47 / 58
6章ーMr.Freedom
47話
しおりを挟む ルナたちが決意を固めた夜、詩音は競技に出ていた。
「今日のナイターは、最近連勝して勢い付いている右京! 対するは肉食動物最強、ジャイアントタイガー!! 今日は絶好の好カードだ! 見逃すなよ!!!」
詩音が入場した。会場は大歓声に包まれる。詩音への期待の歓声だ。
対してジャイアントタイガーが入ってきた。通常のトラの3倍はある図体で、恐らく競技まで何も餌を与えられなかったのだろう、飢えている様子で完全に獲物を見る目だった。
「あっ、ちょっと、まだ合図出してないぞ!!」
ジャイアントタイガーは鎖が解かれるなり詩音に飛びかかった。
詩音は突っ込んでくるジャイアントタイガーの下顎を蹴り上げた。舌を噛んでしまい、出血する。
しかしそんな事はお構いなしにシオンに覆い被さる。
すかさず右前足を掴みとり、
「島原流、風車」
投げた。
流石はネコ科。投げられながらも柔らかい体を捻り、うまく着地した。
しかし、その一瞬が勝負を決することになる。
着地した時には、詩音の飛び後ろ蹴りが眼前に迫ってきていたからだ。
蹴りが顔面にめり込む。衝撃は頭蓋骨を割り、脳にまで浸透した。
ジャイアントタイガーは倒れ伏す。しかし、まだ微かに息があるようで苦しんでいた。
詩音はジャイアントタイガーの頭を跨いで立ち、渾身の下段突きを放つ。
次は即死だった。
詩音は何も言わず立ち去る。残っているのは頭が陥没して死んでいるジャイアントタイガーと大歓声だった。
詩音が入場門へ戻ると、そこに壁が立っていた。
いや、壁じゃない。人だ。人が立っていた。壁に見間違えるほど巨大な筋肉を纏った男が立っていた。
「ミスターフリーダム、バルクさん、だっけ?」
「君の競技、見ていたよ。とてもよくやるようだ」
詩音は挑発的な態度で言う。
「それって、あんたよりも?」
バルクは発言が鼻につき、眉間に皺を寄せる。しかし詩音は続けた。
「おれもなれるかなぁ。ふりーだむ」
完全に挑発している詩音の発言に表面では動じず、返す。
「バカを言っちゃあいけない。私が特別なのだ。私だから自由なのだ」
そう言うとバルクは詩音に背を向け歩き出した。
詩音は強烈な殺気をバルクに向ける。
「この状況で俺に背を向けるか!!!」
「言ってる意味がわからないね。自室に戻る、だから君に背を向けて帰る。それだけじゃないか」
「俺は背を向けて無警戒でも大丈夫な奴だって言ってんのかって聞いてんだ!」
バルクはひとつ詩音に笑ってみせ、そのまま何も言わず去っていった。
数刻後、牢屋にて。
「お前バルクさんにあしらわれたんだってな。よかったぜ生きて帰ってきて」
「別に何もなかったよ。ただ話しただけ」
「バルクさんに喧嘩売るのはマジでやめとけ。命が幾つあっても足りねぇ」
「けど、俺はここで立ち止まってるわけにはいかないんだよ」
「本当か? 俺はそんなふうには見えねぇけどな」
「どういう風にみえる?」
「スッゲー楽しそうに見えるぜ」
一方で、数日後ルナは単身でコロッセオがある都市、ロマンヌに到着した。
大都市ロマンヌ。ここは大陸の砂漠地帯にあるオアシスを起点として発展してきた都市で、なんといってもギャンブルで有名である。特に罪人や奴隷を使った剣闘士同士の戦いを賭けるギャンブルが大人気だ。
「ここがロマンヌですか。…………よし、まず私がやる事は拠点の確保とコロッセオの調査。あとはこの通信魔法が書かれた巻物でクレアさんたちに報告と近況を聞く事でしたね。では適当な宿屋を探すとしますか」
ルナは宿を探して歩き出した。
「高すぎますよ!!」
とある宿屋で、ルナが店主に抗議していた。
「これがここの基本料金だ。文句があるなら他に行け! まあ、ここはギャンブルの街だ。俺とギャンブルして勝ったら考えてやる」
「言いましたね。では私が負けたら2倍の値段で泊まってやりますよ!」
「いや、3倍だ。そのかわり勝てたらただでスイートルームに泊めてやる」
「いいでしょう。ところで何の勝負をするんですか?」
店主は外を指さす。
「次に来る客が男か女か賭けるってのはどうだ? お前が選んでいいぞ」
ルナは外を見る。大通りにはアクセサリー等、女性向けの商品を扱う店が多く並んでおり、たくさんの客で賑わっていた。
「では、男性に賭けます」
