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跡継ぎ選別
37話
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モードレッドは立ち上がろうとする。しかし、何故か立てない。力が入らないのだ。
視界が歪む。自分が立っているのか、寝ているのか、はたまた逆立ちしているのか全く分からない。ただずっと上下左右に回転しているかのような感覚だ。
徐々に感覚が戻ってくる。そして顔面の痛覚も戻ってきたようだ。鼻血が出ていることにも気づいた。
平衡感覚が戻り、酔いの感覚を残しながらもやっとの思いで座ることができた。
目の前でクレアが胡坐をかいていた。刀も納刀している。
モードレッドはクレアが自分を挑発していると思った。その怒りと憎悪にクラレントが反応し赤く輝く。
「起きるのが遅かったじゃないか」
「お前、私を挑発しているのか?」
「いいや。ただ私は姉上が起きるのを待っていただけだ」
「私を愚弄するか!!」
モードレッドは立ちあがり、鼻血を拭い剣を構える。
対するクレアは立たない。胡坐こそ崩しているが頭の高さは変わっていなかった。これが更にモードレッドの怒りを増幅させた。
モードレッドが剣を振るう。モードレッドの本気と怒りが上乗せされているため、初撃の時と比べても桁違いの威力だ。
対するクレアはいつの間にか抜刀していた。刀をクラレントに当てるため突き出す。
剣が当たる瞬間、クレアは押し返すのではなく、自身の方へ引き込んだ。
「二度も同じ手が通じるか!!」
「通じるんだよ。姉上はまだ何が起きているか理解できていないからな」
上から下へ下ろされる刀の、力の向きに逆らわず、少し手を加えてやって自分の思う方向へ流す。
「島原流奔流の型、流葉」
ここで、流葉の説明を簡単にさせていただきたい。柔術、合気はもともと徒手格闘として確立されてきた。これは島原流でも例外ではない。なんの武器も持たず、力も弱い弱者が、相手の力を利用して敵を制圧するという目的で編み出された武術である。
あるとき、奔流の型発案者である侍が剣の試合をしていた。相手は自分より二回りは大きい大男だ。力の差は歴然で、まともに打ち合うと、竹刀がぶつかればすぐに自分も吹き飛んでしまうようなありさまだった。その日侍は完敗し、一人家路についた。
その帰り道、ふとひらめいた。少し前に習った合気術、これを生かせるのではないか。武器を持たない弱者のための武術であるが、武器を持った弱者にもそれは適用されるのではないかと。そう思った侍は刀で合気や柔術をする方法を研究した。
そうして編み出されたのが流葉である。川を流れる落ち葉のように、力に逆らわず、逆に利用して制圧する、まさしく剣対剣専門の柔術なのだ。
モードレッドはもう一度一回転し、顔面から地面に叩きつけられた。クレアは倒れたモードレッドの首に刀をふりおろす。
クレアは首ギリギリで寸止めし、勝負が決したことをアピールする。対するモードレッドは完全にブラックアウトしていた。
審判から見ても勝敗は明らかだった為、試合終了の合図を出した。
「試合終了! 勝者、クレア!!!」
二度目の勝利は、歓声であふれた。これはクレアの強さを観客たちが認めたという証でもあった。
モードレッドが意識を取り戻し、立ちあがった。
「私は負けたのか。二度も同じやられ方をして」
「…………………………」
「強くなったのだな、クレア」
「姉上……」
「これはお前のことを舐めてかかった私が悪かった。そしてクレアが私よりもはるかに腕を上げていた。だから負けたのだ。だが、今はなぜだかすがすがしく、誇らしく思う」
「姉上、私は……」
「お前は強い。今ならお前は跡継ぎにふさわしいと言えよう。私は応援している」
モードレッドが握手を求めた。その表情はとても優しかった。
「姉上にそのような顔をされるのは初めてだ」
クレアもモードレッドの手を握り返した。
「次も頑張れよ」
「はい。姉上」
クレアは、モードレッドのその一言が今までの努力に意味をもたらしたように感じ、なにか感情が込み上げ、笑顔を大粒の涙で濡らした。
クレアが観客席の詩音たちのもとへ戻ったとき、第五試合の選手が入場していた。
「次はアーサー対ガラハットだってさ」
「アーサー様ですか……」
「なにか知ってるのか? ルナ」
ルナはきょとんとした。何あたりまえなことを聞いてるんだという顔だ。
「知らないんですか?」
「え? うん」
「まあ異国の人間だと言っていたし、仕方のない所もあるだろう」
「あ、そうでしたね。ええと、アーサー様はこの国の騎士団長をしていて、力の象徴であり、安全保障の要でもあります。過去幾度も戦争や魔王軍の襲来を退け、国の平和を守り続けているそれはそれはすごい方なのです」
「なんかめちゃくちゃ凄そうだなぁ」
「凄そうではなく、凄いのだ。王族を除けば兄上が一番権力がある。それだけ国にとって重要な人物ということだ」
「そんなのに勝てるんでしょうか」
「それはこれからの試合を見てみればわかるさ」
試合開始の合図が出された。
ガラハットは大盾を構え、アリマタヤヨセフを展開する。
しかし、アーサーの剣の一振りでガラハットは吹き飛ばされた。
「一撃で決着がついちまった………………」
アーサーの力は圧倒的だった。聖剣召喚していたガラハットの盾が横に二つに綺麗に分かれていた。
「勝者、アーサー!!!!!!」
