耳を持たない。そのまま看守の方を向く。
「ちょっとごめんね」
走ってくる看守のうち、右側の方へ高速で拳を繰り出す。顎に当て脳震盪を起こさせる。この時点で片方は完全にブラックアウト。
それを見た左側の看守は腰の剣を抜き構える。だがその剣は震えていた。一瞬でノックアウトされた相棒の姿、そして今やコロッセオの大人気剣闘士である詩音の前という事実は、看守を恐怖させるのには十分すぎるものだった。
詩音は両手で勢いよく剣を挟み、叩き折る。看守はすっかり戦意喪失し、腰が抜け動けなくなってしまった。
「すぐそこまでだから、ごめんね」
そう看守に告げると、詩音は歩いて出口の方へ向かっていった。
ここからは簡単だった。詩音は第一の扉を警備を退けた後軽々突破し、第二の扉も苦労しなかった。
扉を開けた先に待っていたのは、驚くほど栄えた街とおびただしい数の人だった。
「おお、これが外か……すぐにこんな所へぶち込まれたから分からなかったが、なかなかいいところじゃねえか」
「ねえ、あれって右京じゃない?」
「あ、本当だ!! 右京だ!」
「でもなんで外に居るんだ?」
「もしかして脱獄!?」
あっという間に詩音の周りに人だかりができた。まあ、当たり前である。剣闘士である詩音は普通コロッセオの外にいない。しかし、今こうして外に居るのは異様な光景だからだ。
詩音はそんな人だかりも気にせず、街の方へ歩き出す。それについていく様に野次馬も動き出した。
詩音は麺料理の屋台の前で立ち止まった。そこからは出汁の効いた良い匂いがしており、腹をすかせた詩音の気を引いていた。
詩音は席に座り、店主に一杯の料理を注文する。数分後出てきた料理はどことなくうどんに似ていた。詩音は受け取るなりすぐに食べだした。
そこには非日常的な光景が広がっていた。屋台に群がるたくさんの野次馬。そして屋台のうどんをすする剣闘士。それに気づきビビる店主。
と、そこへ野次馬をかき分けながら近づいていく男がいた。
そして男は詩音の隣の席に座り、一杯注文した。
「アンタもこういう飯食うんだな。もっと高級志向なのかと思った」
「…………脱獄した気分はどうだ」
「…………別に。簡単にできることだから俺もやっただけ」
「それで自由にでもなったつもりか」
「俺もアンタも同じ剣闘士で、いまコロッセオの外で同じ飯を食ってるだろ?」
「俺と並んだつもりか」
「俺とアンタ、一緒だろ」
突然男はどんぶりを詩音に投げつけた。どんぶりは詩音の頭に当たり粉々に砕け散る。しかし詩音は全く動じなかった。
「なに怒ってんだよ。もしかして俺の存在が気に入らないってのか?」
詩音は何事もなく席を立った。
「俺は飯食えて満足したから帰るわ。じゃあな」
そう言い残すと、コロッセオへ帰っていった。
「あ、あの御代は……」
「ああ。彼の分も私が払おう」
「バルクさん……ありがとうございます」
バルクはポケットから紙幣を出すとカウンターへたたきつけた。カウンターは真っ二つに割れ、崩れてしまう。
「ああ、すまない。壊してしまった。後で弁償するから待っていたまえ」
バルクはそのまま立ち去ってしまった。壊れた屋台と呆然としている店主、そして野次馬だけがその場に取り残された。
牢屋に何食わぬ顔で戻ってきた詩音をロイロは心配そうな表情で覗いた。
「大丈夫だったか?」
「ああ。屋台のうどん美味かったぜ」
「マジで脱獄しやがったのか……まあ無事でよかった」
「ああ。ま、気が向いたらまたやるかな」
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