「オーケー。なら俺は女性に賭けるぜ」
二人は入り口を凝視し、次に入ってくる客を待つ。
数刻後、一組のカップルがほぼ同時に入ってきた。しかし、一歩の差で男性が先だった。
「この勝負、私の勝ちですね」
「ぐっ…………ああ、お前の勝ちだ。だがなぜ男性に賭けたんだ? ここの通りはアクセサリーショップとかばっかりだろうに」
「確かに女性が来やすいとは思います。しかし、アクセサリーショップ等って、女性だけよりも恋人の男性と一緒に来ることの方が多いはずです。女性もショップを見に行きたいとデート中にねだる事もあるでしょうし、男性も何かプレゼントを買ってあげようと来店するはずですから。そしてどんな利用方法であれカップルがそのままこの宿へ宿泊ないし休憩するために来店し、その際大体は男性を先頭に入ってくることが多いだろうという根拠の予想です」
「なるほど、しっかりと根拠が裏付けされた予想だったってことか。アンタ、ここで結構やっていけるぜ。上手くいけば億万長者だぞ」
「え、遠慮しておきます……」
「まあいい。じゃあ約束通りスイートルームに案内してやる。ついてこい」
ルナと店主は店の奥の階段を昇る。そして4階の奥にひと際高級そうな扉の前まで案内された。
「ここがスイートルームだ。俺はアンタのことが気に入ったからな、何かこの街に用があったんだろ? だからそれが終わるまでここにタダで泊まっていいぜ」
「いいんですか!?」
「あんなギャンブラーは久しぶりに見るからな。予想の理論もそうだが結構なハイリスクだったこの賭けに物怖じせず突っ込んでくるその図太さが特に気に入った。遠慮せず泊まっていけ。そんでここでガンガンギャンブルやって見せてくれよ」
「か、考えておきます……でも、ありがとうございます!!」
ルナがお礼を言うと、店主はルナの肩を軽く叩いて返事をする。そして自分の仕事へ戻っていった。
「何はともあれ、無事拠点を確保できました。ちょっと豪華すぎますけど、まあいいでしょう。ボロボロよりは全然いいです。さて、後は詩音さんについての調査に参りましょうか」
ルナは荷物を部屋に置くと、早速調査に向かった。
「今日のナイターは、最近連勝して勢い付いている右京! 対するは肉食動物最強、ジャイアントタイガー!! 今日は絶好の好カードだ! 見逃すなよ!!!」
詩音が入場した。会場は大歓声に包まれる。詩音への期待の歓声だ。
対してジャイアントタイガーが入ってきた。通常のトラの3倍はある図体で、恐らく競技まで何も餌を与えられなかったのだろう、飢えている様子で完全に獲物を見る目だった。
「あっ、ちょっと、まだ合図出してないぞ!!」
ジャイアントタイガーは鎖が解かれるなり詩音に飛びかかった。
詩音は突っ込んでくるジャイアントタイガーの下顎を蹴り上げた。舌を噛んでしまい、出血する。
しかしそんな事はお構いなしにシオンに覆い被さる。
すかさず右前足を掴みとり、
「島原流、風車」
投げた。
流石はネコ科。投げられながらも柔らかい体を捻り、うまく着地した。
しかし、その一瞬が勝負を決することになる。
着地した時には、詩音の飛び後ろ蹴りが眼前に迫ってきていたからだ。
蹴りが顔面にめり込む。衝撃は頭蓋骨を割り、脳にまで浸透した。
ジャイアントタイガーは倒れ伏す。しかし、まだ微かに息があるようで苦しんでいた。
詩音はジャイアントタイガーの頭を跨いで立ち、渾身の下段突きを放つ。
次は即死だった。
詩音は何も言わず立ち去る。残っているのは頭が陥没して死んでいるジャイアントタイガーと大歓声だった。
詩音が入場門へ戻ると、そこに壁が立っていた。
いや、壁じゃない。人だ。人が立っていた。壁に見間違えるほど巨大な筋肉を纏った男が立っていた。
「ミスターフリーダム、バルクさん、だっけ?」
「君の競技、見ていたよ。とてもよくやるようだ」
詩音は挑発的な態度で言う。
「それって、あんたよりも?」
バルクは発言が鼻につき、眉間に皺を寄せる。しかし詩音は続けた。
「おれもなれるかなぁ。ふりーだむ」
完全に挑発している詩音の発言に表面では動じず、返す。
「バカを言っちゃあいけない。私が特別なのだ。私だから自由なのだ」
そう言うとバルクは詩音に背を向け歩き出した。
詩音は強烈な殺気をバルクに向ける。
「この状況で俺に背を向けるか!!!」