観客もあっけにとられて、誰も言葉を発しない。そして誰もが確信した。クレアが選別を優勝することはないこと、そしてアーサーが次期頭首になるだろうということを。
視界が歪む。自分が立っているのか、寝ているのか、はたまた逆立ちしているのか全く分からない。ただずっと上下左右に回転しているかのような感覚だ。
徐々に感覚が戻ってくる。そして顔面の痛覚も戻ってきたようだ。鼻血が出ていることにも気づいた。
平衡感覚が戻り、酔いの感覚を残しながらもやっとの思いで座ることができた。
目の前でクレアが胡坐をかいていた。刀も納刀している。
モードレッドはクレアが自分を挑発していると思った。その怒りと憎悪にクラレントが反応し赤く輝く。
「起きるのが遅かったじゃないか」
「お前、私を挑発しているのか?」
「いいや。ただ私は姉上が起きるのを待っていただけだ」
「私を愚弄するか!!」
モードレッドは立ちあがり、鼻血を拭い剣を構える。
対するクレアは立たない。胡坐こそ崩しているが頭の高さは変わっていなかった。これが更にモードレッドの怒りを増幅させた。
モードレッドが剣を振るう。モードレッドの本気と怒りが上乗せされているため、初撃の時と比べても桁違いの威力だ。
対するクレアはいつの間にか抜刀していた。刀をクラレントに当てるため突き出す。
剣が当たる瞬間、クレアは押し返すのではなく、自身の方へ引き込んだ。
「二度も同じ手が通じるか!!」
「通じるんだよ。姉上はまだ何が起きているか理解できていないからな」
上から下へ下ろされる刀の、力の向きに逆らわず、少し手を加えてやって自分の思う方向へ流す。
「島原流奔流の型、流葉」
ここで、流葉の説明を簡単にさせていただきたい。柔術、合気はもともと徒手格闘として確立されてきた。これは島原流でも例外ではない。なんの武器も持たず、力も弱い弱者が、相手の力を利用して敵を制圧するという目的で編み出された武術である。
あるとき、奔流の型発案者である侍が剣の試合をしていた。相手は自分より二回りは大きい大男だ。力の差は歴然で、まともに打ち合うと、竹刀がぶつかればすぐに自分も吹き飛んでしまうようなありさまだった。その日侍は完敗し、一人家路についた。
その帰り道、ふとひらめいた。少し前に習った合気術、これを生かせるのではないか。武器を持たない弱者のための武術であるが、武器を持った弱者にもそれは適用されるのではないかと。そう思った侍は刀で合気や柔術をする方法を研究した。
そうして編み出されたのが流葉である。川を流れる落ち葉のように、力に逆らわず、逆に利用して制圧する、まさしく剣対剣専門の柔術なのだ。
モードレッドはもう一度一回転し、顔面から地面に叩きつけられた。クレアは倒れたモードレッドの首に刀をふりおろす。
クレアは首ギリギリで寸止めし、勝負が決したことをアピールする。対するモードレッドは完全にブラックアウトしていた。
審判から見ても勝敗は明らかだった為、試合終了の合図を出した。
「試合終了! 勝者、クレア!!!」
二度目の勝利は、歓声であふれた。これはクレアの強さを観客たちが認めたという証でもあった。
モードレッドが意識を取り戻し、立ちあがった。
「私は負けたのか。二度も同じやられ方をして」
「…………………………」
「強くなったのだな、クレア」
「姉上……」
「これはお前のことを舐めてかかった私が悪かった。そしてクレアが私よりもはるかに腕を上げていた。だから負けたのだ。だが、今はなぜだかすがすがしく、誇らしく思う」
「姉上、私は……」
「お前は強い。今ならお前は跡継ぎにふさわしいと言えよう。私は応援している」
モードレッドが握手を求めた。その表情はとても優しかった。
「姉上にそのような顔をされるのは初めてだ」
クレアもモードレッドの手を握り返した。
「次も頑張れよ」
「はい。姉上」
クレアは、モードレッドのその一言が今までの努力に意味をもたらしたように感じ、なにか感情が込み上げ、笑顔を大粒の涙で濡らした。
クレアが観客席の詩音たちのもとへ戻ったとき、第五試合の選手が入場していた。
「次はアーサー対ガラハットだってさ」
「アーサー様ですか……」
「なにか知ってるのか? ルナ」
ルナはきょとんとした。何あたりまえなことを聞いてるんだという顔だ。
「知らないんですか?」
「え? うん」
「まあ異国の人間だと言っていたし、仕方のない所もあるだろう」
「あ、そうでしたね。ええと、アーサー様はこの国の騎士団長をしていて、力の象徴であり、安全保障の要でもあります。過去幾度も戦争や魔王軍の襲来を退け、国の平和を守り続けているそれはそれはすごい方なのです」
「なんかめちゃくちゃ凄そうだなぁ」
「凄そうではなく、凄いのだ。王族を除けば兄上が一番権力がある。それだけ国にとって重要な人物ということだ」
「そんなのに勝てるんでしょうか」
「それはこれからの試合を見てみればわかるさ」
試合開始の合図が出された。
ガラハットは大盾を構え、アリマタヤヨセフを展開する。
しかし、アーサーの剣の一振りでガラハットは吹き飛ばされた。
「一撃で決着がついちまった………………」
アーサーの力は圧倒的だった。聖剣召喚していたガラハットの盾が横に二つに綺麗に分かれていた。
「勝者、アーサー!!!!!!」
観客もあっけにとられて、誰も言葉を発しない。そして誰もが確信した。クレアが選別を優勝することはないこと、そしてアーサーが次期頭首になるだろうということを。
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