「言ってる意味がわからないね。自室に戻る、だから君に背を向けて帰る。それだけじゃないか」
「俺は背を向けて無警戒でも大丈夫な奴だって言ってんのかって聞いてんだ!」
バルクはひとつ詩音に笑ってみせ、そのまま何も言わず去っていった。
数刻後、牢屋にて。
「お前バルクさんにあしらわれたんだってな。よかったぜ生きて帰ってきて」
「別に何もなかったよ。ただ話しただけ」
「バルクさんに喧嘩売るのはマジでやめとけ。命が幾つあっても足りねぇ」
「けど、俺はここで立ち止まってるわけにはいかないんだよ」
「本当か? 俺はそんなふうには見えねぇけどな」
「どういう風にみえる?」
「スッゲー楽しそうに見えるぜ」
一方で、数日後ルナは単身でコロッセオがある都市、ロマンヌに到着した。
大都市ロマンヌ。ここは大陸の砂漠地帯にあるオアシスを起点として発展してきた都市で、なんといってもギャンブルで有名である。特に罪人や奴隷を使った剣闘士同士の戦いを賭けるギャンブルが大人気だ。
「ここがロマンヌですか。…………よし、まず私がやる事は拠点の確保とコロッセオの調査。あとはこの通信魔法が書かれた巻物でクレアさんたちに報告と近況を聞く事でしたね。では適当な宿屋を探すとしますか」
ルナは宿を探して歩き出した。
「高すぎますよ!!」
とある宿屋で、ルナが店主に抗議していた。
「これがここの基本料金だ。文句があるなら他に行け! まあ、ここはギャンブルの街だ。俺とギャンブルして勝ったら考えてやる」
「言いましたね。では私が負けたら2倍の値段で泊まってやりますよ!」
「いや、3倍だ。そのかわり勝てたらただでスイートルームに泊めてやる」
「いいでしょう。ところで何の勝負をするんですか?」
店主は外を指さす。
「次に来る客が男か女か賭けるってのはどうだ? お前が選んでいいぞ」
ルナは外を見る。大通りにはアクセサリー等、女性向けの商品を扱う店が多く並んでおり、たくさんの客で賑わっていた。
「では、男性に賭けます」
「オーケー。なら俺は女性に賭けるぜ」
二人は入り口を凝視し、次に入ってくる客を待つ。
数刻後、一組のカップルがほぼ同時に入ってきた。しかし、一歩の差で男性が先だった。
「この勝負、私の勝ちですね」
「ぐっ…………ああ、お前の勝ちだ。だがなぜ男性に賭けたんだ? ここの通りはアクセサリーショップとかばっかりだろうに」
「確かに女性が来やすいとは思います。しかし、アクセサリーショップ等って、女性だけよりも恋人の男性と一緒に来ることの方が多いはずです。女性もショップを見に行きたいとデート中にねだる事もあるでしょうし、男性も何かプレゼントを買ってあげようと来店するはずですから。そしてどんな利用方法であれカップルがそのままこの宿へ宿泊ないし休憩するために来店し、その際大体は男性を先頭に入ってくることが多いだろうという根拠の予想です」
「なるほど、しっかりと根拠が裏付けされた予想だったってことか。アンタ、ここで結構やっていけるぜ。上手くいけば億万長者だぞ」
「え、遠慮しておきます……」
「まあいい。じゃあ約束通りスイートルームに案内してやる。ついてこい」
ルナと店主は店の奥の階段を昇る。そして4階の奥にひと際高級そうな扉の前まで案内された。
「ここがスイートルームだ。俺はアンタのことが気に入ったからな、何かこの街に用があったんだろ? だからそれが終わるまでここにタダで泊まっていいぜ」
「いいんですか!?」
「あんなギャンブラーは久しぶりに見るからな。予想の理論もそうだが結構なハイリスクだったこの賭けに物怖じせず突っ込んでくるその図太さが特に気に入った。遠慮せず泊まっていけ。そんでここでガンガンギャンブルやって見せてくれよ」
「か、考えておきます……でも、ありがとうございます!!」
ルナがお礼を言うと、店主はルナの肩を軽く叩いて返事をする。そして自分の仕事へ戻っていった。
「何はともあれ、無事拠点を確保できました。ちょっと豪華すぎますけど、まあいいでしょう。ボロボロよりは全然いいです。さて、後は詩音さんについての調査に参りましょうか」
ルナは荷物を部屋に置くと、早速調査に向かった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる